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「キュアエコー ニューステージ 後編 思いの力」/アクアマリン




「う~ん、これぞ最高の贅沢」
 ナマケルダは混乱のさなかにある町を見下ろしながらカビの上で寝そべっていた。この町が理想郷と化すのも時間の問題だろう。

「サイアーク、このまま一気に町を…」
 そう言いかけた時だった。
「ダメーーーッ!!」
 突然、何者かの声がすると同時にサイアークはバランスを崩して倒れた。

「何っ!?」
 自分の楽しみが突然邪魔されたことに驚いたナマケルダがその声の聞こえたほうを見ると、そこにいたのはこれまでに何度も自分の邪魔をしてきた伝説の戦士、プリキュアだった。



キュアエコー ニューステージ 後編 思いの力



キュアエコーはサイアークに体当たりを食らわせてカビの放出を止めると、サイアークとナマケルダに向かって言った。
「やめて!これ以上この町の人を苦しめないで!」
「フン、あなたこそ私の邪魔をしないでもらいたいですな。サイアーク」

 そう言ってナマケルダはサイアークに攻撃を命令した。
「サイアーク!」
 扇風機型のサイアークはエコーに向かって拳を叩き込んだ。
「くっ!!」
 エコーは両手で攻撃をなんとか押さえ込むと反撃に移った。再び拳を向けて襲い掛かるサイアークに向けて拳を叩きこむ。

「うっ!!」
 拳越しに伝わる敵の力は想像以上に強い。それでも負けるわけにはいかない。エコーは一度その場から離れると体勢を立て直し、再びサイアークへと向かっていった。

「たああっ!」
 サイアークの拳をかわしその隙に反撃を加えた、はずだった。
「えっ!?」
 突然、サイアークは透明になったかのように姿を消した。エコーが辺りを見てどこに行ったのか探していると、自分の周りに黒い影が浮かんでいるのに気づいた。
 とっさにその場を離れるとサイアークの体当たりがビルの屋上を大きくえぐった。エコーは近くのビルの屋上に飛び移るとサイアークもエコーを追って飛び移ってきた。

(何とかして、止めないと)
 エコーはサイアークの攻撃をかわしながら、なんとか反撃に転じるチャンスをうかがっていた。



 その頃、サイアークから逃げていた町の人たちもこの事態に気づき始めた。
「ねえ、あれって…」
 そう言って誰かが指さした方向を見るとそこには扇風機を模した怪物、サイアークに立ち向かう1人の少女がいた。
「おい!あれは…」
「ああ、間違いない」
「プリキュアだ」
 この町にプリキュアが現れ、戦っている。そのことに気づいた人たちは、まるで心に一筋の光が差し込んだような気分になり、少しづつ希望や笑顔を取り戻していった。



 一方、ビルの屋上から屋上へと飛び移りながらサイアークの攻撃をかわしていたキュアエコーはサイアークに反撃を加えるチャンスを待っていた。

「フン、逃げてばかりでは勝てませんぞ。サイアーク」
 そう言ってナマケルダはサイアークに更に追い詰めるように命令した。

「サイアーク!」
 サイアークはエコーが立っているビルへと飛び移り、エコーに拳を振り下ろそうとしたが、着地の時に一瞬バランスを崩した。

(今だ!)
 エコーは続けざまに拳を叩き込むとサイアークの反撃をかわし、一回転しながらかかと落としを食らわせた。

 このままいけば勝てるかもしれない。エコーは一瞬そう考えたが、事態はそう甘くはなかった。
 サイアークは扇風機の羽根を回転させると、高速回転する羽根を何枚も打ち出した。
「うわっ!」
 エコーは慌ててかわし、羽根はビルを刃のように切り裂いていく。もし直撃していたらタダでは済まなかった。そう思い、肝を冷やした時だった。

(あっ!!)
 羽根によって切断されたビルの大きな破片がビルの近くにいる人に直撃しそうになる。
(いけない!)
 エコーはビルを駆け下りながら、次々と破片を打ち砕き、砕ききれなかった巨大な塊を両手で受け止めた。

