新しい扉へ/黒ブキ◆lg0Ts41PPY
どうしてこんな事をしてしまったのか。
奏は自分の行動が信じられなかった。
目の前の響の顔。
驚きに見開かれた目。強ばって固まった体。
どうしてこんな事に…?
いつものように、響の部屋で新作ケーキを味見してもらってただけのはずだったのに。
「…ほら、こんなとこにも付いてる…」
自分の声がどこか遠くから聞こえるようだった。
ぺろりと響の鼻の頭に付いたクリームを舐めとる。
舌に感じる甘さに、やはり夢でも幻でもなくやっているのは
現実の自分自身なのだと妙な納得の仕方をする。
「響がケーキみたいになってるわよ…」
鼻の頭、頬、そして唇の端、顔中クリームだらけの響を隅々まで綺麗にしていく。
気付けば既に表面のクリームは無くなり、ただ唇同士を押し当てているだけだった。
(わたし…何やってるんだろう……)
まだ口の中は綺麗にしてない。
そんな正気とも思えない事が頭を過り、奏は舌で響の唇の裏をなぞる。
響の体が微かに震え、しかし、食い縛っていた歯が少し緩んだ。
強引に侵入してきた舌を響は拒まなかった。
甘いクリームと唾液の混ざった味。
蕩けるような柔らかさの唇と熱い舌の感触。
それは味わった事のない不思議な菓子のようで、だんだんクリームは
無くなって行っている筈なのに甘さは更に濃厚になっていくようで。
奏は夢中でその甘さを追い求めながら、いつの間にか響が目を閉じているのに気が付いた。
「………すき…」
重ねた唇の隙間から吐息と共に囁く声は奏の心の中から直接零れ出て来ものだった。
(ああ……そうだったんだ……)
自分の声で聞いた、その言葉。
自覚していなかったのか、それとも無意識に封印していたのか。
ずっと、響とこうしたかった。
響を独り占めして。特別な、二人だけの関係になりたかった。
秘密の場所で二人きりで音楽を聞く。
もうそれだけでは満足出来なくなっていたから。
ずっと手を繋いで来て。一度は離れてしまって。
そして、もう一度見つめ合って。
同じ場所でいるだけでは足りない。
同じ想いを感じているだけでは不安。
もっともっと特別な、深く強い繋がりが欲しい。
「響、大好き…」
再び、さっきよりもはっきりと呟く。
ちゃんと、自分の意思で。響はビクリと震え、そのまま奏の背中に腕を回して来た。
もう一度、口付ける。
唇の形。舌の柔らかさ。歯の感触。一つ一つ確かめながら。
響の指が奏の制服のリボンをほどく。
上着のボタンを外し、ブラウスもはだけて行く。
受け入れてくれるの…?驚きと不安。そして安堵と歓喜。
応えるように奏も同じように脱がせて行く。
下着だけになった所で、ようやく響が言葉を発した。
「…奏、ズルい…」
「…?」
チラリと奏の胸元に視線を走らせ、拗ねたようにプイッと横を向く。
「ズルいって……何が?」
「…だって……」
パチンとブラの肩紐を弾かれて、奏はハッとした。
今の奏が身に付けているのは、白いレースにピンクで刺繍を施した可愛らしいブラだった。
上下の一揃いで、偶然だが今日下ろしたばかりの新品だ。
それに対して響は上下揃った物ではあるが、シンプルなグレーのスポーツブラに
ボクサーショーツ。味も素っ気もない代物だ。
「…こう言うことするならさぁ…わたしだってもっと、こう…」
「何で…?カッコいいわよ?」
「嬉しくないっ…!」
「じゃあ、次は可愛いの着ればいいじゃない」
次って?次もあるの?
