Soldier In Town/◆BVjx9JFTno




「せつな、ブッキーが今日どこに行くかとか聞いてた?」


ラブが私の部屋に入ってきた。


「ううん、別に聞いてないよ」


「そっか...まだ帰っていないってブッキーの家から電話あったから...」


時計を見る。夜11時をとうに回っている。


「携帯も出ないし...何もないといいけど...おやすみ」
ぶつぶつ言いながらラブは自分の部屋に戻った。


読みかけの本に目を戻すが、何か胸騒ぎがする。


ブッキーとは、ダンス合宿でお互いを知ってからは
よく一緒に図書館や買い物に行っていたが、いつも
夜8時には家に戻るように予定を組んでいた。


そのうち胸騒ぎは嫌な予感になり、本の内容も
頭に入らなくなってきた。


服を着替え、アカルンを呼び出す。
「キィ」


いつも陽気な声で出てくるアカルンも、私の気持ちを
察したのか、真面目な表情をしている。


「ブッキーの居るところへ」


赤い光が私を包んだ。


光が消えると、そこは閑散とした路地だった。
四つ葉町にこんな場所は無い。


周りを見渡すより前に、声が聞こえた。


「やめてください...離してください...」
聞き覚えのある声が小さく聞こえる。


それをかき消すかのように、男達の声が聞こえる。
「あきらめろよ。ここまできたら叫んでも声聞こえないし」
「つかマジでおっぱい大きいよなぁ。俺にも触らせろよ」
「まてよ俺が終わってから!先にこいつ狩ろうって言ったの俺だし」


声の方を向くと、ブッキーに男3人が覆い被さっていた。
ブラウスは半分破られ、下着が見えている。
色々と触られているが、まだ最悪の事態には至っていないようだ。
ブッキーの表情は絶望と悲しみでで覆い尽くされている。


嫌な予感が的中した。


「ブッキー!」


大声を出してブッキーに走り寄る。


「...せつなちゃん...?」


「なんだよお嬢ちゃん。お友達かい?」
「おほっ、こりゃまたおいしそうなカラダしてんねぇ」
男達が私の方に寄ってくる。


ブッキーの表情がみるみる変わり、涙があふれている。
助けてって言うんでしょ。言うまでもないわ。そのために来たんだもの。


ところが、次に出てきた彼女の言葉は私の予想とは
違っていた。


「せつなちゃん!逃げて!はやく逃げて!」


「ブッキー...」


この期に及んでも、友達を逃がそうとするブッキーが
たまらなく愛おしい。


それと同時に、男達に対する黒い憎悪が心を覆い尽くす。


私は立ち止まり、男達を睨み付けた。
全身に殺気をみなぎらせる。こんな感覚は久しぶりだ。
まだ私はこんな感覚を持てるのか。


いや、今までとは少し違う。
全ての人を不幸にするためにこの感情を持っているのではなく、
大事な人を守るため...大事な人を傷つけた奴に対する憎悪。


「ねぇ、一緒に遊ぼうよぉ」


胸に伸びてきた左端の男の手首を内側にひねる。
男は浮き上がるように反転し、簡単に腕を極められた。


「あうぅぅぅぅおぉぉ」


情けない声を出す男だ。股間を蹴り上げる。
声もなくその男はのたうち回る。


「てめぇっ」


残り2人の男が色めきだつ。


正面の男を睨み付ける。
男の目に怯えが走る。


勝負は既に決しているようだ。
こいつは生きるか死ぬかの闘いを経験していない。


「調子こいてんじゃねぇぞ!」


怯えを隠すかのように、正面の男が殴りかかってくる。
まるでスローモーションを見ているかのように遅い。
顔の動きだけで拳を避け、軸足を払う。
男は簡単に転がった。


ふいに後ろから腕を捕まれた。
もう1人の男が後ろに回っていた。
反射的に体をひねり、肘を飛ばす。
無意識だった。


ラビリンスの兵士訓練は苛烈を極めた。
総統メビウス直下の兵になるには、戦術はもとより
実戦の能力が重視される。


選抜試験は実戦形式の競技ではなく、実戦だった。
容赦なくお互いの急所を狙う。
それで使い物にならなくなった兵は、弾よけの歩兵になるか
クラインに命を止められるだけだった。