「みんな、早く逃げて!!」
「はっ、はい!」
 エコーがすぐに逃げるように言うと、足がすくんで動けなかった人たちも慌ててその場を離れる。

 エコーが一安心した時だった。
「隙だらけですぞ」
「えっ?」
 エコーがナマケルダの声に気づいた時はもう手遅れだった。

「サイッ!!」
 いつの間にか地上に降りたサイアークが伸ばしたコンセントのコードによってエコーは完全に身動きができなくなってしまった。

「くっ!!」
 エコーは必死に拘束から抜け出そうとするが、自分の動きを封じているこのコードはびくともしない。

「サイアーク、やっておしまい」
 罠にかかった獲物を見るような目つきでエコーを見ると、ナマケルダはとどめを刺すように命じた。
「サイアーク!」
 サイアークはコードを振り回し、エコーをビルに叩きつけた。

「きゃあああっ!」
 そして、サイアークは飛び上がると力なく落ちていくエコーに向かって拳を叩き込み、受身を取ることもできないままエコーは道路に叩きつけられた。

 その光景を目撃した人たちは一斉にエコーの方へ向かい、身動き一つしないエコーに必死に呼びかけた。
「プリキュア!」
「大丈夫か!」
「しっかりして!」

 その声でエコーは意識を取り戻した。
「うっ…」
 うっすらと目をあけると、目の前にはさっきキャンディをあげた女の子がいた。

「おねえちゃん、大丈夫?」
「だ…だいじょうぶ」
こんな状況で言っても何の説得力もなかったが、それでも言わずにはいられなかった。

「だから、早く逃げて」
「ヤダッ!!」
「えっ!?」
予想外の答えにエコーは目を丸くする。その子は目に涙を浮かべながらも力強く言った。

「だって、だっておねえちゃんこんなにボロボロになって戦ってるじゃない!」
「ああ、そうだ」
 隣にいた若い男性も続けるように言う。
「それなのに、俺たちだけ黙って逃げるなんてできるわけないだろ!」
「私たち、応援することくらいしかできないけど私たちに出来る事を精一杯やりたいの!」
「みんなも同じだよな」
 そう言うと周りの人たちも一様に強く頷いた。

「みんな…」
 思いがけずかけられたその言葉にエコーの目には涙が浮かんだ。もちろん今は泣いている場合ではない、今やるべきことは一つ。
あゆみは涙を拭くと立ち上がり、みんなのほうを向いて言った。
「ありがとう」

「ほお、まだ立ち上がりますか。サイアーク」
 歯牙にもかけないような口調でナマケルダはサイアークにとどめを命じた。
「サイアーク!」
 サイアークはエコーに向かって飛びかかり拳を叩き込んだ。エコーは両腕を交差して受け止め、そしてサイアークの腕を掴むと大きく投げ飛ばした。

(今のは…)
エコーは自分のしたことが信じられないかのように両手を見つめた。さっきまでとは違う、まるで自分が光のベールに包まれているように感じられた。

「頑張れー!!」
 ふと後ろを振り向くと町の人たちが自分を応援していた。

「プリキュアー、頑張ってー!!」
「負けるなー!!」
「俺たちがついてるぞー!!」
「プリキュアー!」
 ある人は路上から、ある人は避難場所から、またある人はテレビの画面越しにキュアエコーを応援していた。
 そしてその声が大きな力となり、自分を突き動かしているということが今のエコーにはわかった。

「何ですかな、この耳障りな声は。サイアーク」
「サイアーク!」
 ナマケルダに命じられてサイアークはエコーもろとも消し去ろうとするかのように高速回転する羽根を何枚も打ち出した。

「させない!」
 エコーはサイアークに向かって駆け出すと手刀で次々と羽を切り裂いていった。
「サイアーク!」
 そしてサイアークの拳を足元に滑り込んでかわすと足払いでサイアークのバランスを崩し、その隙に連続で拳を食らわせる。
「サイッ!?」

 サイアークはこの攻撃によって大きく力を弱めたが、まだ反撃する余力は残していた。

「サイアーク!」
 サイアークは再びコードを伸ばし、エコーを捕らえようとした。エコーはコードを足場にしてサイアークの頭上を飛び越え、サイアークの後ろに回った。

「サイッ!」
 サイアークはコードをエコーのほうに向けて伸ばすが、その度にエコーは右横、左横、前方と素早く移動する。そうしてエコーを追いかけているうちに、いつの間にかサイアークは自分が出したコードによってがんじがらめになっていた。

