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第10話 わたし達の物語~かのじょたちのものがたり~




                   ~いち~


 あるところに、あおいおんなのこときいろいおんなのこがおりました。


 あおいおんなのこは、きいろいおんなのこのことがだいすき。


 きいろいおんなのこは、あかいおんなのこのことをおもっていて。


 ふたりのきもちは、ずっとすれちがったままでした。


 でも、あおいおんなのこにきすされたきいろいおんなのこは、きがついたのです。


 じぶんにとって、あおいおんなのこがどんなそんざいなのか。


 そしてふたりは、ついにしあわせをげっとしました。





 ―――けど、きいろいおんなのこのなかで、あおいおんなのこはいちばんになれたのでしょうか。





                    1


 シュッ、と黄色い小ビンに入った香水を手首と耳の後ろに軽く吹き付ける。
 その匂いを嗅ぎながら、鏡の前で一回転。


「―――うん、これでよし、と。どこもおかしくないよね?」


 最後のチェックを済ませ、確認するかのようにわたしは鏡の中の自分に話し掛けた。
 この日の為に買っておいた秋物の花柄の黄色いワンピース。
 いつもよりちょっと派手なデザインだったから、ちょっと心配だったけど―――。


「……これなら美希ちゃんも気に入ってくれるよね」


 美希ちゃんと……友達以上の関係になったのが、夏の終わり。
 それから今日まで、学校やクローバー、プリキュアとしての活動が忙しくて。
 なかなか二人きり、って状況になれないまま、気が付けばもう秋の半ば。
 だけど――――今日は。


「……祈里?鏡の前で何をニヤニヤしてるの?」
「え?あ……」


 いつからわたしの後ろにいたのか、お母さんの声で我に返る。
 ……本当……頬が緩みっぱなしだわ……。


「……や、やだ……な、なんでもないの」



 軽く両手で頬を叩いて、お母さんを振り返る。
 お母さんはわたしの心を見透かしたように微笑んで。


「―――ま、祈里もお年頃って事よね。おめかししちゃって……デ・エ・トなんでしょ?」
「あ、で、デートなんて……うぅ……」


 からかうようなお母さんの口調に、恥かしくなって言葉に詰まってしまう。
 デート……そう、今日は美希ちゃんとの初デートなんだ……。
 今までだって二人で出掛けたりする事はあったけど……でも。


(こ、恋人としてって思うと……緊張しちゃうな……)


 押さえていた胸のドキドキが大きくなるのを感じる。
 デートコースなんかは任せてって美希ちゃん言ってたけど……わたしはどうしたらいいのかしら。
 何かできる事があれば……って言ってもいつもよりお洒落するくらいしか思いつかないし……。


「何?今度は不安そうな顔しちゃって……せっかくのデートなんだからもっと楽しそうにしなさい」
「楽しそうに……」
「そうよ。自分の一番好きな人とお出かけするんだから、楽しめばいいの。何も考えないで」


 ―――……一番好きな人
 お母さんの言葉が少しだけ心に引っかかる。
 まだ……わたしの中には残ってるんだ……。



 せつなちゃんという存在が。



 ―――どこかで断ち切らないといけないのに……。
 わだかまりを追い払うように軽く頭を振り、もう一度、鏡に写った自分に話し掛ける。


「――――今日はお母さんの言う通り……楽しめばいいのよ、祈里……」


 さっきまでは自然と笑っていたのに。
 今鏡の中にいる少女は、ただぎこちなく唇の端を吊り上げているだけだった。



                     *


「ご、ごめんなさい!美希ちゃん、待った?」


 待ち合わせ場所の公園。
 入り口から美希ちゃんの姿を見つけたわたしは、急いで彼女へと駆け寄った。


「待ったも何も……まだ約束の時間まで十分もあるわよ?そんなに慌てなくても……」
「で、でも美希ちゃんもう……」
「気にしないで。あたしが勝手に早く着きすぎただけだし……ほら、汗かいてる」


 バッグからハンカチを取り出して、美希ちゃんはわたしの汗を拭ってくれる。
 あ、この香りって……美希ちゃんも……。


「あ、ありがとう……」
「せっかくお洒落してるんだから……もっと落ち着いてよ、ブッキー」


 気が付いてくれたんだ……。
 それが嬉しくて、わたしは少しだけ笑顔を取り戻す事が出来た。


「え、えへへ……。み、美希ちゃんだって今日は素敵、よ?」


 全体的に彼女のイメージカラーである青を基調にしてる事は変わらないけど。
 いつもなら長く下ろした髪を、後ろでシニヨン風にまとめていて。
 何か……いつもより大人っぽい雰囲気。


