八つめの光/一六◆6/pMjwqUTk
「あら? ちょっと、あなた」
「え? 私……ですか?」
「そう。あなた昨日、蒼乃美希さんと一緒じゃなかった?」
「……え?」
「あ、驚かせちゃってごめんなさい。あたし、蒼乃さんと知り合いなの。仕事でこの町に来てるんだけど、昨日、商店街であなたたちを偶然見かけてね。女の子たち、四人くらいいたかしら。あなたも一緒だったわよね?」
「あ……はい」
「ああ、あたし、別に怪しい者じゃないのよ。こう見えても、モデルなの。彼女とは、同じオーディションを受けたことがあって、それで知り合ったの」
「そうなんですか」
「ねぇ。彼女、まだティーン雑誌の読モで満足してるのかしら。それとも何か、ほかのオーディションも受けてるの? いや、オーディションじゃなくても、ほかの仕事もしているとか……」
「……」
「嫌だ、あたしったら矢継ぎ早に……。あなたも、彼女のモデル仲間?」
「いいえ、違います」
「そう。じゃあ、学校のお友達かしら」
「いいえ」
「なら……」
「一緒にダンスをやっている、仲間です」
「まあ。彼女、ダンスなんかやってるの?」
「ええ。仲間たち四人で、ダンスユニットを組んでいるんです」
「ふぅん……。呑気なものね」
「えっ?」
「あら、ごめんなさい。あなたのことじゃなくって、彼女のことよ。だって、そうでしょ?モデルとして世界を目指すなら、決して早すぎる年齢じゃないのに、そんな回り道して……。やっぱり、普通の家の子とは違うのよね」
「それ……どういう意味ですか?」
「どういう意味って……その通りの意味よ。だって、彼女が何をしようが、最後は結局、力になってくれる強い味方が付いているんだもの」
「強い……味方?」
「ほら、よく言うじゃない?彼女みたいな親を持った人のこと、世間では……」
八つめの光
日曜日の、少し遅めの朝。天使の像の前に見慣れた顔を見つけて、アタシは思わず足を止めた。
端正な顔立ちを引き立てる、セミロングの黒髪。肩にかかる毛先が、女の子らしい柔らかさを補うように、くるりと自然にカールしている。紺色のジャケットがよく似合う、色白の肌と清楚な雰囲気。ホント、本人の無頓着さに腹が立つくらい、遠目で見ても輝かしい魅力を放っている彼女。
東せつな。アタシの親友だ。
でも、アタシの方が先に気付くなんて、珍しいな。いつもならもっと離れていても、必ずせつなの方から、嬉しそうに駆け寄ってきてくれるのに。そう思ってよく見ると、彼女はどうやら誰かと話をしているらしい。相手は誰だろうとそっとうかがって、アタシは驚きに目を丸くした。
(……涼子さん?)
ふんわりとした栗色のロングヘアに、知的な光を宿した大きな目。この容貌は、見間違えるはずがない。
夫婦坂涼子さん。最近テレビでもたまに見かける、高校生モデルだ。アタシとはオーディションでたまに顔を合わせる程度の仲だけど、いつも凛と前を向く姿勢に、アタシを含め、憧れるモデル仲間は数多い。でも……彼女がどうして、せつなと?
アタシは少し迷ったけど、せつなに気付かれないように、ゆっくりと踵を返した。かなり大回りをして、そっと彼女たちに近づく。そして、天使の像の後ろに隠れて、彼女たちの会話に、こっそり耳を傾けることにした。
そりゃあ、立ち聞きなんて悪いとは思ったけど、どうしても、せつなが心配だったのだ。何だか二人の間に、イヤな感じの緊張感が漂っているように見えたから。
「失礼ね。それ、どういう意味よ!」
え? 思った通り?
