『ワンダフルな桃園家』/ギルガメッシュ
「いやぁ、今日も一日楽しかったねぇ」
「ふふ、そうね……」
ある日の午後。あたし、桃園ラブはせつなと一緒に学校から帰ってきていた。
「それにしてもせつなって本当に何でも出来るよね。スポーツもそうだし勉強もそうだし。あたしはダメダメだよぉ」
「そんな悲観しないの。あたしでも知らない事たくさんあるし、まだまだこれからよ」
そう、せつなは本当にすごいのだ。転校してきたばかりだけど、学校の授業はすらすら問題が解けるし、体育の授業でも男子も圧倒してしまう程だ。
「でもでもやっぱり、あたしは鼻が高いし、ふふん」
「ふふ、なんでラブがうれしそうなのよ」
今や家族の一員となったせつな。そんな家族の活躍をうれしがるのは当然だろう。思わず顔がにやけてしまう。
そしてせつなと楽しい会話をしているとあっという間に家に到着した。
「お母さん、たっだいま~~!!」
そのまま家の扉を開ける。
「わんわんわん!!!!」
「どわあああ~~~!!!!」
「ラ、ラブ!?」
なんとその時、突然あたしの前に何かが覆いかぶさったのだ。
これは一体なんなのだろうか。すごく重いけど、ふわふわしていて、それでいて
「ラブ、ごめんごめん!! こら急に飛び掛かったらダメでしょう?」
そしてすぐさまお母さんの声が聞こえて来る。それと同時にあたしの上に乗ってきた『何か』はすぐに離れていった。
「いててて、一体何が起こったの?」
思わず尻もちをついてしまったけど、なんとか持ち直して視線の先を見てみる。するとお母さんの側に立つ大きな犬がいたのだ。
「うええええ~~~~!! い、犬ぅ!?」
「こ、この子どうしたんですか?」
「実はね、この子は知り合いから預かったのよ。旅行に行くから少しだけ預かって欲しいって」
「へぇ、そうなんだ。おっきいけどかわいいねぇ。すっごく真っ白でふわふわしてる」
「でもとってもやんちゃなのよ。たぶん外に行きたくてラブが扉を開けちゃったから、その拍子に飛びついたのかも」
「確かにすごく元気かもしれないわ。ラブへのあの絡み方はすごかったし」
お母さんが言うように確かに見るからに元気満点な子だ。やっぱり犬ってかわいいなって思う。だけどそれはそれとして犬を見たらやっってみたいことがあるんだよね。
「お母さん、この子の名前はなんて言うの?」
「ええぇとマフィンちゃんだったかしら」
「マフィンちゃんかぁ。マフィン、お手!!」
そう言ってあたしは片手をマフィンに差し伸べた。
「わんわんわん!!!!!」
「どわああ~~~~!!!」
「ラ、ラブぅ!!!?」
しかしその瞬間、またマフィンに抱き着かれて下敷きになってしまう。
「わんわんわん!!!」
「うぅ、重いし、元気すぎるよぉ……」
「あたしも何度も抱き着かれちゃってね。人に抱き着くのが好きみたいなんだけど、大きいから大変でね」
「うぅん、元気すぎるのも玉に瑕だわ。この子を預かるのは相当大変かもしれない」
「わんわんわん!!!」
「うぅ、マフィンやめてぇええ~~」
変わらずあたしの上に乗り続けて楽しそうにはしゃぐマフィン。悪い気はしないけどずっと乗られていて重くて苦しい。
「はいはい、マフィンそれくらいにしましょうね」
だけどお母さんがマフィンを持ち上げたことでなんとか解放された。
「けど、この子人懐っこいのは分かったけど家の中でいるのは大変だよ。どうしよっか」
「そうよねぇ」
「まぁその友達も今日の夕方には帰って来るみたいだし、少しの辛抱よ。ただそこでお願いなんだけどラブ達はこの子とお散歩に行って来てくれない?」
「お散歩? お母さんはこれから用事あるの?」
「お仕事が入っちゃってね。あと買い出しにも行かないといけないし」
「それなら仕方ないね。お母さんのご飯今から楽しみだぁ、ねぇせつな」
「うん、とっても楽しみ」
「もちろんだけど、ちゃんとピーマンとにんじんは買ってくるからね」
「「えぇええええ~~~~」」
お母さんのご飯は美味しいけど、ピーマンとにんじんと聞いてあたしとせつなは思い切りげんなりしてしまった。
「えええじゃないの。じゃあこの子にリード付けるからちょっと待っててね」
お母さんは両手を腰に当ててあたしたちに少し注意すると、マフィンのリードを付け始めた。そしてリードの先をあたしに渡してくれた。
「それじゃ、今から行ってくるから。急にだけどお願いね」
「うん、分かった!!」
そう言ってお母さんは仕事場に向かっていった。
