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『めぐみの悩み!?わたしなんて強くない!!(Bパート)』 /夏希 ◆JIBDaXNP.g




 めぐみは探偵フォームを解除して、一人、とぼとぼと帰路に着く。誠司のことは、本当に小さい頃から知っている。
 ああ見えたって、実は結構落ち込んでいることも――
 彼がどれほどの努力を積み重ね、今の強さを手に入れたのかも――

「強いって何だろう? プリキュアってなんだろう? わたしは強くなんてない。たまたま力を手に入れただけで、何の努力もしていない」
「お悩みのようですな。努力なんて馬鹿馬鹿しいだけですぞ。そんなメンドクサイことをしなくても、要は楽して勝てばいいのですよ。そう――あなたがたプリキュアのように」

 若芽色の髪をした紳士風の男が、めぐみの前に立ちはだかる。ぼんやりと考え事していた彼女は、一瞬の対応が遅れて――
 めぐみがプリチェンミラーを出すより早く、その男、ナマケルダは、封印と召喚の儀式を完成させる。

「鏡に映る未来を最悪にしろ! 来い、来い、サイアーク!」
「サイアーク!!」

 棺のような形をした鏡に、めぐみが閉じ込められる。さらに赤い帯が拘束するようにめぐみを覆う。
 代わりに出て来たサイアークは、チョイアークを大きくしたような姿だった。

「めぐみーっ!」
「ああっ、遅かったですわ」

 息せき切って駆けつけたのは、ひめと世話役の妖精リボンだった。

「おやおや、誰かと思ったら最弱のプリキュアではありませんか。頼みの綱の相棒はご覧の通り。これでは万に一つの勝機もありませんぞ?」
「お生憎様。もう以前の私じゃないのよ。めぐみを返してもらうわっ!」

「かわルンルン、プリキュア、くるりんミラーチェンジ!」

 ひめはプリチェンミラーを取り出し、プリカードを挿入して叫ぶ。
 青色の髪は、大空の翼を思わせる水色のツインテールに。頭部には、王女の風格を漂わせる金色の王冠を抱く。

「天空に舞う、蒼き風! キュアプリンセス!」

 主たる“空の王者”の誕生を祝い、使徒たる風が天に舞う。

「いきなり行くよ! プリンセス・トルネード」

 プリンセスは両手から風の塊を作り出し、サイアークに放出する。突風と化した聖なる力は、サイアークにぶつかると、それを拘束する檻となる。

「今、助けるからね、めぐみ。プリンセス・弾丸マシンガン!」

 プリンセスの両拳から、水色の光の球が連続で撃ち出される。

「やったぁ!」
「やりましたわ!」

 確かなる命中の手ごたえを感じて、プリンセスとリボンが歓声を上げる。
 しかし、暴風が収まった後に現れたのは――

「ウソ……無傷だなんて……」
「さて、今度はこちらの番ですぞ。サイアーク、君の本気を見せてあげたまえ」

 サイアークが巨大な拳を振りかざす。
 グルグルと回転させた後、渾身の力でプリンセスに叩き付ける。

「危ないっ!」

 恐怖で硬直したプリンセスを、横から飛び出した少年が、体当たりするような形で助け出した。

「誠司……」
「ぼっとしてんな。ブルーハッピーシュートでなきゃ、倒しきれるはずないだろ」

「そんなこと言っても、あんな大技はよっぽど相手が体勢を崩してないと……私一人じゃ撃てないよ」
「だったら、俺が時間を稼ぐ。その間にチャージしろ」

「そんなことしたら、誠司が死んじゃうよ!」
「そうです! 生身でムチャですわ」

「なにやらお話の途中で恐縮ですが、まだ戦いの最中ですぞ?」
「サイアーク!」

 サイアークの攻撃がプリンセスを襲う。
 プリンセスは誠司を突き飛ばし、サイアークの注意を引き付けるように誘導する。

「プリンセスっ!」
「おやおや、今回は逃げないんですかな?」

「大事な友達を二人も置いて、逃げられるわけないじゃない!」

「あのプリンセスが、あのひめが、こんなに立派に成長されて、リボンは、リボンは……」
「そんなのは後でやってくれ!」

 誠司は鏡に囚われためぐみに呼びかける。

「めぐみっ! 何をやってるんだ。おまえはプリキュアだろう? “みんなに幸せを配る”んじゃなかったのかよ!」
「語りかけたって無駄ですぞ? 鏡に囚われた者は、見ざる、聞かざる、言わざる。ただ、己の生み出した最悪の夢を見続けるのです」

 しかし、誠司は見逃さなかった。
 めぐみの唇が微かに動き、うわごとのように何かを発したことを。
 それは何度か繰り返した後、やがてハッキリと聞き取れる言葉となる。

「わたし……強くなんてないよ。こんな……もらっただけの力で、誰かを守るなんて、できないよ……」
「そんなことない。練習も、稽古も、強くなるためにやるもんだろ? 大事なのは、どうやって得た力かじゃなくて、その力で何を成すかじゃないのかよ!」

「なるほど。でしたら、何かを成す力の無いあなたに、存在価値は無いということになりますぞ?」
「グッ、だからこそ、俺は稽古して……」

「してもなんともならないって、顔に書いてありますな。あなたの鏡に映る未来はすでに最悪ですぞ。
 ならば――今宵は怠けてはいられませんな。来い、来い、サイアーク!」
「サイアーク!!」

