『5.3』/Mitchell&Carroll




「どうしたの?その前髪」
 これは、朝の忙しない中で急いでセットした前髪。夜が明けて間も無く、あかねさんから、7000万個のタコ焼きの注文が入ったことを告げられ、慌てて焼いた後、急いでセットした前髪。「一刻も早くセットし直した方が良いよ」なんて、友達は言うけれども、持ち前の引っ込み思案な性格が災いして、「このままでいい」と、そのままズルズル先延ばし――気付いたら、放課後だった。

 結局、忙しない中で急いでセットした前髪のまま、下校した。校門が、いつもより重厚に感じる。思えば、今朝はギリギリセーフ。よく、遅刻せずに済んだものだ。非日常感に苛まれながら帰宅すると、あかねさんから、今度は2300万個のタコ焼きの注文が入ったことを告げられた。なんでも、私が学校に行っている間にも、更に5000万個のタコ焼きの追加注文があって、あかねさんは、それを一人で焼いていたばかりか、前日も私に内緒で4000万個のタコ焼きを焼いていたらしい。私は、やる気を出す為に前髪をセットし直した。やらなければ、やられるまで。
最終更新:2022年05月04日 10:45