アットウィキロゴ

Waiting Time/一六◆6/pMjwqUTk




「出来た。これでよし、っと。」
 グレルは、封をしたばかりの七通の手紙を、満足そうに両手で抱え上げた。
 中に入っているのは、プリキュアパーティーのお誘いを述べるグレルの映像だ。異次元へと通じる魔法のポストに手紙を放り込むと、グレルは後ろに立っているエンエンに、にやりと笑ってみせた。

「準備オッケー。あとはプリキュアたちがやって来るのを、待つだけだ。」
「あ、あの・・・グレル。」
 エンエンが、恐る恐る話しかける。
「プリキュアって・・・この世界まで、その・・・どうやって来るのかな?」
「そんなもん、プリキュアなんだから、簡単に来られるんじゃねえのか?」
 グレルは事も無げに言ってのける。そんなグレルを、エンエンは相変わらずびくびくした様子で見ながら、それでもしっかりと、首を横に振った。

「いくらプリキュアでも、そう簡単に異世界には行けないよ。そりゃあ中には、異世界までだって一瞬で移動できるプリキュアもいるけど・・・。」
 エンエンは、教科書の『キュアパッション』の項目を思い浮かべる。もう何度も何度も読み返した、憧れが一杯に詰まったプリキュア教科書。クラスの誰も知らないことだけど、もういつでも好きなページを完璧に思い出すことが出来るほどだ。
 もっとも、教科書に載っていることだけが、プリキュアの全てではないのだけれど・・・。

「ふん。だったらそいつと、そいつの仲間だけでも来られるだろ?運悪く全員が集まらなくたって、そんなこと気にすんなよ。」
 そう言い捨てて、おーい、と影の元へと駆け戻って行くグレル。
「グレル、待ってよ。」
 エンエンは、慌ててその後をパタパタと追いかける。

(プリキュア・・・本当に、この目で見ることが出来るのかな・・・)
(でも・・・もし本当にやって来たら、プリキュアは・・・)
 頭の中を、そんな声がぐるぐると回る。
 自分はいったい、プリキュアに来てほしいのか、それとも来てほしくないのか――エンエンには、それが自分でも、どうしてもわからなかった。



     Waiting Time



 その手紙がラブたちの元に届いたとき、四人はダンスレッスンを終えて、いつものようにカオルちゃんのドーナツカフェでくつろいでいるところだった。
 最初に手紙に気付いたのは、シフォンだ。まるでチョウチョか鳥のように、ひらひら、ふわふわ舞い降りて来る封筒に、キュア~!と目を輝かせて飛び付いた。
「ラ~ブ~!」
「ん?それ、なーにー?シフォン。」
 ラブが封筒を受け取って、しげしげと眺める。
 宛名は無い。封筒の表紙に、特徴的なハートと星の模様が一面に描かれている。一体どこから落ちて来たんだろう、と封筒を裏返したとき、封が剥がれて、中から一筋の光が立ち上った。

「わっ!」
 驚く四人の前で、明るい光の帯の中に、子狸のような姿が現れる。葉っぱで出来たようなお面を被ったその使者は、ぺこりとお辞儀をして話し始めた。
「プリキュアの皆さん、こんにちは。僕たちの妖精学校で、プリキュアパーティーを開くことになりました・・・」
「うわぁ、プリキュアパーティー!?行く行く~!ねぇ、いつ?どこで?」
 途端に目をキラキラさせて、小さな使者に話しかけるラブ。そんなラブに、しぃ~、っと人差し指を立てるせつな。
 ラブが慌てて口を噤むと、子狸のような妖精は、パーティーの日時と、妖精学校に来てほしいという口上を二度ほど繰り返し、光と共に、すーっと封筒の中に消えた。

