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せつなとやさしさのドーナツ/ギルガメ




『ここは……?』
 気づくとわたしは、暗闇の中にいた。
 そしてどこを見渡しても、視線の先には闇が広がるばかり。
 一体ここはどこなんだろう、なぜ私はここにいるのか。そんな疑問が頭をよぎる。
 そう考え始めた時、わたしの目の前で、地面から急に黒くてドロドロした何かが湧き上がってきた。
『な、なに……!?』
 湧き上がってきたドロドロは三つ。突然の事に動揺を示し、その正体が何か分かる暇もなく、それらは形を作っていく。そうしてそれは人型にへと変わった。
『あ、あ……』
 わたしは口に手を押さえながら、驚愕する。そのドロドロはなんと『ラビリンスの三幹部』に変化したのだった。
 わたしから見て、左にはウエスター、右にはサウラー、真ん中には……
『わ、わたし……』
 そこにはかつてのわたし、『イース』がいたのだ。三人はこちらを睨み、見下している。そして各々がわたしに言葉を語り掛けてくる。
『イース、いつまでそうしているつもりだ。お前はこちらの人間だ!!』
 ウエスターがそう語る。
『ふん、いいご身分だね。君が今更プリキュアだって?』
 サウラーがそう語る。
『確かにいい格好だな、プリキュアになったわたしは』
 イースもそう語った。そしてさらに睨みをきかせて言葉を放つ。
『お前は裏切り者だ!! ラビリンスを裏切り、そしてメビウス様も裏切った!!』
『違う!!』
 だけどわたしはイースの言葉に反論した。
『わたしは、人を苦しめる行為がどれほどひどいことか理解したのよ。だからわたしは……』
 大きい声でかつてのわたしにそう訴える。しかしわたしの言葉に被せるように彼女は言葉を添えてきた。
『今までの事を償う、それで罪は消える。そう思っているのか?』
『え、あぁ……』
 そしてイースは、わたしが奥底で感じていたある種の願望を言ってのける。それにわたしは言葉が詰まってしまう。
『お前の罪は決して消えない。わたしはお前だからな』
『違う、わたしは東せつな。もうイースじゃない!!』
 わたしは真っ向から反抗するが、イースはにたりと笑いながらどこからともなく、四葉のアクセサリーを取り出した。
『あ、それは……』
 そのアクセサリー、かつてラブと一緒に商店街で景品として当てたものであった。なぜここにそれがあるのかと驚愕する。だってそれはわたし自身の手で壊してしまったものだから。
『お前の罪は消えない。わたしはお前だ。きっとみんなも、そして『桃園ラブ』もお前には心のどこかでは、怯え、怒り、恐怖している。みんな、みんなね……』
 イースがその言葉を吐き終わると、三人は再びドロドロと溶けていく。そしてそれが消えたかと思えば、そのドロドロは今度はあろうことか『ラブ』へと変化していた。
『ラ、ラブ……』
 そしてその手にはさっきイースが持っていたアクセサリーを握りしめている。その目の前の現象がわたしの過去を無理やり引きずり出し、苦しめ、わたし自身を飲み込もうとする。
 涙も自然とこぼれ、胸が苦しくなる。
 しかしそんな様子のわたしに関心を寄せることもなく、ただ一言ラブはこう言った。
『さようなら、せつな……』
『あ、あぁ』
 わたしの目の前に映るラブはそれだけを言って、そのまま暗闇の中へと歩いていく。
『ま、まって!! ラブ!! わたしは、わたしは……!!』
 わたしは何度も何度も叫んだ。
『ラブ、ラブ!!! 行かないでぇぇ~~~~!!』



「行かないで!! ラブ!!」
 そう言って、わたしはベットから飛び起きていた。
「はぁはぁ、あれ……?」
 そして息を荒げながら、わたしは周りの景色を見た。
 わたしがいたのはラブの家の自分の部屋であった。窓からは日差しが差し込んで鳥のさえずりが聞こえる。
 自身はベットに腰掛けており、服も寝間着であった。そこでわたしはようやく理解する。
「またこの夢かぁ……」
 なんという悪夢だったのだろう。夢という事が分かり、心の底からほっとする。
 わたしは最近ずっとこの夢ばかり見ているのだ。
 目の前にイースが出てきて、最後にラブと別れる、そんな悪夢。あまりにも生々しくて、見るたびに心が苦しくなり、思い悩んでしまう。
「…………」
 ただこんなに夢に見るという事は心の奥底で何かしら引っかかっているのだろう。
「今は考えても仕方ないわね……」

