『キミとキラッキランラン♪春のSS祭り2025~開幕~』/夏希◆JIBDaXNP.g
「来・た・よ♪ アニマルタウンに~♪ もうすぐ逢えるね、先輩♪」
「ワン! ワン!」
「みんな♪」
「ワン! ワン!」
伸びやかな歌声と犬の声が、春風に乗って流れていく。
桜の蕾もほころび始めた、穏やかな土曜日。咲良うたとその飼い犬のきゅーたろう、そして蒼風ななとプリルンは、隣町のアニマルタウンに向かって歩いていた。目的地は『フレンドリィ動物病院&サロン』。紫雨こころとは、現地で合流する予定だ。
「ごきげんだね、うたちゃん。それに、きゅーちゃんも」
「そりゃあ、わたしたち以外にもプリキュアがいて、しかもみんなでお話会するなんて! こんなキラッキランラ~ンなイベント、心が弾まないワケないよぉ」
「プリルンも楽しみプリ!」
招待状には、ぜひペットも連れてきてください、と書かれていた。会場は動物病院兼ペットサロンで、ペットたちをドッグランで自由に遊ばせることもできるらしい。
「ほのかさんっていう先輩は“ちゅうたろう”って犬を連れてくるんだって! うちの“きゅーたろう”と名前がそっくりだし、なんとなんと! 同じ犬種なんだよっ」
招待状には、何人かのプリキュアとそのペットの写真も載っていた。中でも雪城ほのかの飼い犬の忠太郎は、うたの飼い犬のきゅーたろうと同じゴールデン・レトリバーだ。主催者の一人である犬飼いろはも“こむぎ”という名前のパピヨンを飼っているらしい。
「んふふ~、きっと過去一、賑やかなお話会になるねっ」
「まあ……わたしたちは初参加だけどね」
やがて、招待状に目印と書かれていた“鏡石”が見えてきた。ということは、ここはもうアニマルタウン。周りを見ると、確かにペット連れの人がとても多い。その名の通り、この町は動物との触れ合いを大切にしているのだろう。
「わたし、生まれた時からはなみちタウンに住んでるけど、こんな町が隣にあるなんて知らなかったな~」
「隣にある……のよね? わたしも聞いたことなかったけど」
「でも、ホントに歩いてすぐだったしね。んー、不思議だな~」
二人ともアニマルタウンのことをよく知らない。いや、隣町に“在る”ことは知っているけど、招待状をもらう以前の、この町に関する記憶がすっぽりと抜け落ちているのだ。
「まあ、いっか。着いたよ!」
「いいんだ……」
会場の『フレンドリィ動物病院&サロン』は、病院とサロンと自宅が一緒になった大きな建物で、敷地も想像以上に広かった。これなら総数80人超という人数も受け入れ可能……いや、やっぱりちょっと厳しいかもしれない。ななは若干の不安を覚えたが、うたはあっけらかんとチャイムを鳴らした。
「いらっしゃい! 待ってたワン!」
「ちょっとこむぎ、いきなりしゃべっちゃだめだって!」
ドアが開くと同時に飛び出してきたのは、一匹の小型犬と、慌てて追いかける一人の少女だった。
「いま……犬がしゃべった!?」
「犬がしゃべったプリ! 信じられないプリ! ありえないプリ~!」
「……いや、この子もプリルンには言われたくないんじゃないかな」
思わず叫んだななの隣で、あんぐりと口を開けたうたが、プリルンの反応に思わずツッコミを入れる。その様子を見て、少女はクスクスと笑い出した。
「私は犬飼いろは。この子は犬飼こむぎ。話してなかったけど、こむぎもプリキュアだったの。さっ、とにかく上がって。あなたたちが一番乗りだよ!」
「準備は出来てるワン。歓迎するワン!」
「え? 一番乗りって……わっ! ごめんなさい! 早く着き過ぎちゃった」
うたが腕時計を見て、慌てていろはに頭を下げる。お話会が楽しみ過ぎて、気付けば招待状に書いてあった集合時刻より2時間も早く着いてしまっていた……。
案内されたのは、ペットサロンに併設されたドッグランだった。そこにはたくさんのビニールシートが敷かれていて、まるでお花見会場みたいになっている。確かにここなら大人数が集まっても十分に余裕があるだろう。
「わぁ~ステキ! ドッグランだから塀があって人の目も気にならないし、みんなのペットとも一緒に遊べて楽しそう」
「でも、こんなに大々的にやって大丈夫なのですか? プリルン以外にも妖精さんもたくさん来るそうですが」
