『クローバーコレクション』/たれまさ
「「「ガールズコレクション!?」」」
ダンスレッスン後のドーナツカフェでのおしゃべり。そこで美希が切り出した話題に全員の関心が集まった。
「ええ、この前ウチの事務所に依頼があったの。アパレルメーカーの若手の人たちが、合同主催でファッションショーをするんだって! 大きな会場で衣装もたくさん用意してあるらしいわよ」
「へぇ~、そんな大掛かりなショーに参加するなんて、美希たんすっごーい!」
「私たちも応援にいかなくちゃね!」
「いや~、それでね……」
「どうしたの?」
ツカミは上々、本題はこれからだった。
目の前のアイスコーヒーに一度口をつけてから、少し言いにくそうに美希は続ける。
「実は他にも同年代の子を集めているんだけど、まだまだモデルが足りないらしいの。そこで事務所から『何人か友達連れて来て』って頼まれてるのよ」
「え? それってもしかして……」
「三人ともお願い! 人助けだと思ってモデル手伝ってくれない?」
「えーーーーーーっっっ!!!」
予想した通り困惑する祈里。ラブは立ち上がって目を輝かせる。
せつなも興味はあるのだろうが、それより新作ドーナツに意識が向いているのか、黙々と次のドーナツに手を伸ばす。
「すごいよ! あたしたち芸能界デビューじゃん!」
(いや、そうじゃないんだけど)
美希はツッコミたい気持ちをグッと堪えて笑顔を作る。
「わ、私、自信ない、かも……」
「え? ファッションショーって衣装を着てステージを歩くだけよね? 簡単じゃない」
(その考えもちょっと違う……)
案の定びびりまくっている祈里と、まるで何でもないことのように言うせつな。
美希の思いをよそに、三人はそれぞれの反応を見せながらも、最後には全員が了承した。
「ありがとう! じゃあ事務所にOKの連絡してくるわね!」
多少の不安はあるものの、これで目的は達成された。
美希は席を立つと、リンクルンを取り出しながら広場の方へ向かった。
「もしもし、美希です。ガールズコレクションの件で……。ええ、先日話していた三人OKです。はい。 あ、それでですね……」
ラブは手を振って彼女を見送ると、キラキラ輝く目で残る二人に向き直る。
「ブッキー、楽しみだね!」
「ラブちゃんはいいかもしれないけど、私は人前でファッションショーなんて……」
「いいじゃんいいじゃん! 人前に出ることに慣れれば、ダンスだってきっともっと楽しくなるよ!」
「う、うん……」
「せ~つな、さっきからそのドーナツ食べ過ぎじゃない? 太っちゃうよ~」
ニヤニヤと笑うラブに、せつなは(うっ…)と一瞬うらめしそうな表情を見せるが、すぐに平静に返す。
「ラブこそ昨日お風呂の後に、『また太った…』ってつぶやいてたじゃない」
「あいやっ……それは……」
「へぇ~ラブちゃん、せつなちゃんと一緒にお風呂入ってるんだ。やっぱり仲いいね~」
「たはは~……」
数日後。
「いらっしゃい。ねぇ、ちょっとコレ見て!」
蒼乃家に呼ばれた三人を、意気揚揚といった様子の美希が迎える。
美容室の一角に大きな衣装箱が四つ置かれ、彼女はその中から一つの衣装を取り出して見せた。
「衣装を着るの、当日だけじゃ不安でしょ? 事務所にお願いして、四人分事前に借りてきちゃった! 」
美希の取り出したロングスカートには、三段フリル付きの黄色い花があしらわれている。シャツは彼女に相応しく薄青で清楚に仕上がり、胸元の紫色のリボンが全体を締めて見せる。
「おお~! 可愛いよ美希たん!!」
「本当、美希ちゃんによく似合いそう!」
「綺麗な衣装……ねぇ美希、これ着てみせてよ!」
「モチロン! みんなも一度試着してみましょうよ!」
ラブとせつなが楽しそうに自分の衣装箱を見つける中、祈里は不安げに美希に話しかける。
「美希ちゃん、本当に私なんかが出て大丈夫なのかな?」
「大丈夫よ! アタシがブッキーを完璧に仕上げてあげるから!」
美希は自分の部屋に戻り、ラブ、祈里、せつなは、それぞれ別の部屋で着替えてから、最後にはみんなで美希の部屋に集合する。
ラブは新緑のワンピース。コスモス柄のラインが膝高に来るようデザインされ、貝殻のネックレスが目を引く。
「へへー♪ どうかな」
「うん、いいんじゃない? ラブにしてはちょっと大人っぽいけど」
「えーっ! あたし普段そんなに子供っぽいかなぁ……」