奏は自分の言葉に驚く。
今からしようとしている事。
本当に響は分かっているんだろうか。勿論、自分自身も。
次なんてあるんだろうか。
このまま一線を越えてしまって、そうしたら…。
どうなってしまうんだろう。
想像も付かない近い未来に思いを馳せながら、奏の頭は目まぐるしく迷走する。
しかし言葉はそんな混乱をおくびにも出さずに紡がれる。
「ほら、あのピンクに白いフリルが付いたヤツとか。あれ、すごく可愛い」
「ああ、アレお気に入りで…って!何で奏がわたしの下着知ってんのよ!」
「んー?体育の着替えの時とかに見えるし…」
「何チェックしてんのよ。ドスケベ!」
「ちょ、ドスケベとは何よ!ドスケベとは!」
「スケベじゃーん。奏のスケベ~」
こうしてやる!
響が奏のブラのホックを素早く外す。
いきなり浮いた下着の頼りなさに奏の頬に血が昇る。
いたずらっ子のような響の瞳はついさっきまで奏に翻弄された仕返しをしているようで。
「触っていい……?」
奏の熱くなった頬に響がそっと唇を寄せる。
奏が頷くの確認すると、響の手のひらが乳房を包み込んだ。
「…うわぁ……何コレ、すっごい…」
やわやわと指を動かし、その質感を味わう。
キメ細やかな白い肌は想像した以上の滑らかさで。
ふわふわとした柔らかさはふとした拍子に壊れてしまいそうな儚さに感じた。
指の間に見え隠れする淡い桜色の頂きが誘うように息づいていて、
響は吸い寄せられるようにそこを口に含んだ。
「ああ…っ!…響ぃ…ダメぇ…」
興奮と羞恥に過敏になった体にいきなりの舌での愛撫は刺激が強すぎた。
胸の先端からちりちりと快感が弾け、全身に突き抜ける。
吸われ、舐められ、甘噛みされ、未成熟な蕾が硬く張りつめ綻んでゆくのを感じた。
「ああんっ…あっ…響ぃ、ダメだってばあ…ーっっ!」
「だってぇ、美味しいんだもん…」
乳首だけでなく乳房全体に舌を這わせ、唇を滑らせる。
胸だけではなく滑らかな背中、ほっそりとした腰、可愛らしく丸みを帯びた尻も
手のひらで余す事なく味わう。
真っ白で柔らかな奏の肢体は全身が砂糖菓子で出来ているようだと響は思う。
ビクビクと身悶える姿が可愛くて、少し意地悪な気持ちも相まって
反応する箇所を探るように愛撫を重ねる。
「んっ?…ンンッ…ふ…ぅぅ」
奏の逆襲が始まった。
胸元に響の顔を埋めさせたまま、手をスポーツブラの間に捩じ込む。
熱く火照り、ピンと張りつめた肌。まろやかな丸みと、その下のしなやかな筋肉。
弾力を確かめるように揉みしだき、指先で円を描きながら小さな突起を爪弾く。
弄ばれ、悦びに震えるかのような反応に奏自身の官能も昂る。
同じ様に、感じてくれている。
それが堪らなく嬉しい。
飽きる事無くお互いの乳房を貪りながら、その手は何度も下肢を覆う邪魔な
布の上を行きつ戻りつしている。
ここまでしたのだから…と言う思いと、本当に良いのだろうか…と言う微かな怯え。
行動を起こしたのは偶然にも同時だった。
下着の縁に指を掛け、そっと目配せする。
「…いい?」そう、視線で問い掛け、応える。
ゆっくりと体の中で一番熱の籠った部分が外気に晒されてゆく。
一糸纏わぬ姿となった二人は、もう一度硬く抱き締め合い、そっとベッドに
その身を沈めた。
鼓動を一つに響き合わせるように胸を重ね、足を絡めながら隙間を埋めてゆく。
腿の上を擽る柔らかく萌えたばかりの若草のような感触。
その奥で既に滴りそうなほどに潤んだ快楽の中心。
ゆっくりとお互いの昂りを確かめ合うように、徐々に深く絡み合ってゆく。