「へーきへーき。うちのお父さんもお母さんも、私たちがプリキュアだったこと、ちゃんと知ってるから」
「へぇ、そうなんだ。いいな~、わたしも自分がアイドルプリキュアだって自慢したいのに……」
「あはは、自慢するために打ち明けたわけじゃないんだけどね」
その時、外で小さな悲鳴と、甲高い子犬の鳴き声が聞こえた。同時にプリルンの体が震える。
「ブルッと来たプリ!」
「ななちゃん!」
「うん、行ってみよう!」
うたとななが弾かれたように立ち上がり、声のする方へと駆け出す。いろはとこむぎも、すぐに後を追った。
「お主のキラキラ、オーエース!」
大きなハサミの模様の服を着た大柄な男――カッティーが目を付けたのは、子犬を連れて楽しそうに通りを歩いている女の子だった。いつものように綱引きのモーションでキラキラを奪い取る。これまで百発百中で、外したことなど無かったのだが――。
「わんっ!」
「なぬっ?」
だが、今回は思わぬ邪魔が入った。女の子――えまが連れていたポメラニアンのポンが、予想を超える反応速度で飼い主の前に立ちはだかったのだ。
「間違って子犬のキラキラを引いてしまったですぞ。まあいい、カッティーング!」
ポンのキラキラ――大好きなえまとお散歩できて嬉しいって気持ちをリボンの形で取り出して、それを切断。キラキラを奪われてうずくまったポンを水晶に閉じ込める。
「ポンちゃん!」
「出でよ、マックランダー! 世界中をくらくらの真っ暗闇にするのですぞ」
えまがポンを助けようと駆け出すと同時に、カッティーが水晶を地面に叩きつける。えまはその衝撃で弾き飛ばされ、街路樹に激突して気を失った。
現れたのは、首輪の頭に紫色のサングラスをかけ、リードの腕を持った異形の怪物だった。長くしなる腕をめちゃくちゃに振り回して、電柱や信号や街路樹を薙ぎ倒す。
「力は未知数――ですが、いいですぞ。確かな手ごたえを感じるのですぞ!」
カッティーの言葉通り、それは普段以上に強力なマックランダーだった。動物を素体にしたから強くなったのではなく、それだけキラキラを奪われたポンの絶望が大きかったのかもしれない。
駆けつけたうたとななが、アイドルハートブローチを構える。
「プリキュア! ライトアップ!」
アイドルハートブローチにプリキュアリボンをセットして、踊るような仕草でブローチを三回叩くと、変身の儀式が始まる。
「キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!」
「キミと~! YEAH!」
「一緒に~! YEAH!」
ハートのミラーボールが煌めき、二人の姿が光に包まれて変化していく。
髪は長く伸びてゴージャスに、衣装は華麗に煌びやかに、リボンやアクセサリーでさらにキュートに彩られ――。
「キミと歌う、ハートのキラキラ! 笑顔ニッコリ、キュアアイドル!」
「キミと瞬く、ハートの勇気! お目めパッチン、キュアウインク!」
そして二人のアイドルが、路上ライブの舞台に降り立った。
「もう! よその町にまで来て勝手なことをしないで!」
「早く囚われた人を返しなさい!」
「人じゃないプリ。可愛いワンちゃんプリ」
「えっ、そうなの? 人と動物が仲良しのアニマルタウンで、ワンちゃんを襲うなんて許せない!」
「ええい、ごちゃごちゃうるさいですぞ!」
「マック~ランダ~!」
マックランダーは、リードの腕を振り回して二人に向かって来た。アイドルとウインクは縄跳びのように跳んで回避し、上空からパンチやキックを叩きつける。
「そんな手ぬるい攻撃は効かないのですぞ」
「きゃあ!」
ついにウインクが左腕のリードに捕まって、グルグル巻きにされてしまった。
「ウインク!」
「あと一人ですぞ」
残る右腕のリードが、アイドルを絡め取ろうと迫る。しかしアイドルは寸前でかわすと、逆に伸び切ったリードを両手で掴み、力いっぱい引っ張った。
「やぁぁぁっ!」
ドシーン! と地響きを立ててマックランダーが前のめりに倒れた。その隙にウインクはリードから抜け出し、アイドルは高速ダッシュで本体に迫る。走りながら右手でハートブローチに触れ、拳から眩い光が放たれる――!
