第16話 エピローグ一緒に歩いてゆく(第1期完結)




love-setuna



ベランダから部屋を覗くと、せつながベッドに倒れ込んでいた。
倒れた、と言うか、ベッドに腰掛けたまま上半身を横にしていた。
また、具合悪いんじゃないよね?



「……せつな、どうしたの?…って!?ちょっ!」



せつなの顔を覗き込もうとした瞬間、グイッと手を引かれて
ベッドに引き倒された。
せつなが覆い被さってくる。



(………?)



あたしに体重を掛けたまま、じっと動かない。
荒い息を抑えるように少し体を震わせている。
あたしの胸の上で押し付けられたせつなの鼓動が早鐘を打っているのに
気が付いた。


背中に腕を回し、寝返りを打って体を入れ換える。
心臓の動きに合わせて、微かに左乳房が揺れてる。
宥めるようにさすると、せつなが手の平を重ねてきた。



「………会ってきた。」



誰に、とは聞くまでもない。
余程緊張したのだろう。重ねられた手は冷たく湿っている。
体を起こして顔を見ると、泣き出す寸前の子供のような表情をしていた。



「……そっか…。」



前髪の生え際を撫で、おでこをくっつける。
せつなはギュッと目を閉じ、あたしの首に腕を絡める。



「………抱っこ、して…。」


涙の混じった声でそんな事を言う。
せつなの頭を抱えるようにして、今度はお互い向かい合って横になる。
腰を引き寄せ、ぴったりと体を密着させる。
せつなの動悸が治まるまで。



「……精一杯、頑張ってきたんだね…?」



髪を指で梳き、よしよしと背中をさする。



「せつな、いい子。」



「…いい子なんかじゃ、ないわ。」



泣かせてきたんだもの。



「……せつなはいい子。あたしの大事なお姫さま。」



ラブは唄うように囁く。



「せつなが何を言って、どんな事をしてもね。」



あやすように体を揺すり、額に、瞼に、頬に、口付ける。



「だーい好き、だよ?」



あたしとせつなの鼓動が緩やかに重なっていく。
まるで一つの心臓みたいに。



「……私も。」



ラブの中に溶けてゆきたい。



「それはダメ。」
「……どして?」



こんな風に抱き締められなくなるから。



「……せつなはね、幸せになるんだよ。今より、もっと、もっと。」



だからブッキー、戻ってきてね。
あたしもせつなも、あなたの笑顔を待ってるから。



miki-inori




祈里が訪ねて来た。
唇を引き結び、硬い 表情で。
泣きそうなのを我慢してる。それくらい分かる。
何年付き合ってると思ってるの?



「らしくない事、するもんじゃないわよ。」



しんどかったでしょ?



「……美希ちゃん……。」



ポンポン、と頭を叩くと祈里はアタシの膝に顔を埋めて泣きじゃくった。




ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…………




ただ、それだけを繰り返す。
アタシにしか、言えないんだよね?
ラブにも、せつなにも言葉での謝罪なんて意味がないから。
でも、言いたいのよね。ごめんなさいって。
だって、あなたが悪いんだもの。謝らなきゃ、苦しいわよね。
だから、アタシが聞いてあげる。
ラブの分まで。せつなの分まで。




「これで、お仕舞いにするから……。もう、泣かないから。」



本当は、もう泣かないでいられるって思ってたの。
だって散々泣いた後だったから。ダムが出来るんじゃないかってくらい。
でもね、また溜まっちゃったみたいなの。
美希ちゃんの顔みたら、我慢出来なくなっちゃったの。




祈里は、そう言ってまたアタシのスカートを涙で濡らす。
アタシは黙って祈里の柔らかい髪を撫で続けた。



「…美希ちゃん。次のダンスレッスンね、一緒に行ってくれる?」



「いいわよ。前の日に泊まりに来れば?」



一緒に寝て、朝一緒に出よう。




「美希ちゃん、美希ちゃん、美希ちゃん……」




ごめんなさい、の次はアタシの名前?
壊れたスピーカーみたいね。
でもね、泣くのはこれでお仕舞い、なんて言わなくていいわよ。
膝くらいいつでも貸してあげるしね。
その代わり、なんでも話さなきゃダメよ?
あなたは思い詰めたら録な事にならないって、分かったんだから。




せつなが祈里にどんな魔法をかけたのか、それは聞かない。
でも、祈里は泣けるようになった。
それなら、次はきっと笑ってくれる。



震える小さな背中には、目に見えない大きな十字架。
あなたは背負って行く事に決めたのよね?
アタシは代わってあげる事も、手を貸す事も出来ない。しちゃいけない。
だから、隣にいるからね。
いつでも、アタシの手を握っていいから。



clover



朝靄が立ち込める。吐く息が白くなり、冴えた空気が肺を充たす。



「行こっか!」
ラブはせつなに手を差し出す。



「うん。」
対するせつなはちょっと硬い顔。
ラブはせつなを抱き寄せ、グリグリと頬擦りする。



「ちょっ、ちょっと、ラブ!」


「タッハー!今日のせつなも可愛すぎ!」



せつなは顔赤くしてラブを押し退ける。



「もう!」


「にゃはは!さぁ、レッツゴー!だよ!」



二人は手を繋いで玄関を出る。



………
……………



「ブッキー、そろそろ行こ。」


「……うん……。」



祈里は顔を強張らせ、口の端をひくひくさせている。
……ひょっとして、笑ってるつもりなんだろうか?



「きゃっ!何?美希ちゃん!」
美希はうりゃうりゃ!と祈里の頬を両手で押し潰す。


「表情筋のマッサージよ。何なら体も解そうか?」


「やっ!やはっ!やめてぇ!」



美希は祈里の脇腹をくすぐる。
ひーひーと身を捩り美希の指から祈里が逃げようとする。



「もぉう、涙出たよぉ!」



美希は笑顔で手を差し出す。祈里は美希の柔らかな手を、キュッと握った。



天使像の前に着く 。



ラブとせつながやって来るのが見えた。




「せつなちゃん、ラブちゃん、おはよう!」




祈里が手を振る。




ラブが白い歯を見せて、大きく手を振り返してくる
せつなは微笑んで、胸の前で小さく手を上げる。




「今日はミユキさんも来てくれるんだよね?くっはー!楽しみ!」


「随分体なまっちゃったわ。ちゃんと踊れるかしら。」


「せつなは慣らす程度にしときなさいよ?病み上がりなんだから。」


「せつなちゃんなら、ちょっとやればすぐに追い付けると思う。」




四人で歩く。笑い合い、ふざけ合い、光の中を。
並んで、少し乱れたり、誰かが遅れたりしながら。



以前と変わらぬ風景。
でもそれぞれの中に、それぞれの傷。
深いもの、浅いもの、消える傷、残る傷。
胸に抱きながら歩いて行く。



いつか大人になって、それぞれの道に別れてしまう事になっても。



今、この一時を一緒に。




fin



第17話 弱き者の祈り(第2期開始)へ続く
最終更新:2013年02月16日 03:57