 わたしの名前は『東せつな』。今はそう名乗っている。
 かつてわたしは、『管理国家ラビリンス』というメビウス様が指揮を執る組織に、幹部『イース』として所属していた。そしてあらゆる世界を支配、管理するというメビウス様の意向で、この四つ葉町にやって来たのだった。
 そして人々を苦しめながら、FUKOのゲージを集めて、ラブ達『プリキュア』と交戦した。その後、紆余曲折の末、わたしは『キュアパッション』へと転生した。
 転生してからは今までの行いを後悔し、そしてやり直すべく、ラブの家にお世話になりながら町で戦っている。
「だけど、やっぱりわたしに町を守る資格なんか……」
 この夢を見て自分の経歴を思い出すたびに、それをどこかしらに感じる。ラブ達は受け入れてくれてるけど、それは本心なのだろかと思ってしまう。
「はぁ~~~」
 思い悩みすぎて大きなため息を吐いてしまった。そんな時だった。
「せつな~~~~!!」
「ラ、ラブ!?」
 突然、ラブが扉を開けてわたしの部屋にやってきたのだ。その大声もそうだが、体がびくっとなってちょっと驚いてしまう。
「せつな、大丈夫? さっき叫んでいるように聞こえたけど。それに、汗だくだよ!? 具合でも悪いの?」
「う、ううん。大丈夫よ。ちょっとびっくりした夢を見ただけ。体は大丈夫よ」
「そう? でもまぁ、せつなが言うなら。あ、そうだ。お母さんがご飯出来たって言ってたよ。あたし先に行ってるね!」
 ラブは少し心配してくれると、扉を閉めてぱたぱたと急いで下に降りて行ってしまった。
「相変わらずね、ラブは……」
 いつも元気で明るくて、そんな様子にふと笑みをこぼしてしまう。何だか自分の悩みを吹っ飛んでしまいそうだ。
「でも、やっぱりわたしは……、いいのかな?」
 そのラブの笑顔を見るたびに、夢のあの去っていくラブも重なってしまう。
 わたしはそんな風に、複雑な心境になりながらゆっくりと着替えを始めるのであった。



