「POP UP!」/ゾンリー
「腹ペコった~」
そんな声が聞こえて、私――華満らんは愛車、出前五号のブレーキを掛けた。
(ゆいぴょん?)
おいしーなタウンの生命線とも呼ばれる商店街。その路地裏を覗くと、ゆいぴょんがなんとも空腹そうに歩いているではないか。
こうしちゃいられない。私はゆいぴょんの進路を予測し、出前五号を全速力で走らせた。
「ゆーいぴょん♪」
「らんちゃん!?」
予想通りの驚きっぷりに満足しつつ、疑問をぶつける。
「どうして制服なの? 今日日曜日だよー?」
「部活の助っ人頼まれてたんだー。今日はソフトボール部!」
スイングのジェスチャーと共にブラウンの制服が大きく揺れる。直後、ゆいぴょんのお腹が盛大に鳴り響いた。
「えへへ、いっぱい動いたから腹ペコっちゃった。らんちゃんは出前?」
「そーなのですっ。っとっとっと、そうだった」
私は出前五号のおかもち部分からラップのかかったお皿を取り出して、ゆいぴょんに渡した。
「ゴマ団子だ!」
「帰りに食べよーって持ってきてたんだー。一緒に食べよー」
手ごろなベンチを見つけてラップを外す。大きなゴマ団子を半分に割ると、ほくほくのこしあんが顔を出した。
「「いっただきまーす!」」
私もゆいぴょんも、勢いよく一口。外はパリパリ、中はもっちりの皮が上品な甘さの餡子を引き立てる。
「デリシャスマイル~!」
「はにゃ~頑張って作った甲斐があったよぉ」
「ゆいちゃんが作ったの!?」
「ん、そーだよ?」
「すごいすごい!」
素直に褒められて、照れる。
「レシピはそんなに難しくないよぉ」
「ホント? じゃあ今度私に教えてくれないかな?」
夕暮れの空にゆいぴょんの笑顔が眩しく映る。私は嬉しくなって、彼女の口についた胡麻を取って食べてみた。
「もちろんだよ! さ、じゃあウチ行こう~」
「うぇぇぇぇ今から?」
「ダメ?」
「ダメじゃない……けど」
「じゃあしゅっぱーつ! 乗った乗った」
出前五号のおかもち部分はなんと取り外し可能! 二人乗りできちゃうんだ。
「いよーし飛ばすよ出前五号!」
私はゆいぴょんを後ろに乗せて、お家へとペダルをこぎ始めた。胡麻の香りと汗のにおいを置き去って出前五号は進む。
おいしーなタウンの夕暮れ。漂ってくる夜ご飯の香りよりも、これから作るゴマ団子に私たちは胸躍らせるのでした。
最終更新:2022年05月10日 20:45