涼子さんが鋭い口調でせつなに迫るのが聞こえて、アタシの心臓が、ドキンと跳ねあがる。
「そんなワケないでしょう? あたしの両親は、ちゃんと居るわよ。ちゃんと一緒に暮らして、あたしのモデルとしての活動を応援してくれているわ。それがどうしたのよ!」
苛立ちを隠そうともしない声。涼子さんって、こんな喋り方もするんだ……。憧れの先輩の、見たくない部分を見てしまった気がして、アタシはそっと目を伏せる。ところが、続いて聞こえてきたせつなの声は、とても穏やかで、そして何だか嬉しそうだった。
「良かった……。あなたのご両親も、あなたの一番の、強い味方なんですよね?」
「何言ってるの? あなた。そういう意味で言ってるんじゃないでしょう! あたしの両親はね、普通のサラリーマンと、ただの専業主婦なのよ。蒼乃さんとは違うの!」
あー……アタシの名前が出てきたところで、何となく、話の流れが読めてしまった。涼子さんが、せつなに何を言ったのか。そして、細かいところまではわからないけど、せつながそれを、どんな風に受け取ってしまったのかも。
せつなはどうやら、果敢にも、涼子さんを説得しようとしているらしい。うーん、説得、というのとは違うかな。なだめようとしてる、って感じかも。どっちにせよ、せつなには気の毒だけど、せつなが言葉を重ねれば重ねるほど、涼子さんが苛立つだろうということは、アタシにも想像がつく。
ここは出て行かざるを得ないだろうけど……どのタイミングで出て行くべきか。アタシはきっかけを掴むべく、二人の話に再び耳を傾けた。
ところが、その直後に聞こえてきたせつなの言葉で、アタシの作戦は、完全に狂ってしまうことになったのだ。
「そんなことないです! 私のお父さんもサラリーマンだし、お母さんは主婦です。二人とも、いつも私のことを見守ってくれて、応援してくれて、心配してくれて……七つどころじゃない、本当にたくさんの光を、毎日もらっているんです。あなたも、そうじゃないんですか? あなたのご両親は、あなたの力になってくれる、大切な光じゃないんですか?」
アタシはその言葉を聞いて、不覚にも泣きそうになってしまった。
せつなの、桃園家の両親に対する、まっすぐな気持ちが伝わって来たから。そして、少し声を震わせながらも、何とか涼子さんに思いを伝えようとしている、その心が感じられたから。
だからつい、口に出して呟いてしまったのだ。「せつな……」と。
たった一言だったけど、至近距離にいるせつなに、これが聞こえないハズが無い。
「え? 美希?」
「あ……」
こうして、完璧なタイミングで颯爽と登場する機会を自分でつぶしてしまったアタシは、引きつった笑みを浮かべながら、二人の前に姿を現す羽目になった。
「あ、あ、蒼乃さん! あなた、いつからそこに……?」
金魚のように口をパクパクさせながら、一歩、二歩と後ずさる涼子さん。
「あの……お久しぶりです、涼子さん。よ、四つ葉町へは、お仕事で?」
アタシもどぎまぎしながら、彼女と向かい合う。
「え、ええ。お昼の番組のレポーターで、四つ葉町公園に出ているドーナツカフェに……って、そんなことはどうでもいいのよっ!」
こちらのペースに巻き込まれかけていた涼子さんが、我に返って怒りをあらわにした。
「蒼乃さんっ!」
「は、はいっ」
涼子さんが、いつもの涼しげな目元とは打って変わった、厳しい目つきでこちらを睨む。てっきり立ち聞きしていたことをとがめられると思ったアタシは、彼女がビシッとせつなの方を指さしたのを見て、ハッとした。
「何なのよ、この子。突然、あたしの両親は健在かとか、あたしの強い味方だろうとか。どうせあたしは、しがないサラリーマンの娘よ。蒼乃レミの娘だっていうだけでちやほやされる、あなたなんかと違って……」
「親の七光りは望めない、ですか?」
気が付いたら、アタシは彼女の後を引き取っていた。アタシの言葉を聞いて、涼子さんの目が泳ぐ。
