「黎明」/SABI




ラビリンスに夜の帳が下りる。
私はラビリンスの幹部だけが入ることの許される、ビルの最上階から下界を眺めていた。


音もなく、光もない、ただ暗闇だけがそこに在る。高層ビルが林立する都市。
人影は全くない。総統メビウス様の指示の下、夜間の外出は禁じられているからだ。



先程のメビウス様の謁見を思い出す。
メビウス様直々にインフィニティ探索を命じられた。他の二人と一緒とは忌々しいが。
筋肉バカは取るに足らないにしても、もう一人は何を考えているか分からない。
まあいい。利害が一致している内は、私の邪魔はしないだろう。


今回の世界は、勉強も、仕事も、恋愛も、何もかも自由らしい。
自由とは態のいい言葉。無能な者共が勝手をすれば争いごとが増えるだけではないか。
優秀な指導者、そう、メビウス様の管理下、統制のとれた社会。争いも不満もない。
それが正しい、そうに違いない。だって、メビウス様がそう決められたのだから。



ビルの合間から白い光が少しずつ溢れだす。ラビリンスの夜が明け、朝が来る。



その時の私はまだ気づいていなかった。自分の中で何かが変わり始めていることを。



最終更新:2013年02月16日 18:38