【キュアエコー、プリキュア教科書に載る】/夏希◆JIBDaXNP.g
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「グレル、エンエン。お勉強?」
学校帰りのあゆみが妖精に問いかける。退屈してるだろうと急いで帰ってきたのだが。
「勉強じゃなくて宿題さ。妖精学校の提出物なんだ」
「新しいプリキュア、エコーのプロ……プロえ~と」
「プロフィールね?」
「そう、それ! プリキュア教科書に載せるの」
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「へえ、なんて書いてるの?」
「ダメっ。まだ途中だから」
「なら俺のを見てくれよ」
あゆみは自信たっぷりのグレルのノートを開く。
「え~なになに。俺たちのプリキュア、エコーは最も美しくて、最も強いプリキュアである。って、ちょっと!」
そこにはエコーの自慢が延々と綴られていた。
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「全部本当のことじゃないか」
「どこがっ! 私なんて普通だし、もっと綺麗な子は沢山いるし、最強どころかちゃんと戦ったこともないし」
「じゃ、試してみよう」
「どうやって?」
「プリキュア全員と果し合い。『たのもー』って」
「やりません!」
あゆみはゾッとして、慌てて首を振った。
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「まったく。エンエンも何か言ってやって」
「なんだよ、お前だってそう思うだろ?」
「うん。エコーは自力で変身した初のプリキュアだし、一撃で夢の世界の悪夢を掃ったし、潜在能力は一番かも」
もうわかったわ。そう思うのはいいけど、教科書に書くのはやめて。
「うん、僕は控え目にしたよ」
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「キュアエコーは、かつて自分の住む街の消滅を願った。パートナーのグレルだって、影水晶の封印を解いて妖精の世界を滅ぼしかけた。だから、僕がしっかりしなきゃ。って……」
「おいおい 確かに影水晶の件は反省してるけど、エンエンだって片棒担いでたじゃないか」
「あ、うん……そうだったね」
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「そっか、私たちって普通で地味どころか、一番目立ってる問題児なのね」
人間界を滅ぼしかけたあゆみと、妖精界を滅ぼしかけたグレルとエンエン。考えてみれば凄いチームだ。
「でも今は世界で一番使命に燃える、最高のプリキュアと妖精だぜ」
「だから、グレルのその自信はどこから来るの……」
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「だからあゆみ。一緒に世界を救おう」
「でも私は宿題やらなきゃいけないし」
「それどころじゃないぜ。魔王が復活し、世界は闇に包まれてるんだ」
「僕も頑張るよ」
「はいはい、じゃあ一時間だけよ?」
一本のソフトを手にグレルが力説する。それはRPGゲーム、○○クエストの新作だった。
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「ゲーム……お母さんに没収されちゃったね」
「あゆみが帰って早々、ゲームなんてするから」
「ちょっと、私のせいみたいに言わないでよ」
「だったら、現実の世界を救うまでさ!」
「勉強しないなら、外で遊んできなさい」と家を追い出されたあゆみ。
街の様子を見に行くことにしたのだった。
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「聴こえるぞ、助けを求める声が」
「って、道に迷った子が泣いてるだけじゃ」
「ねえ、ボク。どうしたの?」
「えーんえーん」
街の外れで見つけた男の子。あゆみが声をかけると盛大に泣き出した。
「泣いてちゃわからないだろ」
「乱暴な言い方はダメよグレル。道に迷ったら心細いものなの」
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「大丈夫よ。お母さんと会えるまで私が一緒に居てあげる」
あゆみが腰を落として男の子を抱き寄せる。それで落ち着いたのか、ようやく名前を告げた。
「やっぱりあゆみは、世界一優しいプリキュアだよな」
「それはもういいって。私もこの街に来て一人ぼっちで、同じ様に心細かったことがあるの」
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その子を送った帰り道、あゆみはあの日のことを話す。
「迷子が泣くのは家に帰れないだけじゃなくて、一人きりが寂しくて、世界と切り離された気がするからなの」
「それ俺もわかるよ。妖精学校でずっと一人ぼっちだったからな」
「僕も……」
グレルとエンエンが頷く。みんな似た者同士だった。
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「一人ぼっちだったあゆみと、友達の居なかった俺とエンエン。道を誤りそうになった、迷子だった俺たち」
「普通の子かもしれない。落ちこぼれかもしれない。けど、僕達はもう一人じゃない」
「今は頼りないけど、見守っていてください。みんなの想いを守るために、心を一つにして私たちは戦います」
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「で、何と戦うんだよ」
「もう、それは言わないの」
あれから遅くまでパトロールして、またお母さんに叱られた。
「まあ、街が平和なのはいいことだよ」
パジャマに着替えたあゆみが、グレルとエンエンと一緒に布団に潜り込む。
窓の隙間から入る夜風に、書き直したレポートが揺れていた。
最終更新:2021年01月02日 19:47