「えっ?ちょっとぉ、引っ込んじゃうの?」
 思わず封筒を覗き込むラブに、祈里が苦笑する。
「ラブちゃん。さっきのって、ただの映像なんじゃないかな。えっと確か、ホログラムだっけ。」
「えっ?」
 驚くラブを尻目に、せつながニコリと笑って祈里に頷く。
「そっか、ビデオレターみたいなもの、ってことね?まぁ、アタシたち宛だってことは間違いないんだし、行くっきゃないわよね。」
「うんっ、もっちろん!楽しみだなぁ、またみんなに会えるんだぁ。」
 勢いよく身を乗り出す美希に、再びキラキラと輝き出すラブの瞳。それを嬉しそうに眺めていた祈里が、何かに気付いたように、せつなの方に向き直った。

「妖精学校って、今タルトちゃんが行っているところよね?せつなちゃんがアカルンで送ってあげたの?」
 祈里の問いかけに、せつなは静かに首を横に振る。
「ううん。妖精学校から迎えが来たの。だから、そこがアカルンで行ける場所なのかどうか、確かめないと。」
 アカルンでの瞬間移動は、アカルン自身か、移動するメンバーの誰かが知っている場所でなければ、転移できないのだ。
「そっかぁ。でも、大丈夫だよ!もしもアカルンで行くのが無理でも、きっと何かいい方法が見つかるよ。」
 力強いラブの言葉に、せつな、美希、祈里の三人が顔を見合わせて、誰からともなく笑顔になる。
「そうね。何てったって、アタシたちには・・・」
 美希がそう言いかけたとき、ふいにラブのリンクルンが軽快な音楽を響かせ始めた。


 ☆


「嗚呼!やっぱりプリキュアやってて良かった・・・。この来海えりか、いずれはファッションデザイナーとして社交界デビューも夢では無いけれど、まさかその日が、こんなに早くやって来るとわぁ!」
 右手にぎゅっと封筒を握りしめ、目と口を全部真一文字にして、完全に自分に酔いしれているえりか。その雄々しすぎる姿に、コフレがはぁ~っと溜息をつく。
「えりか、落ち着くですぅ。その発想は、大袈裟過ぎるですっ。」
「何よぉ、コフレ。だって、パーティーだよ?正式な招待状が来ちゃったんだよぉ?」
 興奮冷めやらぬえりかの手が、コフレのほっぺたをムニッとつまむ。
「でも、どう考えても社交界とは程遠いわね。」
「うん。だけどプリキュアのみんなが集まるんだからさ、とっても楽しいよ、きっと。」
 ゆりにやんわりとたしなめられ、いつきにニコニコと励まされて、えりかはニハハ・・・と笑って、やっとコフレを解放した。が、ハイテンションになっているのは、えりかだけではなかったようだ。

「また皆さんとお会いできるなんて・・・。今は総勢28人。いいえ、シプレの話ですと、新しいお仲間も加わったんですよね。となれば・・・ついに30人超え!そんな沢山のお仲間が一堂に会するなんて、これこそ空前絶後、合縁奇縁、一期一会の奇跡の宴!ぜぜぜ是非とも全ての方と、勇気を出してお話しなくては~!」
「つぼみぃ~、今からそんなに興奮してどーするの。」
 自分のことを棚に上げる、という言葉のお手本のようなえりかの発言に、ゆりといつきが思わず吹き出す。
 四人はいつものように、薫子の植物園に集まっていた。所用で出かけた薫子に留守番を頼まれたつぼみが、四人分のお茶を入れたところで、どこからともなく封筒が舞い込んだのだ。

「それで、妖精学校ってどこにあるの?どうやって行けばいいのかしら。」
 ゆりが笑いをおさめて、極めて現実的な質問を口にする。
「あ、それならきっとコフレが・・・」
「なんで僕ですか!?僕たちは、えりかたちと会う前はずっと、心の大樹に隠れていたんです。学校なんて、行ったことないですぅ!」
 えりかの軽い一言に、コフレがムキになって言い募る。シプレも、うんうん、と力強く頷く。その様子を見ていたポプリが、いつきの膝の上からふわりと飛び上がった。
「コッペ様~!コッペ様は、妖精学校がどこにあるか、知ってるでしゅかぁ?」
 しかし、胸元のふかふかしたハートマークに、ぽふっ、と飛び込んだポプリに、コッペはわずかに黒目を動かしただけだ。

