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Juvenile(2)




 ここはおいしーなタウンだし、何か食べていこう、と言ってみたが、エルはすっかり意気消沈していた。亜久里が拒絶されたことが相当にショックだったらしい。そのまま帰りの電車に乗った。あゆみは何度か、エルの気を紛らわそうと話しかけてみたが、元気のない返事が返ってくるだけだった。亜久里とエルは、黙って手をつないでいた。
 大貝町のエルの自宅まで送り届ける。早すぎる帰宅に母親は驚いていたが、あゆみが「システムエラーで入れなかった」と説明すると、「まったくデジタルはねぇ」と、友人と同じことを言った。
 次は、亜久里を送り届けて、と思っていると、亜久里が口を開いた。
「あゆみ、グレルとエンエンはどうしていますか?」
「家で留守番しているけど」
 友人たちと遊びに出かけるときは連れて行くわけにはいかない。それはいつもの約束ではあるのだが、今回は説得に手間がかかった。ふたりとも「お子様ランチ」には大いに興味があるようだった。
「一緒にドリーミアへ行きませんか?」
「え?」
「確認したいことがあるのです」
 グレルとエンエンのことを聞いたのはなぜか。プリキュアの力が必要になるかもしれない、と考えているからだ。何が、と言われれば困るが、自分も胸騒ぎを感じたのは事実だった。
「実は今日、クローバータワーでイベントがあって、みんなそちらに行っているのです。私はエルちゃんとの約束があって行けなかったのですが」
「ひょっとしてアイちゃんも…」
「はい」
 亜久里の表情が厳しい。つまり、亜久里は今、キュアエースになれない。
「お願いできますか」
「うん」

 母親は仕事で家にいないので、どうしたの、と聞かれることもなかった。あゆみは、グレルとエンエンが飛び込んだトートバッグを肩にかけてすぐに家を出た。
「久しぶりですわね、グレル、エンエン」
「元気だったか?」
「おかげさまで。フーちゃんもそこにいますわね」
〈フーちゃんはいつもあゆみと一緒〉
 あゆみの襟のエコーキュアデコルが輝いた。
「何があったの?」
 グレルは、どうやらお子様ランチが食べられるわけではなさそうだ、ということに気づいてがっかりしていたが、エンエンは心配そうな声だった。
 電車の中、ほかの客から離れたシートに座ると、亜久里は小さな声で言った。
「実は、ありすが以前から、おいしーなタウンが気になる、と言っていたのです」
「ありすちゃんが?」
「新しい仲間がいる可能性を指摘していました」
「仲間――って」
 その単語を声に出して言うわけにいかず、あゆみは口だけで「プリキュア?」と言った。
「ドリーミアの開園はいいチャンスでした。私はその偵察もかねて向かったのですが…的確過ぎました」
「何が?」
「私が子どもではない、という判定をしたことです」
 もう一度、亜久里を見る。
 円亜久里は、トランプ王国の王女、アンの魂だ。この世界の人間ではない、そして、一度は大人だったことがある。
「レントゲンを撮ったところで、それがわかるわけではありません。
 ですが、この世界のものではない技術、あるいは魔法、魔術のようなものがドリーミアを成立させているとしたら、私という異質な存在を検知――」
 あゆみは亜久里の手を握った。強く。
「ありがとうございます。心配してくれたのですね」
「だって」
「あゆみは大人ですね」
「そんなことない」
「いえ。せっかく友達と一緒に遊びに来たのに、私やエルちゃんのことを心配して一緒にいてくれる。立派なレディです」
「…」
「あなたが友達についてどういう経験をしたかは私も聞いています。その約束をくつがえすのが大変なことだ、ということもわかります」
「私は」
「俺たちもついてるだろ」
「ちょっと、グレル」
 バッグからぬいぐるみがこぼれた、というふりをしてグレルとエンエンが亜久里の膝に乗った。あゆみは慌てて周囲を見回したが、誰かが気付いた様子はなかった。走っている電車の中のことで、ぬいぐるみがしゃべっているところを聞かれてもいないようだった。
「元気出してよ、亜久里ちゃん」
〈フーちゃんも亜久里の友達〉
「ありがとうございます」
「アイちゃんがいなくて寂しいだろうけど、今日は俺が相手してやるからよ」
 いい加減にしなさい、とあゆみはグレルをコツンとやった。亜久里が笑った。



最終更新:2023年01月22日 21:13