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精霊馬/ねぎぼう




~8月12日から16日までお盆にてお休みとさせていただきます~

 ついこの間までは賑やかだったクローバータウンストリートの店々にシャッターが下ろされ、
この張り紙が貼られていた。

「ラブ、お盆って何?」
「お盆はね、えーっと……ご先祖様をお祭りするんだよ」
「ご先祖様?」

 ラビリンスでは人間の誕生から死まで総統メビウスに管理されている。
『コントロール下におかれている』というのが正しい言い方であろう。

 メビウスによって人が生まれ、もやは貢献することができなくなるくらい老いたものは寿命を終える。
ただそれの繰り返し。

 親から子へ、子から孫へ家系を引き継ぐということもすでに廃されていた。

「ラブの家は代々畳屋さんだったのよね?」
「うん……そうだよ」
「あの畳はご先祖様がいたからあるのね」
「そうだね!」

 ラブのベッドは祖父・源吉が一針一針に魂を込めた畳。
 それは先祖達の魂でもあった。

*****

「ただいま」

「おかえりなさい。ちゃんと手は洗った?」

 あゆみの一声に、麦茶を飲もうとしていた二人はあわてて洗面所に引き返す。

 手を洗ってうがいをし、改めて麦茶を飲んでいると、

「ラブー、せつなちゃーん、ちょっと手伝って」

「はーい、お母さん(おばさま)!」

 二人はあゆみのところに行く。

「盆棚作るから、精霊馬作っておいてね」

「しょうりょううま、って何?」

「せつな、見ていて」

 そういうとラブは台所から胡瓜、茄子、そして割り箸を持ってきた。

「こうやって作るんだよ」

 二膳分の割り箸を続けて割るとさらにその割り箸を半分に折った。

 ちょっと曲がった胡瓜を一本手にすると、折った4本の割り箸を胡瓜に突き刺していく。

「え? 食べ物にこんな悪戯していいの?」

 いぶかしがるせつなをよそに、足の角度を整えていく。

「はい、出来上がり!」

 胡瓜で出来た四足の動物のようなものが出来た。

「これが馬ということになっているんだ。せつなは牛を作って」

 そういうとラブはせつなに茄子と割り箸を2膳渡した。

(牛……そういえばウエスターがこっそり飲んでいた『牛乳』はこの動物がだすのだったわね。
それが、どして?)

 せつなも箸を割ると見よう見まねで茄子に割り箸を突き刺していった。

「これでいい……かしら?」

「いいよ、せつな!」

 そこにあゆみがやってくる。

「出来たの、供えておきましょう」

「送り牛はせつなが作ったんだよ」

「せつなちゃん、ありがとう。上手くできたわね」

 その言葉に嬉しい気持ちになるせつな。

 3人が盆棚に向かう。

 盆棚にはすでにお供え物などが置かれており、ちょうど空いている場所に
ラブとせつなが作った迎え馬と送り牛と供えられた。

「お盆にはご先祖様をね、この迎え馬であの世から早くお迎えするの。
で、この送り牛でお供え物と一緒にゆっくりお送りするのよ」
「あの世……」

(あの時、キュアピーチが差し出した四葉のクローバーに手を伸ばそうと
した時に目の前から全てが消えた……
 自分の存在も消えていく…… アカルンが現れなければ……)

「せつなちゃん、どうしたの?」
「……いえ、何でもないです」
「あ、お母さん!今日は夕方のシフトだったよね?」

 あゆみのパート先のスーパーマーケットには盆休みというものはない。

「そうそう、そろそろ行くわ。今日は夕ご飯の支度お願いね」
「はーい」

*****

 あゆみがパートで家を後にした。

「ねえ、ラブ」
「どうしたの?」
「この世界の人は……死んだ人に……会いたいの?」

 ラビリンスには、特定の時期に先祖の霊を迎えるという概念・文化はない。

「え?」
「ラビリンスでは、メビウスが寿命を決める。寿命が終わった人間のことを
考えることなどなかったわ……」
「そうだね。この間はナケワメーケと戦っているときに目の前が
真っ白になって……おじいちゃんの……夢をみたのかな……
きっとあの時は本当に会いたいと思っていたんだ」
「大切な人、なのね」

 あゆみが精霊馬の話をした時に一瞬せつなの様子が変わったことにはラブも気付いていた。

 イースの落命をその目で見た故に知る秘密。

「せつな」

 ラブは背中からせつなを包みこむ。
 かすかに震えているのを感じた。

「大丈夫だよ。せつなは、今ここにいるから」
「ラブ……」
「あたしね、おじいちゃんのことを思い出すのが本当は怖かったんだ。
小さいころ、おじいちゃんはもういないんだよって言われて……それが悲しくて……」
「そうだったの」
「でもね、もう逃げないから。あたし、おじいちゃんの思い、もう一度受け取ったから」