やっぱり。涼子さんがせつなに言ったのは、この言葉だったんだ。その確信と、隣でオロオロしているせつなの姿が、アタシに覚悟を決めさせた。
「ごめんなさい、涼子さん。せつなは、まだこの国に住んで日が浅いので、よくわかっていないことも、色々あるんです」
「何それ。帰国子女かなんかなの? この子」
涼子さんの視線が、アタシとせつなの間をせわしなく行き来する。何だかひどく落ち着かないその態度が、いつもと違って、彼女をとても弱々しく、自信なさげに見せる。
「とにかく、『親の七光り』なんて言葉、彼女は知らなくて当然なんです」
そう、アタシは嘘はついてない。こんな言葉、本当はせつなに教えたくなんかなかったもの。
「でも、涼子さん。アタシ、せつなの言ってることは、正しいと思います。アタシにとっても、母は大切な光です。でもそれは、母が元アイドルの蒼乃レミだから、というわけじゃないんです」
不安そうな顔をしているせつなに、大丈夫よ、と微笑みかけ、目の前の彼女に向き直る。
「母はとっくに芸能界を引退して、美容師の仕事をしていますし、アタシのために便宜を図ってくれたことなんて、いっぺんだってありません。もちろん、アタシが蒼乃レミの娘であることは事実だから、そのこと自体が親の七光りだと言われれば、そうだと思います。でもだからこそ、アタシが甘えた生き方をすることで、『蒼乃レミ』を汚したくはない。そう思っています。母が、アタシにたっぷりの愛情を注いでくれていること。そして、そんな母に恥じないように、生きていきたいと思えること。それこそが、アタシにとっての、親の七光りです。だから、せつなの言ったことは、言葉の意味を考えればちょっとズレてるかもしれないけど、本当にそうだと思うんです、アタシ」
自分でも不思議なくらい、自分の気持ちを正直に、まっすぐに、涼子さんにぶつけた。普段、仲の良いモデル仲間にだって、こんな話、したことなんか無い。さっきのせつなの言葉を聞いて、アタシも彼女に……何だか今日は、やけに小さく見える彼女に、本当の気持ちを伝えなきゃ、そう思ったのだ。
「だったら、オーディションをすっぽかして、トップモデルになれるチャンスをみすみす棒に振ったり、モデルに専念しないでダンスにうつつを抜かしていたりするのは、どうなのよ」
涼子さんの方も、ストレートに反撃を開始する。ラブとブッキーのピンチを見過ごせずに途中で会場を飛び出してしまった、あのオーディション。そう言えば、あのとき最終審査に残ったうちの一人は、涼子さんだったと後から聞いた。残念ながら、選ばれたのは別の人だったそうだけど。
「あのオーディションのときは……詳しくは言えませんけど、どうしてもアタシじゃないとダメな、とても大切な急用が出来てしまって……。だから、後悔はしていません」
これも……全然説明になっていないけど、嘘じゃない。本当のことを話すわけにはいかないんだから、これ以上言い様がない。
「ダンスのことも、単にうつつを抜かしてるわけじゃありません。やるからには完璧に、そう思って頑張ってます。アタシ、父から言われたことがあるんです。ひとつの目標に向かって、それだけに集中することが必要な時期もあるけど、いろんなことを経験することによって、人は豊かになれるんだって。その経験は、ひとつとして、無駄にはならないんだって……。モデルの業界のことなんて、何も知らない父ですけど、アタシは今、ダンスをやっていて、本当にそうだな、って思うことがたくさんあるんです。だから、モデルの仕事もダンスも、今出来ることを一生懸命やりたいって、そう思ってるんです」
きっと、わがまま娘の言い訳に聞こえるだろうな、と思った。プリキュアのことは言えないし、ダンスのことだって、トップモデルになるために一心に努力している涼子さんには、子供じみた理屈に聞こえるだろう。
でも、これがアタシの本心だから……そう思って、涼子さんの射るような視線に負けないように、ぐっと瞳に力を込める。
どれくらいの間、にらみ合っていただろう。
「ふん……まぁ、いいわ」
