開幕!『オールスタープリキュア!キュアキュアTouh!!冬のSS祭り2021』/夏希◆JIBDaXNP.g




「この辺り、寂しいからもっと飾りつけしちゃおうよ!」
「でも、こんなにテープでペタペタ貼って大丈夫かなぁ」
「マスキングテープなら跡も残らないし平気よ。ちゃんと許可は取ってあるから心配しないで」
「では、こちら側にももっと飾りをつけましょうか」

 ノリノリで飾りつけをするひなたを見て、のどかは心配そうにちゆに視線を走らせる。ちゆもまた、のどかに微笑みながら、テキパキと手を動かしていた。ひなたの隣では、アスミも見よう見まねで飾りつけを手伝っている。
 この大部屋は『旅館沢泉』でも最大の宴会場で、100人入ってもまだ十分に余裕がある。参加人数が60名を超える今回の『プリキュアお話会』に相応しい会場だった。例年は野外でやることも多かったそうだが、たまたま『旅館沢泉』に空きがあったことから、今回は屋内で開催される運びとなったのだ。

「旅館の中だけど……ラビリン達も隠れてなくていいラビ?」
「堂々とご馳走食っても構わないのか?」
「ニャトラン、お食事会じゃなくてお話会ペエ……」

 そんなヒーリングアニマル達の不安そうな問いかけに、ちゆは「大丈夫よ」と言ってクスリと笑った。
 四葉財閥からの寄付のお蔭で予算にも余裕があり、『旅館沢泉』自慢の料理が存分に振る舞われることになっている。しかも配膳は彼女達自身でやることになっているから、この部屋に参加者以外の人間はやって来ない。食事が目的ではないものの、ニャトランの希望も十分に叶えられる会になるだろう。

「それにしても、私達以外にもそんなに大勢のプリキュアが居ただなんて驚きね」
「古のプリキュアなのでしょうか?」
「ううん、アスミちゃん。わたし達と同じ年くらいの、現役のプリキュアの子達だよ」
「ねえねえ、のどかっちは去年のお話会にも参加したんだよね? 先輩プリキュアのみんなって、やっぱりビシッと“伝説の戦士”ってカンジなの?」

 ひなたの質問に、のどかが「うーん」と首を捻る。
 去年のお話会が行われたのは、丁度のどかがプリキュアになったばかりの頃だった。ちゆとひなたはまだプリキュアのことなど何も知らない時だったので、出席したのはのどかとラテ、それにパートナーのラビリンだけだったのだ。

「そうだなぁ。みんな優しくて、明るくて、よく笑って……ビシッと戦士、って感じではなかったけど……」
「でも、みんな地球の危機を救ってきた凄い戦士には違いないラビ!」
「確かに、そんなにたくさんのプリキュアが居るということは、それだけ敵も大勢居て、地球が危なかったということなのかもしれませんね」

「もしかして、ラビリンが気付かなかっただけで、実はお話会は、戦況を報告し合うための会議も兼ねてるラビ?」
「え~、俺はそんな堅苦しい話はごめんだぜ。宴会と言えば、飯食って歌って踊るもんだろ?」
「ラビリン、それは心配いらないペエ。今は平和になったんだし、お話会は親睦を深めるのが目的と聞いてるペエ」
「だよなー!」
「あと、ニャトランは言ってることがおじさんっぽいペエ」
「ニャンだとぉ!?」

 全員で手を動かし、時にはそれ以上に口を動かしながら、しかし準備は滞りなく進んで行く。
 しかし、あと少しで準備が終わるというところで、ラテがうずくまってしまった。
「どうしたのですか? ラテ」
 ラテがクチュン、クチュン、と立て続けにくしゃみをし、そんなラテに、アスミが急いでハート型の聴診器を当てる。

(町のみんなが、泣いてるラテ)

「まさか、またビョーゲンズが現れたんじゃ……」
「そんな……もう終わったんじゃなかったの?」
「とにかく行ってみようよ!」

 全員で外へ飛び出すと、そこには悪夢のような光景が広がっていた。無数のメガビョーゲンがうろつき回り、町中の至る所を蝕んでいる。そして驚くべきことに――その何割かの怪物の肩には、幹部と思しき者達が乗って指揮を執っていた。

「うわっ、めっちゃいるじゃん! ひいふうみい……ってこれ、どう見ても軽く百体は超えてるよ? こんなのどーしたら!」
「やっと平和になったと思ったのに。どうしてこんなことに……!」
「これは私の推測だけど、キンググアイワルがギガビョーゲンで町中を蝕んだ時に、ビョーゲンズの種をあちこちに飛ばしていたのかも……。それがどこかで成長して、今になって一斉に出て来たとしか思えないわ」
「いずれにしても、私達の成すべきことは決まっています。浄化しましょう!」