「ありがと……ってお互いに褒めあってるのも恥かしいわね。ちょっと予定より早いから……少し公園の中でも散歩する?」
「?予定って……?」
「まだ内緒……さ、行きましょ」


 歩き出す美希ちゃんの後ろを、わたしもトコトコと追いかける。
 お互いに何を話すでもなく、ただ公園の中をゆっくり歩いて。
 だけど、不思議とそれだけでもわたしの心は満たされていた。


(いつも傍にいたのに、こんな事意識してなかったわ)


 美希ちゃんが隣にいる事が、いつの間にか当たり前になってしまってたから。
 こんな風に安らぎを与えてくれる存在だったなんて、気が付かなかった。


(一番好きな人―――か……)


 せつなちゃんの事が再び頭をよぎる。
 彼女に恋焦がれていた時は、ただ熱くて、黒い衝動がわたしの中にあるばかりだった。
 今こうして美希ちゃんと一緒にいるのとは正反対。
 そのどちらが一番好きだって事の証明になるのかは分からない。
 ―――――けど、やっぱりまだ……。


(……ダメ、難しく考えるのは悪い癖だわ……)


 今は楽しまないと。何も考えずに。



 ぎゅ。



「え……?」


 唐突に握られた手の感触に、驚いて顔を上げると、いつの間にか先を歩いていた美希ちゃんが隣を並んで
歩いていて。


「……こ、これくらいいいでしょ?こ、恋……人同士、なんだし……」


 真っ直ぐ前を向いて、目も合わさずにそう言う美希ちゃん。
 耳まで赤くして照れている様子が可笑しくて。


「ふふっ……そうよね。恋人さんだもん」


 手を繋いだまま、彼女の腕に寄り添う。
 今はただ、楽しもう。彼女の傍にいられる事を。
 この優しさに包まれている事を。


 わたし達は本来の待ち合わせの時間になるまで、ただゆっくりと公園を歩いていた。




                   ~に~


 きいろいおんなのこのこころのなかには。


 まだあかいおんなのこへのおもいがのこっていました。


 じぶんにとってのいちばんはだれなのか。


 かのじょは、まだそれをきめかねています。


 あかいおんなのこへは、まるでひのようなはげしいこいごころを。


 あおいおんなのこへは、まるでみずのようなしずかなこいごころを。


 まったくちがうふたつのきもち。


 はたしてかのじょはそのうちのどちらをえらぶのでしょう?



                     2


 公園での散歩を楽しんだ後、わたし達は電車に乗って、隣町まで移動した。
 美希ちゃんが言うには、最近出来たいい場所があるんだって。


「結構考えたんだけど……初めてのデートにはね、どうしてもそこに行きたいの」


 手を繋いだままで、わたし達が着いたのは……。


「プラネタ……リウム?」


 ロマンチックだけど……美希ちゃん星とか詳しかったかしら?
 チケットを買い、休日だという事もあって多少込み合っているホール内に入る。
 席に着いてしばらく待つと、アナウンスと共に場内が暗くなった。


『四季の夜空を彩る星々……まずは春から―――』


 ドームの天井に映し出される星達。
 顔を上へと向けてそれらを眺めながら、思わず呟いてしまう。


「綺麗……」


 イミテーションと分かってはいても、その星々の煌きにわたしは目を奪われた。
 クローバータウンだって夜空は綺麗に見えるけど、こうまではっきり見えることなんてあまりないもの。


『次は夏の夜空。<夏の大三角>として有名な琴座のベガ、白鳥座のデネブ、鷲座のアルタイルは―――』


 わたしの手を握っていた美希ちゃんの手に力がこもる。
 ―――?美希ちゃん、どうしたの?


「……これはね、ブッキー、自己満足みたいなものなんだけど……聞いて欲しいの」


 わたしにだけ聞こえるように、小さな声で美希ちゃんが呟く。


「夏のね、お祭りの時。あたし、初めてあなたの……せつなへの想いを知ったの。夜空を見上げてたブッキーの……涙を堪えている姿を見て」


 ―――え?
 あの時の事……見てたの?


