仮面ライダーW終了記念コネタ。/一路◆51rtpjrRzY




 それは、皆でパジャマパーティをしている日の事だった。


「美希ちゃん、二人が帰ってくるまでババ抜きでもしない?」
「いいけど……さっき負けたの忘れたの?」


 ラブの部屋。今ラブとせつなはお風呂に行っていて、この部屋にはあたしとブッキー、それにタルトとシフォンしかいない。


「さっきのはちょっとわたしに真剣さが足りなかったと思うのよ。だからもう一回、何か賭けてっていうのは――――どう?」
「……面白そうね」 


 正直言って、何か賭けるなんて言葉が彼女の口から出てくるなんて意外だった。
 ギャンブルとか、嫌いそうな雰囲気なのに……。


「じゃあ何を賭ける?カオルちゃんのとこのドーナツ?」
「美希ちゃん、わたしは物を賭けるとは言ってないわよ?今からやるババ抜きで負けた方に課せられるのは―――」


 ニコニコしながら彼女は言った。


「――――――脱衣よ」




 最初はちょっとした暇つぶしで受けたつもりだった。
 どうせラブ達もすぐ戻ってくるだろうし、ブッキーだってそこまで本気じゃないだろうって。
 でも――――――。


「……じゃあ次はブラジャーね。ほら、美希ちゃん早く―――」
「ぐっ…………」
「自分で外せないなら、わたしが外してあげても良いけど……どうする?」
「じ、自分で外せるわよ!!」


 屈辱に下唇を噛み締めながら、背中のホックを外し、右手で胸を隠しながらブラジャーを取る。
 気が付けば三連敗……もう脱ぐ物といえば一枚しか……。


「ううううう……」
「ふふ、美希ちゃん、すごく綺麗……それに、その真っ赤な顔も……可愛いわよ。ゾクゾクしちゃう」
「く……つ、次は負けないわよ……」


 勿論、ここで降りるという選択肢だってある。いや、その前から止めようと思えばいつだって止められた。―――でも、それじゃあたしのプライドが許さない。


「美希ちゃんなら降りないって、わたし信じてた」


 表面上はいつもと変わりのないブッキーの笑顔。
 けど、一瞬その目が淫靡な光を帯びたように見えて……。


「でもね美希ちゃん、一回勝った位じゃ、もう取り戻せないわ。ラブちゃん達が戻ってきた時、美希ちゃんはショーツを一枚履いているだけ……わたしは上下どちらかパジャマを脱げば良いだけだし……その状況……どう見ても変態さんは美希ちゃんよね?」
「……な、何が言いたいのよ……」
「賭ける物を上乗せすれば良いんじゃないかしらって事―――次に美希ちゃんが勝てば、わたしが全部脱いだって良いわ。ううん、それどころか、美希ちゃんは脱いだ物を全て着てくれて構わない」
「―――――条件が良すぎね。じゃああたしが負けたら……?」
「そうね――――――」


 ブッキーは顎に人差し指を当て「うーん」と考えてる顔。
 そして、ワザとらしく掌を拳でポン、と打つ。


「美希ちゃんを頂戴――――――全部」


 ざわ……ざわ……ざわ……


 ――――――悪魔だわ、このコ。
 今更ながら、あたしはこの勝負を受けた事を……悪魔と相乗りしてしまった事を後悔していた。




 勝負は今のところ五分と五分。
 お互いの手札をジョーカーが行き来し、そして今、ブッキーの手元にはカードが一枚。
 という事は、あたしの手の中には―――。


「泣いても笑ってもあとニ枚ね、美希ちゃん」


 ここまで来ても、彼女の表情は普段の優しげな物と何ら変わってはいない。
 あたしの方はといえば、さっきまでは恥かしくて熱っぽかった顔が、今では自分でも分かるほど冷め切っている。つまり―――青ざめているのだ。
 さっきから勝負は全てこのパターンで決していた。何故か最後にはジョーカーがあたしの手元に残ってて、ブッキーはそれを避けて勝っている。もしかして今度も……。


