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また明日!/緣文




 2月。白い息を吐き出しながらラブとせつなはクローバータウンストリートを歩き回っていた。
「お嬢ちゃんもう帰っちゃうの? そりゃ寂しくなるわねぇ」
「ええ……でも、必ずここに帰って来ます」
 お世話になった商店街の一軒一軒を回ってはそんな会話を交わす。せつながこの町に戻ってきて早二ヶ月。名残惜しいが、せつなは明日の美希の旅立ちを見送った後、ラビリンスに帰る約束をしていた。
「でもほんとに寂しくなっちゃうね……。明日、美希たんはパリに行っちゃうし、せつなも帰っちゃうし……」
 商店街をまわり終え、カオルちゃんの店に向かう途中でラブが呟いた。
 町もみんなに挨拶するたび、また別れが近づいているのだと実感させられる。一年前、この町から去ったときも辛かったが、今はそれ以上に辛い。
 この二ヶ月、楽しかった。突然家に“帰って”きても笑って受け入れてくれたお母さんとお父さん、それに学校の――いや、この町のみんな。もちろんラビリンスのみんなに早く会いたい気持ちはあるけど、それとはまた別。どちらも大事な私の帰る場所。
 私、すいぶん欲張りになったわね。
 二月の空は青く、澄んでいた。
 お別れは明日。だから今はせめて笑っていたい。
 だから悪戯っぽい笑顔で、悲しみを覆い隠してラブと向かい合った。こちらの別れ話に気をとられがちだが明日はラブの合格発表の日なのだ。
「そういえば明日はラブの合格発表の日ね」
 そう言うと、ラブの動きが一瞬止まった。どうやら本当に明日が自分の合格発表の日であることを忘れていたらしい。
「わーーん! もう、明日なんか来ないでいいよぉ!」
 寒空にラブの声が響く。先ほどの憂いを含んだ声ではない。
「もう、ラブったらそんなこと言わないの。せっかく頑張ったんだから信じて待ちましょ」
「でもぉ、みんなも頑張ってたし……」
 ラブが続けて心配を口にしては、せつなが励ます。そのうち話は昨日のテレビのことやご飯のこと、とりとめのない話へと変わっていく。
 そうして二人が歩いているとカオルちゃんのワゴン車が目に入った。ワゴン車の前には机と椅子が並べられており、そこでワゴンで買ったドーナツを食べることができるようになっている。その一席に見知った二人の姿が座っていた。
「あ! 美希たんにブッキー! 二人ともどうしてここに?」
 美希は旅支度、祈里は入学に備えての勉強で二人と顔を会わせるのは数日ぶりだ。夕方にラブの家で送別会をする約束をしていたが、嬉しい予想外だった。
「ここに来ればみんなに会えるって、美希ちゃんが」
「カオルちゃんに挨拶しに来たついでよ。ついで。たまたまここでブッキーと会って話していたらそんな話になっただけ」
「でも話の途中で、ラブとせつなも来ないかしらって呟いてたよ?」
「ブッキーもみんなと長くいたいって言ってたけど?」
「ははーん。さては美希たんとブッキー、寂しがっているなぁ」
 親指と人差し指をあごにあて、ラブが目を細めて笑う。
「あら、さっき寂しくなっちゃうって言ったのはだれかしら」
「そういうせつなも寂しそうに空を見上げてたもん」
「えっ⁉」
「せつなの考えていることはすぐ分かるよ。ね?」
 驚くせつなに、二人も頷いて笑う。
「せつな、寂しいのは我慢しなきゃって思ってたでしょ。ばればれよ」
「せつなちゃん。寂しいときは寂しいって言っていいんだよ!」
「みんなにはばれていたみたいね……ええ、私ももっとみんなと一緒にいたい」
 少し照れた顔でせつなが笑う。
 あれ、心が軽い。口に出したらからかしら。
「だったら、今日はめいいっぱい楽しむぞー!」
 そんな矢先。
「このままみんなと過ごす方が幸せじゃないのか」
 四人の頭上に拳ほどの大きさの黒い化け物が現れた。
「あれは……また魔フィストなの……⁉」
 せつなが叫ぶ。それは話せるようだがその問いには応えない。
 化け物は黒の塊からぼろをまとった人のような形に変わり、四人のもとへ近づく。
「今がずっと続けば幸せになれるとは思わないかね」
 黒いカードを四人に差し出した。
「これを手に取ればみんなずっと一緒だ。変わらない幸せを私がプレゼントしよう」
「そんなのいらない!」
 四人は立ち上がり、一歩下がる。
 みんなと一緒に居たい。でも、それよりもだれかに決められた幸せなんか要らない。それはここに立つ四人の決意だった。
「それは、残念だなっ!」
「みんな、危ない!」
 化け物が手に持っていたカードを投げつける。そして、辺りの机と椅子を吹き飛ばした。
 祈里の声で間一髪避けることができたが当たっていたら……とぞっとする。
「危ないじゃない!」
 相手が何者かは分からないが、幸い四人の手にはリンクルンが残っている。
「みんな、いくよ!」
 リンクルンを構え、四人は叫んだ。
「チェインジ! プリキュア・ビートアーップ!」
 ラブ、美希、祈里、せつな、それぞれが光に包まれ、瞬く間に伝説の戦士の姿へと変わっていく。
「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュキュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望のしるし! つみたてフレッシュキュアベリー!」
「イエローハートは祈りのしるし! とれたてフレッシュキュアパイン!」
