『スーパーヒーロー美希』/ギルガメッシュ
『『『ええええぇぇええ!!! ヒーロー番組に出るって!!!』』』
アタシは、いつもの公園でカオルちゃんのドーナツを食べながら、ある事をみんなに話していた。すると途端にみんなは大きな言葉で驚いたのだ。
「ちょっと、みんな声が大きいわよ」
「いや、だってすごいよ美希タン、ヒーロー役でしょ!! すごいすごい」
「美希ちゃん、すごいわ!!」
「流石やで、ベリーはん!! なぁ、シフォン」
「プリプー!!!」
「ちょ、ちょっとただの単役よ」
アタシの周りにいるのはラブ、ブッキー、せつな、そしてタルトとシフォンだ。せつなは怪訝そうな様子だが、他のみんなは大はしゃぎしている。
アタシはついこの間、知り合いの、ある番組プロデューサーに『ヒーロー番組』に出てみないかと誘われたのだ。
しかし、アタシはあまり乗り気ではなかった。
「だってアタシ、撮影は慣れてるけど演技はそこまでないし、そもそも『ヒーロー像』ってのがあまりわからないのよね」
アタシはこの事についてかなり悩んでいた。だから今回、みんなに集まってもらって相談を持ち掛けたのである。
アタシが重い空気を出している中、タルトは持っていたドーナツをほおばってから再びアタシに話しかけて来る。
「何言ってるんや、ベリーはん。あんさんはすでにプリキュアとして活躍するヒーローなんやで。どう困るちゅうんや」
「そもそも人前では変身なんて出来ないでしょ? しかも役柄としてはそのままの姿らしいの。ありのままのアタシにヒーローのイメージってある?」
「そうかなぁ、あたしは美希タンはカッコイイと思うけどなぁ」
「そうよ、美希ちゃんなら問題ないわよ。私もかっこいいと思うし」
アタシの弱音に、ラブとブッキーは励ましてくれる。とはいえやはりなかなか気持ちのもやもやが晴れないのも事実。
「うぅむ、確かにベリーはんはクールビューティーな一面があるからなぁ。プリキュアとしての姿やったらまさしくヒーローってのはぴったりくるんやけどなぁ」
「そうなのよねぇ……」
アタシはそう言って大きくため息を吐いた。するとその直後に、いままで会話に入って来なかったせつなが、アタシに質問をしてきた。
「ねぇ、美希。話の腰を折って申し訳ないけど、『ヒーロー番組』ってなんなの?」
「え? あぁ、せつなは知らないのね。そっか、そっか」
あまりの根本的過ぎる質問にアタシは呆気を取られてしまう。せつなはラビリンス出身だから、その手の娯楽には疎い面があるのだ。
「ヒーロー番組ってのはね……」
アタシが説明しようとした瞬間、
「パッションはん、ヒーロー番組ってのはそら、ロマンあふれる素晴らしいもんなんや!!」
「え!?」
タルトが割り込むように、説明してきたのだ。
「基本的には、主人公は熱血系の熱い性格をしててな、世界征服をたくらむ悪の組織に猛然と立ち向かい、弱きを助けるまさに『憧れの存在』なんやで!! そんでもって……」
そしてタルトはさらに熱中して、せつなに熱弁を始める。ただ、せつなも面白そうに聞いている。
「タルトったら……」
その姿にアタシはちょっと呆れてしまった。
「まぁ、美希タンそんなに悩むことじゃないと思うよ。あたしはそのままの美希タンでもいいと思う」
「うんうん、期待してるね、美希ちゃん!!」
「う、うん、ありがとう」
アタシはそう言って励ましてくれたラブとブッキーに口ごもりながらお礼を述べた。そしてしばらくしてその場を解散したのであった。
「さらにはライバルの存在も欠かせへん。主人公とはまた違うベクトルで、敵を倒し、主人公と時には争い、時には協力し……」
ただタルトの熱弁は続き、流石のせつなも辟易していた。
☆☆☆☆☆
「はぁ……、なかなか感覚がつかめないわねぇ」
みんなに相談してから数日後、アタシはまだ『ヒーロー像』について悩んでいた。セリフや演技に関してもある程度リハーサルを行い、流れは掴めた。
「全然、完璧じゃない……」
しかし、プリキュアとしてではなく、ありのままの自分自身をヒーローに当てはめるのはやはりうまくはまらない。
アタシは悩み、そして俯きながら、お昼の『クローバーストリート』をとぼとぼと歩く。
「美希?」
「え?」
「どうしたの? そんなにしょぼくれて」
「せ、せつな」
すると偶然、せつなと出会ったのだ。
「き、奇遇ね。せつなはここで何してるの?」
「お買い物よ。今日はラブのお母さんが忙しいから、ラブが家の家事で、あたしが買い出しの分担をしてたの」
「そうだったの……」
「美希はどうしてここに? やっぱり前に言ってた事で悩んでる?」
「え!?」
せつなにそう言われて、思わず心臓がドキリとした。
「やっぱり……分かっちゃう?」
「そりゃそうよ。美希を見かけるたびに、ずっと俯いて暗かったもの。みんなの前では出してなかったけど」
「あはは……」
せつなはそう言う所が鋭い。少しは隠していたつもりだったけど、やっぱり悩んでるとどこかに出てしまうのだろう。