「ごめんごめん。んー……じゃあ、これかけてみたらどうかしら?」
美希は自分の持ち物の中からサングラスを取り出して、ラブに貸してあげることにした。
「わはっ! さすが美希たん、いい趣味してるぅ!」
「当然っ! アタシ完璧なんだから!!」
せつなは、動きやすそうなピンクのオーバーオール。
ベルト部分にパッションを彷彿とさせる黒のリボンをあしらい、胸元のV字型のカットが目を引く。
「ダンスの服にも使えそうね」
モデルのような立ち方をしたせつなに、二人は思わず見惚れてしまう。
「おお! せつなカッコいいじゃん!!」
(素材がいいと何を着ても似合うわね。アタシがこの体型を維持するのにこんなに苦労してるってのに、この子は……)
そんな中、一人だけまだ着替えていない祈里が、美希の元に衣装箱を持ってきた。
「どうしたの? ブッキー」
「美希ちゃん、あのね……。これ見てほしいんだけど……」
彼女がおずおずと衣装箱を開けた瞬間、三人は目を疑った。
(こ、これは……)
ボディラインに軽くフィットするような黒のワンピースには、長い尻尾が付いていた。首の部分には紫のリボンとともに黄色い鈴が付けられ、腰部に描かれた小魚のワンポイントが可愛らしさを倍増させている。
さらにネコ耳と肉球がセットになっており、まさにネコ一色という衣装がそこにはあった。
「あ、あはは……あれ? 何か別のショーの衣装と間違ったのかなぁ? なんて」
だが、無情にも表書きのメモには、『くろねこセット:モデル 山吹 祈里』と書いてある。
「や……やだ、こんなの着て人前に立つなんてできっこないよぉ……」
すっかりしおれてしまった祈里に同情する反面、くろねこを身に纏ってポーズを取る姿を想像し、ラブ、美希、せつなは、一様に同じ気持ちを抱いた。
着 さ せ た い
(この機会を逃すまい)と決めた三人は、チラと目で合図を送り、まずはラブから説得にかかる。
「いやでも、きっと動物好きなブッキーに合わせてこの衣装なんだろうしぃ……。これ着たらブッキー完璧に可愛くなるだろうなぁ」
「ラブ、それはアタシに対する挑戦かしら? でもブッキー、後でアタシたちも着てあげるからさ」
「絶っ対に、完璧にブッキーに似合うと思うわ!」
「せつなまでっ!?」
珍しく力説するせつなに美希が一瞬戸惑いを見せるものの、次の瞬間にはもう、三人とも祈里に向き直っていて。
「「「だからさぁ……」」」
異様な雰囲気を感じ取り、嫌な予感がした祈里の表情が引きつっていく。
「えっ……? みんな、どうしたの……?」
血走った目でジリジリと迫る三人に、祈里は身の危険を感じ、泣きそうになりながら後ずさる。
「まさか……変なこと……考えてない、よね?」
怪しい手つきで肉球を持つ美希の後ろで、ラブはネコ耳を、せつなはワンピースを持ち、影のある笑みを浮かべて少しずつ間を詰めて行く。
そして祈里の背中が壁に当たったのをきっかけに、いっせいに三人は襲いかかった。
「お願いブッキー! ちょっとだけ、このネコ耳だけでもつけてみて!」(ふえぇ!?)
「きゃーーーっっっっ!! かわいいーーーっっっ!! 次これこれ!!」(いやぁ!!)
「美希! いいから足持って! ラブ、一緒に脱がすわよ!!」
「「合点!!」」(いやーーーーっっ!!!)
普段のダンス以上の連係プレーであっという間に脱がされる祈里。
「「せーーのっ!!」」
「ラブちゃん、せつなちゃん、ちょっとやめてーーっ! 」
「っ!!! わっはーーーー!!!」
親友に脱がされる恥ずかしさと、身動きできない辛さで、祈里は「やめて」と目に涙を浮かべながら懇願するが、その姿がまた一段と可愛くて……。
数分後には、泣き崩れるくろねこブッキーと、それにしがみつく三人の姿が、それはそれはあたたかく美希の部屋に広がるのでした。
「ブッキー……。もし良かったらこのまま家においでよ」
「ちょっ! ラブ、下心まる見えよ! ブッキーはこのままアタシと一緒にいるべきでしょ! ほら、せつなも何か言ってやって」
スパン! スパン! と軽快なスリッパの音が鳴り響く。
ラブと美希が頭を抱える中、祈里を独占したせつなは、無言のまま強く彼女の手を握り締めた。
衣装をしわだらけにしたことに気付いて美希が青ざめるのは、それから一時間後の話だったとか……。
(画・れいん)
最終更新:2014年02月12日 22:27