「困りました。せっかくのパーティーなのに、行き方がわからないのでは・・・」
 不安そうに呟くつぼみに、えりかがパチリと片目をつぶって、人差し指を立ててみせる。
「大丈夫だよ、つぼみ。あたしたちには、強い味方がたっくさんいるじゃん。ほら、つぼみも言ってた、イチゴの知恵ってヤツよ!」
「苺・・・ですかぁ?」
 つぼみが怪訝そうに首を捻り、いつきが一瞬考えてから、クスリと笑う。ゆりだけが少し怒ったような顔で、「えりか、それを言うなら・・・」と言いかけたとき。
 テーブルの上に置かれたつぼみの携帯電話が、突然ブルブルと震え出した。
「あっ・・・すみません。」
 慌てて電話を手に取ったつぼみは、発信者の名前を見て、その顔をぱぁっと輝かせた。


 ☆


「へぇ、妖精学校でプリキュアパーティーかぁ!きっと美味しいもの、たっくさん食べられるんだろうなぁ。」
 今にもよだれをこぼさんばかりの響に、奏が呆れた視線を送る。
「響ったら、お行儀が悪い!大体、それより先に考えることがあるでしょう?」
「へ?ああ、やっぱり手土産は、奏のカップケーキだよね~。」
「もうっ、友達の家に行くわけじゃないんだから・・・」
「え~、持って行かないのぉ?奏のケチ。」
「だからっ!そういう意味で言ってるんじゃないの!」
 いつもながらの二人の掛け合いに、エレンは苦笑し、アコは我関せずとケーキを頬張る。
 響たちの元に封筒が届いたとき、四人とハミィ、それにピーちゃんとフェアリートーンたちは、いつものように奏の家でカップケーキを食べていた。ひらひらと舞い降りて来たそれを、響が見事にワンハンド・キャッチ。その途端に子狸の映像が現れたので、慌てふためいたエレンは、二階に居ることを忘れてベランダから飛び降りそうになったほどだ。

「二人ともいい加減にしてよ。奏が言いたいのは、どうやって妖精学校まで行くのか、ってことでしょう?」
 しびれを切らしたアコが、呆れた声で二人を止める。奏はコクリと頷き、響はキョトンとして、え?そうなの?と呟いた。それを見て、ピーちゃんがアコの膝の上で、何故か得意げに、ピー!と鳴く。
 小学生のアコが中学生の二人をたしなめると言うのも、傍から見ればおかしな光景だが、四人にとってはそう不思議でも無いことだ。

 アコの言葉に、今まで一心にケーキを食べていたハミィが、ぴょん、とテーブルの真ん中に躍り出た。
「それなら、ハミィに任せるニャ。」
「ハミィ、妖精学校の場所、知ってるの?」
 エレンが期待に満ちた瞳で、親友の顔を覗き込む。
「もちろんニャ。前に一回だけ行ったことがあるから、虹の鍵盤は、ちゃあんと出せるニャ。」
 メイジャーランドの妖精であるハミィは、異世界間を結ぶ虹色の鍵盤を生み出す力を持っている。その鍵盤を使えば、誰でも異世界までひとっ飛びに移動することができた。

「良かった。じゃあこれでひと安心ね。」
 奏はようやく笑顔になったが、響の方は、いつになく真剣な顔で仲間たちを見回した。
「ねぇ。あたしたちは行き方がわかったけど、他のみんなはちゃんと行けるのかなぁ?」
 そう言われて、三人も顔を見合わせる。
「みゆきちゃんたちは、本の扉があるから大丈夫よね。」
「咲たちも、大空の樹から行けるわよね、きっと。のぞみたちには、シロップが居るし。」
 仲間たちの顔を思い浮かべながら、アコと奏が確認するように言い合う。すると、エレンがぼそりと呟いた。
「せつなのアカルンは、使えるのかな・・・。確か、行く人が知ってる場所じゃないと行けないって、前に聞いたことがあるんだけど。」
「つぼみちゃんたちも、移動手段、何か持ってるのかしら。」
 奏も心配そうな声を出す。すると黙って聞いていた響が、バン、とテーブルに両手をついて立ち上がった。

