その娘、キュアヤムヤム/一六◆6/pMjwqUTk
「生徒会長~!」
廊下をパタパタと走る足音と、後ろから呼びかける声。振り向いた果彩あまねの顔が、思わず強張る。
(この子は確か、三人目のプリキュア……)
その硬い表情に気付いた様子もなく、彼女は笑顔であまねに駆け寄ってきた。
「この前はありがとうございましたぁ! お陰ですご~くたくさんのレシピッピに会えて、それどころか素敵な友達まで出来て……。も~、サービス増し増しテンコ盛り~って感じのスペっシャルな一日でぇ!」
身振り手振りだけでは飽き足らず、辺りを跳ね回りながら報告してくる彼女。
(それに引き換え、私は……)
口惜しさと情けなさに、思わずグッと奥歯を嚙み締めそうになるのを何とか耐え、あまねは努めてさらりと言ってのける。
「……そうか、良かったな。だが、廊下で走ったり飛び跳ねたりするのは校則違反だ」
「はにゃ! ご、ごめんなさいぃ……」
これでもう話しかけられることもないだろう。あたふたと慌てる彼女に、半ばホッとしながら背を向けた――はずだったのだが。
気付けば目の前に彼女の顔があって、あまねはドキリとして目を見開いた。
いつの間に回り込んだのだろう。しかも、こちらの顔を覗き込む彼女は、心なしか心配そうに眉根を寄せている。
「生徒会長? あの……ひょっとして何か悩んでたりとか、します?」
「なっ、何故そう思うっ!」
「いや、なんとなくですけど~」
心臓が再びドキリと音を立て、つい言葉に力が入ってしまった。あまねが慌てて笑顔を作るよりも早く、彼女がパッとあまねの両手を握る。
「ご飯かパンだけで悩むな! 困ったときは、うどんもある!」
「……何だそれは」
「 “迷った時こそ、ほかにいい方法がある”って意味だって、友達がこの前教えてくれて。それですっごく考えたら、らんらんの……えっと、ワタシのうどん、ちゃんと見つかったんです! だから生徒会長のうどんも、きっと見つかります!」
「……」
大きな目に力を込めて、根拠なくそう言い切る彼女の顔を、あまねは完全に虚を突かれてポカンと見つめた。あまりに突飛な言葉を聞いたせいか、さっきまでの苛立ちまでもが影をひそめる。だがそのお陰で、頭は冷静になったらしい。
(ご飯かパンか――これまで通りレシピッピを捕まえることで成果を上げるか、それともプリキュアを倒すことで成果をあげるか。確かに私は、それで悩んでいた……)
あまねは口元だけで小さく微笑むと、彼女の両手を丁寧に自分の手から外した。そしていつもの毅然とした態度で、真っ直ぐに彼女を見つめる。
「ご飯かパンか、なぜ悩む必要がある?」
「ほへ?」
「ご飯もパンもうどんも、迷うことなく全てを手にすればいいではないか」
今度は彼女がポカンとしてあまねを見つめる。その顔に、あまねはようやくいつもの余裕の笑みを返した。
「だが、確かに良いヒントをもらった。感謝するぞ」
それだけ言って、あまねは今度こそくるりと踵を返し、足早にその場を離れる。
(そうだ……何を迷うことがある。もう主義に反するなどと言っている場合ではない。手段を選ばずレシピッピを捕らえる。そのためには、邪魔なプリキュアも始末する。任務のためなら何だってする! そして一日でも早く、一体でも多くのレシピッピを、ゴーダッツ様の元へ……!)
校舎を出ると、カッと強い日差しが照りつけてきた。ふと、さっきの彼女の熱い眼差しが蘇ってきて、その熱が胸の中にまで伝わってくるような気がして――途端にズキリと頭が痛む。あまねは一瞬顔をしかめてから、熱と痛みの両方を追い出すように、ブンと乱暴に頭を振った。
(ラーメン娘……いや、キュアヤムヤム。やはり私はお前のお陰で、成果を上げることが出来そうだな)
無理に口の端を上げて、不敵な笑みを形作る。そしてあまねは、今度こそ任務を成し遂げるため、人知れずアジトに向かって走り出した。
~終~
最終更新:2022年05月04日 11:57