除夜の遠吠え/一六◆6/pMjwqUTk
<1>
いろはのベッドで、こむぎがむくりと起き上がった。
「声がするワン」
「え?」
「低い声ワン。遠くから響いてくるワン」
寝る支度をしていたいろはが耳を澄ませ、ああ、と頷いた。
「あれは鐘の音。大晦日に鳴らす、除夜の鐘だよ」
「鐘の音? でも何だか唸ってるみたいだワン」
「余韻のせいかな」
<2>
いろはがベッドの上に座り、こむぎと向かい合う。
「除夜の鐘はね、新しい年がワンダフルになりますように、って祈りを込めて鳴らすんだよ」
「いのりって何ワン?」
その問いに、いろはが少し真剣な顔になった。
「祈りはね。そうなるように頑張ります、って神様と自分に約束すること」
「約束……」
<3>
こむぎはベッドから飛び降りると玄関に向かった。人間の姿になって鍵を開け、外に飛び出す。
「こむぎ、どうしたの!」
いろはの慌てた声が聞こえたが、こむぎの足は止まらない。
遠くで響く鐘の音は、やっぱり少し唸り声に似ている。
(でもあの声、少しもガルガルしてない。あんな声、どこかで……)
<4>
遠くから胸に響くような、優しい響きは……。
(そうだ。こむぎがガオガオーンになった時、聞こえた遠吠え!)
あの声を聞いて、こむぎは何とか自我を取り戻したのだ。
(あの声も、絶対助けるよ、って約束の声だったの? だったらこむぎも!)
こむぎは犬の姿に戻り、冷たい空気を一杯に吸い込んだ。
<5>
「みんなみんな、一緒に遊ぼ! わお~ん!!」
「こむぎ! やっとみつけた」
「いろは! こむぎも祈り、込めたワン」
白い息を吐きながら駆けて来たいろはが、それを聞いて優しく微笑む。
「こむぎ、偉い。今年も一緒に頑張ろうね」
「ワン!」
凍えそうな深夜。鐘の音は、二人を優しく見送った。
最終更新:2025年01月05日 22:14