「Color of respect a life」/ゾンリー
(ローラ寝ちゃった……)
小さな寝息が聞こえるアクアポッドを両手に抱えて、私――夏海まなつは夜のあおぞら市を歩く。つい数日前まで住んでいた南乃島に比べれば、見える星はそこまで多くないけど、私にとっては開発都市の街明かりこそ、心躍る光景だった。
(ん~っ、やっぱ都会っていいな~!)
二十四時間営業のコンビニやファミレス、島では一瞬で誰のものか分かってしまう自動車も、数えきれない程通り過ぎていく。
ドンっ
そんな景趣に見とれて歩いていると、コンビニから出てきた誰かとぶつかった。鍛えた体幹のおかげで倒れることはなかったけど、ぶつかった人は尻餅こつん。私は慌ててその人の手を掴んで、引き上げる。
「わーごめんなさい! 私ったらよそ見してて」
真新しい街灯に照らされた、肩甲骨くらいまである深紫のふわふわ髪の毛、透き通ったヘーゼルの瞳。背丈は私と同じくらいで年も近そう。ん? というかどっかで見たような?
「私こそごめんなさ……って夏海さん?」
「その声……さんご?」
よくよく見るとその姿は、髪を下ろしたさんご――涼村さんごと言うほかなく、私は突然の遭遇に驚くばかりだった。
「どうしたのこんな時間に? てかその格好! パジャマに一枚羽織っただけじゃ風邪ひいちゃうよ!」
さんごの格好は、可愛らしいフリルのついた前開き長袖長ズボンパジャマに、ポリエステル素材のパーカー。
「半袖にショートパンツの夏海さんに言われても……。あっ、私はお母さんに頼まれて少し買い出し。夏海さんは?」
しまった。夜中に出歩いてるのは私も同じで、あからさまにちょっと家から出てきました風のさんごに比べれば、怪しいのはどう見ても私の方だろう。
「え? えーっと私もお母さん関係で……あはは」
誤魔化せてない。絶対誤魔化せてない。けど間違ったことは言ってない。よし。
「さんご、他に寄って行くところある?」
「ううん。ボールペン買いに来ただけだから」
「そっか、じゃあ一緒に帰ろ!」
さんごの手を引いて、まだまだ眠らない夜道を歩く。ふと振り返って窺った彼女の表情が、どこか照れているように見えた私はその理由を尋ねる。「……どうかした?」
「……私ね、パジャマ姿友達に見せるの初めてで、その、ちょっと恥ずかしいな~……なんて」
「どうして? めっちゃ可愛いよ! ほんと天使みたい、癒される~。そうだ、今度お泊り会しようよ! パジャマ姿で恋バナしたり~、枕投げしたり!」
「お泊り会……!」
私と同じ、いやそれ以上に目をキラキラさせるさんご。
お菓子は何が好きとか、おしゃれなパジャマが売ってるお店とか、そういえば部活はどうしようとか。話題は尽きないけど、いつの間にか私の家に到着。名残惜しさを感じつつも、この続きはまた明日。
「じゃあねーさんご!」
手のひらと手のひらで、約束のハイタッチ。
「うん、また学校で……まなつちゃん! バイバイ」
走り去るさんご。私は急な下の名前呼びに得も言われぬ高揚感を覚えながら、街灯に照らされ走る彼女を見えなくなるまで目で追いかける。
さんごの、きっと私の右手にはまだハイタッチの感覚が残っていて。そしてその表情も、夜空には眩しすぎるくらいに、輝いて(トロピカって)いた。
最終更新:2021年03月08日 22:37