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開幕!『オールスタープリキュア!トロピカれ笑顔!春のSS祭り2022』/夏希◆JIBDaXNP.g




「この封筒……いつからここに? さっきまで無かったような……」
 みのりが一通の封書を部室の机から取り上げて、そっと裏返す。そこには差出人の名前も何も書かれてはいなかった。だけどしっかりと封はされているし、厚みから考えても中に何かが入っているのは間違いない。
「あ~、今の時期っていうとぉ、招待状じゃない?」
「そうか、今年は少し遅いなって思ってたけど。きっとそうだね!」
 まなつとさんごの言う招待状とは何か――その正体に思い至ったみのりは、封書を机の上に戻すと、わざとらしくポンと手を打った。

「じゃあ開けるよ~」
 まなつがハサミでジョキジョキと豪快に切っていく。
「まなつ! 中身まで切れちゃうよ~」
 さんごがハラハラしながら見守る中、出てきたのは一枚の便箋だった。

――拝啓
 やわらかな春風を頬に感じ、心華やぐ頃になりましたね。
 さて、今年も『オールスタープリキュアお話会』が開催される運びとなりました。
 今年の幹事は『トロピカル〜ジュ!プリキュア』の皆さまとなります。期間は下記の通りですので、十分な準備をされた上で、全プリキュアの皆さまをお迎えください。皆さまへの連絡はこちらからさせていただきます。
 期間:2022年4月16日(土)~5月8日(日)の23日間。お話のテーマは『やる気』と『ご飯』です。
――敬具

「期間とテーマって、毎年幹事が決めてるんだと思ってた……」
 みのりがポツリとつぶやく。それに、そもそもこの手紙はどこから来たのか? 誰が出したのか? という根本的な問題は何一つ解決していない。

「まあそんなことはいいじゃない。今一番大事なことは、みんなとまた会えるってこと! そして楽しい時間にするために、力一杯準備することだよ!」
「そうだね。がんばろう!」
 お祭り好きなまなつのやる気に満ちた声に、さんごも勢いよく立ち上がる。
「その点について異存はないけど――具体的にどうするのかが問題」
 ただ一人、普段通りのテンションのみのりが、冷静な指摘を口にした。
「う~ん、だからぁ……美味しいものをい~っぱい用意して、すっごくトロピカった飾りつけをして、それからぁ~」
「いや、まなつ。そういうことじゃなくて、どこで誰が何をどうやって用意したらいいのか、って話」
 冷静かつ大真面目なみのりにじっと見つめられて、何も考えてなかったまなつの目が泳ぐ。その視線がさんごに移ると、彼女もまた少し考えてから力なくうなだれた。
「そうだよね。人数だって70人以上居るし、大金持ちのお嬢様とか、異世界のお姫様とかもいるし……」
 急にうろたえ始めたさんごに、みのりは小さく頷く。
 部室で迎えるにはあまりにも人数が多すぎるし、校庭を使わせてもらおうにも、学外の生徒を大量に招くことを生徒会が許すとも思えない。まあ生徒会以前に校則違反でもある……。それに食事や飲み物を用意するにも、部費がまるで足りないという現実的な問題があった。だが、まなつはピコーンと閃いたような顔をして、二人にニカっと笑った。

「お金持ちはともかく、高貴な仲間ならわたしたちにもいるじゃない。なんと! 女王様の後継者がっ!」
 フンッ! とドヤ顔で鼻息荒く語るまなつの言葉に答えたのは、さんごでもみのりでもなくて――。
「ふふ~ん。流石はまなつ、わかってるじゃない。場所と費用の問題なら心配いらないわ。このグランオーシャンの次期女王たる、ローラ・アポロドーロス・ヒュギーヌス・ラメールに任せなさい!」
 ドアの陰から優雅に滑り込むように入ってきた少女。海のように青い瞳に、ピンクのロングヘア。青緑のツーピースを着こなした外国人風の美少女――キュアラメールこと、ローラ・ラメールの帰還だった。

「「「ローラ!」」」
 三人がローラを取り囲み、再会を喜ぶ。ローラに続いて、薄紫の瞳に炎のような赤のロングヘアの長身の美少女が、ポリポリと頭を掻きながら入ってきた。
「おいおい。あんまりチヤホヤすると、ローラがまた調子に乗るぞ。あたしのことも歓迎してくれよな」
「「「あすか先輩!」」」
 こうしてトロピカる部の創立メンバーが、また全員揃ったのだった。