それに、勝ち抜いてきた。




容赦なく相手の急所を打ち抜いてきた癖は今も抜けず、
格闘になると無意識に急所を狙ってしまう。



飛ばした肘が男のこめかみに吸い込まれる。
しまった、と思った。ここは殺し合いをする場所ではない。



しかし、体をひねった際に男がバランスを崩したらしく、
私の肘は急所をかろうじて外した場所に当たった。
それでも男は棒のように倒れ、白目をむいていた。


「この野郎...」
足を払って転倒した男が立ち上がり、ナイフを取り出した。


「せつなちゃん!!危ない!!」
ブッキーが叫ぶ。


ブッキーの悲痛な叫びとは裏腹に、
私は口元をほころばせてしまった。


構えと目を見ればわかる。
ナイフと打撃の組み合わせは、よほど訓練された
兵士でないと併用できない。
ナイフですべて片付くと思ってしまうのだ。



つまり、ナイフだけ見てれば良い。



「おらああああああああ!」


声は勇ましいが、ナイフが止まっているようなスピードだ。
やけっぱちで振り回しているだけだ。
ナイフを持った腕が伸びきったところで、手首に掌底を入れる。
簡単にナイフが落ちた。


体の回転を生かして、そのまま回し蹴りを入れる。
きれいに首に入った。声もなく男は倒れた。
ブッキーの元に駆け寄る。
「ブッキー、大丈夫?」
「せつなちゃん...ありがとう...もうだめかと思った...」
ブッキーの大きな目から涙が止めどなく流れ、私の胸に
飛び込んできた。


「さ、早く行こう」


私はTシャツの上に着ていた襟付きのシャツを
ブッキーに着せ、足早にその場を離れた。


何本か通りを過ぎると、大通りに出た。
隣町のようだ。


「ブッキー、どうしてあんなところに居たの?」
「獣医学の専門書を頼まれて、買いに来たの。
 そしたら帰りがけに突然囲まれちゃって...」


よほど怖かったのだろう、ブッキーは私の腕に
しがみついたままだ。


「せつなちゃん...強いね」
「えっ...まぁ...ラビリンスでやらされてたから」
「ありがとう...せつなちゃん」


ブッキーが私にさらに密着してくる。
意外に大きなブッキーの胸が腕に押し当てられている。


「あ、連絡しておかなきゃ」


ブッキーがリンクルンを開けて電話をかけ始めた。


「あ、ラブちゃん?連絡取れなくてごめんね。ちょっと色々あって、
 せつなちゃんに助けてもらったの。これから戻るね。」


「あ、美希ちゃん?連絡取れなくてごめんね。ちょっと色々あって、
 せつなちゃんに助けてもらったの。これから戻るね。」


「あ、お母さん?連絡取れなくてごめんね。ちょっと色々あって、
 せつなちゃんに助けてもらったの。終電なくなっちゃったから
 タクシーで戻るね。」


ブッキーがリンクルンを閉じた。


「ねえブッキー、私アカルンがあるからすぐ戻れるよ?」
「うん、知ってるよ」
「えっ...」


ブッキーが私の腕にぎゅっとしがみつく。


「ホントに怖かったから...忘れさせて欲しいの」
「...」



私はこれから起こり得ることを想像して、
体の奥底が熱くなるのを感じた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「忘れさせて...欲しいの」
ブッキーが私の腕に頭をもたせかける。