「頼まれちゃったけど、ラブどこに行く?」
「そういえばさっきブッキーと美希たんがダンスの練習するからいつもの場所にいるって言ってたっけ?」
「ブッキーがいるならそこに行きましょ。色々とアドバイスくれるかもしれないし」
「じゃあ決まりだね!! よし行こう!! マフィン行くよ!!」
そうマフィンに語り掛けた。すると
「わわん、わんわん!!!!」
「うわあああああ!!!!!」
「ラ、ラブぅうう!!!!」
マフィンは突然猛ダッシュし始めて、あたしは思い切り引っ張られて行ってしまった。
「あははは、ラブちゃんお疲れ様。マフィンちゃんっていうんだね。よしよし」
「わわん!!」
「ブ、ブッキー疲れたよぉ」
「あ、あたしも限界かも」
「ラブとせつなも二人とも大変だったみたいね」
しばらく経った後、あたしとせつなはなんとかブッキーと美希たんがいるいつもの公園にたどり着いた。途中でせつなともバトンタッチしたが、せつなに対しても抱き着いて、猛ダッシュして本当に大変だった。
あたしもせつなももう汗だくでくたくたになっていた。
「ブッキーはすごいね。この子の抱き着きはとんでもないのに、それを簡単に受け止めて」
「あたしも何度乗られちゃったか。はぁ疲れたわ」
「まぁ慣れてるしね。多分この子はちょっと戸惑ってたんじゃないかな? 知らない人がいっぱいだったからだと思う。ねぇマフィン」
「わんわん!!!」
「え、戸惑ってたの? マフィンは会った時からすっごく楽しそうだったよ?」
あたしはブッキーのいう事に疲れてへとへとながら少し不思議に思った。
「知らない人がたくさんいたら委縮しちゃう子ももちろんいるよ。けど逆にいつも以上に自分をアピールして動揺してるのを隠しちゃう子もいるの。この子はそのタイプだと思うな」
「そう言われるとあたしも似てるかも。撮影とかも知らないスタッフさんがいたらいつも以上にやりすぎちゃって終わってから反省しちゃうし」
「そういう事。そう言う面では犬も人同じことが多いんだ。だけどあたしもまだまだ知識不足だから頑張らないとね」
「わわん!!!」
「ちょ、くすぐったいよ!!」
マフィンはそう言ってブッキーの顔をペロペロと舐めていた。
「はえぇ、ブッキーはすごいよ。動物の気持ちもすぐ分かっちゃんだから。あたしももっと出来ることがあったらなぁ」
あたしはその光景を見ながらそうこぼしていた。
「ラブ、また言ってる。そういうの良くないよ?」
あたしが無意識に言った事を気にしたのか、せつなはあたしにそう言ってきた。
「なになに何の話?」
そうすると美希たんもその話に気になってあたしたちに声をかけてきた。
「実はね学校帰りにあたしと比べて、ラブ自身がダメダメよぉって言ってたのよ」
「だってせつなは本当にすごいんだもん。でもってブッキーは動物病院のお医者さんの卵、美希たんは読モだし。すごくうれしいけど、あたしも何か他の誰にもないすっごく自慢できることあったらなぁと思っちゃって……」
あたしはちょっとガクンと肩を落としながらそう愚痴みたいにこぼしていた。すると。
「あはははははは!!!」
「ふふふふふふふ!!!」
「ちょ、二人ともなんで笑うのさ!!」
いきなり二人は笑い出してしまったのだ。なんのことだがわけがわからない。
「ラブ、二人が笑っちゃうのも当然よ!」
「そうそう! これはラブにしか出来ないしね」
「ふふ、それにね。この子もラブちゃんといて本心からも楽しそうにしてたし、やっぱりラブちゃんのそう言う所には敵わないかも」
「え? えぇ?」
三人がわけのわからないまま話を続けて、あたしは余計に混乱してしまう。本当にどういう事なんだろ。
「あ、ラブのお母さんからメールだわ。マフィンちゃんの飼い主さんが家に戻って来たって」
「え、そうなの?」
「じゃ二人ともあたしたちはそろそろ行くね。マフィン今度は引っ張らないでね!!」
そう言って連絡をもらったせつなはそのままマフィンを連れて行ってしまう。
「ねぇ、ちょっとさっきのなんなのさぁ、せつなぁ!! ブッキーも美希たんもさぁ」
「ラブ、せつなが行っちゃうわよ」
「ふふふ、ラブちゃん行かなくちゃ」
「ラブぅ!! 置いて行っちゃうよぉ~~!!」
「もぉおお、三人とも教えてよぉおお!!!!」
何が何やらわからないまま、あたしはせつなを追いかけることに。
こうしてあたしたちのなんでもない一日は終わるのであった。
最終更新:2024年04月20日 18:36