「「「「スタート!」」」」
「「「「プリキュア・オペレーション!」」」」

 ラテとヒーリングアニマル達、それにプリキュア四人の声が揃う。

「「「「キュアタッチ!」」」」

 手と手がキュン、と触れ合って、四人の少女が白衣を纏う。それが戦士のコスチュームに変化して、地球を守る伝説の戦士がここに誕生する。

「「重なる二つの花! キュアグレース!」」
「「交わる二つの流れ! キュアフォンテーヌ!」」
「「溶け合う二つの光! キュアスパークル!」」
「「時を経て繋がる二つの風! キュアアース!」」

「「「「地球をお手当て! ヒーリングっど❤プリキュア!」」」」

 颯爽とポーズを決めるが早いか、四人のプリキュアはそれぞれ敵に向かって突撃した。
 グレース達は各個撃破で次々にメガビョーゲンや幹部達を倒していく。しかし一体どこに潜んでいるのか、倒しても倒しても、次から次へと新たな敵が現れて、その数は減るどころか増える一方だ。
 ついに四人は敵の巨大な腕に掴まれ、盛大な土埃を上げて地面に叩きつけられた。

「もうダメ……これじゃ体力が持たないよ~」
「がんばろう、スパークル。必ず勝って、みんなでお話会するんだから!」
「そうね。気をしっかり持って戦いましょう!」
「ええ。指先一本でも動くうちは、あきらめる訳にはまいりません!」

 ボロボロになっても、彼女達は気力だけで何とか立ち上がる。しかしその時にはもう、見渡す限りの敵にぐるりと囲まれていて――
 怒涛の勢いで襲い掛かってくる敵達を前に、四人がついに目を閉じた、その時だった。

 眩い光の奔流が、敵陣を切り裂き、彼女達を守るようにその周囲を包む。
 光が収まって、恐る恐る目蓋を開いた彼女達の目に映ったのは――総勢50人を超える戦士達の姿だった。

「ええええええっ!? メガビョーゲン達どこ行っちゃったの? あれだけたくさん居た敵の姿が、どこにも見えないんですけどっ!?」
「どうやら助けられたみたいね。それにしても……」
「ええ――凄まじい力です」
「みなさん! 助けてくださってありがとうございま……」

「まだです!」

 戦士の一人がグレースの言葉を遮って、クルリと回転し、光の球を空に向けて放つ。

「世界に響け! みんなの想い! プリキュア・ハートフル・エコー!」

 それは無数の光の雫となって、地表全体に降り注いだ。
 その力にあぶりだされたかのように、苦しみの声を上げながら、更に数百ものメガビョーゲンや幹部達が姿を現す。

「今です、みなさん!」

 戦士達は一斉に頷くと、それぞれの技の準備に入る。

「私達もやろう!」

「「「「プリキュア! ファイナル! ヒーリングっど❤シャワー!!!!」」」」

「「「「お大事に」」」」

 町中に溢れていた怪物達は消え去り、町が元の姿を取り戻す。それと同時に謎の戦士達も変身を解き、今度は50を超える少女達の笑顔が四人を取り囲んだ。彼女達の腕の中や肩の上には、それぞれのパートナーである妖精達の姿もある。思った通り、それはお話会に誘われてすこやか市に訪れた、先輩のプリキュアのみんなだった。
 そんな少女達に向かって、ちゆが代表して頭を下げる。

「ようこそ、お話会へ! あの、実はまだ準備が終わってなくて……ほんの少しだけ待っていてもらえませんか?」
「それならあたし、手伝います!」
「わたしも!」
「よぉし、みんなで手伝おう!」

 少女達の中から次々と手が上がった。そしてのどか達を先頭に、全員がワイワイがやがやと、『旅館沢泉』に向かって歩き始める。
 久しぶりに会った者同士、賑やかに近況報告を始める者。のどかに「久しぶり~!」と声をかけてくる者。初対面の、ちゆ、ひなた、アスミに向かって、にこやかに自己紹介する者――
「ふわあ! やっぱりみんな、素敵な人達ばっかり~!」
 のどかの感激の声に、仲間達も、そしてヒーリングアニマル達も、笑顔で頷いた。

オールスタープリキュア!キュアキュアTouh!!冬のSS祭り2021
 テーマは『癒し』、又は『タッチ』、あるいはその両方です。今年の舞台はすこやか市の『旅館沢泉』。さあ、いよいよスタートです!
最終更新:2021年02月20日 08:00