バイト始めました。ご
お久しぶりです。私です。本日は朝から早々にバイトを頼まれてしまいました。
ケータイでセットした鳥のさえずりのアラームに起こされる前に、よくわからないおじさんの声で起きました。気分は若干ブルーです。
でもそんなことも言ってられないかなあと思うのです。なにやら今日はプリキュアの人達と、銀髪でマントをたなびかせて上から目線で偉そうにしてる人が喧嘩? というか言い争いをしていて動くに動けない。
「君はもっと物分りがいいと思っていたんだけど… そちらで生活してみてわかっただろう? 君はそっちの人間じゃない。早く戻ってくるんだ」
「これ以上私に構わないで! 何を言われても私がそちらに戻ることはないわ!!」
悪の組織が正義の味方のプリキュアを勧誘してる…こういうのアリなのかよ…っていうかパッションガチで嫌がってるじゃん。ざまーみろ。ちょっと格好いいからって気取ってるからだ調子に乗るな。
「やはり正面から言っても駄目か。ウエスターの真似をしてみたけどこういう方法は僕には向いてないな。僕は僕なりにいかせてもらうよ」
そう言ったかと思うと横でスタンバってた自分の方を向いた長髪。なんでこのタイミングでこっち見たの?残念だけどアイコンタクト出来るほどあなたとの絆とかないから。
見つめ合いが数秒続いたが、何のモーションも起こさない自分に苛立ったのかあからさまに不機嫌になった長髪にため息をつかれた。
こっちもつけるものならつきたいです。ため息。
「ヴぃー」
ほら、はあーっていったはずなのにヴぃーになっちゃったよ。
「やる気あるのかい君は…まあいい。とにかくそのスクリーンにパッションを映すんだ」
スクリーン? 今日の自分はどうやらスクリーンが胴体らしい。テレビのモニターの左右から両手が出てて下面から両足が、上面の中心にリモコンみたいな顔した怪物が店のウィンドウに映っていた。
…ダサっ!
…いつもの事か。
とりあえず言われた通りにパッションを映す。と、その瞬間に飛躍した長髪が、きっと頭であるはずのリモコンのスイッチを押した。
あれ…今自分には目となる部分がない気がするけどうやって周囲を見てるんだろう…
まあ兎に角、その押されたスイッチはよく見ると巻き戻しボタンで、押した事でスクリーンの中のパッションの画が歪になって、いつしか黒が目立つ銀髪の女の子の画像に変わって止まる。
再生ボタンが押された。
「…わ…わが名はイース…ラビリンスそう…相当…メビウス様が僕!!」
「イース、相当じゃなくて総統だ」
「そんなのわかっているっ! それよりも私が言いたいのはなぜこんな宣言を毎度しなければならないのかという事だ!!」
「しょうがないだろう。クラインからの命令なんだ。僕たちは意見出来ないよ」
「ああああっ!! 恥ずかしいんだよっ! これをやった時のぽかーんとしながら見てくる連中の目線が耐えきれないんだよっ!!」
ダンッ!とテーブルに振り下ろされる両腕。握り拳を作りワナワナと震える銀髪の女の子。この子あれじゃん。いつからかいなくなってた敵のひとりじゃないですか。何度か自己紹介の場面に出くわした事あったけどいつも堂々と名乗ってたのに…
「そっか…あれ、ほんとは嫌々やってたんだねパッション…」
「ごめんね気付いてあげられなくて…」
「わたし達がやめなよって言わなかったばっかりに…」
「や…やめてっ! それ以上見せないで! みんなの生暖かい眼差しで心が折れそうっ!!」
「ヴぃいー(元気出せよ…)」
「ナケワメーケにまで同情されたぁ!」
頭を抱えてうずくまるように崩れ落ちるパッション。あー、銀髪の女の子が進化してパッションになったって事か。それはまた複雑な関係ですね。
「くははっ… どうだいイース。他にも君が見せたくない動画をここで上映してあげようか? それが嫌ならこちらに戻ってもらおうか」