「いいこと考えた!じゃあさ、みんなで待ち合わせして、一緒に行こうよ。それならみんな、どうやって行けばいいかって、悩まなくていいもんね。」
「それいいかも!あ、でも響、待ち合わせって、みんなに加音町まで来てもらうの?」
 奏の問いに、響はちょっと考え込む。
「うーん、みんなの住んでる街の、ちょうど中間くらいのところで落ち合えたらいいんだけどな~。」
「響、それは止めた方がいいわ。慣れない場所からだと、ハミィが方向を間違えるかもしれないもの。」
 アコがずばりと指摘する。エレンにも力強く頷かれて、ハミィは、ハニャニャ~、と少し情けない声を出した。

「そうなると・・・なぎささんたちには、加音町はちょっと遠すぎない?」
「そっちは咲ちゃんたちに任せようか。じゃあ、まずはラブとつぼみに連絡取ってみる。」
 響が携帯を取り出して、何だか嬉しそうにアドレスを探す。その様子を、三人も笑顔で見守った。


 ☆


「はい・・・はい・・・えっ?・・・あ、ちょっとスミマセン。もう、えりかぁ!少し静かにして下さい。響さんの声が、聞こえないじゃありませんかぁ!」
 直前まで、「アコはっ?アコは元気?背ぇ伸びた?」と言い続けていたえりかは、涙目のつぼみに睨まれて、ようやく口をつぐんだ。
「はい・・・ありがとうございます、助かります!・・・ええ、すっごく楽しみですね!」
 ようやくスムーズに会話が出来るようになったつぼみが、電話口で頬を紅潮させる。その顔を、えりかもいつきも、そしてゆりも、期待に満ちた眼差しで見つめた。

「お待たせしました。響さんから、加音町で待ち合わせして、一緒にパーティーへ行こうって誘って頂きました。ラブさんたちも、ご一緒だそうです。」
 電話を終えて、嬉しそうに三人の顔を見回すつぼみ。だが。
「へぇ、響たちは、妖精学校に行く手段を持ってるんだ。ねぇ、どうやって行くの?」
 いつきの興味津津といった一言に、つぼみは再び涙目になった。

「それが、その・・・ハミィちゃんが空に虹色の鍵盤を出して、その上を、すいーっと飛んでいく、って言うんです。」
「へぇ~!面白そう!」
 目を輝かせるえりかから、つぼみは困ったように顔をそむける。その様子に、えりかがニヤリと笑って、つぼみの肩を叩いた。
「つぼみぃ、怖いんでしょ~?」
「そっ、そんなこと!でも、プリキュアに変身してならともかく、空を飛んでいくってことですよね?だ・・・大丈夫なんでしょうかぁ?」

「大丈夫ですぅ。」
「虹の鍵盤からは、絶対に落ちたりしないです!」
 シプレとコフレが、目の前までやって来てつぼみを励ます。
「ホントですかぁ?」
「二人がそう言うなら、安心ね。」
 ゆりもそう言って、まっすぐにつぼみを見つめて微笑んだ。

「ねぇ、つぼみ。」
 えりかは、つぼみの肩に手を置いたまま、少し真面目な顔になる。
「さっき、妖精学校までどうやって行こうかって悩んでたときさ。あたし、絶対に何とかなるって思ってたんだ。あの仲間たちが付いてるんだから、きっと誰かが連絡をくれるって。ね?その通りになったでしょ?」
「えりか・・・。」
 ニコリと笑うえりかの顔を、つぼみはまだ涙で潤んだ瞳で見つめる。
「響たちがあたしたちを誘ってくれて、一緒に行こうって言ってくれてるんだからさ。怖がらないで楽しもうよ。ほら、イチゴの知恵を信じてさ!」
 そう言って、ポンとつぼみの肩を叩くえりか。微笑みながらしっかりと頷いたつぼみは、次の瞬間、何だか恨めしそうな目つきでえりかを見据えた。
「わかりました。・・・でも、えりか。」
「なーに?」
「その諺は、『苺の知恵』じゃありません。」
「・・・へ?」
「生涯にただ一度きりの出会い・・・『一期一会』です!」
「えぇ~!イチゴじゃないのぉ!?」
「苺じゃないです!大体、どうして苺だと思うんですかぁ!」