★★★★★★★★★★



「お母さん、行ってきます!!」
「ちょっとラブ!? 今日は学校じゃないわよ!? こんなに早くからどこに行くの!?」
 わたしが服を着替え終わって、階段を降りてくると、玄関に既にラブがいた。靴を履き終わり、もうドアノブに手をかけていたのだ。
 今日は土曜日で学校はないし、時間も朝の8時半だ。ラブのお母さんも困惑している。
「ラブどうしたの? ダンスの練習も今日はないわよね?」
「ご、ごめんせつな。急いでるの!! また夕方に!!」
「ラ、ラブ!?」
 わたしがそう訊ねようとした瞬間に、ラブはわたしから逃げるように出て行ってしまった。
「ラブ……」
「ごめんね、せっちゃん。最近ずっとあんな感じで。学校ある日も先に飛び出すこともあるし」
「いいえ、わたしは大丈夫です。おばさま」
 ラブのお母さんは、そう心配してくれるとそのまま食卓に案内してくれる。わたしはそのまま朝ごはんが置かれた席に座った。朝ごはんはシンプル。大皿に、卵焼きと野菜炒めとベーコンが盛られている。
「お、せっちゃんおはよう」
「お、おはようございます」
 そのテーブルにはラブのお父さんもいた。ラブのお父さんも今日はお仕事が休みでゆっくりと朝を迎えているようだ。そしてそのままラブのお母さんもわたしの横に座ってきた。
「じゃあラブはいないけど。食べましょうか。いただきます」
「「いただきます!!」」
 ラブのお母さんの声と共にわたしもラブのお父さんも合掌した。そして大皿に盛られた食材を、自分の所にある小皿にへと移して、朝ごはんを食べ始める。
「そういえば、ラブはいつもどこに行ってるんですか? 本当にここの所、どこかに出かけてるし。それに……、少し避けられてるような気も」
「そ、そんなことないよ。せっちゃん、あははは……」
 食べながら不意にそんなことを二人に聞く。少々ネガティブな質問だったからか、ラブのお父さんは少し焦り気味。でもお母さんは優しく返してくれた。
「大丈夫。ラブはそんな子じゃないわ。なにか大事なことがあるのよ。まぁそれが何か教えてくれないんだけどね。困ったモノね」
「そうですか。大事な事ですか……」
 そう言ってもらえて少し安心する。とは言え、大事な事とは何だろうか。ワタシに言えない事なのか。そう考えるともやもやしてしまう。あの悪夢のせいで、本当に疑い深くなってしまっている。
「せっちゃん、何か気分が乗らないなら、四つ葉町の商店街を回ってみたら? ちょうど商店街の券が残っていたから、これあげるわね。もしかしたら期限切れのがあるかもしれないけどね」
 気落ちするわたしにお母さんは、そう言ってチケットを商店街の券を渡してくれた。
「あ、ありがとうございます」
 わたしはそうお礼を言いながら、券を受け取る。確かにいつまでも落ち込んでいられない。気晴らしに町に出かけて色々と巡ってみよう。
 わたしはそう意気込んで、お皿を持ち上げる。そして台所にそれを戻そうとした。しかしその瞬間、お母さんが手を掴んだ。
「せっちゃん、見てたわよ? ほら、大皿にまだこんなに『あれ』があるわよ?」
「あ、あぁ」
 そしてラブのお母さんは大皿に指を指すと、そこには『緑の悪魔』がたくさん残っていた。
「せっちゃん、『ピーマン』もしっかり食べましょうね」
 お母さんは、凄みがある笑顔を見せながら、緑の悪魔、もといピーマンをわたしの小皿へとどんどんと移し始めた。けっこう多めに。
「さ、どうぞ!」
「せ、精一杯がんばります……」
 そしてわたしは涙目になりながらピーマンをほおばるのであった。



★★★★★★★★★★



「せつなちゃん、今度はラブちゃんとも一緒に来てね!! 毎度あり!!」
「ありがとうございます……」
 数時間後、わたしはラブのお母さんに渡された商店街の券を使って買い物をしていた。お店を回り、ちょっとしたアクセサリーや服を見たり、食材を買ったりしていた。
 それにしても町の人は本当に優しい。笑顔を向けて、こっちまで幸せになってくる。わたしはこんなものを壊そうとしていたのだと身に染みる。だからこそ授かったプリキュアの力でこの街を守らなくては。