もっと攻撃されるかと思ったのに、涼子さんはそう言って、うっすらと笑った。
「あなたがそう言うなら、お手並み拝見といきましょう。あたしだって負けないわよ。今はローカル番組のレポーター止まりだけど、そのうち必ず、あなたと世界で競ってみせるわ」
涼子さんは力強くそう言うと、少しの間、せつなの顔をじっと見つめてから、くるりとアタシたちに背を向けた。
駆け足で去っていくその足取りは、何だかさっきまでの様子とは打って変わって、力強く、堂々としていて……。彼女の姿が見えなくなるまで、アタシとせつなは、無言でその背中を見送ったのだった。
「美希」
しばらくして、せつながおずおずと口を開いた。
「あの人、美希の友達?」
「友達というより、先輩ね。高校生モデルなの。それほどよく知ってるわけじゃないんだけど」
「そう」
せつなは小さくため息をつくと、上目づかいにアタシを見た。
「私……やっぱり、ヘンなこと言ってたわよね」
アタシはニヤッと笑って、せつなの肩をポンと叩く。
「そうね。かなりヘンだったけど……かなり、いいこと言ってたわ」
「もうっ」
安心したように拗ねてみせるせつなに、アタシの方は、少し真剣な顔になる。
「それにしても、どうしてあんなにムキになって、彼女をなだめようとしたの? 『親の七光り』が、そのままの意味じゃなくて諺だってことくらい、想像ついたでしょ?」
「ええ。でも……何となく、わかっちゃったから」
「何を?」
「あの人が、美希のことを、とっても……苦しいくらいに、羨ましいと思っているんだな、ってこと」
「……涼子さんが?」
「うん。だから、最初はてっきり、家族が居ない人なのかと思った。そうじゃなくて、良かったわ」
そう呟くせつなの照れ臭そうな笑顔に、アタシはまた鼻の奥がツンとしてきて、慌てて、行こう、とせつなをうながした。
買い物に行く途中だったというせつなと、商店街を並んで歩く。アタシもママに、買い物を頼まれていた。
頬をなでる風が冷たい。もうそろそろ、冬が近づいているようだ。
「それにしても、『親の七光り』なぁんて言葉、せつなに教えたくなかったなぁ」
「とってもきれいな響きなのに、あんまりいい言葉じゃないのね」
「うーん、そうね。普通は、あんまり良い意味には使われないかな」
「美希は……よく言われるの?」
心配そうに、言いにくそうに、こちらを覗き込むせつな。アタシはその顔を見て、もう一度、ニヤリと笑う。
「まあ、あのママの娘で、モデルなんかやってるからね。でもアタシ、さっきのせつなの解釈も、全然アリだと思ってるから」
「もう、からかわないでよ」
せつなの頬が、うっすらと赤く染まる。アタシは調子に乗って、さらに言葉を続けた。
「七つどころじゃない光って、確かにそうよね。だって、ママやパパだけが光じゃないもの。弟の和希もそうだけど、せつなやラブやブッキーも、モデルとしての蒼乃美希じゃない、本当のアタシを、応援してくれるじゃない? 親の光が七つあるんだとしたら、アタシにとっては、八つめの光だわ」
うつむいたせつなの顔は、髪に隠れて見えないけど、真っ赤になっているのがアタシにはわかる。普段のきりっとしたせつなも魅力的だけど、こういうときのせつなって、ホントかわいいのよね。
アタシは、うつむいたまま黙ってしまったせつなの隣りで、彼女に気付かれないように、そっと頬をゆるめた。
「ところで、美希」
しばらくして、せつなが今度は上目づかいでなく、まっすぐアタシを見て問いかけてきた。
「『親の七光り』って、どうして『七』なのかしら。何か特別な意味があるの?」
ぐっと詰まった。小さい頃から言われ続けてきた言葉だけど、そう言われれば、そんなこと考えてみたことがない。
「え、えーっと……数が多い、って意味じゃないかしらね」
「知らないのね」
せつなの言葉が、まっすぐにアタシに刺さる。そう……そして、こういうときのせつなは、ホントに容赦ないんだったわ。
「ゴメン」
「美希があやまることじゃないわ。あとで調べるか……ブッキーに訊いてみる」
