「冬の贈り物」/アクアマリン
「くしゅん」
「真琴、大丈夫?」
そう言ってダビィは車のヒーターの設定温度を上げる。
「大丈夫よ」
「そう、ならいいんだけど。明日はみんなと遊ぶんでしょ。そんな時に風邪なんかひいちゃったらもったいないわ」
「ちょっと、ダビィ」
それじゃまるで自分が仕事と遊びを同列に考えてるみたいじゃない…
そう言おうとしたがそんなことを言うのも野暮のような気がして言わずにしておいた。
ふと外を見ると先程から降り始めた雪が道路や街路樹、そして家の屋根を白く染めてい
る。
トランプ共和国と人間界は多くの違いがある。
その1つに気候の違いがある。トランプ王国は1年を通して温暖な気候が続くが人間界では1年の間に大きく気温や変化が起こる。だから真琴は冬という季節も雪を見るのも初めてのことだった。
おかげで初めてこの世界に来た時の冬は体調を崩したりしてとても大変だった。今ではだいぶ慣れたとはいえ、この雪というものを見ると不思議な感じがする。
(明日はどんなことをするんだろう…)
雪が降る中で遊ぶというのは初めてのことなのでどういうことをするのか全く見当がつかない。なのに不思議とワクワクしてしまう。きっとそれは
(みんなと一緒だから、だよね…)
そんなことを考えながら車はゆっくりと2人が暮らすマンションへと向かっていった。
「おーい、まこぴー!!こっちこっち!!」
「ぶたのしっぽ」の近くにある空き地までやってくるとそこにはすでにマナたちが来ていた。
「ちょっと、マナってばあんまり大声出さないで!」
人が少ないとはいえ国民的アイドルがこんなところにいると誰かに気付かれたら大騒ぎになってしまう。
「ごめん、ごめん」
そのかたわらでは亜久里がレジーナにマフラーを巻かせようと悪戦苦闘していた。
「ちょっと、レジーナ。そんな格好では風邪をひいてしまいますわ」
「もー、亜久里ってばうるさいなー。そんなのなくたって風邪なんか…へっくしゅん」
まるで図ったかのようなくしゃみに亜久里たちは思わず笑ってしまう。レジーナは顔を赤くしながら渋々といった感じで亜久里からもらったマフラーを首に巻く。
「それじゃーみんな集まったことだし早速雪だるまを作ろう!」
「「「「オー!!」」」」
「って、雪だるまって何?」
よく意味のわからなかった真琴がマナに尋ねる。
「じゃあ、まこぴーはあたしと一緒に作ろう。一緒に作りながら教えるから」
「では私は六花ちゃんと一緒に作りますわ」
「じゃあアタシもマナと…」
「レジーナ、真琴の方が先ですわ。あなたにはわたしがちゃんと教えて差し上げますわ」
そう言って亜久里はレジーナを引っ張るように連れて行った。こうして三手に分かれて雪だるま作りが始まった。
「まずは雪を集めて…」
マナが説明するのを真琴は真剣に聞いている。
「集めた雪を2人で転がして大きい雪玉にしていくの」
「なるほど」
「そして雪玉を2つ作ったら小さい方の雪玉を大きい方の雪玉に載せて手や顔を作ったら完成…って言っても口で話してもわからないと思うから一緒にやってみよう」
「うん、わかったわ」
そうして2人で雪玉を作り始めた。真琴は恐る恐るといった感じで雪に触れてみる。手袋越しなので冷たいということはなく、さらさらとした感触がした。
そうしていくつか雪玉を作ってみたもの…
「うーん、なかなか上手くいかないね」
出来上がるのはいびつな形をした雪玉ばかりであった。
「どういう形になればいいの?」
「やっぱりボールみたいに丸い形が理想なんだけど、あたしもしばらく作っていないから細かいことはすっかり忘れちゃって」
「でしたら雪玉を転がす時に一方向からではなく、色々と方向を変えてみると丸くなりますわ」
「ありす」
2人が上手くいってないのに気づいたありすがアドバイスをした。六花のほうも自分たちと同じような状況になっている亜久里とレジーナを手助けしている。
「あとそれから力を均等に加えることが大事ですわ。ですから2人とも息を合わせて同じ程度の力を加えれば上手くいきますわ」
「なるほどー。ありがとう、ありす」
そう言ってマナは真琴のほうを向く。