「行くよっ! アイドル・グーターッ……!」
「待ってぇ!」
「あわわわわわっ――!」
突然飛び出した二つの影に、アイドルが大慌てで急ブレーキをかけ、技を中断する。もうちょっとで激突するところだった。いろはとこむぎが、マックランダーとアイドルの間に割って入ったのだ。
「危ないってば! もう少しで終わるから、いろはちゃん、こむぎちゃん、そこどいてくれないかな?」
「だから待って! プリルンから聞いたんだけど、あの怪物の中に閉じ込められているのは子犬のポンちゃんなんでしょ? えまちゃんが飼ってるポメラニアンの」
いろはが指を差した方を見ると、小学生くらいの女の子がベンチに寝かされていた。プリルンが心配そうな顔で、傍に付き添っている。
「うん、わたしもプリルンに聞いたよ。確かに動物は初めてだけど、でも大丈夫!」
「ポンはえまを庇って、それで怪物にされちゃったワン。だから傷付けないであげてほしいワン」
「う~ん、でも怪我はしないと思うんだけどなあ」
「だとしても、子犬に人間から殴られた記憶なんて与えたくない。私たちはずっと、そうやって戦ってきたの」
「いやそれ、戦うって言わないんじゃ……」
「アイドル! 皆さん! 話をしている場合じゃないです!」
ウインクの声に、アイドルがハッとして身構える。倒れていたマックランダーが立ち上がり、再びリードの腕を振り上げたのだ。
「危ない!」
アイドルが慌てていろはとこむぎを庇おうとする。だがその時にはもう、二人の姿はそこには無かった。リードの下をかいくぐり、アイドルが思っているのとは真逆の方向――マックランダーの方へと走り寄ると、その両足に取り付いた。
「うわぁぁぁ、何してるの!?」
「危ないですよ。離れてください!」
アイドルとウインクが大慌てで制止する中、いろははマックランダーの右足を、こむぎは左足を、愛おしそうに抱き締める。
「ガルガルやガオガオーンとは違うかもしれない。だけど、私たちはあなたを傷つけたくない。お願い、どうか落ち着いて!」
「こうやって、ぎゅうってしたら、ガルガルな気持ちなんてどっかに行くワン」
「何と愚かなことを。マックランダー! そんなものは蹴散らして……ぬおぉっ!」
マックランダーに命令しようとしたカッティーが、アイドルとウインクのダブルキックを食らって吹っ飛ばされる。二人は小さく頷き合うと、マックランダーから少し距離を取って、静かに降り立った。
いろはとこむぎがこんな至近距離に居る状態で、マックランダーに攻撃は出来ない。かと言って何かあってからでは遅い……。アイドルとウインクは、マックランダーが暴れ出したりしないよう、刺激を与えないように気を付けつつ少しずつ距離を縮める。
やがて――信じられない光景が目に飛び込んできた。
「うそ……でしょ?」
「こんなことは……あり得ないのですぞ?」
アイドルと、急いで戻って来たカッティーの驚きの声が重なる。
「攻撃してないのに……キラキラしてきたプリ!」
プリルンも目をパチパチさせてつぶやいた。マックランダーの体が、ぼうっと淡い光を放ち始めたのだ。凶暴だった腕はだらりと下がり、表情はわからないものの、何だか穏やかに二人を見下ろしているように見える。
「アイドル、今だよ!」
「任せて! ポンちゃんのキラキラ、取り戻すよっ」
ウインクの声に、アイドルもポーズも決める。
「クライマックスはわたし! 盛り上がっていくよー!」
アイドルの掛け声を聞いた直後には、マックランダー、それにいろはとこむぎは、ライブ会場の客席に居た。ピンク色のステージを取り囲むのは、巨大な中央スクリーンと、いくつものサブモニター。そして大勢の観客と、彼らが振る美しいライトの光。
「キ・ミ・の ハートにとびっきり 元気をあげるね♪」
幻想的なライブ会場で、キュアアイドルが華麗に舞い踊り、その歌声で人々を魅了する。聴いているだけで踊りたくなるような、心が浮き立つようなステージ。マックランダーも、それにいろはとこむぎも、両手にキラキライトを持ってノリノリで応援する。
――プリキュア・アイドルスマイリング!