「本当なら、こうしてブッキーの手を握ってあげたかった。いつもみたいに。―――だけど」


 美希ちゃんの手が震えているのが伝わってくる。
 わたしは美希ちゃんの横顔へ顔を向けたけど、彼女はまだ夜空を見上げたまま。


「あなたの傍に駆け寄る事すら出来なくて……その事がね、ずっと後悔として胸の中にあったの」
「美希……ちゃん……」
「この夏は……すごく色んな事があって……それであたし達付き合う事が出来たけど……それだけはもうどうしても取り戻せない―――だから、せめて同じように夏の夜空を見ながら、伝えたかった」


 思い切るように息を大きく吸い、美希ちゃんはやっとわたしへと顔を向けた。




「あたしが、いるわよ。ブッキー。あなたの傍にはいつだって。楽しい時だけじゃない。悲しい時も、苦しい時も、こうやって手を握っててあげる」




 真剣な眼差しでわたしを見つめる美希ちゃん。
 彼女の言葉を聞いているうちに、何故だかわたしは……嬉しいのに……泣きそうになって。
 ポスン、と彼女の胸に頭を埋める。


「ありがとう……美希ちゃん……」
「ぶ、ブッキー、泣いてるの!?ゴメン。変な事言っちゃった?」
「ううん……ふふ……なんか結婚式の誓いみたいだね」


 星空を二人で見上げる。
 秋、冬と変わり行く天空の星々。
 現実で季節が変わっても、年月が過ぎていっても、いつもこうしてあなたといたい。
 せつなちゃんじゃなくて……美希ちゃんと……。



                       *


 星々の輝きが消えて、場内の明かりが点く。
 周りの観客達が次々と立ち上がる中、わたし達はしばらく余韻に浸るかのように座ったままだった。


「そろそろ行かないと、ね。美希ちゃん、次はどこへ―――」


 そこまで言って立ち上がったわたしの目が、座っている彼女の首の後ろに釘付けになった。
 今までは美希ちゃんの方が背が高いし、場内が暗かったりして気がつかなかったけど……。
 ―――?赤く…なってる……?


「ん、ちょっと待ってね。えーっと……」


 何かを確認するように、手帳を開いている美希ちゃん。
 彼女はわたしの視線には気が付いてないみたいだけど。


「―――ねぇ、美希ちゃん。最近……どこかにぶつかったりした?……首……とか……」
「?何?ラブじゃないんだから……そんなおっちょこちょいな事しないわよ」
「―――そう―――」


 彼女の首に残っている赤い痣のようなもの。
 それが何かにぶつかったりしたものじゃなければ……。



(キス……マーク……?)



 わたしの通っている白詰草は清純なお嬢様学校だけど。
 その中にも何人かはませている女の子達もいて……見せてもらった事があった。
 でも……美希ちゃんが……誰と?
 今までの言葉は……わたしを好きだって言ってくれたのは……嘘だったの?


「よし、じゃあ次は、と。―――?どうしたの?ブッキー?」
「―――ううん……何でもない……」


 言葉とは裏腹に胸の内に暗いものが湧き上がるのを感じる。
 疑念と嫉妬、そして―――失望。


(美希ちゃん……わたしは間違っていたの……?)


 さっきまでの優しかった気持ちが次第に消えていく。


「さ、ブッキー、行きま……どうしたの?顔色悪いけど……?」



 立ち上がり、わたしの顔を覗き込む彼女。


「何でもないって……気にしないで」
「そ、そう?ならいいんだけど……じゃあ行きましょうか」


 美希ちゃんは心配そうに、そっとわたしの手を引き、歩き出そうとする。
 だけどわたしは―――。


「え……ブッキー……?」


 唐突に振りほどかれた手に、美希ちゃんは驚きの声を上げた。
 わたしは無言のまま、黙って一人場内を出る。


「…………」
「ちょ……ちょっと待ってよブッキー!」


 彼女の伸ばされた手もその声も、今のわたしには届きはしなかった。



                   ~さん~


 きいろいおんなのこのなかで、あかいおんなのこへのおもいがうすれはじめたのに。


 ぴんくいろのおんなのこがのこしたいたずらが、かのじょをくるしめます。


 きいろいおんなのこのこころには、くろいおもいがうずまいて。


 あおいおんなのこのおもいなんて、もうとどきはしません。


 ふたたびすれちがいはじめるふたりのこころ。


 とおざかりはじめるふたりのきょり。


 ふたりは、このあとどうなってしまうのでしょうか。



                    3


「―――それでそれで?この後黄色い女の子と青い女の子はどうなるの?」
「えー?これで終わりなんだけど……」
「……ラブ……ちっとも終ってないじゃないの」 


 わはー、とごまかすように笑うラブお姉ちゃんに、あたしだけじゃなく、せつなお姉ちゃんまで不満げな様子。


「つまんないつまんないー!ここからが一番いいところなのにー!!」
「物語としては破綻してるんじゃない?それ……」
「う……千香ちゃんが退屈してるっていうから……せっかく作ってきたお話だったのに……」


