プリキュア VS ディケイド(IX)
…………
『アアアア~ンデッドォ!』
“ヒーリング・プレアー・フレッシュ”を破壊し雄叫びをあげるアンデッド・ナケワメーケを見て、パインは腰を抜かしそうになる。
司令塔であるイースを失った事と、パインの決め技で受けた苦痛とで、アンデッド・ナケワメーケは暴走を始めていた。
手にした剛剣をヘリコプターのように高速回転させながら、相撲取りのようにしこを踏んで地響きを起こしている。
「だめっ! 大きすぎて、浄化しきれない!」
「なら、こっちもでっかく行くか」
コンプリート・フォームのディケイドが、腰に位置したディケイドライバーに次なるカードを差す。
“FINAL FORM RIDE .... PRECURE !!”
「ちょっと、くすぐったいぞ」
「はいっ?」
「ほら」
キュア・パインに後ろを向かせると、その背中に触れる。
「きゃうっ!?」
その背に…、大小2対のハートマークで出来た、蝶の羽根が開いた。
そして本人の意思と関係なく、その身が宙に浮かぶ。
「え、え、えっ? 何これ? どうなってるの――――っ!?」
足元から、白い帯が螺旋状に巻きついて全身が棒状になる。 表面に七色の丸い鍵盤が現れ、頭部は琥珀色のジュエルに包まれた。
『どうなっちゃったの? 私…』
「これが俺の、そしてお前たちの力だ」
巨大な“キュア・スティック”の身体に、4色ハートの大きな羽根をはためかせ浮かぶ姿。
天(あま)駆ける蝶。 “キュア・ライド・パピヨン”…。
「はっ!」
気合の声と共に跳び上がったディケイドが、スティック状の本体に降り立つ。
まるでサーフィンのような格好で、ディケイドを乗せた蝶はハート型の羽根を羽ばたかせ、滑空を始めた。
『ア~ンデッドォ!』
アンデッド・ナケワメーケが、剛剣を叩きつける。 その剣圧にすら乗るように風をきって旋回。 華麗に斬撃をかいくぐっていく。
蝶はナケワメーケの背後に回り込むと、キュア・ピーチとベリーの元へ向かった。
「乗れっ!」
跳躍したピーチとベリーが、後ろ羽根のハートに降り立つ。
ディケイド、ピーチ、ベリーを乗せ、蝶は一層大きく羽ばたくと高高度まで一気に上昇。 Uターンした。
「どうするの? ディケイド?」
「これで終わりだ」
最後のカードをディケイドが引く。
“FINAL ATTACK RIDE .... PRECURE !!”
キュア・スティックの音階が流れ、先端のジュエルに光が灯る。
「わるいのわるいの、飛んでいきなっ!」
ディケイドの一声で、先端部…蝶の頭にあたる部分に巨大なダイヤ型の光が現れた。
それと同時に、蝶の羽根からは4色の波動が広がり、より大きな蝶の羽根と化す。
そのまま高高度から落下するように、ディケイドたちはアンデッド・ナケワメーケへと突進していった。
ピーチの、ベリーの、“キュア・ライド・パピヨン”となったパインの、そしてディケイドの力をひとつとして、蝶は爆発するように大きなオーロラを噴き上げる。
「“プリキュア! ディケイド! ヒーリング・プレア――、 エクスプロージョン”!!」
アンデッド・ナケワメーケに、4色の光をまとった巨大な蝶が激突した。
のしかかるように巨大な蝶と、押し返そうとするアンデッド…。 その巨体を蝶の羽根が包み込み、ダイヤ型の光が膨張して更に大きく覆い尽くす。
『シュワシュワ――……!!』
アンデッド・ナケワメーケの額のジュエルが蒸発していく。 そして全てを消し去るような、爆発の閃光が辺りを包み、やがて小さくなり消えていった。
ディケイド、ピーチ、ベリー、そして“キュア・ライド・パピヨン”への変形を解除したパインが、順に地面に降り立つ。
その前に…、“ナケワメーケ”の呪縛が解けたアンデッドの王が、よろめくように立っていた。
「なぜだ…」
その身が光の粒子となり徐々に崩壊していく。
「なぜ、我は甦った…。 そしてなぜ、今また封印されるのだ…?」
「さあな。 けど、あいつの言葉を借りるなら…」
ディケイドとプリキュアたちは、消えゆく最後の不死生物(アンデッド)を見送る。
「すべては俺の、“ディケイド”のせい…。 だいたい、そういう事なんだろ」
「おのれ、ディケイド…。 悪魔め…。 呪われろ」
呪詛の言葉を残し、アンデッドの王は無数の光の粒子となり、砕け散った。
今度こそ解ける事はないであろう、封印の闇の中へと吸い込まれ落ちていく。
ディケイドは足元に、緑色のガラスで出来た“四葉のクローバー”のペンダントが落ちているのに気付いて、拾い上げた。
(ラビリンスは…、逃げたか)
あの黒い少女の姿は見えない。
「やったね! ディケイド!」
ピーチたちが駆け寄って来て、喜び合う。
「ああ。 けどラビリンスには逃げられた。 あいつ、きっとまた襲って来るぞ」