『お前の罪は消えない。わたしはお前だからな』

 そう思った瞬間に、夢の言葉がよぎる。
「わたしは……」
 やはり夢の事がすっと頭から離れない。ますます気持ちが暗くなっている気がする。そんな感情を拭うために四つ葉町の商店街に来たのに、何をしているんだろうか。
「あれ? パッションはんやんか!?」
 そう思い悩んでいると、後ろからなじみのある声が聞こえた。そしてその後も続々とみんなの声が聞こえてきた。
「本当だ、せつなちゃんだ」
「ヤッホー、せつな!!」
「プリプー!!」
 わたしは思わず、振り返った。するとそこには私の視線の先、そこには『美希』と『ブッキー』とそれからシフォンとタルトがいた。
「み、みんな……」
 なぜみんなが揃ってここにいるのだろうか。わたしはそう問いを投げかけた。
「みんな、なんでここに?」
「いやな、わてらも偶然ここであったやんや。シフォンとちょっとお出掛けしようと思ってな」
「そうそう、アタシも今日はダンスのレッスンもないし、ちょっと服でも見て回ろうかなって」
「わたしは動物たちのご飯を買いにペットショップに行ってたんだけど、そしたら美希ちゃんと偶然会って」
「プリプー!! みんないっしょ!!」
 そして笑いながら楽しそうにみんなは答えてくれた。偶然みんなここに集まるって不思議なことをあるみたい。
「逆にパッションはんは、なんでここに? ピーチはんと一緒にいないんは珍しいやないか」
「べ、別にずっとラブと一緒にいるわけじゃないわ……」
「そうね、確かに珍しいわね?」
「でもわたしもラブちゃんと最近あんまり会ってないような」
 逆にタルト達はわたしの事を聞いてくる。
 そしてみんなもわたしがラブと一緒にいないことを疑問に思っていた。確かにラブと一緒じゃないけど、そんなにおかしなことなのだろうか。不意に顔を赤らめてしまう。
「わ、わたしはラブのお母さんから商店街の券をもらって買い物をしてたの」
 そう言って最後に残っていた券をみんなに見せた。するとその瞬間、タルトが声を上げた。
「これは!! 我が兄弟、カオルはんのドーナツ無料券! 一枚で5個も食べれるお得品やんか!!」
 そして力説。その勢いに少し圧倒されてしまう。
「タルト、そんなに驚くこと? 確かにカオルちゃんのドーナツは魅力だけど?」
 しかしその圧力は他の二人も驚いたようで、そこまでになる理由を美希がタルトに聞いていた。
「甘いでベリーはん。見てみ、この券の説明文。ドーナツが5個付いてくるんやけど、それだけやなくて、味も自由に選べるし、なんとドーナツにくじもついてるんや!! 当たるとさらにプラスで10個ももらえるんやで!! カオルはんがこういう券を昔、作ったことがあるとか言ってたけど、まさか本当にあったとは」
「カオルちゃんのドーナツは、すっごく美味しいけどそんなに食べれないと思うけど……」
 その言葉を聞いて、美希も当たり前の言葉を返していた。確かにそんなにはお腹に入りきらない。
「でもせつなちゃん、それがあればここにいるみんなが全員食べれるんじゃない? よかったらわたしたちもその券を使わせてくれない?」
 そんな中、ブッキーはわたしに向かってそうお願いしてきた。すると他のメンバーも少し欲しそうな顔をしている。
「プリプー!! ドーナツ、食べたい!!」
 シフォンなんか目を輝かせて既にドーナツを食べられると思っている。とはいえ断る理由はないし、わたしは承諾した。
「構わないわよ」
「ほんまか、パッションはん!? よっしゃー! 今からカオルちゃんの所にいくで!!」
「「おお!~~~!」」
「プリプー!!」
 そしてみんなが一斉に声を出す。
「お、おぉ~~?」
 そしてわたしは少し呆気にとられながら声を出すと、みんなとカオルちゃんの所に向かうのであった。