 ここはあたしの病室。
 退院を間近に控えたあたしを、ラブお姉ちゃんとせつなお姉ちゃんがお見舞いに来てくれていた。
 日頃から何か面白い事ない?って言っていたあたしに、ラブお姉ちゃんが絵本を描いてくれたんだけど。


「これでも頑張ったんだよ?だけどこれくらいまでしか見当がつかないし……」
「?変な言い方ね?ラブの作ったお話じゃないの?それ」
「い、いやそうなんだけどね……この後どうなるかまではまだ……」


 困ったようなラブお姉ちゃんに、せつなお姉ちゃんは腕組みして。


「……それにしてもそのピンク色の女の子の悪戯は酷いわね……頭にくるわ……」
「そーそー、ひどいよね!二人の仲を引き裂くような真似して!」
「本当よ!目の前にいたら精一杯叱ってあげたくなるくらい!」
「ふ、二人とも……そ、そんな悪いコじゃないんだよ?ピンクの女の子も……」


 必死にピンク色の女の子の肩を持つラブお姉ちゃん。
 その様子が可笑しくて、あたしとせつなお姉ちゃんは笑ってしまう。


「お話の中の事なのに、ヘンなの~」
「あ、そ、そうだよね……は、はは……」


 ラブお姉ちゃんは何故かホッとした様子。


「で、ラブ。この後……何となくでも考えてないの?気になるわ」
「あたしも気になる~!教えて教えて~!」
「う~ん……この後、かあ……」


 立ち上がり、ラブお姉ちゃんは窓辺へと移動した。
 あたし達に背中を向けて、ラブお姉ちゃんは空を見上げながら。


「……絵本だからさ。よくある終わり方すると思うよ。この後……何があったとしても」 


 ラブお姉ちゃんの顔はあたし達からは見えなかったけど。
 でも……何でだろう。




「きっとあのコ達なら……何があったって……ね」




 ラブお姉ちゃんは少し泣いてるように……あたしには見えた。



                       *


 人の多い大通りを、わたしは早足で歩いていく。
 後ろからは美希ちゃんの呼ぶ声がするけど……速度を緩めないままで。
 そんなわたしの肩に、彼女の手が置かれた。


「待ってってば!どうしたのよ、ブッキー……」
「別に……どうもしてない」


 彼女を振り返る事もせず、暗い声で返事をする。


「どうもしてないワケないじゃない……ねえ、あたし……何か気に障るような事した?」
「…………」


 とぼけてるの、美希ちゃん?
 それとも、わたしならその首の痕に気が付いても怒らないとでも思った?


「ブッキーってば―――――」


 足を止めたわたしの前に、美希ちゃんが回り込んだ。
 心配そうにわたしを覗き込んでくる彼女の顔から―――目を逸らす。


「ねえ……お願いだから何とか言って……あたしが悪いなら謝るし……な、何でもするから……」
「―――何でも?」


 必死って言ってもいい美希ちゃんの懇願に、わたしの中の黒い気持ちが反応する。
 何でも……してくれるんだ。
 ―――じゃあ。



「キスして」



「キ―――」


 わたしの言葉が予想外だったのか、一瞬言葉に詰まる美希ちゃん。
 その様子を見て、わたしは少し歪な笑みを浮かべた。


「今すぐ、ここでキスして。何でもしてくれるんでしょう?だったら―――」


 無理を押し付けてる事は分かっている。
 周りには大勢の人たちが歩いてるし、もしそんな事したら好奇の目で見られるのは確実だもの。
 それに読者モデルをやってる美希ちゃんが、もし気が付かれたとしたら大変だものね。
 さあ、どうするの?美希ちゃん?



 ――――――やっぱり嫌なコだな、わたし……。



 目が潤み出すのが分かる。
 こんな女の子じゃ……美希ちゃんが浮気してても……何も言えないわ……。



 そう考えて俯いたわたしの顎を、美希ちゃんの手が持ち上げた。


(―――え?)


 驚いて、逸らしていた目を美希ちゃんへと戻した時、わたしの唇に。


 ―――彼女の柔らかな唇が静かに重なって。



 頭の中がぐるぐると回っている。


 ―――美希ちゃん、ダメだよ!皆見てる!


