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未来のわたしたちへ/一六◆6/pMjwqUTk




「煌めきなさい!トゥインクル・ダイヤモンド!」
 キュアダイヤモンドの人差し指から放たれた光の奔流が、ジコチューを浄化する。元に戻ったプシュケーは持ち主に返り、潰されたポストも、横倒しになった集配車も、散らばったおびただしい数の手紙も、一瞬で元の姿に戻った。

「キュアハート!」
 キュアダイヤモンドが、後ろに立っているキュアハートを振り返る。そして彼女に向かって親指を立て、パチリとウィンクしてみせた。
 キョトンとしていたキュアハートの顔が、ぱぁっと輝く。負けじと親指を立ててみせる彼女の――マナの顔は、あの幼い日、初めて会ったときと同じように、キラキラ太陽みたいに輝いていた。


   未来のわたしたちへ


「・・・これで良かったんだよね。」
 六花は、自分の部屋のベッドに寝そべって、手の中にあるキュアラビーズを目の前に翳した。
 金色の金具に嵌め込まれた、真紅の宝玉。じっと見つめていると、何だか刻一刻と、その表情が変わって見える。

 透明な明るさを持った、ラズベリーのような赤。
 見る者に注意を喚起する、強い意志を持った赤。
 沈む前の太陽が見せる輝きのような、一抹の寂しさを伴った赤。
 こんな小さな石の中に、まるで無限の世界が広がっているかのような・・・。

(昨日、マナのキュアラビーズを顕微鏡で覗いたときは、こんな風には少しも思わなかったのに。)
 ほぉっと小さく溜息をついて、その輝きを右手の中に握り込む。少し冷たくて硬いブローチの感触。こうやって握っているだけなら、ただの小さなアクセサリーなのに。
「本当に、これで・・・」
 そう言いかけてから、六花は頭をひとつ振ってベッドから起き上がると、勉強机の前に腰を下ろした。

 備え付けのカエルの顔のデスクマットが、机の上の半分以上を占める。ユニークなものが大好きな父が、ひと目で気に入って買って来た机だ。
 いつも海外を飛び回ってばかりで、滅多に家に居ないカメラマンの父。医者の母も、大半の時間を病院で過ごしているから、一人で夜を過ごすのは、六花にとって少しも珍しいことではない。
 むしろ――。

「何してるケル?」
 遠慮深げに掛けられた小さな声に、六花の肩がわずかに震えた。
「あ、ごめんケル。脅かしちゃったケル・・・。」
 今日出来たばかりの小さな相棒が、机の隅で申し訳なさそうに下を向く。
「ううん、ちょっとびっくりしただけ。ごめんね、ラケル。わたし、家では大抵一人だから、誰かと一緒にいるのに慣れてないの。」
 そう言って、恐る恐るラケルの頭を撫でる六花。その仕草に安心したのか、ラケルはちょこんと机の上に腰を下ろした。

「でも、ボクが見たとき、六花はいつもマナと一緒だったケル。」
「うん、マナは特別。ずっと一緒なんだ。小さい頃から、ずっと。」
 六花はニコリとラケルに笑いかけると、机の引き出しの中から、一冊の真新しいノートを取り出した。
 机の上に置いてあった眼鏡をかけ、ノートの最初のページを丁寧に開いて、ペンを手に取る。
「何を書いてるケル?」
「これはね、プリキュア日誌。」
「プリキュア・・・日誌ケル?」
 首を傾げるラケルに、六花は小さく微笑んだ。

「わたし、生徒会で書記っていう仕事をやっててね。いろんな仕事があるんだけど、一番大切な仕事は、役員会議の議事録を作ることなの。」
 首を傾げた格好のまま、辛抱強く話を聞くラケルに、六花も噛んで含めるように話を続ける。
「生徒会長のマナと、他にも何人か役員がいてね。そのメンバーで、学校の行事をどういう風にやろうかとか、細かい決まりをどうするかとか、色々話し合うの。その話し合いの内容を記録するのが、私の大切な役目。
後になってね、去年はこういうやり方が良かったから参考にしようとか、この前良い意見が出たけど何だったっけ、とか、その記録が色々参考になることがあるの。」
 そう言って、六花は強い眼差しで、ラケルを見つめた。