「…あったかいね……」
「…うん……」
「気持ち…いいね…」
「……うん…」
腿を滴る雫が広がり、ぬるりと濡れた肌の上で敏感な秘肉と充血した蕾が
容赦無く摩擦され、無垢な体に妖しい快感を刷り込んでいく。
身体中、爪先まで熱が溢れ、喉を通る吐息までが焼け付くようだった。
愛撫の仕方など分かろう筈もない少女同士の戯れは単調で拙く、
それでも穢れを知らぬ清らかな体には強すぎる刺激だった。
夢中で腰を揺らめかせ、逃げようとする相手を絡め取る。
足の間から泉のように絶え暇もなく湧き出でる官能の渦は
頭がおかしくなりそうになりながらも、何故かいつまでも終わって欲しくないような。
「んっ…んっ…うぅ…っ!奏ぇ…ヤバい…っ、何かコレ…あっあっ…」
「響っ…あぁっ!ねぇ…いやぁっ…っあ、ーっ!」
押し潰された乳房の間で硬く尖った先端が擦れ、お互いの腿で充血した柔肉と
強ばった陰核がなぶられる。
何かに突き動かされるように熱い吐息を絡め、舌も唇も溶け合わせて。
やがて、溢れ出るような灼熱の迸りが弾け、二人は声にならない声で互いの名を
呼びながら、全身を温かなぬかるみに沈めて行った。
「いやぁ…まいったねぇ…」
二人で一つの生き物のようにぴったりとくっつきながら、どのくらいの時間が過ぎただろう。
汗が引くと共に頭も冷えて来た頃にぽそりと響が呟いた。
「まさか奏がこぉんなにえっちな子だったとはねぇ…」
「なっ…!!」
「イヤイヤ、おとなしそうな子に限ってこう言う時には積極的ってホントなんだねぇ」
「ちょっ!響っ、何よそれ!」
「んんー?悪い事じゃないじゃーん」
「なによっ!響だって途中からノリノリだった癖にっ!」
「ええ~?だって奏の方からキスしてきたんだし~」
「先に胸触って来たのは響でしょっ!…ーっそれに…」
「…?」
「……それに…わたしは…」
顔を真っ赤にして食って掛かってきた奏が急に瞳を伏せて口ごもった。
響は少し慌てる。
照れ隠しもあっていつもの調子でからかうように言ってしまったが、
不味かったかも知れない。
どのくらい思い切りと勇気がいったかなんて考えるまでもないはずなのに。
「あのっ…奏、ゴメ…」
「わたし、ちゃんと言ったもん。ちゃんと…響が好きって…」
「!!!」
響は耳まで赤くなるのを止められない。
見れば奏も同じく茹で蛸になっている。
「あはっ…そか、そうだよね…」
「…響は……?」
潤んだ上目遣いで見つめられ、響はゴクリと喉を鳴らす。
「そんなの…決まってんじゃん…」
「決まってるって…?」
「…だから、その…イヤならこんな事するワケないし…」
「…それで…?」
「…えと、あの…ですね」
改めて口にするには少しハードルが高過ぎる。
こんな事なら熱に浮かされてる内に言えば良かった。
そんな事を考えても後の祭り。
こうなったからにはキチンと伝えなくては絶対に許して貰えないだろう。
コホン、と咳払いをすると、目の前には若干の不安を湛えた奏の潤んだ瞳。
ヤバい、可愛いかも…。
響は緩みそうになる口元を何とか引き締めた。
一つ大きく深呼吸して。
「わたしは、奏が、大好きです」
「ホントに…?」
「ホントに!わたしは、奏には絶対に嘘はつかないから!」
その時見せた奏の笑顔は正に花が綻ぶようで。
(ヤバいなぁ…かなり…)
響は完全に落とされてしまったのを感じた。
(ま、いいか)
もう一度、抱き合いながら響は思う。
奏になら、ずっと負けててもいいかな、と。
了
最終更新:2013年02月12日 12:19