「くっ…! なんて卑怯な! っていうかなんでそんな動画持ってるのよ!!」
「なぜって…僕がこっそり撮っていたからだけど?」
「変態だ!!」
「変態がいるわっ!」
「わたし変態って初めて見た…変態ってあんな顔してるのね…」
「君達ちょっと失礼じゃないか…? これは人間観察というれっきとした僕の仕事の範囲内で…大体変態なら君達だってそうだろ」
「盗撮が仕事ってもう犯罪者じゃんっ! ナケワメーケとか使うまでもなく罪を犯してたよあの人!!」
「変態の意味的には私達もそうだけどここで知識の披露をされても困るわ!」
「アタシの経験上ああいう奴がエスカレートしてストーカーとかになるのよ」
「パッション、今度から出歩く時は気を付けたほうがいいよ…?」
「ありがとうパイン」
みんなが地面に体操座りしているパッションを慰め始めた。と同時に、今まで敵に向けるような視線だった目が、生理的にちょっと…という眼差しに変わって長髪に無言の非難を送る。ついでに自分も送る。
「なんだい君達その顔は…プリキュアとしてn「しゃべるな変態」…」
「ヴぃーヴぃてぃいい…(自分も変質者みたいな人の命令に従うのはちょっと…)」
「なんで味方であるはずのおまえまでそんな感じなんだ……はー…なんだか興醒めしてしまったよ。今日はこのくらいにしておいてあげよう。感謝するんだなイース」
「軽々しくパッションに話しかけるのやめてよ変態」
「早く帰れ」
「もう来なくていいよ?」
「くっ! 今日の作戦は途中まで上手くいっていたはずなのに…!」
悔しそうにそんなことを言いながらどこかへフェードアウトしていった長髪改め変態は、戦闘らしい戦闘も行わずに行ってしまった。
途中まで順調だったとか言ってたけど、多分最初から失敗してたと思うよ。あと、自分がだした怪物を置いていくってどれだけ気が動転してたんだよ。
目の前には無傷で元気なプリキュアが四人。対して攻撃らしい攻撃も出来そうにないフォルムの自分。
終わったわ…色々と。
「相手は戦闘に不向きなナケワメーケだけ! とっとと終わらせるよみんな!」
「「「うんっ!!」」」
四人の猛攻撃に焦る。手足が短いからか上手く攻撃もかわせずにサンドバック状態。
頭上から迫るベリーのキックを避けようと体を回転させる。攻撃はなんとか躱せたが、そのせいで足元にあった段差にかかとを躓かせてしまった。
受け身すら取れずに背中から倒れた。
…体がでかい分衝撃がやばい。痛い上になんか頭ぐわんぐわんしてる。
――ザザッ―――ザッ―
と、倒れた時にどこか壊れたようで、スクリーンに砂嵐のようなものが流れだした。画像が乱れてさっきとは違う動画が勝手に再生され始める。やっぱり銀髪の女の子で、今度は一人でソファに座って何かの本を読んでいる。
「ふむ…こちらの世界の文化はなんだかよく分からないものが多いな…ん?なんだこれは? 俳句…ほう…決められた字数で今の気持ちを表するのか。そうだな………お、いいのが出来たぞ。
メビウス様 ああ メビウス様 メビウス様
―…中々いい出来なんじゃないかこれ…歴史に残るかもしれん。瞬時に作ってしまえる自分の才能が怖いな。ふふふっ……お、他にも短歌というのがあるのか。なら…―――」
「うわぁああぁあっ!!!」
「パッション落ち着いてっ!」
「錯乱してるわっ!」
「無理ないわ! あんなの見せられたら誰だってこうなる!!」
「あぁ、あいつころすっ! 粉々に砕いてやるっ!!」
ヤバい。未だかつて見たことないような目で自分を睨みながらパッションがこっちに近づいてくる。人ひとり殺ってますって形相だよあれ。確かに今のはちょっと恥ずかしいかもしれないけど。他の人には見られてないと思っていた事だと余計恥ずかしいかもしれないけど!そんな一時の憎しみで手を汚すのはどうかと思うよ!