 言い争うつぼみとえりかを、いつものように楽しそうに見つめるいつき。その表情を、ポプリは彼女の膝の上から、じっと見つめる。
「いちゅき~?」
「なんだい?ポプリ。」
「ポプリもいちゅきの、イチゴイチエなんでしゅか~?」
 心配そうに自分を見上げる妖精を抱き上げて、いつきはその小さな顔に頬ずりする。
「そうだよ。ポプリも、シプレも、コフレも、つぼみも、えりかも、ゆりさんも、それから他の仲間たちも、み~んな、ね。」
「嬉しいでしゅ!」
 ポプリはまだ、他の妖精全員とは喋ったことがない。今度のパーティーではみんなに話しかけて、自分も新しいイチゴイチエを作ろうと、ポプリは密かに、小さな胸を高鳴らせた。


 ☆


「やったぁ!みんな聞いて。響がね、あたしたちみんなで待ち合わせて・・・」
「加音町から一緒にパーティーに行こうって言うんでしょ?つぼみたちも一緒なのよね?ほとんど聞こえてたわよ。」
 電話を切って、勢い込んで話し始めたラブの後を、美希が苦笑気味に引き取る。
 電話の向こうの響の声は、興奮しているせいかヤケに大きくて、電話から漏れ聞こえる声だけで、何を言っているのか分かるほどだったのだ。
「良かったね、ラブちゃん。それにしても、ハミィちゃんって凄いのね。そんな能力を持っていただなんて。」
 大きな目を見開いて感心する祈里に、せつなが微笑む。口には出さなかったが、かつてはエレンも同じ力を持っていたと、本人から聞いたことがあった。

「加音町かぁ。今度こそ遅れないように、電車の路線はアタシが完璧に調べるとして・・・駅から待ち合わせ場所までの行き方は、ちゃんと訊いたの?ラブ。」
「うん、バッチリ!待ち合わせは、調べの館だって。」
 美希の問いに、ラブは自信満々で親指を立ててみせる。それを見ても、三人は何となく不安そうに顔を見合わせただけだった。何しろラブのせいで待ち合わせに遅れたことは、一度や二度ではないのだ。

「あとで響に頼んで、駅からの道順、メールで貰った方がいいわ、ラブ。」
「はーい。ねぇねぇ、それよりさ、せつな。加音町と言えば、やっぱりラッキースプーンのカップケーキだよねっ。帰りにちょっとだけ寄り道して、食べて帰ろうよ!」
「呆れた。パーティーでご馳走食べるんじゃないの?」
 道順のことなんか既に頭には無いラブに、さすがのせつなも肩をすくめる。
「だってぇ、みんなの顔を思い浮かべたら、何だか一緒に、みんなの町の美味しいものが浮かんで来ちゃったんだもん。PANPAKAパンのチョココロネ、美味しかったよねぇ~!」
「うん。あと、こまちさんとこの豆大福も。」
 うっとりと中空を見つめるラブに、祈里までもが幸せそうに呟く。それを見て、美希の顔がわずかに引き攣った。

(マズイわ。みんなの町の美味しいものって言ったら、必ず出てくるわよね、アレが。)
「えーっと、それからぁ~」
「あ、アタシちょっと・・・カ、カオルちゃん!飲み物のおかわり・・・」
 なおも先を続けようとするラブを制して、美希はこそこそと席を立つ。だが、その背中からラブの声が追いかけて来て、美希は思わず耳をふさごうとした。
「そうだ、忘れてた!ほら、あのソースが香ばしくってさぁ、ほっかほかの、アカネさんの・・・」
「あかねちゃんの、お好み焼きでしょ?美味しいわよね。あの鮮やかなコテ返し、また見せてもらいたいわ。」
「・・・え?」