私の中で、気持ちの整理がついてきた。


ブッキーは少し引っ込み思案なところがあるが
人付き合いが苦手な私と共通点があり、またとても優しく
ダンス合宿でも私の心を優しく溶かしてくれた。


思えば、その頃からブッキー、いや、祈里に対して
友情以上の感情が生まれていたような気がする。


祈里が私のためにダンスの練習着を作ってくれたことを
知ったとき、祈里の表情、祈里の声、祈里の匂い、すべてが
私の心の中に小さな火となって点灯した。


それが今、大きな炎となって燃えあがっている。
格闘後でやや高揚していることもあり、情欲が心を浸食している。




多分、
祈里が思い描いている光景は、きっと
私が望んでいる光景と同じ。




じわり、とあふれるものを感じた。
祈里に引き寄せられるままに、大通りの角を曲がる。


2、3本の通りを曲がると、暖簾のかかった駐車場が見えた。
祈里が私の腕を強く掴みながらその中に入る。


人が居ないロビーの壁に、番号が書いたランプが
20ほど並んでいる。
点灯しているものはそのうち3つ。


祈里はそのうちの1つを押した。
出てきたカードを手に取り、足早に
奥のエレベーターに乗る。


「えへへ。ここ1回だけ来たことあるの。」
エレベーターの中で祈里は笑いながら言った。


「強引に連れてこられたけど、逃げちゃった」



私はここがどんな建物なのかをだいたい理解した。
祈里には、人を殺さない程度の護身術を
教えておいた方が良いかも知れない。



エレベーターを降りると、複雑に曲がった廊下を
足早に進み、角の部屋に辿り着いた。
ドアにカードを挿して開け、祈里は私を先に部屋に入れた。



部屋には幅の広いベッドがあり、簡単な椅子と
テーブルがあった。



浴室は家にあるものとは異なり、
透明なガラス扉で仕切られていた。



これじゃぁ丸見えじゃないの。


急に首に腕が回された。
次の瞬間、唇を塞がれた。


唇を離した祈里の顔は、笑顔とも泣き顔ともつかない
表情だった。涙で目が潤んでいる。


「私、ずっと前からせつなちゃんに憧れてたの...」


「...」


「でも、せつなちゃんはラブちゃんととっても仲良しで、
 私なんか入る余地が無いくらい...」


「...」


「でも、ダンス合宿の時から、私の中でせつなちゃんの
 ことがどんどん大きくなって...」


「...」


「せつなちゃんと、ひとつになりたいって、ずっと思ってた...」




上目遣いで私を見る祈里の表情を見て、
私はもう我慢できなくなった。


自分から唇を重ねる。


祈里の口内に舌を滑り込ませると、祈里は間髪を入れず
舌を絡めてきた。


有線の音楽が小さく流れる室内で、舌が絡まる淫靡な音が
響き渡っている。


「んふ...ん...」


「ブッキー...私も...同じ気持ち...」


「ん...二人っきりの時は、祈里って呼んで...」


「祈里...んふ...ん...祈里...」


「んふん...んっ...嬉しい...んふ」



潤んだ瞳、口元から垂れる唾液が、私の興奮を増大させる。



「...お風呂、一緒に入ろう...」


「うん」


バスタブにお湯をためている間、お互いの体を洗う。


熱帯夜の格闘で私の体は汗まみれになっていたが、
ようやくさっぱりした。
これからまた汗をかくのだろうが。


すでに湯気で浴室内は霧がかかったようになっている。


「祈里...とってもキレイ」
「せつなちゃんだって...」


祈里はウエストのくびれは少ないものの、童顔に似合わず
大きく発育した胸、ふっくらした腰回りが私の鼓動を速め、
下腹部がキュンと締まるのを感じた。


バスタブにお湯がたまると、祈里はバスタブの中に沈めていたボトルを
取り出し、軽く振って中身をお湯に溶かした。



「それ...何?」
「んふふっ...おたのしみ...」



シャワーで石鹸を流すと、ふたりでバスタブに身を沈める。


お湯からいい香りが立ち上っている。



「えっ...」


お湯の感覚が家とは違う。
とろりとしたお湯で、肌に滑らかにまとわりつき、ぬるぬると滑る。



「これって...」


「バスローションなの」



祈里が私の足の間に体を滑り込ませる。
ぬるっと滑った私の足は簡単に開き、祈里の体が正面から
ぴったりと密着した。


「...!」


「せつなちゃん...いっぱい気持ち良くしてあげる」


祈里の唇が、私の顔を隅から隅まで這い、
祈里の手は私の体をぬるぬると這い回る。


私も祈里の胸に手を伸ばす。
手からこぼれ落ちてしまいそうなほどの大きい房を
いやらしい手つきで揉みしだく。


「あっ...うんっ...」


耳元で祈里が声を上げる。
手の中で弄んでいる房から、乳首が掌に硬く当たってくる。


祈里の手が私の乳首をさわさわと弄んでくる。
ばらした指の動きが妙にいやらしく、私の乳首も
固く隆起している。


「あは...んっ...はぅ...ん」


祈里の耳元にキスをしながら、つい声が漏れてしまう。


「祈里...気持ちいい?」
「あんっ...嬉しい...とっても気持ちいい」
「私も...とっても気持ちいい...」



ちゃぷっ...ぴちゃっ...とぷん...