「ねぇ、よかったら少しだけお茶しないかしら?」
「え!?」
アタシが苦笑いで返している中、せつながそんな提案をしてきたのだ。ちょっとそれに驚いて声が漏れてしまう。
「みんなには話しにくいってこともあるじゃない? 時間は取らせないわ」
「あ、う、うん。わかったわ」
アタシはせつなに言われるがまま、近くの喫茶店に入るのであった。
☆☆☆☆☆
「あはは、やっぱりあの後もタルトの話が続いてたんだ」
「そうなの、疲れちゃった……」
数分後、アタシ達は頼んだお茶を飲みながら、みんなで集まった日の話をしていた。あの日、別れ際でずっとタルトがせつなにヒーロー番組の事を語っていたが、次の日以降も度々、勧められていたらしい。
「全くタルト……。何してるのよ」
「いいのよ、美希。実際に映像も見てすごく楽しかったし、ちょっとはまっちゃったかもしれないわ」
「だったらいいけどね」
せつなはそう言ってくすくすと笑いながら話してくれる。それを見てなんだか自分もほっこりとしてしまう。
「色々と作品は見たけど、基本的には悪の組織が出てきて、主人公が戦って、ライバルと共闘して、そして町のみんなを救う。そんなストーリーだったわ。なんだかいまのあたしたちみたいって共感もしちゃった」
「確かに、いまのアタシ達とまんま一緒ね」
「そしてその映像を見ながら、ヒーローって何だろうって考えるようになったわ。そしてこの世界に来てからの自分の出来事と重ねてみた」
「せつな……」
「この世界に来て、罪を犯して、ラブや美希、ブッキーみんなに救われて、そしてプリキュアになって、学校に行ってダンスして、色々と見えてきたの」
そう言ってせつなはカップを手に取り、注がれたお茶を飲んだ。そしてまたカップを戻した。
「ここで美希に質問。ヒーローとは何でしょうか?」
「ふえ!?」
しかし急にせつなからの質問が飛んできて、アタシは変な声が出てしまう。
「そ、それは、そうね……」
アタシは言葉に詰まってしまい、良い答えも思いつかなかったが、とりあえず答えることにする。
「みんなを守る、正義感の強い人物……かしら?」
当たり障りのない答えだ。それを聞くとせつなはふふっと微笑んだ。
「あたしも初めはそう思ったけどね」
「やっぱり不正解だった?」
「別に美希の答えが間違っているとは思わないわ。ただそれもヒーローのごく一部なだけ」
「ごく一部?」
「ヒーローっていうのは性格とか信念とかだけじゃないと思うの。ヒーローって言うのは『憧れ』の存在だと思うのよ」
「憧れの存在……」
「そもそもヒーローって自分で名乗るものじゃないなって思ったの。みんながその人をヒーローと呼ぶから自然とヒーローになっていくんだなって」
「な、なるほど確かに……」
言われてみればそうかもしれないと。ヒーローと言われるとやっぱり、アタシがさっき答えた『正義感の強い人物』ってのが真っ先にイメージとして来てしまうからだ。でもヒーローは別に自称するものでもない。
「だからわたしは思うんだけど、美希はもうヒーローだと思うわよ」
「え? そ、そうなの?」
しかし、次のせつなの結論にワタシは困惑してしまう。
「もちろん、ラブもブッキーもそしてあたしも友達として美希のことは大好きだし、憧れてる。けど美希はそれ以上に、既にモデルとして多くの人たちの憧れの対象になってると思うわ。オシャレしたい女の子からしたら、もうヒーローそのものだと思う。だから番組の出演も決まったのよ」
「せ、せつな……」
アタシはそれを聞いて、なんだか心が晴れていく気がした。
「ちょっとくさかったかしら。ヒーロー番組を見すぎて色々と移っちゃったかも」
「ううん、おかげで吹っ切れた」
そう言ってアタシはその場から立ち上がった。
「アタシは自分自身への自信が無くなっていたのかも。でもこれで頑張れるわ。ありがとうせつな」
「どういたしまして」
アタシはせつなとそう言葉を交わして、喫茶店を後にするのであった。
☆☆☆☆☆
「いやぁ!! 最高やったで、ベリーはん!! あの主人公を助けて、自分から特攻していくシーンは。シフォンもそう思うやろ?」
「プリプ~~!! 美希、かっこいいぃぃ」
「うんうん、あのアクションも流石だったわ」
「美希タンの出番はあれだけで終わりなの? もっと見たかった」
「もうこりごり、おかげで筋肉痛になっちゃった」
後日、アタシは撮影した映像を特別に分けてもらい、ラブの部屋で視聴会をしていた。でも自分で自分の映像を見るのは小恥ずかしいものだ。
「しっかし、ベリーはんあれだけ心配してたのに、嘘のようにノリノリでやってるやんか!」
「そうよね、美希ちゃん。何があったの?」
ただ、演技は自信も持って演じ切ることが出来た。みんなも前の悩んでいた時の顔つきと映像とのギャップで驚いている。当然ながら疑問だろう。
「ふふ、さあてね」
だけどアタシはそれには答えず、せつなの顔を見た。するとせつなも少しおかしそうに笑っていた。
最終更新:2023年04月16日 13:25