 ―――もし美希ちゃんがモデルさんだってバレたら大変だよ!


 ―――どうして?どうして平気でこんな事が―――。


 混乱するわたしの左手を、彼女の右手が握り締める。
 壊れやすい大切な物を守るかのように、優しく。
 わたしもいつしか、その手の感触に身を任せるように、そっと目を閉じた。



 唇が離れ、わたしが再び目を開けた時、そこには微笑む美希ちゃんの顔があった。


「―――これでいい?ブッキー……」
「………あ……う、うん……」


 ぼうっとしたままの頭で、なんとか返事を返すわたし。
 やがて徐々に意識がハッキリしてきて。


「!!み、美希ちゃん!!」
「……やっとあたしの目を見てくれた……」


 空いている左手を背中へと回し、美希ちゃんはわたしを抱きしめる。


「……さっき言ったばかりじゃない……悲しい時も、苦しい時もあたしがいるって……。今だって……」


 繋がれた手に、力が込められた。
 まるで、わたしの中の黒い思いを流し去ろうかとするように。



 ―――バカだな、わたし。



 ―――美希ちゃんを、疑っちゃうなんて。



 ぽろぽろと涙が零れ落ちる。


「ブッキー!だ、大丈夫?!」
「え、えへへ……だ、大丈夫。今日は泣いてばっかりだね……初めてのデートなのに」



 涙を拭いて、わたしも右手を彼女の背中に回す。
 左手には、彼女の想いに答えるように力を込めて。


「―――ねえ、美希ちゃん。少しかがんで……首を向こうに捻ってくれる?」
「?え?ブッキー……何を……?」
「いいから……お願い……」


 不思議そうにしながら、美希ちゃんが首を少し捻る。
 そして、わたしの前には、例のキスマー……赤い痣が。
 躊躇う事もせず、わたしはそこに口付けた。
 ―――少し美希ちゃんがくすぐったそうな声を漏らしたけど……。




 結婚式なら、これは、誓いのキス。




 もう二度とあなたの傍を離れたりしないように―――。




 赤い痕を覆い消そうとするように、激しく、強く、わたしは口付け続けた。




 ちゅ……と音を立てて、唇を離した。
 それから首を戻した美希ちゃんと、お互いに見つめ合う。


「な、なんだったの……今日は分からない事ばかりだわ……」


 首筋を撫でながら、不思議そうにしている美希ちゃん。
 わたしはそんな彼女に微笑んで。




「いいの!分かって欲しいのは―――美希ちゃんがわたしの一番なんだって事だけなんだから!」




 大好きだよ、美希ちゃん。
 この世界の誰より、あなたが好き。
 そう、今なら―――それが言えるわ。


 そして―――さよなら。せつなちゃんへの想い。



「あ……」


 わたしの言葉に、顔を真っ赤にする美希ちゃん。
 その様子を見て、わたしはクスッと笑ってしまう。
 ――――――そして、ハッと気が付いた。


「み、美希ちゃん……ま、周り……」


「周り……って?えっ!?」


 いつの間にか周りでは、道行く人々が足を止め、呆然と、あるいは頬を赤らめながらわたし達を見つめていた。
 その状況に、わたしの顔も熱くなって―――――。


「み、みんな見てるよ……ど、どうしよう……」
「あ、そ、そうね!とりあえずこの場を離れなきゃ―――」


 オロオロするわたしの手を引き、美希ちゃんは駆け出した。


「―――ね、ねえ美希ちゃん、この後はどこへ行くの!?」


 わたしの問いかけに、美希ちゃんは微笑んでウィンクする。


「あたしのデートプランは、完璧!なんだから!楽しみにしておいて!」


 その言葉に、わたしもニッコリ笑顔を返す。
 ―――そしてもう離したりしないように、繋いだ美希ちゃんの手を強く握り締めた。




「勿論―――わたし、信じてる!!」





 あなたが傍にいてくれるなら、きっと。




 どんな事があったって、楽しいものになるって、ね。




 デートだけじゃなくて。




 これから先も、ずーっと続いていく……。







 わたし達の物語も―――――――――……。










                   ~よん~


 こうして、あおいおんなのこはきいろいおんなのこのいちばんになったのです。


 そしてふたりのおんなのこは、それからもしあわせにくらしたのでした。


 いつまでも、いつまでも。


 ずーっと、ね。



 ……ちょっぴり、くやしいけど。




 めでたし、めでたし。





                        おしまい









                                       了
最終更新:2013年02月14日 00:44