 しばらく、時間が止まっていた。

「そろそろ、夕ご飯の支度をしないといけないわね」
「そうだね、今夜はラブちゃん特製のゲキうまハン……」
「ラブ、いつもそれじゃダメっておばさまも言ってたじゃない!?」
「たはは…… じゃ胡瓜と茄子があるから夏野菜のカレーにしようか」
「私、辛いのはちょっと……」
「だいじょうぶ!」

 ラブは買い置きのバー○○○カレー甘口の箱と玉ねぎを持ってきた。

 挽肉を冷蔵庫から出しつつ、手早く玉ねぎをみじん切りにすると深手のフライパンで
炒めはじめた。

 いつものハンバーグを作る手順ではと思ったせつなは

「カレーを作るのよね?」
「そうだよ。このまま玉ねぎを炒めておいてね」

 玉ねぎを炒める作業をせつなに引き継ぐ。

 炒めている間にラブは精霊馬に使われなかった胡瓜と茄子を水洗いすると、
手早く一口大に切っていった。

 炒めながら横目で箱に書かれたレシピを読んでいたせつながふと、

「ニンジン1/2本って書いてあるわ」
「ぎくっ……いいのいいの! 夏野菜のカレーだからね」
「そうなの?レシピ通り作ったほうが……」
「このカレーの作り方教えてもらった時は、ピーマンも入れるって言っていたよ」
「それは……嫌」

 攻防はあっさりと休戦となる。

「そろそろ玉ねぎも炒まったね。お肉を入れよう」

 塩コショウを施した挽肉を加えてさらに炒めていった。

 香ばしい香りがただよう。

 肉の赤みがなくなった頃合いに、切った胡瓜と茄子をフライパンに加え、
柔らかくなるまで炒めていった。

「せつな、水を入れるよ」
「カレーって鍋じゃないの?」
「だからちょっと大きめのフライパン使ったんだ」

 水を加えてフライパンに蓋をする。

「後はしばらく煮込んで……と。せつな、トマトまだあるよね?」
「そうね。八百屋さんが明日から休みだからってたくさん買ったのよね」
「お母さん苦笑いしてたね。ルーと一緒にトマトも切っていれるんだよ」
「そうなの、それ、私が切るわ」
「じゃ、お願いね」

 あゆみの手伝いも始めていたせつなは少しぎこちないながらもトマトを切っていく。

「どれくらいの大きさかしら」
「一口くらいでいいんじゃないかな」
「わかったわ」

 煮込みがいい頃合いになったころに、ルーを割りいれ、先ほどせつなが切ったトマトを加える。

 ルーが溶けた頃合いをみて、お玉でカレーを少し掬い取り、小皿に移すと、ラブが味見する。

 満足そうな顔を浮かべたラブは、

「せつなも味見して」

 以前食べたカレーが辛かったせいか、恐る恐る取り小皿のカレーを口にする。

 せつなもぱあっと晴れやかな表情になった。

「そろそろお父さんが帰ってくるころだからサラダ切っておこうか」
「ええ」

*****

 圭太郎が帰ってきた。

「ただいま……今日はカレーだね」
「お帰りなさい!せつなと作ったんだよ」
「それは楽しみだね」

 あゆみは閉店までのシフトのため、先に3人で食卓を囲む。

 普通のカレーと違う具材に圭太郎は、

「いつものカレーとは違うようだなあ」
「夏野菜のカレーだよ。胡瓜と茄子が入っているんだよ」
「お盆なんだな……」

 ひと匙すくって食べる。

「あまり辛くないカレーなんだ」
「おじさま、ごめんなさい」
「辛味ソース要る?」
「大丈夫、いけるねえ、これ」
「本当!?」
「よかったわ……」

 新レシピは好評のようで、嬉しくなるふたりであった。

「お父さんの会社は明日から休みだから、明日はお父さんが晩御飯を作ろう」
「お父さん、また肉じゃがでしょ?」
「おじさまの肉じゃがは美味しいわ」
「せつな、そんなこと言っちゃだめだよ。お父さんも新しいレシピ覚えないと」
「これは参ったなあ……」

*****

 夜遅くにパート先から帰ったあゆみはテーブルに残した手紙を読む。

~お疲れ様。カレー作りました。温めて食べてね。~

 先に仏間に向かうと、二人が作った精霊馬に目をやりつつ、仏壇に手を合わせた。

(お父さん、今年は2人の娘が待っていますからね)
最終更新:2013年08月26日 20:40