「たああっ!」
 そして、エコーは身動きの取れなくなったサイアークに強烈な回し蹴りを食らわせ、サイアークは大きく吹き飛んだ。

「何をしている、サイアーク。やれ!」
「サ、サイ~」
 ナマケルダは余裕をかなぐり捨てた声でサイアークに命令したが、サイアークはもはや立ち上がる気力すらない。勝負の趨勢は誰が見ても明らかだった。

エコーは1度エコーデコルを握り締めると、自分を見守り、支えてくれる全ての人を思い浮かべながら手のひらに力を込めた。
「思いを1つに、プリキュア」
 そして、全身からみなぎるエネルギーを手のひらに集中させ大きな光弾を作り
「シンフォニーフラッシュ!!」
 サイアークに向けて解き放った。

「ゴ~クラ~ク…」
 エコーの必殺技を食らったサイアークは浄化され、鏡に囚われた人は意識を取り戻し、カビに覆われた町は元通りになった。

「くっ」
 ナマケルダは一瞬苦虫をかみつぶしたような顔を見せたが
「まあいい、また別の町に行けば済むことですぞ」
 そう言い捨てると、どこかへ消えていった。

 今度こそ一件落着となり、エコーが一息つくと
「プリキュアー、ありがとう!」
 後ろではすっかり笑顔を取り戻した町の人たちが大きく手を振りながら、エコーに感謝の声を送った。エコーはその声に応えるように頷くと、地面を蹴りビルの谷間へと姿を消した。



「昨日のプリキュアの活躍すごかったよね~」
「うんうん、アタシ感動しちゃった~」
「ホントすごいよねー、あゆみ」
「う、うん」
 翌朝、登校中のあゆみたち4人の話題はもちろん昨日町を襲った怪物とプリキュアとの戦いのことだった。

「あの必殺技もカッコよかったよね~、何とかビームだっけ」
「プリキュアシンフォニーフラッシュ?」
「そうそう」
 あまりに素早く即答してしまったのであゆみは正体がバレてしまうのではないかと一瞬焦ったが、幸い深く突っ込まれることもなかった。

「あの白いプリキュアってホントカッコイイよね~。あの怪物を1人で倒しちゃうなんて」
(ううん、1人じゃないよ)
 あゆみは心の中で呟いた。
 あの時、自分は1人じゃなかった。自分の思いが町の人たちに伝わり、町の人たちが応えてくれた。
 だからこそ自分は今までにない力を引き出し、幻影帝国から町やみんなを守ることができた。あゆみはそんな風に昨日の出来事を考えていた。そして、それは変身して戦うときだけではなく、この日常でも同じだということにも気づいた。

 そんなことを考えながら歩いているとあゆみはある事に気がついた。
「あゆみ、どうしたの?」
「うん、ちょっとあれが気になって…」
 そう言ってあゆみが指差したほうには1枚の葉っぱが落ちていて、その下で何かがもぞもぞと動いている。

「うそ、もしかして毛虫?」
 あゆみの友達が不安げな声を浮かべる中、あゆみはゆっくりと近づき、葉っぱをどけた。すると葉っぱの下には一匹の毛虫がいた。

「もう大丈夫だよ」
 そう言うと毛虫はゆっくりとどこかへ移動し始めた。その様子を見るとあゆみは急いで友達のほうへ戻った。

「みんな、ゴメン。待たせちゃって」
「あゆみ、毛虫平気なの?」
「ううん、そうじゃないけど…」

 別に平気ということはない。ただ、この状況があまりにもあの時と似ていたのでもしかして、と思ったからだ。
 あゆみが期待したようなことは起こらなかったけどそれでもよかった。フーちゃんはこの町であゆみを見ている。そして、きっとこの光景を見て喜んでくれるに違いない。そういう風にあゆみは考えた。

「それじゃ、行こっか」
「うん!」
「ところで、あゆみ英語の宿題やった?」
「うん、やってきたよ」
「ヤバッ!忘れてた」
「そうなの?」
「ねえ、あゆみ~。写させて~」
「えーっ、そんなのダメだよ」
「も~、あゆみのケ~チ~」

こうしてあゆみたち4人はたわいもない話に花を咲かせながら、学校への道を歩いて行った。

―また、新しい1日が始まる。
最終更新:2014年03月29日 18:17