アイドルの両手から生まれた巨大なハートが、ピンク色の光の柱となってマックランダーを覆いつくす。
「キラッキラッタ~!」
アイドルの両手でハートを作る決めポーズの後には、もうマックランダーの姿はなく、ポメラニアンの子犬が、いろはの腕の中で眠っていた。
いつの間にかライブ会場は消え失せていた。あちこち破壊されていた路地も、元の傷一つない状態に戻っている。
「いろはちゃん、こむぎちゃん、大丈夫? 怪我はない?」
「こむぎは何ともないワン!」
「私も平気だよ。ポンちゃんも大丈夫みたい」
「よかったですね」
アイドルはうたの姿に戻って二人に駆け寄る。ウインクもななの姿に戻って、目を細めて愛らしい子犬の寝顔を眺めた。
「本当にアイドルなんだね。こんな戦い方があるなんてびっくり。うたちゃん、ななちゃん、素敵だったよ」
「えへへ~。先輩に褒められるなんて光栄だな。でも、いろはちゃんたちこそ凄かった。本当に戦わずに町を守ってきたんだね」
目を覚ましたえまに、いろはがポンちゃんを手渡す。ポンちゃんもすぐに目を覚ますと、えまの頬をペロペロと舐め、えまはくすぐったそうに笑い出した。
「私、アイドルプリキュアのこと、あなたたちの戦いのこと、もっと知りたくなっちゃった。詳しく聞かせてくれる?」
「わたしたちこそ、いろはちゃんたちの戦いを知りたくなっちゃった。聞かせてください、先輩!」
微笑み合ういろはとうた。そんな二人に、同い歳くらいの少女と少年が――猫屋敷まゆと、兎山悟が駆け寄る。それぞれのペットである猫のユキと兎の大福も一緒だ。今の騒ぎを耳にして様子を見に来たのだろう。
「ごめんね、いろはちゃん。遅くなっちゃって」
「もう終わったみたいだね。力になれなくて面目ない……」
「大丈夫だよ。でも、キュアアイドルのライブは二人に見せたかったなぁ!」
みんなで和気藹々と話しながら、お話会の会場であるドッグランに戻り、全員でお菓子やジュースの準備をする。そのうち、ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。
「うた先輩、なな先輩、遅くなりましたっ! えっと、いろは先輩と……こむぎ先輩ですねっ? 初めまして、紫雨こころです!」
「いろは、いろは! こむぎもセンパイって言われたワン!」
「こころちゃん! 私たちのこと、よく知ってるね~」
「もちろん、リサーチしてきましたから。今日は皆さんのこと、バッチリ研究させてくださいっ!」
大きなリュックサックを背負ってやってきたこころが、張り切って頭を下げる。
総数80名を超える、プリキュアたちによる年に一度のビックイベント! いや、今年はみんなのペットも呼んでいるから、さらに人数は膨れ上がるだろう。
「オールスタープリキュア!キミとキラッキランラン♪春のSS祭り2025」いよいよスタートです!
最終更新:2025年04月19日 00:33