「実は私の部屋にも手紙が届いたの。だから、どうせこんなことだろうと思って女王様に許可を取っておいたわ」
 そう言って、ローラがオホン、とわざとらしく咳払いをする。
「お話会は、グランオーシャンでやるわよ! 女王様がご馳走とお菓子も用意してくれるそうだから、期待してなさい」
「やったぁ! これで昨年にも劣らない豪華なお話会ができそうだねっ」
「劣らないどころじゃないわよ。史上初と言って欲しいわね」
「ほら見ろ、すっかり調子に乗ってる……」
 あすかのツッコミにさんごがあははと乾いた笑いで答える。一緒に調子に乗っているまなつや、我関せずといったみのりと違って、あすかにとってさんごは気の休まるチームの良心のような存在だ。

「グランオーシャンは人間との接触を嫌がるんじゃないのか? よく許可が取れたなぁ」
 あすかの疑問に、ローラが珍しく素直に答える。
「そうね。私もどう説得したらいいものか思案していたんだけど、拍子抜けするくらいにあっさり認められたの」

――たとえ世界は違っても、プリキュアの皆さまであれば、このグランオーシャンが歓迎しないわけには参りません。

「だって」
「なるほどな」
 あすかが納得して頷く。グランオーシャンは人間との交流に慎重だが、同時に人間との交流の重要性も認めている。でなければグランオーシャンの危機に際して、次期女王候補であるローラを人間の世界に送ることは無かっただろう。

「ちょうどいいじゃない! 女王様にもお話会を聞いてもらおうよ。それが人間との積極的な交流に繋がるかもしれないし」
 まなつがキラキラした目で提案する。
「おいおい、そんなに簡単な問題じゃないだろう。とはいえ、お話会には参加してもらいたいけどな」
「それも心配要らないわ。もちろんグランオーシャンの女王として、このような重要な催しには参加させてもらいますって」
 根回しはバッチリよ、とローラが得意げに胸を張る。
「よーし、トロピカってきた~! あ、でもグランオーシャンじゃ、気軽に準備を手伝いに行くってわけにもいかないよね?」
 グランオーシャンはもともと青空市の海岸から離れた海の底にあるが、今は位置を変えており、遠い海の向こうにある。
「ご馳走はグランオーシャンのシェフが準備してくれるそうだから、当日少し早めに行けばいいんじゃない?」
「じゃあ早めに行って、みんなで会場の飾りつけをしよう!」
「それいいね。ローラはそれまではこっちに居られるの?」
「そうなるわね。まなつの家にお世話になっていいかしら?」
「もっちろん! お母さんも喜ぶよ!」
 離れているからこそ、まなつの家に泊まる必然性も出てくる。一度は離れた仲間が自然と集まるのも、お話会の特徴だった。

 みんなが和気藹々と盛り上がっている中、みのりだけはじっと便箋を見つめている。マイペースなのは元からだけど……気になったさんごが声をかけた。
「みのりん先輩、その手紙、何か気になるんですか?」
「私は気にならないみんなの方が不思議。確かに去年参加したお話会は楽しかったけど……招待状を出しているのが幹事じゃないのなら、一体誰が何の目的で開催してるの?」
 考えるよりも先に行動するタイプの多いトロピカる部においては珍しく、みのりは頭で納得しないと行動に移さない。困ったように顔を見合わせる、まなつやローラやさんご。そこであすかが助け船を出した。
「状況を物語に見立てて、推理するのはみのりの十八番だろう?」
「そうだった……。疑問を前にして立ち止まるのは、考えているとは言わない」
 みのりは便箋を胸に抱えると、軽く目を閉じて思考を巡らせる。

「招待状を送ったのは、おそらく私たちとは異なる世界――平行世界とはまた違う、別の次元の存在だと思う。まず時間軸が合わない。今回で九年目なのに毎年中学生で再会している理屈が合わない」
「なるほど――時間と空間を超えて私たちを召喚しようとしているわけか」
 みのりの推理にあすかが頷く。続いてさんごも推測を口にした。
「小説なんかで出てくるループものって線は無いですか?」
「それもありうる。だけど『時間の巻き戻り』の条件と目的がわからない。現時点でそう特定できる根拠はない」
 さんごの意見を認めつつも、みのりは腑に落ちない様子だった。
「うーん……状況がわからないなら、目的から絞り込むしかないんじゃないか?」
 あすかの言葉にみのりが頷く。ここからは二人だけのやり取りになった。
「まず、お話会にテーマが設定されているのが不自然。集まって話すだけなら話題は何でもいいはず。わざわざ特定のテーマに絞るのは――」
「絞るのは?」
「小説の書き方に似ている。テーマとは、特定の意味を持たない日常を分類して意味を与え、他人に理解しやすくするためのもの。設定したテーマに沿って創られるのが物語だから」
「なるほどな。じゃあ、その目的は?」
「私たちの日常を物語にするのなら――おそらく目的は鑑賞と保管。物語にして鑑賞し、記録に残しておくことだと思う」
「そんなものを鑑賞したり記録に残したりして……」
 楽しいのか? と言いかけて、あすかは口をつぐむ。昨年参加したお話会では、今まであまり交流のなかったチームのプリキュアたちの話もとても面白かったし、中には話を聞きながら、大笑いしたり、泣いたり怒ったりしている仲間もいた。あすか自身、彼女たちの想いに触れてとても心が動いたし、今思い返すとまた同じ話を聞いてみたいとも思う。そう考えると、鑑賞と保管が目的というみのりの推測は、案外当たっているような気がする。