 意外な声が聞こえてきて、美希が思わず振り返る。すると、こちらをちらりと眺めて一瞬だけニヤリと笑うせつなと、目が合った。
「わっはー!そうだよね、せつなっ。ああ、思い出したら食べたくなってきちゃったよぉ!」
 ラブが再び、大喜びで騒ぎ始める。美希は、自分も一瞬だけせつなに膨れっ面をしてみせてから、カオルちゃんのワゴンへと向かった。

「なんか楽しそうだねぇ。持ち寄りパーティー?いやぁ、やっぱ餅よりドーナツだよね、グハッ!」
 カオルちゃんが、相変わらずのテンションで話しかけてくる。
「うーん、持ち寄りじゃあないんだけど・・・。でも、カオルちゃんのドーナツは、お土産に持っていこうかしら。」
 美希が弾んだ声でそう言って、飲み物を受け取る。
 一瞬、美希の脳裏にパノラマのように絵が浮かんだ。カオルちゃんのドーナツを囲んで、目を輝かせる大勢の仲間たちと、その真ん中で満面の笑みを浮かべている、自分たち四人の姿が。それがもうすぐ現実のものになるかと思うと、頬が緩むのを抑えきれない。

「そりゃあ歌が上手い人って言ったら、エレンとうららだよね~。でも、歌はみんな好きだよね。またみんなで一緒に歌いたいな~。」
 どうやらようやく、話題が変わってくれたらしい。久しぶりに会う仲間たちのことを、実に嬉しそうに話している三人の元へ、美希も笑顔で駆け戻った。


 ☆


 その光景を目の当たりにしたとき、エンエンはもちろん、さすがのグレルも息を呑んだ。
 雲の彼方から架けられた、大きな大きな虹の橋。その上を十二人の少女が、楽しそうに笑いさざめきながら飛んで来たのだ。
 先頭の三人は、何だか怖々飛んでいる少女を真ん中に、瞳に強い力を感じる二人の少女が両脇を固めている。
 続いては、口を真一文字に引き結び、気合い全開で飛ぶ少女。そんな彼女を、両側の二人が穏やかに見守っている。
 お次の三人は、それぞれ妖精を大事そうに抱きかかえて、楽しそうに談笑している。
 最後の三人は、最年少らしき少女の手を引く最年長らしき少女と、それをニコニコと見守る少女だった。

「す・・・凄い。なんでみんな、あんなにキラキラしてるんだ?」
 思わずそんな言葉をこぼしたグレルだったが、隣りでうっとりと呟くエンエンの言葉を聞いて、途端に顔を曇らせた。
「こんなにたくさん・・・。ねぇ、グレル。やっぱりプリキュアって、普段からみんな友達なのかなぁ?」
「・・・・・・。そ、そんなこと知るかよ!」
 グレルがそう叫んだとき、彼の後ろに、音も無く影がやって来た。

「へへっ、ヤツらが変身して来なかったのは、ラッキーだな。おい、始めようぜ。」
「・・・そうだな。」
 グレルが影と一緒に、くるりと踵を返す。エンエンは、仕方なくその後に続きながら、最後にもう一度振り返って、虹と共に煌めく少女たちの姿を見つめた。
(もうすぐ、ここにプリキュアがやって来る。プリキュアに会ったら、僕は――僕は本当は、どうしたいんだろう・・・。)
 心の奥に眠る、その疑問の答えが見つかるまで、じっと待っている時間は、残念ながら今のエンエンには無いようだった。

 ひまわり色の太陽は、今日ものんびりと穏やかに、妖精たちの世界を照らしている。
 プリキュアたちも、プリキュアの妖精たちも、妖精学校にいる妖精たちも、これから何が始まろうとしているのか、まだ知る由も無かった。

~終~
最終更新:2013年03月28日 01:06