「真っ赤なハートは幸せの証! 熟れたてフレッシュキュアパッション!」
「レッツ! プリキュア!」
 四人が変身を終え、化け物を止めるために飛び出した。
「お前達、幸せになりたくないのか!」
 化け物はカードを出し、迫り来るプリキュアに襲いかかる。無限にカードを出し攻撃してくるため、安直には近づけないがカードの動きは単純。避けることはたやすい。それにだんだん敵の早さにも慣れてきた。
「もちろん幸せになりたい。ううん、絶対幸せになるっ!」
 ピーチが攻撃をかわし、化け物にパンチを叩き込む。
「覚悟はこれっぽっちか?」
 化け物はまるできいてないというようにピーチの腕を掴み、大きく投げ飛ばす。
「ピーチ!」
 パッションがピーチを受け止め、代わりベリーとパインが化け物にキックしようとするが、腕で一薙され後方に戻される。さらに追い打ちをかけるように容赦ない攻撃が四人に襲いかかる。攻撃は直線で単純。だが、一撃の威力はその分大きい。空中で受け身をとったものの攻撃をかわしきれず、木にぶつかり地面に転がる。すぐに立ち上がることが出来ない。
「なぜ拒む! お前たちのために私は言っているんだ!」
「……私たちのため? 違う。あなたがやっているのは幸せの押し売りよ!」
 パッションは重い身体を起こし、叫んだ。
 かつて人々の幸せのために決まった幸せを押しつけた国があった。その国で私はかつてそれが“幸せ”だと信じていた。だからはっきりと分かる。違う。そうじゃない、と。
「私も幸せになりたい。でも、あなたのやり方じゃ、本当の幸せになれない。ここにいるみんなが教えてくれたわ」
「パッション……」
 ゆっくりとパッションは立ち上がる。本当の幸せは変化のなかでうまれると。
「だから私は立ち上がって自分の足で進むの!」
「ならば、この世界の絶望に飲み込まれるがいい!!」
 とどめだといわんばかりにカードが空一面に現れる。
「――っ!」
 この数、一人じゃかばいきれない。
「絶望には、希望(あたし)で対抗しないとね」
「ベリー……!」
「ほら、一人で頑張りすぎないの」
「みんながいれば幸せになれるって私、信じてる!」
「パイン……!」
「私たち四人で幸せクローバーだよ!」
「ピーチ!」
 四人が立ち、目の前の絶望に立ち向かう。
 そうだ、私にはみんながいる。
「ねえ――私の作戦に協力して欲しいの」
「これで、終わりだっ!!」
 宙に浮くカードが猛スピードでこちらに向かってくる。
「いくわよ!」
 刹那、四人の姿は消え、化け物の頭上に現れる。パッションのお願い、それはアカルンを使って回避、攻撃を仕掛けることだった。チャンスは敵がこちらの技を知らず、油断しているこの一度きり――。
「プリキュア! クアドラプルパンチ――!」
「ぐあああっ! よくも……! よくもおおおお――!」
「私たちは自分の手で幸せをつかみたい!!」
 不意を突かれた化け物は地面にめり込み、元の黒い塊へと形が変わった。
「これで終わったの……?」
 四人は近づいてまじまじと見つめるが動く様子はない。
「さっきの不気味さもないわね」
「本当に、何だったのかしら」
「黒い石みたい」
 何だったのかあれこれ考えるが思い当たる節はない。ただ、もしまた動き出したら大変である。
「あのー……ピーチはんにベリーはん、パインはんにパッションはん」
 おずおずと四人を呼ぶ声がした方を振り返るとタルトとシフォンがいた。
「ほんま、かんにん!!」
「かんにん!」
 タルトに続いてシフォンも謝るが、急すぎて理解が追いつかない。おそらく黒い塊についてのこと。
「どうしたのよ急に。急に謝られても何も分からないわよ」
「ちょっと、落ち着いて聞いてくれ。ほらまず息を吸って、吐いて……。どや、落ち着いたか?」
 四人はタルトに言われたとおり深呼吸をし、変身を解く。
「落ち着いたか? じゃないわよ。これのこと何か知ってるの?」
 美希が持っていた黒い塊を見せて尋ねた。
「そうや。それがさっきあんさんらの倒した敵や。つこうたら今のプリキュアにとって最適な化け物が出てくる。プリキュアのパワーアップ用にと渡されたんやけど、この化け物がえらい強くて危険なんや。それでしまっといてんけど……」
「けど?」
「なんでしまったか忘れてしもうて、投げてしもうたんや!」
「しもうた!」
 シフォンはタルトの真似をして笑っているが、隣のタルトは真剣に謝っていた。
「つまり、あたしたちはタルトのミスで危険な目に遭ったと……」
「そういうことや。こればっかりは、ほんまかんにん。わしのせいで危険な目に遭わせてもうた」
 深々と頭を下げるタルトだが、タルトを責める者はだれもいなかった。
「でも、それって魔フィストとかじゃないってことよね」
「よかったー。また魔フィストが現れたのかと思って心配しちゃった」
「ほら、タルト。今度は悪さしないようにちゃんと見張っていてね」
 美希が黒い塊をタルトに渡す。
「あんさんら、怒ってないんか……?」
「そりゃ、ちょーっと危険な目にはあったけど、あたし完璧だし」
「タルトちゃんのこと私、信じてる!」
「みんな幸せゲットしたんだもん。怒ってなんかないよ!」
「そうよ。それに、私この戦いで、みんなと心は繋がっているって思えたもの」
 そう、私は一人じゃない。だからしばらくみんなと会えなくても大丈夫。私、精一杯頑張るわ!

 その日の夜。ラブの家での送別会が終わった頃。
「「「「また明日!」」」」
 四人の声が四つ葉町に響き渡った。
最終更新:2022年05月09日 21:42