「もうっ、せつな!」
珍しく、いたずらっ子みたいな目をしたせつなを、アタシは軽くにらんで、そして思わずふき出した。
この話には、実は続きがある。
翌日、ダンスレッスンに出かけたアタシは、カオルちゃんの店の前で、知り合いのカメラマンに出会った。
「やあ、美希ちゃん。そう言えば、この近所だったよね」
「こんにちは。あれ? 撮影……だったんですか?」
店の前でカメラを片付けている彼を見て、アタシは首をかしげた。向こうでは、プロデューサーらしき人とカオルちゃんが、なにやら盛り上がって大笑いしている。
「そうだよ。四つ葉テレビの、『四つ葉のアナバ』って短い番組、知ってるでしょ? あれで、カオルちゃんの季節限定ドーナツ、取り上げたんだ」
「えーっと、レポーターは、涼子さんですよね? 夫婦坂涼子さん」
昨日の朝、レポーターの仕事で来たと言っていた彼女。だからてっきり、撮影は昨日だったんだろうと思っていた。
「そうそう。なんかさぁ、大変だったらしいよ。一昨日と昨日、彼女が行方不明だったんだって」
彼はプロデューサーの方をうかがってから、急に小声になって、アタシにささやいた。
「え? 行方不明?」
「そう。打ち合わせにも現れないし、マネージャーも彼女と連絡つかなくなっちゃってさぁ。そしたら昨日の午後になって、ひょっこり帰ってきたんだって」
「何かあったのかしら」
そう言われれば、昨日の涼子さんは、なんだかいつもと様子が違っていた。うわさ話に首を突っ込むみたいでイヤだったけど、どうしても気になって、そう尋ねてみる。
「最近、気の毒なことがあったからねぇ。高校生モデルを集めて、振袖のファッションショーをやるって企画があってさ。結構大きな企画で、涼子ちゃんも候補に入っていたんだけど……直前で、別の子に決まっちゃったらしくて」
そう言って、彼が挙げたモデルの名前。それは、まだ駆け出しだけど、確か父親がテレビ局の重役で、コネが効くといううわさのある人だった。
―――あの人が、美希のことを、苦しいくらいに羨ましいと思っているんだな、ってこと。
昨日のせつなの言葉が、胸に響く。
なるほど、と思わず深刻な顔で頷いたアタシは、怪訝そうな彼の表情に気付いて、慌てて笑顔を作った。
「でも、良かったですね、涼子さんが戻ってきて」
「そうだよね。なんか彼女、吹っ切れたんじゃないかな。今日の撮影、とっても良かったんだよ。なんかさ、目が違うんだよね。ファインダー越しに覗くと、こう、キラキラしててさ」
昨日の別れ際の、涼子さんの言葉を思い出す。いつか必ず、あなたと世界で競ってみせる――後輩のアタシに、そんなことを宣言して去っていった彼女。あれは、アタシに対して言ったんじゃない。自分に言い聞かせる言葉だったんだなって、今になってみれば、よくわかる。
(涼子さん。アタシも負けないように、頑張りますから)
心の中でそう呟いたとき、カオルちゃんの相変わらずの大声が、耳に入った。
「あーっ、それからさあ。レポーターのお嬢ちゃんに、これ持って行ってよ。親御さんに食べさせてあげたいって、言ってくれたからさあ。カオルちゃん特製・愛情たっぷりドーナツの詰め合わせ! おじさんの愛情も、たっぷり詰めといたよぉ~。なんちって。グハッ!」
ドーナツカフェを後にして、公園の奥へと向かいながら、アタシは自分がいつの間にか、やさしい笑顔になっているのに気付いた。
(せつな。あなたの気持ち、彼女にちゃんと伝わってたわよ。やっぱりあなたはアタシにとって、間違いなく、八つめの光だわ)
嬉しさと誇らしさを胸に、ステージへと駆けるアタシの足元で、落ち葉が一足先に、くるくるとダンスを踊る。
「あ、来た来た」
「美希たん、遅刻~!」
「遅いわよ、美希」
迎える仲間たちとアタシの上に、明るい午後の日差しが降り注ぐ。
アタシは三人に向かってペロリと舌を出してから、澄ました顔で、自分の立ち位置へと歩いていった。
~終~
最終更新:2013年02月16日 21:00