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『ばとる☆ひーたー』5




★☆5☆★

「わー、みゆき、これが『コタツ』クル~?あったかいクル~!!」

 炬燵に入ったみゆきの膝の上でキャッキャとはしゃぐキャンディ。
 みゆき、やよい、れいかの三人は、初めての経験に喜ぶそんなキャンディを、優しい目で見つめている。

「そうだよー。こっちの世界じゃね、冬はこれが定番なんだ~」
「キャンディ、こうやってコタツに入ってるとね、身も心もふわふわ蕩けちゃいそうになるでしょ?」
「とろける……?きゃ、キャンディはキャンディクル!アイスクリームじゃないクル!溶けたりしないクル~!!」

 勘違いして焦った様子のキャンディに、朗らかな笑い声を立てるみゆき達三人。

「溶けたりはしないから大丈夫です……けれど、キャンディ、注意しなくてはいけませんよ。炬燵という物には、恐ろしい魔力があるのです」
「お、恐ろしい魔力……クル……?」
「そう……。一旦そのぬくもりに魅入られたが最後、時に人々は相争い、悲劇を生む事すらあるのですから……」
「悲劇クル……おっかないクル……」

 自分に向かって怖い顔で教訓めいた事を言い出したれいかに、キャンディはすっかり怯えてしまい、鼻先まで炬燵に潜り込ませる。
 そんなキャンディの頭を優しく撫でて、みゆきは微笑みかけた。

「平気だよ、キャンディ。何があったってわたし達はあなたを守る――だってわたし達は、友情で結ばれた五人の戦士、スマイルプリキュアなんだから!」
「友情……?」

 ヒョコッと天板の上まで顔を出したキャンディは、みゆきに不思議そうに問い掛けた。

「じゃあ、さっき表でなおとあかねが口と口をくっつけ合ってたのも、友情クル?」

 キャンディの台詞に、ガタン!!と炬燵の一辺が大きく揺れる。

「ゆゆゆ、友情やあるかい、あんなん!!」
「そそそ、そうだよ!!それに、あたし達はついさっきまで敵同士だったんだし!!」

 そこにはあかねとなおの二人が、満員電車さながらに、ギュウギュウ詰めで座っていた。

「き、キツイって!!あかね、もうちょっとそっち詰めなよ!!」
「これ以上詰められるかい!!キツイキツイって、なお、あんた最近太ったんとちゃうか!?」
「何をー!!」
「何やねん!?」

 最終決戦、ふしぎ図書館プッキーゲーム対決。
 最後にやよいが目にしたのは、折れて地に転がるプッキーの破片でも、瞬時に距離を置いて、キャンディを何とか誤魔化そうとする二人でも無かった。
 ――そこにいたのは、キャンディの登場に動揺しながらも、お互いをきつく抱きしめ合い、ついばみ合うかのように、幾度となく熱い口づけを繰り返す少女達だったのだ。
 おそらく唇が触れ合った際に、どちらかの口内でプッキーの最後の一欠片が砕けてしまったのだろう。
 よって、勝者は――無し。
 それが、やよいが下した審判であり、なおとあかねが押し合いながら炬燵の一辺を占拠している理由でもあった。
 その光景を思い出し、一触即発といった風情の二人を前にして、やよいは口元に手をやると、意味ありげな微笑みを浮かべる。

「んふふ~……そうよね~、ああいうのは友情とは言わないよね……どっちかって言うと、『愛情』かな?激しかったもんね~、なおちゃんもあかねちゃんも」
「やよい、ニヤニヤしながら何言うとんねん!!あんなん事故や、事故!!」
「そうそう!!あれは……そ、その……な、成り行きというか、ふ、雰囲気に流されたというか……とにかく、違うから!!」

 顔を真っ赤にして、弁解がましくギャアギャアまくし立てるあかねとなお。
 彼女達の顔が赤いのは、怒っているからだけでは無く、やよいの台詞でさっきまで自分達が繰り広げていた痴態が、鮮明に脳裏に蘇ったからだ。

「な、なお……あ、あんまりくっつくな言うてるやろ……」
「あ、あかねこそ……まだそっち少し余裕あるじゃないか……」

 そのせいで急に恥ずかしくなったのか、彼女達の言い争いも、何やら俯き加減の、大人しいものに変わってしまった。
 いつも元気で勝気な二人のそんな様子がおかしいのか、今度はみゆきがあかねとなおをからかいだす。

「ん~、場所が狭いのが不服だったら、もう一回だけ対決する?それに、あかねちゃんもなおちゃんも、プリキュアに変身して、しかも必殺技まで使って対決に勝ちたがるくらいの、超が付く程の負けず嫌いだもんね~。引き分けなんてぜーったい納得できないでしょ?」

 挑発的なみゆきの発言だったが、あかねもなおも、すぐに勝ち負けに熱くなる彼女達らしからず、揃って目を伏せ、躊躇いがちに言い返す。

「え、ええわ、別に引き分けでも……今度は何やらせられるか分かったもんやないし……なあ、なお」
「そ、そうだね……それに、結果は潔く受け入れるさ……それもスポーツマンシップだし……ね、あかね」

 顔を見合わせ、照れくさそうに名前を呼び合う二人を見て、れいかが怪訝な顔をした。

「あら、戦いを経て、多少は心が通じ合ったのでしょうか?先程まで張り合っていたのが嘘のようですね……何やらお似合いのようにも……?」
「れ、れいかまでサラッと変な事言うなよ!!ば、バカバカしい!!誰があかねなんかとお似合いなもんか!!」
「そ、それはウチのセリフや!女同士って事を差し引いたってやな、なおなんか絶対の絶対にお断りや!!」

 れいかの言葉に、慌てたように憎まれ口を叩いて、フン、と見合わせた顔を背けあうなおとあかね。
 とはいえ、すぐに二人共目線だけを動かし、相手の唇をこっそり盗み見る。
 その目は、先程までいがみ合い、闘志を燃やして必死に勝利を奪い合っていた戦士達とはとても思えない。
 例えるならそれは、蜜のように甘い想いを内に秘めた、可憐な花の如き少女の瞳であった。

 ――冬には魔物が棲むという。
 れいかがキャンディに言った通り、一旦その魔物の持つぬくもりという名の魔力の虜になったが最後、時に人々は相争い、悲劇を生む事すらあるだろう。
 けれど、極々稀にだとしても、その悲劇をきっかけに、新たな優しいぬくもりを持った関係が生まれる事も、またあるのではないだろうか。

 誰にも見咎められない炬燵の中。
 そこに入ってからずっと、表面上の態度とは裏腹に、あかねとなおの手は互いに指を絡ませながら、そっと固く繋がれていた。
最終更新:2018年05月02日 09:40