お湯の揺れる音と、激しいキスの音。
気持ち良すぎて、頭がぼうっとしてくる。



「せつなちゃん...すごい...私...幸せ...」



すっかり上気した祈里の顔はいつもの引っ込み思案な
祈里ではなく、貪欲に快楽を求めるメスの顔になっていた。



ふたりの右手がお互いの性器をまさぐり出す頃には、ほとんど
会話はなく、揺れるお湯の音と、淫靡なあえぎ声が浴室にこだましていた。


「せつなちゃん...」


祈里は私と密着した体を離し、左足を私の右足の上に、
右足を私の左足の下に滑り込ませた。



ぷちゅっ...



お互いの恥毛が絡み合い、性器同士が密着した。



「ああんっ...!」
「はうんっ...!」



お湯の中で上気していることもあり、
快感が頭のてっぺんまで突き抜けた。



「や...祈里...これすごい...」
「せつなちゃん...私も...あふんっ...」



腰が、さらなる快感を求めて勝手に動いてしまう。



たまらず、祈里の唇に舌を差し出す。
祈里もすぐに舌を絡める。
唾液がお湯にポタポタと落ちる。
お湯がいっそう激しく揺れる。



「祈里...すごいよ...上も下も...」
「うん...キスしてる...ああうんっ...!」



お互いの突起がぬるりと擦れあう度に、
電気ショックを受けたように体が跳ね上がる。



お互いの唇や首、肩を激しく舐め回しているうちに、腰の動きが
完全にシンクロしてきた。



「や...ダメ...祈里...私もう...!」
「せつなちゃん...私も来る...あああんっ!...」



ふたりとも同時に激しく痙攣した。



ばしゃっ...ばしゃっ...ばしゃっ...



お湯が激しく揺れ、バスタブからこぼれ落ちた。


私の上に祈里が倒れ込んでくる。


二人とも痙攣がしばらくおさまらなかった。
お湯でのぼせているせいか、頭もぼうっとしたままだ。


伏せたまま荒い息をしている祈里のおでこに、
軽くキスをする。


「ありがとう...とっても嬉しい...」


顔を上げた祈里は私の唇に長いキスをした。



お湯を抜いて、シャワーを浴びる。
間違えて水が出てきたのでびっくりしたが、のぼせには
ちょうど良かったようだ。


しばらく祈里と嬌声をあげながら、水シャワーをかけ合った。



体を拭いて、ベッドに腰掛ける。


祈里が冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出した。
「せつなちゃんも飲む?」
「うん。ちょうだい」


祈里がひとくちペットボトルから飲み、フタを閉じた。


ボトルが渡されるかと思ったが、次の瞬間唇が重ねられ、
私の口にスポーツドリンクが流し込まれた。
「えへへ。口移ししちゃった」



祈里は私が思っている以上に
奔放な女の子なのかも知れない。


時計を見る。午前2時。


「もうこんな時間!まずいよ祈里。いくらタクシーでもこの時間には...」
「あ、それなら大丈夫。家にはお風呂に入る前に電話しておいたから」


「何て電話したの?」
「タクシーが全然捕まらないので、せつなちゃんと始発まで
ビジネスホテルで仮眠しますって」


「...まぁ半分は合ってるわねw」
「そうそうww」



私は裸のまま、ベッドに仰向けに寝そべった。
祈里も裸のまま、横に寝そべる。


「せつなちゃん...」
「ん?」
「私ね...今とっても幸せ...」
「私も...祈里とこうなれて嬉しいわ」


祈里が私の方を向き、瞳の中にお互いを確認する。
瞳の中の私は、とても満たされた表情をしていた。
祈里の表情も、とても穏やかに輝いている。



始発が四つ葉町に付くまで、まだ時間は充分ある。



「祈里...まだ時間は充分あるね」


「うん...そうだね」



祈里の瞳に、ふたたび淫靡な光が宿る。
最終更新:2013年02月16日 21:10