★★★★★★★★★★



「へい、おまち!! カオルちゃん特製ドーナツだよ!!」
「おぉ、来たで!! カオルちゃんのドーナツや!!」
「香りだけで美味しそう、まさに完璧!!」
「色んな種類があって素敵!!」
 数分後、わたしたちはカオルちゃんがいるクローバータウンストリートの公園に来ていた。そしてわたしの券を使ってみんなでドーナツを頼んでいた。
「まさかその券を持ってるとは、せつなちゃんやるねぇ。その券は一昨年の町おこしの時に発行したんだけど、すっごい繁盛したんだ。使い切ったと思ってたけどねぇ」
「え、でもいいの? 他の券は期限内だから使えたけど、この券は一昨年のなのに?」
 ラブのお母さんの言っていた通り、商店街の券には一応期限があった。みんなうまいこと使えたんだけど、残ったこのカオルちゃんの券だけは、期限も書かれておらず、しかも妙に古めかしくて気になっていたのである。
「いいのいいの。うちはそんな期限決めてなかったし、ぐは!!」
 しかしカオルちゃんは相変わらずおちゃらけていた。
「まぁ、些細なことは置いといて注文通り、色んなドーナツを作ったよ!! 冷めないうちにささ。そしてくじ引きも!」
 そしてそのまま作ってくれたドーナツをテーブルに並べてくれた。頼んだのはいつもとは違う味のドーナツ。クリームが入っていたり、小豆だったり、マロン味だったりとすごく楽しめそうなドーナツである。ただ味は変われど、そのドーナツの穴はもちろんハートだ。
 そんなよりどりの味をみんなで楽しむために、みんなで分けながらドーナツを味わっていた。
「美味しい……」
 口に入れると、サクサクの皮と柔らかくて甘い中身が口の中に溢れて、すごく幸せになってくる。
「ほんと、いつもとまた違って美味しい!!」
「ふふ、すっごく幸せな気分」
「うまいで!! カオルはん!! まさに心も癒される最高のドーナツや」
「ドーナツ!! 美味しい!! 美味しい!!」
「だあぁ!! シフォン、口からこぼれとるで!!」
 みんな、笑顔を見せてドーナツを絶賛していた。いつも思うけどこのドーナツは一瞬でみんなを幸せにして、そして癒しを与えてくれる最高の物だと思う。カオルちゃんは本当にすごい。
「そりゃあ、自慢のドーナツだからね。さてとお次はおみくじだ!! みんな、引いて引いて」
 そして食べている最中、カオルちゃんがおみくじを持ってきてくれた。本当はチャンスは一回みたいだったけど、特別にみんなで引かせてもらうことになった。
 とは言ってもなんと運悪く全員がはずれを引いてしまった。
「あちゃ~、みんな外れてしもうたで! 何とも言えんなぁ~」
「まぁ、みんなでドーナツ分けることが出来たし、いいと思うよ」
「ブッキーの言う通り。美味しく食べれたからよしとしましょう!」
 ただくじが外れたと言ってもドーナツもいつも以上の出来栄えですごくよかったし、みんなも満足そうである。わたしもみんなと話せて少し気が晴れたしね。
 そして食べ終わってからしばらく雑談をしていたが、急に美希の携帯電話に着信があった。
「はい、どうしたのママ? え、読者モデルの子が来れない? 代役をアタシにしたい!?」
 その電話に出て美希が急に焦り始めていた。そしてほどなくして今度はブッキーの携帯にも電話がかかってくる。
「はい、お父さんどうしたの? え、動物病院にいっぱい人が? 応援に来てほしい!?」
 なんとブッキーも急な用事がかかってきた様子であった。そして二人は少し話し込むとそのまま携帯の通話を切った。
「ごめん、せつな。ママから仕事の代わり頼まれちゃって!! 今から行ってくるね!! 今日は楽しかったわ!! カオルちゃんもありがと」
「せつなちゃん!! わたしもごめんね。家の動物病院のヘルプに行ってくる!! わたしも楽しかったよ!! カオルちゃんも美味しかったよ」
 そして二人はそう言うとすぐに支度してそのまま走ってここから去って行ってしまった。
「ふぁあ~~」
