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真夜中の微笑/恵千果◆EeRc0idolE




 キャンプ場の夜。
 街の喧騒からは遠く離れ、耳に届くのは、虫たちのさえずりと樹々を揺らす風の鳴き声くらい。

 こんなに静かなのに、どうして眠れないんだろう。
 ひかりは隣に眠るふたりをそっと盗み見た。
 規則正しい寝息を立てて寄り添うふたりの手は、隠そうともせず、ごく当たり前のように繋がれていた。
 そのあまりにも自然な姿に、ひかりは目をそらせなくなる。
 なぎさなどは、時々思い出したように「ほのか~……」などと寝言をつぶやくのだからたまらない。

 わたし、どうしてアカネさんと帰らなかったんだろう。
 3人というのはバランスの取りにくい数だと思う。比重がどこかに集まれば、それだけ片寄りが酷くなるのだから。
 ひかりの胸を、なぎさへの虚しい恋情と、彼女を占有するほのかへの妬ましさが猛襲する。

 帰れば良かったのよ……。でも、なぎささんの傍に少しでも居たかった。
 学校じゃ見られない彼女を、少しでも近くで見たくて、その誘惑に抗えなくて。
 けれど、幸せな気持ちになれたのは少しだけ。
 なぎさとの会話が弾むと、必ずほのかが割って入る。
 なぎさは私のもの。口には出さなくても、ほのかの目がそう言っていた。
 あの瞳の奥に隠されている強い想い。
 普段は親友という仮面で上手く隠してあるけれど、ひかりがほんの少しでも前に踏み出そうとすると、仮面の後ろ側から溢れ出し、ひかりをつかんで押し戻す。
 駄目よひかりさん。なぎさは私のもの。私だけの。誰にもあげない。

「駄目よひかりさん」

 ひかりの身体がビクッと震えた。

「ちゃんと寝なきゃ、明日は楽しめないわよ」
「ほのかさん……起こしてしまいましたか」

 ほのかはゆっくりと起き上がると、繋いでいたなぎさの手をさも大事そうに柔らかく持つと、そっと外した。
 その一連の動作の美しさに、ひかりは息を飲んだ。
 雪城ほのかという綺麗で聡明な少女から醸し出された透明感と、しなやかな肢体が織り成す優雅な所作に、悔しいけれど見惚れてしまう。
 勝てない。この人には。

「来て……ひかりさん」

 誘うように、ほのかが手をすっと伸ばした。

「あの、でも今は、なぎささんが……」
「なぎさは起きないわ」

 婉然と笑むほのかに逆らえるはずもなく、ひかりは自ら彼女の元へと歩を進ませ、その胸に優しく抱かれた。

「辛いのね」
「そんなことは……」
「駄目よ嘘ついちゃ」

 ほのかの指はいともたやすく、ひかりの寝間着の隙間から下着の中へと入り込み、少女の白い肌をやわやわと這い廻る。
 熱く潤んだ自身の中心が恨めしい。欲しがっていると思われても仕方ないくらいにぬかるんだそこは、ほのかの指をやすやすと受け入れた。
 何度も肌を重ね、ほのかにすっかり馴染んだひかりの身体は、今では彼女を思い出すだけでこの有様だった。
 犯すように奪われた初めての時ですら悦びを覚えた自分に、最初のうちは酷く戸惑ったものだった。

「ひかりさんて……不思議な子ね。好きでもない私にされてこんなになるんだから。だけど私、好きよ。あなたの素直な身体」

 さざ波のように押し寄せる快楽を、ひかりは黙って享受する。
 ひかりはわかっていた。ほのかは、なぎさを奪われたくないがために自分をこんな風に染めたのだ。
 ほのかは直接的なことはほとんど何も言わなかった。
 けれど、同じ穴の貉とはよく言ったもので、何も言わなくても、ひかりにはわかってしまう。
 ほのかは自分を抱きながら、その身体に直接刻み込んでいるのだと。

 ひかりさん、あなたに無垢ななぎさは相応しくない。卑しく快楽を貪るあなたを、なぎさは好きにはならないわ。
 ほのかの視線が、肌が、匂いが、ひかりにそう言うのだ。

 それでもいい。
 なぎさとほのか。ふたりの傍にいて、なぎさを想い、ほのかに身を任せる日々。
 それが、いつしかひかりにとって、かけがえのないものとなっているのだから。

 ひかりはたまらず上げそうになった声を、かろうじて噛み殺した。
 思わずなぎさを見るが、そんな心配は杞憂でしかない。
 相変わらず気持ち良さそうに眠っているなぎさに、ホッと胸を撫で下ろすひかりを、ほのかの指が容赦なく高みへと導いていく。

「いけない子。いつもよそ見してばかり」
「んっ……んんっ!!」
「言ったでしょ。なぎさは起きないって。キスされたって起きないくらいなんだから」

 うふ、と艶めかしく笑うほのか。ひかりは気づいた。ほのかはまだ、なぎさには何もしていない。そう思い込んでいた自分の考えは、間違っていたのだと。

「それとも、なぎさが起きた方がいい?」
「いやああ……それだけは……」

 ひかりの眼から、羞恥の涙がこぼれ落ちる。こんな姿態を、彼女にだけは見られたくない。
 けれど、もしなぎさに見られたら。そう考えるだけで、ひかりの中心はキュッとすぼみ、あとからあとから絶え間なく蜜がこぼれ落ちる。

「さあ、いきなさい」

 幾度となく昇りつめ、暴れ回ったひかりの尖りに、巧みに動くほのかの細い指がとどめのひと押しを加えた。
 大きな波がひかりを飲み込み、ひかりの全部を搾り出すように、きつく抱きしめる。
 やがて、波が引いていく。ひかりの猛りは嘘のようにおとなしくなり、後には何も残ってはいなかった。

「ほ…のか…さん……」
「これで眠れるわね。おやすみなさい」

 ぴしゃりと突き放すように言うと、すぐに身体を離すほのか。果てを見たばかりのひかりは、震えながらゆるゆると力無く寝床に戻る。
 気持ち悪いほどに濡れて脚の間にへばりつく下着を意識の隅から追い出すと、心地良い疲労感とともに迫りくる微睡みに身を委ねた。

 ほのかは座ったまま、しばらくひかりを見つめていた。そうしていると、やがて穏やかな寝息が聞こえ始める。
 それを見てとったほのかは我が身を横たえ、先程と同じ位置におさまると、なぎさの手を握り何もなかったように瞳を閉じた。
 闇に残るほのかの顔に浮かぶのは、総てを凌駕するような微笑み。
 夜明けはもう、すぐそこまで迫っていた。



最終更新:2013年02月12日 13:33