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その後のキュアパンプキン/一六◆6/pMjwqUTk




「おい、紋田っ! ぼやぼやしてねえで、ちゃんと仕事しろ。また渋滞するぞ!」
「は、はいぃっ!」
 紋田ことバッタモンダーが、現場監督の怒鳴り声に跳び上がる。どうやら今の大あくびを、バッチリ見られたらしい。
 昨夜は昼間のことを思い出して、悔しさのあまりなかなか寝付けず、奇声を上げては隣の住人に薄い壁をどつかれて――お陰ですっかり寝不足のまま、バイトの現場にやってきたのだ。
 ハロウィンとかいうこの世界のお祭りがあった昨日。紋田もとっておきの作戦を実行するため、張り切って参加した。プリキュアの仲間・キュアパンプキンに成りすまし、ハロウィンを滅茶苦茶にしてプリキュアの評判を地に落とすという、実に知的な作戦を。それなのに……。

(ええい、プリキュアめ。あいつらのせいで、俺はまた……)

 また昨日のことを思い出して、紋田が誘導棒をギュッと握り締めた時、子供たちの無邪気な笑い声が聞こえて来た。
 何気なくそちらを見てギョッとする。やって来たのは保育園からの帰りらしい三組の母子だったのだが、その幼児たちの顔に紋田は見覚えがあった。

(あれは確か、俺にお菓子を渡してきたガキども……って、やっべぇ! 正体がバレる!?)

 昨日はカボチャの被り物をしていて素顔を晒してはいなかったのに、それをすっかり忘れて慌てる紋田。その耳に、子供たちの声が届く。
「帰ったら、あげは先生ん家のおばあちゃんにもらったお菓子、食べるんだ~」
「あげは先生ん家のおばあちゃん、ホンモノの魔女なんだよ」
「そう! あと、プリキュアの仲間なの」

(へっ! 魔女なわけねーだろ。プリキュアの正体も知らないヤツらが、勝手なことを……)

「プリキュアと言えば、昨日は偽物が現れたのよね。キュアパンプキン、だっけ?」
 密かに悪態をついた紋田が、今度は一人の母親の声にビクリとする。さりげなく――いや、かなり露骨に近寄って聞き耳を立てると、母親たちの会話が耳に入ってきた。
「そうそう。突然現れて、順番も守らずに子供たちのお菓子を横取りして」
「みんなのお菓子を独り占めにして、やりたい放題」
「そのうえ怪物を暴れさせるなんて、ひどいわよね」

(だぁかぁらぁぁ、キョーボーグを出したのは俺じゃないっつーの!)

 心の中で大声で反論するが、それを口に出すことはできない。いや、たとえ反論しても誰にも聞いてもらえない――。知らず知らずのうちに、誘導棒が折れそうなほどギュッと力を込めた、その時。
「ううん。怪物を出したのは、キュアパンプキンじゃないんだよ」
 まるで彼を代弁するかのような台詞が聞こえて、紋田は思わず食いつかんばかりの勢いで声の方を見た。

 三人の幼児が、母親たちを見上げて揃って首を横に振っている。
「怪物は、キュアパンプキンが居るところとは、全然違うところから出て来たんだって」
「カボチャ頭の怪物だったけど、キュアパンプキンの仲間じゃないんだって」

(そーだよそーだよ! ガキの癖に……いやいや、お嬢ちゃんもお坊っちゃんも、お利口さんじゃないか!)

 ニンマリと頬を緩めた紋田が、さらに子供たちの方ににじり寄る。この少し先には横断歩道があって、そこを渡れば商店街だ。彼らはおそらくその道を行くのだろう。

(こ~んな賢い子供たちに、横断歩道で恐い思いはさせられないな。よーし、この正義の味方キュアパンプキンが、車なんかぜ~んぶ止めてあ・げ・る!)

 紋田が張り切って誘導棒を真横に構え、車の流れを遮断する。でも幼児の歩みは彼が思ったほど速くはなくて――。
「こぉら、紋田ぁ! いつまで車止めてんだよ。バランスを考えろ、バランスを!」
「は、はいぃぃぃ~っ!」
 現場監督に再び怒鳴られ、紋田は渋々車を誘導する。その時また母親の声と、それに続く子供たちの声が聞こえた。

「それで、怪物の話なんか誰に聞いたの?」
「あげは先生!」
「あげは先生に聞いた!」

(げっ! あの四人目のプリキュアかよ)

「あげは先生がね、キュアパンプキンもきっと、プリキュアの仲間になりたかったんだね、って」

 顔をしかめながらも聞き耳を立てていた紋田の顔が、その一言でボン!と一瞬で茹で上がった。

(な……な、何言ってんだ、んなことあるかよ! バ、バ、バ、バーカ、バーカ、バーカ!)

 真っ赤な顔で、誘導棒をブンブンと遮二無二振り回す紋田。その背に現場監督の三度目の怒声が飛ぶ。
「こぉらぁぁぁ、紋田ぁっ! たまには止めろ! バランス考えろって言ってんだろうがぁっ!」
「ひえぇぇ~! す、すびばしぇ~ん!」
 ようやく誘導棒を止めた紋田の少し先で、三組の親子が仲良く横断歩道を渡る。その姿をまだ少し上気した顔で見つめてから、紋田は少し慌てたようにフン、とそっぽを向いた。
 工事現場の上には雲一つ無い秋の空が広がって、そんな賑やかな街の光景を、今日も穏やかに見下ろしていた。

~おわり~
最終更新:2023年11月01日 23:49