「あれ? シフォン眠たいんか? しゃあないな。パッションはん、ちょっとシフォンがおねむの様子やから先に帰るわ。カオルはん、うまいドーナツありがとさん。ほな」
「おう、兄弟!!」
 続いて、眠そうになっていたシフォンを連れてタルトまで帰ってしまった。
「…………、はぁ」
 みんながいなくなった瞬間、不意にため息が出てしまう。別に意識はしていなかったけどなぜか出てしまっていた。
「どうしたの、せつなちゃん? そんなため息なんかついて。幸せが逃げちゃうよ? 来た時からずっと暗いようだけど」
「え?」
 しかしそんな心境をカオルちゃんにあっさりと見破られて、わたしは驚いてしまった。
「おじさんのドーナツを食べたから少しは明るくなってくれたみたいだけど、それでもどこか悲しいような不安がってるようなそんな感じがしたんだよね?」
「わたし、そんな顔してた?」
「おじさんも色々とあったからねぇ。色々と分かることもあるんだよ。もし良かったらおじさんに話してみたら? 相談に乗るよ?」
「そう……」
 カオルちゃんはそう言うと、サービスということで温かいミルクを出してくれた。わたしはそれを少しすすると、内に秘めたことを話し始めることにした。
「わたし、最近まで悪いことばかりしてたの。でもラブ達がそれを必死になって訴えて止めてくれた、正してくれた。だからわたしも、償いってわけでもないけど、今は精一杯頑張ってる」
「ほぉ」
「でもやっぱり昔やったことは消えない。そんな思いが強いのか、よく昔の夢を見ちゃって。昔の自分に、そしてラブに見放されちゃうそんな夢。わたし、それが現実に起きるかと思うと怖くて……」
 言葉を紡ぐと、思わず涙声になって、本当に目から涙がこぼれてきている。体も震えて、おかしくなってくる。そんな様子のわたしにカオルちゃんは、肩に手をポンと置き、言葉を投げかけてくれた。
「よくドーナツ先に立たずって言うよね?」
「えぇ??」
 急に訳の分からないことを言われて思わず変な声を出してしまった。
「後悔先に立たずとも言うけど、ぐは」
「あ、そういう意味。確かにそうよね、後悔するだけ無駄だしね」
 冗談を交えてだけど、ストリートな言葉。確かにそうである後悔なんかしても意味ないのに。でもやっぱり苦しいものは苦しい。やっぱりあの過去はなかったことにしたいと思ってしまう。
 しかしわたしが悲しむ中、カオルちゃんの言葉はまだ続いていた。
「おじさん、あの言葉少し苦手なんだよね」
「え?」
「だって後悔してるってことは昔の自分を見直してるってことじゃない?」
「そうかな……」
 わたしのこぼした言葉に少し微笑みながらカオルちゃんはさらに続ける。
「昔の悪い『自分』も『自分』として認めてやり直す。そんな覚悟や優しさがあるからラブちゃん達がせつなちゃんを慕ってるんじゃないかな?」
「あ……」
「知ってる? さっきドーナツ食べてみんなで話してた時、みんなそんなせつなちゃんを見てすごく喜んでたよ。ラブちゃんも会うたびにせつなちゃんの話ばかりするし、みんなせつなちゃんが心から大好きなんだねぇ」
「ほ、本当に……?」
 それを聞いてなんだか胸が熱くなってくる。悲しい苦しい感情も和らいでくる。涙も自然に止まっていた。
「さて今日はそろそろ店じまいかな? あ、そうだせつなちゃんにこれあげるよ!」
「え?」
 そう言って店をたたみ始めようとするカオルちゃんは、そのワゴンカーの中から何かを取り出してきていた。
「はい、おみくじの当たり。まぁこの店を閉め始めるから『今は』ドーナツもらえないけど、帰ったらいいことあるかもね」
「え、えぇ……?」
 わたしはまたも困惑し、そして不思議に思いながらもそれを受け取った。でも確かに縁起は良さそうかもしれない。
 それにすごく元気になれた。ここに来てよかった。
「ありがとうカオルちゃん。おかげで気分が晴れたわ。じゃあまた!!」
 そしてわたしはそのままその場から走り始めた。走る意味もなかったけど、やっぱり気分がいいと心が躍る。わたしはそのまま家へと向かったのであった。
「青春だねぇ……」
 カオルちゃんは走り去るそう呟いていた。



