『じぶん色ファンファーレ』5 避けられてる……?




「いってきまーす」
 通学かばんを背負って家を飛び出した私。秋空に吹く風は涼しくて、ぼんやりとした頭をスッキリ目覚めさせる。
「ことりちゃんおはよー」
「おはよう奈々ちゃん」
「っと、今日私日直だ。また教室でお話しよー」
 クラスメイトの奈々ちゃんに追い抜かれつつも、その後は何事もなく学校に到着。
 そう、何事もなく。
(今日も、えみるちゃんの送迎車見なかったな……)
 最近、何故だかえみるちゃんと登校のタイミングが合わない。
 先に教室に着いていたり、逆にチャイムが鳴るギリギリに入ってきたり。ちなみに今日は前者らしくて、ノートに何かを書きこんいでるみたい。その様子があまりにも真剣だったから私は声をかけることが出来なかった。
 タイミングが合わないだけならまだ、「えみるちゃんの生活リズムがあるよね」って納得できるんだけど……。
(あ、次図工室だ)
 まだまだ松葉杖を手放せそうにないえみるちゃん。
 授業で必要な絵の具セットはそれなりに大きいし、図工室は階が違うから移動も大変。だからお手伝いしたい……んだけど。
「えみるちゃ」
「えっと、奈々ちゃん、移動教室のお手伝いをして欲しいのですが……」
「いいよ~」
(もしかして私、避けられてる……?)
 流石にこういうのが二、三回も続いてくると、そう思わざるを得なくて。
 確かめるのが怖くて、中々えみるちゃんと目を合わせられない……。私は自分の絵の具セットをキツく握りしめ、慌てて教室を後にした。
   ・
 お腹の真ん中あたりで渦巻くもやもやを抱えたまま、迎えた帰りの会。
「それじゃあプリント配りまーす。ちゃんと保護者の人に見せるようにねー」
 前から回ってきたプリントを一枚取って、後ろの人に回す。
 B5サイズの再生紙にプリントされているのは、例のバザーイベントのご案内。上部には大々的に『初等部PTAバザーにツインラブ登場! ミニステージ披露♪』と太字の英角ポップ体で記載が。
(あ、この情報やっと出たんだ)
 軽く目を通していると、教室はいつの間にか騒めいていて。
「えみるちゃんライブするの? すごーい!」
「でもその足……」
「大丈夫なの?」
 ふふふ、それに関しては抜かりなく……。
「はい! お医者様からは間に合うかもって言われているので! それに間に合わないときは……」
 ちらっ。えみるちゃんの視線が一瞬こちらを向いたような気がしたけど、すぐに逸らされた。
「その時は、何とかするのです!」
「なにそれ~」
「何だかえみるちゃんらしくないよー」
 また避けられた……のかな。
 一瞬期待していただけに、ズキンと胸を刺すような痛みが私を一人、静かに襲ったのでした。



最終更新:2025年05月15日 20:03