「ハート・ウォーミング・バレンタイン」/アクアマリン
「ねーマナ、”ばれんたいん”って何?」
そう言ってレジーナが聞いてきたのは2月のある日の帰り道でのことだった。
「バレンタインっていうのはね、2月の14日に好きな人やお世話になった人にチョコレートを贈ることだよ」
「ふーん、でもなんでチョコレートなの?」
「えっと、それはねー」
「別にチョコレートを贈ると決まっているわけじゃないわ」
予想外の質問に言いよどむマナに代わって六花が答える。
「つまりは好きな人やお世話になった人に対して『いつもありがとう』や『愛してる』という想いをチョコレートに託して送るというのがバレンタインの意味なの」
「さすが六花~」
自分だったらここまでうまく説明することはできないだろう。そう思いマナは素直に感心した。
「もうすぐバレンタインだなー。ホント楽しみだねー、六花、レジーナ」
「ふーん。バレンタインってそんなに楽しみなの?」
まだよく分からないといった感じでレジーナが尋ねる。
「そりゃー楽しみだよ。みんなにいっぱいチョコを配れるんだから」
「まったくマナったら…」
相変わらずの幸せの王子っぷりに六花が苦笑していると
「マナー、あたしもマナにチョコレート作る! !」
唐突にレジーナが言い出した。
「あたしもチョコレート作ってマナにあげるのー、うれしいでしょ」
「うん。ほんとキュンキュンだよ。レジーナのチョコレート今から楽しみだなー」
そうしていつものようにマナの腕にしがみつきながら歩くレジーナとそんなレジーナを妹のように見つめるマナを見ながら
(よかったわね、マナ、レジーナ)
六花は声に出さずに2人を見つめていた。
「六花はやっぱりマナにチョコレートあげるケル?」
「”やっぱり”って何よ」
そう言って六花はチョコレートを刻む手を止めた。
「別に深い意味はないケルー」
バレンタインを間近に控えた夜、2人きりの台所ではラケルがやっかみぎみに六花に話しかけていた。
「ちゃんとラケルの分も用意してるから」
それを聞いてラケルは嬉しそうにへへっと笑う。
「マナにあげて、ありすにあげて、それからまこぴーでしょ、亜久里ちゃんでしょ、それから、それから…」
そう言いながら指で数えていくといつの間にか両手の指では足りなくなってしまった。自分もマナの事を言えたものではないと思わず苦笑してしまう。
思えばこの1年間で自分の日常は今までにないほど変わっていた。
プリキュアに変身して戦ったり
将来の夢とやりたい事の間で悩んだり
アイちゃんの育児を通して母親の苦労と喜びに気付いたり
その度に苦しむこともあったけど最終的には自分が大きく羽ばたく力となった。
そしてこれからも…
そんなふうに自分が羽ばたけたのはいつも
(マナがいてくれたから…)
だから自分も感謝の気持ちを精いっぱいチョコレートに込めよう。
「六花、どうしたケル?」
ずっと手を止めている六花を心配したのかラケルが声をかけてくる。
「ううん。ちょっと考え事してただけ。」
「マナのこと考えてたケル?」
「うっ、そっ、そうよ。悪い?」
今度は図星をつかれ動揺する。
「別に悪くないケル。あっ、そうだ」
そういうとラケルはポンと小さい音を立てて人間の男の子の姿になった。
「ラケル?」
「僕もお手伝いするケル!一緒に作った方がきっと楽しいケル!!」
「ラケル…」
六花はパートナーの好意に一瞬戸惑った。しかし、すぐに
「わかったわ。じゃあまずは上の棚にある大きなボウルをとって」
「合点承知ケル」
こうして六花とラケルは愛を込めてチョコレートを作っていった。
「マナー、そろそろ出ないと遅刻するわよー」
「ふあーい」
バレンタイン当日、いつもの日課でマナを迎えに行くとまだ半分夢のなかといった感じのマナが出てきた。
「マナったら、またチョコレート作りで徹夜してたの?」
「うん。ラッピングとかでこだわったりしてたらあっという間に朝になっちゃって」
そういうマナの手には学校指定の鞄に加え、大きな紙袋を3つも抱え、その中にははち切れそうなほどのチョコレートが詰まっていた。
「おかげでシャルルも寝不足シャル」
そう言ってシャルルも大きなあくびをする。
「シャルルもほんっとごめん」
そう言って手を合わせるマナを見ているとなんだか昨年のバレンタインを思い出してしまう。あの時もマナは寝坊して家の中まで上がって起こしにいったのだった。
「ほら、一つ貸して」
そう言って六花は紙袋の1つを持った。
「ありがとう、六花」
「あとそれから」
六花は自分が持ってきた紙袋の中からピンクのリボンでラッピングしたチョコレートを取り出した。
「マナ、いつもありがとう。これは私の気持ちよ」
「おおーっ、さすが六花。ありがとう!」
そう言って目をキラキラさせているマナを見るとこっちまで幸せな気持ちになってくる。
「はい六花、あたしからも」
そう言ってマナはダイヤモンドの形のチョコレートを渡した。
ありがとう、マナ… 六花がそう言おうとした時だった。
「マナー!!」
その声がした方を振り向くと全速力でレジーナが2人の方へ走ってきた。
「マナ!あたしも亜久里と一緒にチョコレート作ってきたの」
そう言ってレジーナは綺麗に包装されたチョコレートを手渡した。
「ありがとう、レジーナ。あたしとてもキュンキュンだよ。はい、あたしからも」
そう言ってマナがチョコレートを渡すとレジーナはまるで生まれて初めてお菓子をもらった子供のように目を輝かせた。
「ありがとう、マナ!大好きー」
そして昨日の光景を繰り返すようにマナの腕にしがみつくレジーナを少々あきれた様子で六花が見ていると
「はい、六花」
そう言ってレジーナがチョコレートを渡してきた。
「これアタシに?」
自分の分まで作ってきているとは考えてなかったので思わず聞いてしまった。
「そうよ、だってマナが言ってたじゃない。アタシのことが好きだからアタシの好きなパパも好きになれるって」
だからね、そう言ってレジーナは続ける。
「だからアタシだってマナの好きな六花やありす、それに真琴や亜久里だって好きになれるし好きになりたいの」
「レジーナ…」
その言葉には思わず驚いてしまった。そこには出会った頃のマナしか見えていなかった少女の面影はもうない。
レジーナもマナと出会って確かに変わったのだった、自分と同様に。そう考えると六花はなんだか嬉しくそして心が暖かくなった。
「ありがとうレジーナ、私もレジーナのこと好きよ」
そう言って六花がレジーナにチョコレートを渡すと
「ありがとう六花」
レジーナは笑顔で応えた。
「じゃあ、ありすたちにも渡してくるねー」
「ちょ、ちょっとストップ」
文字通り飛んで行きそうになるレジーナの手をつかんで六花が引き止める。
「今から渡しに行ったら学校に遅刻しちゃうわ」
「えーっ、アタシすぐにでも渡しに行きたいのに」
「レジーナ」
六花が穏やかな口調で話しかける。
「そんなに焦らなくったってレジーナの気持ちはちゃんとみんなに伝わるから」
「そうそう。だから学校が終わってからみんなで渡しに行こう」
すっかり眠気の覚めたマナがそう言うとレジーナもうん、と頷いた。
「って、大変。もう走らないと学校に間に合わない」
こうしてマナと六花とレジーナ、マナが紡いだ愛で結ばれた3人は大貝第一中学へと走っていった。
最終更新:2014年02月16日 22:31