 ちなみにその時のわたしは知る由もなかったけど、実はカオルちゃんのワゴンカーにはある人物が隠れていたのである。
「ふぅ、やっとみんな行ったよぉ。まさかみんな来るなんて思わなかった。でもせつな、そんなに心配させちゃってたんだね。だからこれは絶対にうまくやらないと!!」
 そしてその声を発した人物に向かってカオルちゃんも笑顔で声をかけていた。
「そうだね。ラブちゃん!!」



★★★★★★★★★★



「ふぅ……」
 カオルちゃんのドーナツショップを後にして、数時間後。既に空は暗くなっていた。
 晩御飯も食べ終わって、寝間着にも着替えている。そして窓の外の柵にもたれかかりながら夜空を眺めていた。
「せ~つな!!」
「ラブ……」
 そんな時、後ろからラブの声がした。わたしたちの部屋は窓の外で繋がっているので、きっと自分の部屋からここに来たのだろう。
「せつな、隣いい?」
「えぇ……」
 そしてそのままラブはわたしの横へとやって来て、そのまま一緒に柵にもたれかかる。朝まではラブの事を思うと胸がざわざわしたけど、隣にいてくれるとやっぱり落ち着く。
 実はラブは夕食の直前になってようやく帰ってきていた。流石に帰りが遅すぎたから、ラブのお母さんは少し怒り気味だったけど、お父さんは夕食に間に合ったからいいじゃないかと場を濁していた。
 そうしてそのまま一緒にご飯を食べて、ふたりが順番ごとにお風呂に入って、今に至るわけである。ラブも既にパジャマを着ていた。
「…………ふう」
 横並びになりながら、二人でゆったりと風に当たる。
 そして少し時間が経ったタイミング、わたしはラブに向かって思っていたことを話しかけようとした。
「ラブあのね……」「せつなあのね……」
「「あっ」」
 だけど、ラブと言葉がかぶってしまった。
「せ、せつなからどうぞ」
「え、えぇ」
 そして何とも言えない空気の中、先にラブが話すことを譲ってくれた。
「ラブ、わたしね。すごい怖い夢を見てたんだ。ラブに見放される夢、ラブがわたしから去っちゃう夢をここ最近ずっと見てた」
 そしてわたしは夢の事を話した。ただそれについてはすぐにラブが反論してくれた。
「わたしが、そんなことするわけないよ」
 ラブはそうやって力強い言葉で返してくれた。
「うん、分かってる」
 分かっていると言いながらやはり心配していたわたし。でもその言葉を聞いてすごくうれしくなる。
 この時のわたしは知らないけど、ラブはこの話を二回聞いている。だからこそ私を安心させるため、すぐに返してくれたんだろう。
「わたしは昔悪いことしてたから、みんなは心の中でどうなのかなって思い悩んじゃってね。でも杞憂だったわ。だってイースのわたしもラブは受け入れてくれた。そしてそれを考える今のわたしの姿をみんなは認めてくれてる。それに気づかされたの。だからもう大丈夫」
 勝手に悩んで、勝手に自己完結して、なんだかよく分からない。そんな自分が気恥ずかしくなり、ぽりぽりと頬をかいていた。
 するとラブはそんな様子のわたしを見て、急いで自分の部屋に戻って行った。そしてなにか大きな箱を持ってきていた。
「ラ、ラブ、それは……?」
「あんまり自信はないんだけど、開けてみて」
「うん……」
 そしてわたしは言われるままにその箱を開けた。
「あ!?」
 それを見てわたしは声を出して驚いていた。そしてその中身の物を手に持って取り出した。
「ドーナツ……」
 それはドーナツだったのである。少し崩れていたり、ちょっと焦げてたり、穴の形が歪な部分もあるけど美味しそうなドーナツが箱に入っていたのである。
「えへへ、下手くそでごめんね。実はこれ、カオルちゃんから作り方教わってたんだ」
「カオルちゃんから?」
 それを聞いて、ラブが最近朝早くに出かけていく理由が分かった。
「もしかして最近よく出かけてたのって……」
「そう、カオルちゃんからドーナツの作り方を教えてもらってたんだ! せつな、ここの所、元気なかったから何かサプライズで送ろうかなと思ってたの」
「そうだったの……」
「でも結果的に余計にせつなに辛い思いさせちゃってたね。ごめんなさい」
 ラブはそう言ってそのまま頭を下げて謝っていた。でもわたしはすぐに頭を上げるように言った。
「顔を上げてよ、ラブ。わたしがただ自分で落ち込んでただけだから。それにわたしすごく嬉しいわ。味もすごく美味しそうだしね」
 そしてわたしはそのままドーナツを口にした。カオルちゃんの特製ドーナツとはまた違う味。ほんのり甘くてわたしを包み込んでくれる優しさに溢れた味だ。何よりもラブの愛情を感じてすごく幸せになれる。
「うん、美味しいわ!!」
「よかったぁぁ~~!! せつなの幸せ、ゲットだよ!!」
 そんなわたしを見て、ラブは子供みたいに大はしゃぎしていた。
 そしてふとさっきカオルちゃんにもらったドーナツの当たり券を思い出した。
「まさか当たりのドーナツがこんなタイミングでもらえるなんてね……」
 思い出したことに思わず笑ってしまう。
「せつな、何か言った?」
「うぅん。なんでもないわ。それよりもラブも食べたら?」
「うん、なんだが自分で作ったから変な感じだけど。いただきます!!」

