タイフーン・ファミリー/一六◆6/pMjwqUTk
窓ガラスがガタガタと鳴る音が、まるで巨人が家を揺さぶっているように聞こえる。
雨音に交じって聞こえるゴォーッという風の音は、怪物が家を吹き飛ばそうとしているみたいだ。
ラケルは、布団を頭から被って、長い耳をぎゅうっと両手で押さえつけた。
「大丈夫?ラケル。」
六花の声が、くぐもって聞こえる。
「こっ、これくらい、大丈夫ケル!」
そう答えた途端、窓ガラスがまたガタンと大きな音を立てて、ラケルは再び、ビクリと首を縮めた。
今年一番の大型台風が、日本列島に接近。今夜の大貝町は、暴風雨の真っただ中にあった。
「今晩だけだと思うから、我慢して。明日になれば、台風一過でいいお天気になるはずよ。」
六花の手が、布団の上から頭を撫でてくれる。それが嬉しくて、でも何だか情けなくて、ラケルはハァ~っと溜息をつく。そのせいで、六花の声が余計聞こえにくくなってしまった。
(台風・・・一家・・・ケル?台風にも家族がいるケル?とすると、今暴れてるのはきっと、お父さんケル・・・。大変ケル!きっと全員揃ったら、明日はもっと大変なことになるケル!)
心配になってそっと布団から顔を出すと、パジャマ姿の六花が、そんなラケルを見てニコリと笑った。
「電気、消すわよ。」
声とともに、部屋が仄青い闇に沈む。六花が、おやすみ、と眠そうな声で言いながら、ベッドにもぐりこんだ。
(きっと六花は、ボクを怖がらせないように、わざと明るい顔をしてるケル。よぉし、怖がってばかりいないで、明日はボクが六花を守るために頑張るケル!もっと強い風が吹いたって、負けないケル!)
ラケルは、ぐっと小さな拳を握る――のは耳を押さえているので無理だが、布団の中で一人、うん、と頷く。
小さなナイトの決死の覚悟も知らず、隣りからは、すぐに健やかな寝息が聞こえ始めた。
☆
翌朝。
「う~ん、いいお天気!何だか空が洗われたみたいね。」
制服姿の六花が気持ちよさそうに伸びをする横で、ラケルは不思議そうに首を傾げた。
六花の言う通り、空は昨日の荒れ模様が嘘のように晴れ渡り、朝の太陽はピカピカの真新しい光を投げかけている。
(台風の家族、居なくなっちゃったケル・・・?)
六花に聞いてみようと、ラケルが口を開きかけたとき、家の前にのびる石段の上から、見慣れた二つの顔が、ひょいと覗いた。
「おっはよ~!六花、ラケル、早く早く!」
「急ぐシャル~!」
マナとシャルルが、目をキラキラさせて手招きしている。
怪訝そうに顔を見合わせてから、二人が急いで石段を上がると、マナは満面の笑みで、通りの向こうを指差した。
「ほらっ!凄いでしょ!」
「うわぁ・・・。」
六花とラケルが、揃って感嘆の声を上げる。
マナの指の先には、真っ青な空。その空の真ん中に、ラケルが見たことのない七色の大きな橋が、きれいなアーチを形作っていたのだ。
「あれは、何ケル!?」
「虹よ。雨が降った後に、こんなふうに空が晴れるとね、ああいう虹が出ることがあるの。」
「きれいシャル・・・。」
「凄いケル・・・。」
「ホントに見事ね。私もこんな大きな虹は、初めてかも。」
口をあんぐりと開けて虹に見入るシャルルとラケルに、六花も笑顔で頷く。それを見て、マナが相変わらず高いテンションで言葉を繋いだ。
「まさに、台風一過だねぇ。こぉんな素敵な虹を見せてくれるなんて、もぉキュンキュンだよっ!」
その途端。
「そうか!そういうことだったケル!?」
ラケルが、マナものけぞるような大声でそう叫ぶと、六花の腕の中に嬉しそうに飛び込んだ。
「六花!台風の家族って凄いケル!一人だとあんなに怖くて乱暴なのに、一家が揃うと、こ~んなにきれいなモノを見せてくれるケル!?」
「・・・え?何のこと?ラケル。」
一大発見をした、と言わんばかりにまくし立てるラケルに、今度は六花が目を白黒させる。
「台風の一家ケル!昨日六花が、明日は台風の一家が揃うって、教えてくれたケル!みんな揃うと、台風だってきれいで明るくて、楽しいケル!」
「ああ、台風一過のことね。」
やっと合点の行った六花が、それはね、と説明しようとしたその時、もう一つの嬉しそうな声が、すぐ隣りから聞こえてきた。
「ラケル、いいこと言う!そうだよね。どんな嵐の後だって、み~んなが揃ったら、明るくて、楽しいよねっ!台風の一家、いいよ、それ!」
あのねえ、マナ・・・と言いかけて、六花は口をつぐむ。そして、大きな空の架け橋を、力強い眼差しで見つめる友の横顔を、そっと見つめた。
「さ、早く行こう、マナ。虹は歩きながらでも見られるんだから。」
「そうだね。じゃあ、今日も張り切って行きますか!」
二人の少女が虹に向かって歩き出し、妖精たちは虹に見とれながら、今日は先に立って飛んでいく。
きっとあの七色の橋の向こうには、今は穏やかな雲となった台風の家族が、みんな一緒にいるんだろう。そう思いながら、ラケルは六花を振り返って、嬉しそうに笑った。
~終~
最終更新:2013年10月16日 22:50