「今は、ジコチューを浄化できているけど・・・ほら、マナを助けてくれた謎のプリキュアが言ってたんでしょ?ヤツらが本気で攻めてきたら、あなたは大切な人を守れるのか、って。
そうなったとき、もしかしたら、この日誌が役に立つかも知れないから。」

「は~・・・。」
 ラケルは大きな眼をパチパチさせて、六花と目の前のノートとを交互に見やる。
「六花って・・・なんかすっごく、頼りになるケルね。」
「よしてよ、そんな言い方。」
 六花は右手の人差指で眼鏡を押し上げると、少し赤い顔をして、また一心にノートに書き込み始めた。

「書けた。」
 しばらくして、六花がコトリとペンを置いた。
「読んでもいいケル?」
 机の隅で大人しく六花が書き終わるのを待っていたラケルが、その声を聞いて、おずおずと尋ねる。そして、六花が笑顔で頷くのを見るが早いか、ノートの前に飛んで来て、一心に読み始めた。

 体より大きなノートを見つめる、小さな青い頭。それを見ながら、六花は、生徒会室で初めて役員会の議事録を読んだときのことを思い出していた。
 入学したばかりで、校門に立っている生徒会役員がとても大人に見えた、一年生のときの、春の挨拶週間。みんなでお化け屋敷を作って盛り上がった文化祭。マナがリレーのアンカーを任されて、颯爽とテープを切った体育祭。
 そのひとつひとつを、コツコツと計画し、みんなが楽しめるようにと知恵を絞った裏方の記録が、手垢の付いた分厚いノートの中にあった。それが六花には、何だか未来に宛てた手紙のように感じられたのだ。
 この議事録を書いたとき、先輩たちは、大盛況に終わった文化祭の成功を知らなかった。季節外れの台風が来て一週間先延ばしになったけど、代わりに近年まれにみる快晴に恵まれた体育祭を迎えられたことも、まだ知らなかった。
 ただ成功を信じて、みんなが楽しんでくれることを願って、想いを込めて綴られた記録。それが何だか愛おしくて、六花はそのとき初めて、書記という自分の仕事に大きな誇りを持てた気がしたのだ。

 生徒会もプリキュアも、先のことは判らない。でもだからこそ、今の自分たちの姿を、言葉を、その想いを、ちゃんと記録しておきたい。それが近い将来、自分たちの役に立つかもしれない。もしかしたら苦境に立たされているかもしれない、途方に暮れているかもしれない未来のわたしたちの、ささやかな道標になるかもしれない。
 何と言っても、生徒会もプリキュアも、その中心人物はマナなのだ。
 自分のことを後回しにしても、困っている人を放っておけない幸せの王子。どんなときでも進んで厄介事を引き受けてしまう、目が離せない親友。そして、どんな困難も吹き飛ばしてしまう、あの太陽のような笑顔の持ち主。
 マナのあの突拍子もない行動を、記録しておかないなんて勿体ない。その明るさは、未来に待ち構えているかもしれないどんなピンチだって、チャンスに変えられるような気がする。
(それに――わたしだってマナと一緒なら、どんな大変なことでも乗り越えてみせるわ。これからプリキュアとして歩んでいく道は、その中で感じる気持ちは、さらにその先にいるわたしたちに、きっと届くはず。)

「六花。」
 日誌を読み終えたラケルが、くるりと六花を振り向く。
「ボクもこれから、六花と一緒に、全力で頑張るケル。」
 その凛とした眼差しを見つめ返し、六花は、うん、と頷いて、輝くような笑顔を見せたのだった。

 やがて、六花の部屋の明かりが消える。
 大きなカエルが微笑む勉強机の上には、一冊のノート。その表紙には、ピンク色のハートと、それに寄り添うような水色のダイヤの模様が、丁寧に描かれていた。

~終~
最終更新:2013年02月18日 23:21