 そうして、わたしたち二人はドーナツを食べながら、しばらくの間、おしゃべりに興じるのであった。



★★★★★★★★★★



『ここは……』
 気づくとわたしは、暗闇の中にいた。
 そしてどこを見渡しても、視線の先には闇が広がるばかり。
 だけどそんな疑問はすぐに分かった。これはいつも見るあの夢だ。
 そう考え始めた時、突然地面から黒くドロドロしたものが湧き上がってきた。そしてそのドロドロは『イース』へと変わった。
 それはまたわたしを睨みつけて言葉を吐き出す。
『いくら桃園ラブと仲良くなったからって、わたしの行いが消えるわけではない。それを分かっているはずだ』
『えぇ、そうね』
 わたしは彼女の言葉に淡々とそう返す。だがその態度がイースの癇に障ったようだ。
『ならなぜそんな清々しい目をしている? なぜいつものように怯え、恐怖し、後悔しないんだ。わたしはこれまでどれだけの事をしたか分かってるのか?』
 そう言うと、イースは口を歪ませる。そして懐から取り出した四葉のアクセサリーを地面へと投げ捨てて、そのまま踏みつぶした。しかし、わたしは動じなかった。
『どれだけの事をしたか。そんなことわたしは『イース』だから分かってるわ』
 そう言うと目の前のイースは汗を流して、少し後退しながら動揺していた。
『なぜ、お前はいつもわたしを否定したのに。お前は東せつな、ラビリンスを裏切った愚か者だ』
 しかし、その言葉にめげずに彼女に近づく。
『そう、わたしはラビリンスを裏切った東せつな。それも間違ってない』
『く、来るな!! お前は、お前は!! うぐ?』
 そしてわたしはそのまま彼女の懐に近づくと、手からあるものを取り出していた。そしてそれをイースの口元に与える。
『あ、甘い……』
 彼女に与えたもの。それはラブがくれたドーナツであった。
『夢の世界だし、思ったらなんでも出来るみたいね。どう? ラブの作ってくれたドーナツは?』
 そして少し微笑みながらイースに問いかけた。
『すごく美味しい。とてもとても』
 すると言葉を吐きながら涙をぽろぽろと流し始めていた。わたしはそんな彼女を抱きしめた。
『わたしは東せつな、そして確かにイースよ……』
 言葉を紡ぐと、わたしの姿はイースの姿へと変わりゆく。
『そしてキュアパッション……』
 さらに姿はキュアパッションの姿へと変わった。
『ラブ達はこんなわたしたちを全部受け止めてくれた。悪いことをするわたし、後悔するわたし、プリキュアとして戦うわたし。そんなわたしたちを好いてくれた。それはもう分ってたんだ』
 言葉を続ける。
『わたし(イース)がいなければ、わたし(東せつな)もわたし(パッション)もいない。これがわたしなんだ。だからわたしはあなたを否定するのはやめる。あなたもわたしなんだから、わたしのことを……』
 その言葉をこぼした瞬間、イースは涙を流し始める。
『恐かったんだよね、だってわたしも恐かった。でも大丈夫、ラブ達は絶対に……。こんなに美味しいドーナツも作ってくれたしね』
『うん』
 イースはそう答えると、体が光り始めて、光の粒になっていく。そしてそれがわたしの中へと入って来た。
 そしてわたしの姿は東せつなへと戻り、そのまま辺りは光に包まれた。



★★★★★★★★★★



「はいはい!! 四人とももっとキレよく!! 動きが硬いわよ!!」
 今日はみんなでダンスの練習をしていた。ミユキさんの指導のもとで特訓をしているのだ。
「ふぅ、疲れたぁ!! ダンス大変だよぉ」
「ラブったら、情けないわよ」
「でもわたしもくたくたかも」
「確かに疲れるわね」
 わたしも含めて、みんなダンスの練習で息が上がっていた。でもやっぱり四人で一緒にやるのは楽しい。
 あれからあの夢は見なくなった。そして変わらない日常が続いている。自分の何かが吹っ切れたからなのか、それはよく分からない。
 けど、あの夢の事は忘れてはいけない。自分の中にいる自分(イース)のために。そしてみんなのわたしへの思いのために。
 ふと、休憩をしながら、そう考えていたその時だった。タルトが私たちに声をかけてきた。
「大変や!! ナキワメーケが出たで!! みんな出番や!!」

「みんな、いくよ!!」
「「「えぇ!!」」」
 そしてラブの一声。わたしと美希とブッキーは声を返した。
 そのままわたしたちは変身する。

「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!」

「ブルーのハートは希望のしるし! つみたてフレッシュ、キュアベリー!」

「イエローハートは祈りのしるし! とれたてフレッシュ、キュアパイン!」

「真っ赤なハートは幸せのあかし! うれたてフレッシュ、キュアパッション!」

「「「「フレッシュプリキュア!!」」」」

 わたしは今日も、みんなとともにこの町のために、プリキュアとして戦うのだ。
最終更新:2021年02月20日 13:48