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【フライング・ハイ】/れいん




ふわりっ!

 宙に舞い上がる。
(体が軽い)
 そんな高度まで跳んだことはない。
 いや、普通は跳べないだろう。
(あたし、とんでる……)
 360度の空色。
 それは信じられない光景で。
 見たことのない、素晴らしい景色。
(六花にも、見せてあげたいな)
 のんきにそんなことを考えたけれど、次の瞬間。
(うわっ、おちるぅ!)
 キュアハートこと相田マナは、クローバータワーの屋上へ、まっ逆さまに落下して行った。



【フライング・ハイ】



「う~ん、逃げられたか……」
 階段を駆け下りていく六花を見送る。
(……残念)
 六花もプリキュアになってくれたら、良かったのに。
 ため息を一つついてから、マナは自宅へと小走りで戻った。
 無言で店内を通りぬけ、自宅である二階の自室までダッシュで移動。
 そのままの勢いで、ベッドにバフっと突っ伏した。
「マナ、どうしたシャル?」
「何か元気ないケル」
「ん~、なんかね……」
 心配してくれるシャルルたちに向かい、やや情けない顔で返事をする。
 六花がプリキュアになることを承諾してくれなかったことが、自分で考えていたよりもショックだったようだ。
(だって、ずっと一緒だったのに……)
 自分がどこへ行っても、何をしでかしても。
 いつの間にかちゃんとそばに来てくれて、必ずフォローをしてくれる。
 マナが勝手に生徒会長になることを決めたときだって、当然な顔をして書記になることを引き受けてくれた。
 自分の隣が、彼女の指定席。
(あたし……、六花がいないと)
 ――――心細い?
 とは、ちょっと違う複雑な気持ち。
 自分で理解できていないので、シャルルたちには上手く説明できない気がした。
「マナ?」
「大丈夫だよ」
 マナはそう言って手を伸ばし、小さなシャルルたちを抱きしめた。


ズシン、ズシンっ……。
 震動と共に影が迫ってきた。
(体がっ、動かない!)
 信号機の怪物。
(ジコチュー……)
 確かそんな名前だった気がする。
 マナは何とか体を揺するけれど、凍りついてしまったみたいだ。
 ピクリとも動けない。

 ズシンっ、ズシンっ。

 でも知っている。
(これは夢だ……だって、このジコチューさっき倒したもん)
 六花がボタンを押してくれて、信号機が青になり、体が動くようになったのだ。
 その通りの事が再び展開される。
 六花がソロリ、ソロリと忍び足でジコチューに迫るのが見えた。
 ボタンを押す前に、ジコチューが振り返る。
(!)
 口が動かない。
 「六花、にげて!」そう叫びたいのに。
 マナの声は六花に届かない。
 ジコチューが赤色の光を放つ。
 そこまでは現実にあったこと。

 けれど……。

 記憶とは違うことが起こった。

(なんで!?)
 カランと音をたてるように、六花は地面に転がった。
(やめて!)
 ジコチューはマナの方など見向きもせず、六花に対して自らの足を振り上げる。
(やめて、やめて!!)
 その足を勢いよく、六花の上に、容赦なく落とした。
(六花ーーーー!!!)

 マナの絶叫とは対照的。
 頭の中で、静かな声が響く。

 ――――あなたは、大切な人を守れるの?

 慟哭。
 悲しいのか、苦しいのか、怖いのか、判別できない感情の渦がマナを襲った。
 息ができなくて、もがいてもがいて、水面を目指す。

 ぷはっ!

 やっと息を吐き出し、そして……。
 目が覚めた。


(ゆめ……だよね?)
 暗闇の中、目を凝らす。
 そばにシャルル、ラケル、そしてランスがヌイグルミのように転がり、スヤスヤと小さな息をしていた。
(ゆめ……だ)
 マナはフーッと息を吐いた。
(巻き込んじゃったら、いけなかったの?)
 プリキュアになれるマナはともかく、ただの少女なままの六花には、戦うすべがない。
 それどころか、自分の身を守ることすらできないのだ。
(大切な人を守る……)
では、マナが全身全霊をかけて彼女を守るのはどうか?
(きっと、六花はそんなことは望まない)
 六花はマナの片羽。
 守る、守られるじゃない。
 同等で、対であるもの。

 ――――では、やはりプリキュアになってもらうしかない。

 マナはプリキュアになってしまったのだ。
 もう、六花に選択の余地はない。
(ラケルだって六花にパートナーになってほしいって言ってた)
 だったら、六花をプリキュアにする方法を見つければいい。

 マナの思考を肯定する様に、机の上でキュアラビーズが煌めいた。
(キュアラビーズがあればプリキュアになれるなら、六花のキュアラビーズをさがせばいいんだ)
 朝になれば六花が家にやってくる。
 マナにキュアラビーズをくれた“怪しい”お兄さんを一緒に探すために。
(もし、お兄さんに会えたら聞いてみよう)
 もう一つ。
 六花のためのキュアラビーズを持っていないかと。

(あたし、勝手なのかな? でも……)
 別に、一人で戦うのが怖いわけではなかった。
 心細くて六花にプリキュアになってほしいわけじゃない。

(同じ景色が見たいんだよ)
 例えば、遮るもののない360度の澄み渡った空色。


 六花がいれば、もっと高くまで跳べる気がするから……。
最終更新:2013年02月26日 21:44