なんて必死に説得しても所詮自分は「ヴぃ」しか言えないただの怪物でしかなくて、このままだと精神崩壊させられてもうバイトどころではなくなるんじゃないかと思った。というか悟った。さよならこの世界。廃人になっても自分の事覚えてたらいいな…あ、別に廃人と俳人をかけたわけじゃないからね。
覚悟を決めてというより何もかも諦めてパッションからの攻撃を待っていたら、ピーチが殺しに迫っているパッションの左腕を後ろから両手で掴んで引き留めた。
「っ…! 離して…」
「嫌だっ! 自分の怒りや憎しみを晴らすために戦うなんてやめてっ!!」
「でも私…あいつが憎い! あいつのせいで、私はクールさとか威厳とかを失った気がする! 憎しみが力になるなら…私はそれでも構わない!」
「そんな事言わないで! あたしの大好きなせつなは、そんな気持ちになんて負けない! お願い…憎しみの気持ちで戦わないで!! そういう気持ちは、誰かが歯を食いしばって断ち切らないとダメなんだよ!! あたし達がプリキュアをしているのは何の為なのか思い出して!」
「でも!…でもっ…!」
「キュアパッション! あなたが! あたしが尊敬するせつなが! 何がしたいか、何をするべきなのか、何のために戦うのか…自分で考えて!!」
「っ! ラブ………―――そうね。そうよね…私達は憎しみを晴らすためではなく、幸せのために戦うべきよね」
「うんっ!!」
…なんかいい話っぽくまとめてるけど、いい話なのかなこれ。自分の過去の恥ずかしい話を暴露された腹いせに攻撃してこようとしてただけだよね。っていうか前回の話では自分達の怒りを怪物にぶつけてませんでしたっけ?あれ完全に憂さ晴らしみたいだったじゃん。この前と今言ってること違うじゃないですかやだなーもう。
「ピーチ…腕、離してくれる…?」
「う、うん…」
「大丈夫よ。ピーチのおかげで目が覚めたから。ここは私にまかせて…!」
「わかったよパッション!」
こちらに向き直り一度だけ深呼吸をするとキッとハープを構えた。
「吹き荒れよ幸せの嵐! プリキュア! ハピネスハリケーン!!」
いつものように自分の周りを嵐が囲み、視界が花びらのようなものと赤一色になった。
よかったいつものパターンで。今回は浄化すらされずに抹殺されるかと思った。
「パッションっ!?」
え、何。
驚くようなピーチの声が向こう側から聞こえてくるけど状況が全然わからない。
「はああぁあっ!!!」
と思っていたら赤い壁を突き破ってパッションが飛び込んできた。一瞬だけ外の様子が見えたけど少しもしないうちにまた嵐で覆われて赤くなる。
飛んできたパッションはなぜかハープを両手で持ち、まるでスイングするような格好で飛んでくる
「ハピネスぅウウウ、ハリケ―――-ンッ!!!(物理)」
「ゴぉッ…い…」
なんとバットを振りかぶるようにハープで殴ってきた。ハピネスハリケーンとか言いつつハープを鈍器扱いして物理攻撃してくるとは…さっきのピーチとの感動的なやりとりなんだったの?予想外な上浄化され途中で装甲が薄くなっていたのかあまりの痛さに思わず絶叫。
「痛ってぇえええっ!!!」
「え…?」
絶叫するままシュワシュワと消えていく怪物と一緒に自分の意識も離れていく。
そうして、消えていく意識の中最後に見た光景は、こちらを驚いたような顔で見ながら落下するパッションだった。
それから数日後に確認した通帳には、いつもより多めの危険手当が振り込まれていて、ハープで殴られると普通の攻撃を受けた時に貰える金額より額が高いと知った。
最終更新:2014年01月23日 22:50