「出発前夜」/◆BVjx9JFTno




明かりの消えた部屋。


夜目に慣れた目には、
このくらいでちょうど良い。


ずっと、部屋を眺めていた。


見慣れた風景。


丸いカーペット。
赤いカーテン。


お父さんの机。






引き出しを開ける。


学校で使ったノート。


「帰りにドーナツ食べよう!」
「寝てたら起こして!」


授業中に、ラブが横から書き込んだ文字が
あちこちにあり、私は少し吹き出した。



犬のしつけ方を綺麗に書いてくれた
ブッキーのノート。


美希がくれた、アロマの瓶。


お母さんの、ブレスレット。



引き出しを閉めかけ、
もう一度開いて眺める。


何度か繰り返し、ようやく
引き出しを閉めた。


机の上を、綺麗に片付ける。


クローゼットの中の洋服も
きちんとかけ直す。






机の上にある、
フォトフレーム。


ダンスレッスンの時に写した、
4人の写真。


手に取り、胸に抱く。


目を閉じる。



短かったけど、とても
輝いた日を過ごせた。



大切な、家族。
大切な、仲間。


お母さんのぬくもり。
お父さんの優しさ。


美希の声。
ブッキーの仕草。


ラブの笑顔。



ずっと、忘れない。






空が白んできた。



目を開く。


落ち着いている。
迷いは無い。


あの時と、同じ。


イースとして、最後の闘いのため
占い館を後にするとき。


あの時と違うのは、
胸に抱く気持ち。



両手にあふれるほどの
幸せをもらった。


今度は、私が返す番。



命と引き替えに、
すべてが元に戻る。



私は、大丈夫。


抱えきれないほどの幸せは、
次の生に、引き継ぐから。






服を着替え、鏡を見る。
いい表情。


そろそろ出よう。



荷物なんて、いらない。


そう長くは、かからない。
最終更新:2013年02月16日 18:12