「でも、“アンデッド”はやっつけたし、パインのリンクルンも戻って来たんだもの」
笑い合うベリーとパインを背に、キュア・ピーチも満身の笑顔でVサインを決めた。
「しあわせ、だいたいゲットだよっ!」
…………
街はずれにある深い森。 その最深部にある洋館。
イースは傷ついた身体を抱えて、その洋館まで帰り着いた。
「おのれ、プリキュア…。 それにディケイドめ…」
不死生物(アンデッド)たちがどうなったのかは知らない。 が、あれからプリキュアとディケイドを倒せたという気はしなかった。
閉じた扉に背中を預け、床に座り込むと苦しげに息を吐く。 その前に立つ影があった。
「ウェスターか? メビウス様にご報告を。 パラレル・ワールドから世界の破壊者…“仮面ライダー・ディケイド”が、この世界に来ていると」
「いや、必要ないだろう。 そいつなら、もうすぐこの世界を通り過ぎて行く」
ウェスターの声ではなかった。 恐々と顔をあげるイース。 その目に映ったのは…。
エプロン姿にトレードマークのカメラを首に下げた、門矢 士だった。
「貴様っ…! ぐっ…!」
立ち上がろうとするが、全身が痛んで身動きがとれない。
「心配するな。 この世界での俺の成すべき事は終わった。 これ以上、ラビリンスとやり合うつもりはない」
歯車の狂いは正された。 ラビリンスの脅威はこれからも続くだろうが、それに立ち向かうのはラブたち“フレッシュ・プリキュア”の役目だ。
「だったら、何をしに来た…」
「デリバリー・サービスだ」
イースの前の床に、手にしたドーナツの紙袋を置く。
「金なら気にしなくてもいい。 落とし物を届けるついでの、おすそ分けだ。 じゃあな」
それだけ言い残して、反対側の扉を押し開けるとさっさと洋館を後にして行く。
イースは腕を伸ばして紙袋を取ると、痛む身体をこらえて袋を開けた。
その中を覗き込んで、はっとする。
中にはイースのためのドーナツが1個と、緑色の“四葉のクローバー”のペンダント。
ペンダントのチェーンを手に取り、くるくる回るクローバーを見つめる。
『大切なものや、守りたい気持ちが同じなら。 別々の世界に住んでいたって、きっと分かり合えるんだからっ!』
『やめておけ。 何だかんだ言っても、お前も悪にはなりきれない奴だ。 こういうのは向いてない』
「ディケイド…。 本当に何もかもお見通しだとでも言うのか? 私の…、こんな気持ちさえも」
手にしたペンダントを大事そうに胸元に握ると、子供の様に膝を抱え、身体を丸める。
「ラブ…」
その呟きは誰にも届かず、洋館の静けさの中に消えていった…。
…………
クローバータウン・ストリートの、先日まで空き店舗だったはずの一角に、その写真館は立っていた。
光 写真館…。 その前で、士とラブ・美希・祈里は別れの時を迎えていた。
「また、別の世界に行っちゃうの? ツカサちゃん」
ラブの頭にはシフォンが乗り、祈里はタルトを抱きかかえている。
「せっかく仲良くなれたのに…」
寂しそうに言うラブに、士はストイックに応える。
「分かってはいたが、ここも俺のいるべき世界じゃなさそうだからな」
手にした1枚の写真に目を落とす。
それはあの時、ドーナツ・カフェで笑い合う3人を撮った1枚だったが、奇妙に失敗していた。
2重にブレた3人の姿…。 その“ブレ”は何故か、キュア・ピーチ、ベリー、パインの姿で、揃って両手で作ったハートマークを見せ合い笑っている。
「それに何せ俺は、次の獲物を狙う“世界の破壊者”だからな」
「そっか」
「いいのか? 世界を破壊する悪魔は、絶対に許さないんじゃなかったのか?」
「言いましたよね? 門矢さんは、そんな人じゃないって」
祈里が微笑みながら言う。
「それに、この世界を守ってくれたんだもの。 あなたみたいな完璧な人が、悪魔なわけないわ」
美希もそう太鼓判を押す。
「ほんま、おおきに。 いつか、あんさんの世界が見つかる事を、祈っとりますわ」
「キュアー。 ティケート、ガンバレ!」
タルトとシフォンの声援を受けて、士は苦笑する。
「じゃあな。 ドーナツ食い過ぎて太るなよ」
最後にそんな事を言って、士は写真館のドアを開くとその中に消えて行った。
「愛と、希望と、平和への祈り…。 世界は違っても、戦う気持ちはみんな同じ、か」
晴れやかな顔の美希が、あの時、ディケイドが言った言葉を繰り返す。
「門矢さんも、きっとそうだよね?」
祈里の言葉に、ラブが頷く。
「“仮面ライダー・ディケイド” また、会えるといいな…」
白黒の次元の狭間に写真館は消えていき、元の空き店舗へと戻って行く。
その姿を、ラブ・美希・祈里の3人は並んでいつまでも見送っていた。
~Fin
最終更新:2013年02月24日 15:58