「プリキュアみんなの話を物語として、見たり聞いたり記録したりしたいって人がいるってことか」
「わたしたちが物語? よくわからないけど、なんかすっごくトロピカってる~!」
 まなつがテンション高く口を挟む。
「『わたしたちの物語』って、トロピカ卒業フェスティバルの時にみのりん先輩が言ってましたよね?」
 さんごの問いに、みのりがぴんと人差し指を立てた。
「私たちは時間の流れには逆らえないでしょう? 時の流れの中で感じたことや学んだことは、時の流れの中で消えていく。天に舞い上がるような喜びも、地の底に落ちるような苦悩も、泡沫となって消えていく。私たちが生きた証を、その想いと気づきと行動を、後世に伝えるのが記録であり、物語」
「だったら記録に残してもらおうよ。わたしたちのトロピカってるこの気持ちを! 今一番やりたいことを、力いっぱい頑張ってる毎日を!」
 まなつの言葉に、さんごとあすかも笑顔で頷く。みのりも頷きながら、相変わらず冷静な声で言った。
「確かにそうかもしれない。それにループものって線はやはり無いと思う。私たちには毎年、新しい仲間が増えているから。同じ日常を繰り返しているとは言えない」
「「「そうだった!!!」」」

「難しい話は終わったの? それならさっきからあの子が待ってるから、話を聞いてあげたら? ほら、前に一度だけ会った子よ。覚えてるでしょ?」
 みんなが話している間、くるるんと遊んでいたローラが部室の入り口を指さす。
「あの~……取り込み中に、ごめんなさい。私、気が付いたらまた知らない場所にいて、道に迷っちゃって……」
 恐る恐る部室のドアから姿を見せたのは、この前イベントで張りぼてのおむすびにかぶりつこうとした、不思議な子だった。
「あ~ッ! ゆいちゃん」
「まなつちゃんだったよね。この間は急に居なくなってごめんね」
「ううん、また会えて嬉しい。っていうか――きっとまた会えるって思ってたんだ。だって、ゆいちゃんもプリキュアなんでしょ?」
「ええっ? ゆいちゃんも、ってことは、まなつちゃんもプリキュアなの?」
「ああ、正確にはここに居る全員が――だけどな。しかし迂闊すぎるぞ? まなつなんかの誘導尋問にあっさり引っかかるなんて」
 あすかが呆れた声を出す。
「え? わたしは誘導尋問なんかしてないけど?」
「まなつは天然。でも私もそうじゃないかと思ってた。もしかして、あなたが次のプリキュアなの?」
 みのりの指摘に、ゆいは元気よく頷いた。
「うん! あらためまして、私はキュアプレシャスこと和実ゆい。こっちはパートナーのコメコメ。『デリシャスパーティ♡プリキュア』だよ」
「わたしたちは『トロピカル〜ジュ!プリキュア』なんだ。よろしくね! メンバー紹介は後でするとして、どうしてまたこの街に?」
 まなつも代表で挨拶する。
「それがね、なんか美味しそうなパンの匂いに釣られてフラフラと森の中を歩いてたら、ここに着いちゃったの」
「それならきっとトロピカルメロンパンだね。じゃあ再会を祝してみんなで食べよう! 買ってくるね~」
「あ、それなら一緒に……。行っちゃった」
 あっという間に後ろ姿が小さくなったまなつに、ゆいは虚しく手を伸ばす。
「まあ座って。せっかく再会できたんだし、帰る時間になるまでお話会の予行演習でもしようよ。テーマに被らないことなら構わないだろうし」
 さんごがゆいに椅子を用意して微笑む。
「それならこの町の美味しい食べ物屋さんの話が聞きたいな!」
「それは微妙に被るんじゃないかなあ……」
 あすかが困った顔で頭を掻く。
「好きなスポーツの話はどうだ?」
「コスメとかには興味ないの?」
「本のおススメ、あるけど」
「え~と、あははは……」
 あすか、さんご、みのり。三人それぞれに迫られて、ゆいは笑顔でのけぞりながら、たらりと冷や汗を垂らした……。

 そうして時は流れ――。
オールスタープリキュア!トロピカれ笑顔!春のSS祭り2022』開幕です!
最終更新:2022年04月16日 00:19