(こうなったら奥の手しかないわ……)


 あたしはブッキーに気付かれないように胸を隠している右手の指を軽く動かし、タルトに合図する。
 タルトはさっきから部屋の隅であたしの裸を見ないように両目を手で覆っていたクセに、あたしの合図に機敏に反応し、傍へと駆け寄ってくる。


(―――やっぱり覗いてたわね……)


 でもそれを今問い詰めている場合でもない。
 あたしはさっきの作戦通り、ブッキーにあたしの札を示すよう片目をつぶってサインする―――だけど、今度は裏をかくわ。二度も同じ策が通じるとも思えないし。
 ブッキーに教えるのは、本物のジョーカーの方。
 流石に同じ手にはもう警戒しているはず。だったら――――。

 あたしから向かって、右はジョーカー。左はあたしのトレードマーク……スペードのA。

 タルトはあたしの指示に従って、右のジョーカーをちょちょい、と指差す。
 ブッキーはそんなタルトににっこりと微笑んで。


 ―――ちょっと待って。


 今まであたしのカードにジョーカーを残して、彼女は連勝してきた。
 それはさっき、皆でやったババ抜きの再現。
 あたしと彼女の勝敗が逆になってはいたけど―――もしかしてワザと同じ状況で勝ち続けてるって事、なの?
 だったら、悪魔っていうより、まるでこのコ自身が―――――。

 ブッキーが自分のカードを床に伏せ、左腕を伸ばす―――タルトが差した方……ジョーカーに。
 勝った、とあたしが確信した瞬間。


 ブッキーは右手で素早くもう一枚のカードを弾いた。



「―――残った札はいらないわ。ジョーカーは……わたしだからよ」



 手元に残ったジョーカーを、あたしは震える手で握り締める。


「じょ……冗談よね?ブッキー?」
「タルトちゃん、シフォンちゃんを連れて、表に出ててくれる?」


 穏やかな声……でも有無を言わせない凄みがそこにはあった。
 タルトは言葉もなくコクコクと頷くと、シフォンを連れてバタバタと部屋から出て行く。
 嫌な汗をかきつつ、部屋の隅に後ずさりするあたしへと、彼女は微笑みながらにじり寄ってくる。
 そして左手を突き出すと、あたしをビッっと指差した。



「さあ、美希ちゃん、脱ぐ枚数を数えて」



 い……一枚です……。




「ただいま~。あ~いいお風呂だった~」
「……もう……ラブったら……身体流しっこするだけって言ってたのに……あんな事まで……」


 頬を赤くしてブツブツ言っているせつなはさておいて……。長湯しちゃったから、美希たんとブッキー退屈してたかな?
 と……あれ?


「お帰りなさい、ラブちゃん、せつなちゃん」


 やたらとツヤツヤ血色のいいブッキー。何?スポーツでもしてたの?
 それに引き換え、美希たんの方は―――。
 ??なぜかベッドの上にうつ伏せになって、顔を枕に埋めている。
 気のせいかな……なんか震えてるけど……。


「どしたの?美希たん?―――具合でも悪いの?パジャマ乱れてるけど……」


 あたしは彼女の身体に手を伸ばした。
 その手が肩に触れた瞬間――――――。


「ひ!!も、もう許して!!」


 ビクっと身体を震わせ飛び起きると、枕を抱いてあらぬ事を口走る美希たん。


「え??……だ、大丈夫?美希たん……」
「大丈夫じゃない………も、もうこれ以上は……い、いやぁ…」


 艶っぽい声で哀願の言葉を繰り返すばかりの彼女から、あたしはブッキーへと視線を移した。


「な、なんか要領を得ないんだけど……何か……あった?」
「さあ。わたしにも分からないわ。一つだけ言えるのは―――」


 あたしの言葉に、ブッキーはニコッと笑って答える。



「これで決まりよ」



 え、えーと。
 な、何が?




 了
最終更新:2013年02月12日 14:41