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【恋のレシピ】/恵千果 ◆EeRc0idolE




<生チョコレシピ>
  ①チョコレートを細かく刻む(100g)  
  ②湯せんでよく溶かす        
  ③生クリームを加える(50cc
  ④なめらかになるまでよく混ぜる 
  ⑤ラップを敷いた容器に入れ粗熱を取る
  ⑥冷蔵庫で1時間程度冷やす
  ⑦容器からラップごと取り出す
  ⑧食べやすい大きさに切り分ける 
  ⑨ココアパウダーをまぶす 
  ⑩容器に戻してラッピングする 


 友達が書いてくれた生チョコレシピのメモ。メモの終わりには、『キュアパイン、ファイト!』なんて書いてある。
 はーっ。わたしは居間のソファに身を預けながらレシピの書かれたメモを見つめ、もう何度目になるのかわからないため息をついた。

 女子高ほどバレンタインが盛り上がる場所もないだろう。連日、恋人や友達にあげるチョコやプレゼントの話題で持ちっきり。
 かく言うわたしもその中のひとり。
 どうやって渡せば気持ちが伝わるか、どんなチョコレートが喜ばれるのか。告白の場所・タイミング……エトセトラ・エトセトラ。
 実行できるかどうかはさておき、彼女たちの会話をそれはそれは参考にした。
 試作は幾つも幾つも、数え切れないほどこなした。ダマだらけで見る影もなかった生チョコ第1号を始め、その後の数々の失敗作を踏み台にして、今やお店で買ったと言っても通用しそうなくらいな出来栄えとなったその完成された姿は、まさしく気合のレシピそのものだ。教えてくれた奏ちゃんには感謝の一言に尽きる。
 こんなに上手に作れるようになったのにな……。渡す勇気がないなんてバカみたい。
 何でもない風で、『友チョコだよ!食べて』って渡せばいいじゃない。でも、友チョコなんかじゃないもん。
 好きだって伝えるために渡すんじゃなかったの? そうだよ。そのつもりだった。でも、いざって時に勇気が出ないの。
 勇気のない祈里が、グズグズと言い訳をもらす。そんな弱虫の祈里に堪忍袋の緒が切れたのだろうか、『いつまでも自問自答を繰り返していると今日が終わっちゃうよ!』と、弱気なわたしを押しのけるように負けん気の強いわたしが現れた。
 身の内から急にムクムクと湧き出てきた強い思いに押されるようにして、わたしはラッピングされた小箱とともに夕暮れの道を駆け出した。

 果たしてそこに彼女はいた。
 否。正確には、彼女たちがいた。
 カオルちゃんのドーナツショップで甘いチョコドーナツを頬張る幸せ一杯のラブちゃんの笑顔。それを見つめる満面の笑顔のせつなちゃん。
 見つめ合い笑い合うふたりの姿に打ちのめされて、少しだけ残っていたわたしの勇気のかけらは、みるみるうちに溶けてなくなってしまった。
 行き場のない私が逃げ込む場所は、いつだって彼女のそば。
 恋にもレシピがあればいいのに。そしたらきっと、わたしにだって出来るんだから。ポロポロ涙をこぼしながら言うわたしの隣で、美希ちゃんは黙って聞いていた。何度も何度も、優しく頭を撫でながら。
 渡せなかったチョコを美味しそうに食べてくれるのは、わたし達がいくつになっても、美希ちゃんにしかできない重要な役目。
最終更新:2013年02月18日 00:06