 棺のような形をした鏡に、今度は誠司が閉じ込められる。
 新たに出て来たサイアークは、空手着を纏った武道家タイプの巨人だった。

「そんな、サイアークが同時に二体も出現するなんて……。プリンセス、ここは無理をせず、一度逃げるのですわ!」
「嫌よ。私はもう――決して逃げない!」

「サイアーク!!」
「キャアア!」

 武道家サイアークとチョイアーク型サイアーク。二体の巨人に挟まれたプリンセスは、見る間にボロボロにされていく。
 プリンセスは防御に専念し、ただひたすらに――めぐみに問いかける。

「ねえ、めぐみ。だったら……今でも弱い私はどうなるの? もらっただけの力で、それでも弱い私には、いったいどんな価値があるの?」
「サイアーク!」
「キャア!」

 殴り付けられ、叩き付けられ、踏み躙られ――
 傷だらけになりながらも、それでもなお、プリンセスは立ち上がる。

「私……思うの。誠司のような努力って、大切だよね。めぐみのように強くなきゃ、できないことだってあるよね。だけど……私はそのどっちも持ってないもの!
 私にあるのは“気持ち”だけ。みんなを守りたいって気持ち。強くなりたいって気持ち。可愛くなりたいって気持ち。色々な自分に――なってみたいって気持ち!
 それじゃいけないの? 私が間違っているの? めぐみは言ってくれたよね?」

『そっか。ダメでも何度もチャレンジしてきたんだ。ひめはとっても頑張り屋さんだね!』って!
『怖くてもプリキュアやってきたなんてすごいよ! ひめえらい!』って!

「だったら、私だって、誠司だって、めぐみだって、きっと同じだけ“えらい”はずだよ。それとも、あの言葉はウソだったの!?」

 プリンセスの懸命な叫びが、めぐみの心に届く。
 最悪な未来を反転させて、彼女を囚えたミラーが光を放つ!

「そんな……ありえませんぞ。私の生み出したサイアークが消えていく。これでは――これでは、怠けられないではありませんか!」

 めぐみを封印した鏡に亀裂が入り、ついには粉々に四散する。
 彼女を拘束していた、赤い帯は断ち切られ――
 自由になっためぐみは、プリチェンミラーをかざして叫ぶ!

「かわルンルン、プリキュア、くるりんミラーチェンジ!」

 めぐみはプリカードを挿入して叫ぶ。その身体は光の衣とマントに覆われ、さらにその上から聖なるコスチュームを纏う。
 赤色の髪が、大きな愛を具現化して桃色のビッグテールになる。頭部にはハート型の髪飾り。ラブとラブリーを象徴して、可憐なリボンとフリルで身を包む。

「世界に広がる、ビッグな愛! キュアラブリー!」

 主たる“愛の天使”の誕生を祝い、使徒たる光が闇夜を照らす。

「わたし、一番大切なことを見失ってた。わたしの望みは強くなることじゃない。“みんなに幸せを配る”ことなの。わたしがプリキュアになれたのは偶然じゃない!
 プリキュアの力とは、幸せを願う力よ。努力だって、実力だって、何もかもは、その“願う力”から生まれているはずだからっ!」

「いくよ、キュアラブリー!」
「うん、いこう、キュアプリンセス!」

「「ハピネス注入! 幸せチャージ! ハピネスチャージプリキュア!!」」

 二人は決めポーズを取ってサイアークと対峙する。
 チョイアーク型のサイアークは、めぐみの脱出と共に消滅した。残るは――誠司から生まれた、武道型のサイアークのみ。

「まだまだ――勝負はこれからですぞ!」
「生憎だけど、勝負になんてならないよ。こんな誠司を馬鹿にしたようなサイアークなんて、一瞬で倒してやるんだから!」

 怒りに燃えるラブリーが、人差し指でサイアークを――その先に居る、ナマケルダを指差して宣言する。
 その間にも、プリンセスはサイアークの側面に回りこんでいた。

「一気に決めるよ、ラブリー! プリンセス・トルネード!!」
「ここはわたしにまかせて、プリンセス。愛の光を聖なる力に! ラブプリブレス!」

 ラブリーは両腕をグルグルと回し、生まれた巨大なハートの光を天に掲げる。
 そして両手の拳を引き絞り、大いなる愛のエネルギー弾と化して――力強く撃ち出した。


“プリキュア・ピンキー・ラブシュート!”


「愛よ、天に帰れ!」

 右腕を高く突き上げ、高らかに勝利を宣言する。「サイアーク」な未来は反転し、「ゴクラ~ク」と呻きながら浄化されていく。

「今夜のところは負けを認めてあげますぞ。なに、私はまだ本気を出してないだけですからな」

 ナマケルダはメンドクサそうに言うと、闇の中に溶け込むように姿を消した。
 鏡から投げ出されるように解放された誠司を、キュアラブリーが受け止める。

「やれやれ、酷い一日だった。二度もおまえに助けられちゃったな」
「うん。だけど、やっぱり誠司は強いよ。凄いよ。頑張り屋だしね」
「おまえこそ強いし、凄いと思うけどな」
「えへん! もちろん私だって凄いのよ」

「強くはないけどね」
「強くはないけどな」
「強くはないですわ」

「ちょっと! みんな、ヒドーイ! 私だって頑張ったのに。もう、知らないっ!」

「ウソウソ」「冗談だって」と、ラブリーと誠司とリボンはなだめる。
 そうして三人と一体? は、めぐみの家へと帰路に着く。

 より深めた、絆と誓いを胸に――
“かおり”と“まお”の待つ、ぬくもり溢れる我が家に向かって。



おわり
最終更新:2014年03月02日 17:32