「という訳で早速やってみよう。あたしたちならきっとできるよ」
「そうね、やってみましょう」
そう言って2人は雪だるま作りを再開した。再び雪を集め少しずつ転がしながら丸い形にしていく。
(2人で息を合わせる…)
そんなことを考えながら雪玉を作っているとみんなと初めて料理を作ったときのことを思い出す。あの時もみんなのアドバイスを受け、そしてそのみんなのことを考えながら作っていった結果、最高のオムライスができた。
だとしたら雪だるまだってきっと…
「「できたー!!」」
紆余曲折の末、2つの立派な丸い雪玉が完成し、それを重ねて雪像を作るところまでは終わった。
「これで完成なの?」
「あとは手や顔を作って飾りつけをするの、あんな感じで」
マナが指を指したほうを見ると六花とありすの雪だるまがあった。木の枝や石で顔や手が作られていてまるで人形のように見える。
「マナ、石と木の枝を一杯集めてきたシャル」
「これで顔や手を作るといいビィ」
「ありがとう、シャルル、ダビィ」
そう言って2人は締めの飾りつけに取り掛かった。
「あとは手袋をかぶせれば完成っと」
「待って、マナ」
そう言って真琴は手袋を脱ごうとするマナを止める。
「それだとマナの手が冷たくなっちゃうでしょ」
そう言って真琴が手袋を脱ごうとすると今度はマナが止める。
「ダメだって、まこぴーが風邪ひいちゃったらファンの人たちが悲しむでしょ」
「えー」
と言ってもマナは一歩も引きそうにないし、真琴も同様に引きそうもない。
(そうだ!)
真琴はあることを思いついた。
「だったら片方ずつにしない?」
「えっ?」
「それならそんなに手が冷たくなることもないし、それに2人で作ったていう感じがして、なんかいいじゃない」
「その手があったか~。そっちのほうがいいよねー」
こうしてピンクと紫の手袋をかぶせ、頭に青いバケツを載せると笑顔の雪だるまが完成した。
「立派な雪だるまができましたわね」
「ありすのおかげよ」
六花たちのほうもピンクの手袋とマフラーで暖かそうな雪だるまをすでに完成させている。亜久里たちのほうもマナたちのよりは小柄ながらも可愛らしい雪だるまをようやく完成させた。
「それじゃー次は雪合戦をしよう!!」
そう言ってマナは六花とありすに意味ありげな目配せをする。
「今度は何をするの?」
すっかり興味津々といった様子で真琴が聞いてくる。
「雪合戦っていうのはね、雪玉を作って」
「うんうん」
「こうやってお互いに投げ合うの」
そう言ってマナは勢いよく真琴に雪玉を投げ、それに合わせるように六花とありすも雪玉を投げた。
「えっ?」
雪玉が当たり真琴が戸惑っていると、今度は後ろから雪玉の直撃を受けた。
「アタシも雪合戦する~」
後ろを見るとレジーナがいたずらっ子の笑みを浮かべている。
「ちょっと、レジーナ!待ちなさい」
そう言って真琴も雪玉を作り逃げようとするレジーナに投げようとしたが、雪玉は大きくそれて亜久里に当たってしまった。
「ちょっと、真琴!何をするんですか」
こうして亜久里も雪合戦に加わり、6人は雪玉を投げ合いながら空き地の中を走り回った。そして、そんな6人を雪だるまたちが見つめていた。
「ハアハア、ふぅ、疲れたー」
そう言ってマナは雪の上に寝転んだ。
「雪合戦なんて本当に久しぶりね」
「何だか小さい頃に戻ったような気分ですわ」
マナに合わせるかのように寝転ぶ六花とありすを見て、真琴たちも同じように雪の上に体を投げ出した。雪の上なので痛いということもなく、素肌で感じる雪の冷たさも今はとても気持ち良い。
「まこぴー、楽しかった?」
「ええ、とっても」
そう言って真琴はふとあることに気がついた。この前のお茶会の時にこの世界に来て初めて雪を見たという話をしたということを。
(じゃあマナはそのことを覚えていて…)
そんなことを考えながら空を見るとこの雪の一粒一粒がまるで宝石のように見えてきて、なんだか体だけではなく、心まで暖かくなったように感じられた。
「マナ、ありがとう」
真琴は冬や雪の楽しさを教えてくれた親友の方を向いて言った。
最終更新:2014年02月25日 23:41