定番と冒険の折り合いは/そらまめ
「せつなっていっつも同じメニュー頼むよね」
「え?」
ファミレスでドリンクバーのジュースを飲みながら、ラブは対面に座るせつなにそう言った。二人で買い物に出かけたついでに昼食をと近くのチェーン店に入り、ラブは今週から新しくメニューに加わった新商品を、せつなはラブの頼んだものも気になったが、結局いつものメニューを選んでいた。
「マッ○とかでも頼むセット同じだし」
そういえばそうかもしれないと自分の行動を思い出しながら、問いかけられたラブのことも同時に思い出す。
「ラブは毎回違うメニュー頼むわね」
「うん。だっていろんなの食べてみたいじゃん。新商品とか味気になるし」
「んーでも、せっかく来たのに食べたものがおいしくなかったら嫌じゃない。新商品まずかったらどうするのよ」
「そこは、ドンマイってことでいいじゃん。それにおいしかったら新たな発見で嬉しいし」
「私はおいしいと思ったものはしっかり記憶したいから、新しいものに手をつけることはあまりしたくないわ」
「せつなってば慎重すぎるよ~そんなんじゃ流行に乗り遅れちゃうよー」
「…私は、ラブみたいに何でもかんでも新しいものに飛びつけばいいって考えじゃないから」
「むっ…なにさその言い方…せつなはあれだよね、ちょっと臆病すぎるよね。いつもいつも同じものって、せっかく外食してるのになんかつまんない」
「それは私がつまんない性格だって言いたいの?」
「そんなこと言ってないじゃん! それって被害妄想」
「ひがっ! …へーそう…私のことそんな風に思ってたの…」
「それはせつなもお互い様でしょ? 言わないだけであたしに言いたいこと一杯ありそうだし」
イライライライラ…
ラブとせつなの間にギスギスした空気が流れだし、二人しかいないテーブルでお互い目を合わさずに、ストローをコップの中で無意味にかき混ぜたりする。
せつなは、喉が渇いているわけではないけどラブと話さないとなるとやることがないのでジュースを飲み続けた。
確かに私が頼む物はいつも同じだけど、別に悪いことしてるわけじゃないし、それを流行に乗り遅れるなんて言い方されたら少しカチンとしてしまうのはあたり前じゃないか。なんて頭の中でラブの発言に対する反論をしていた。
そのうち、ズッ…とコップから音がして、いつのまにか氷だけになった空の容器に少しだけ落胆する。
正面を見るとラブのコップも同じように中は空。
…少し思案した後、せつなはさっきの不機嫌さを隠しとてもにこやかに笑いながら立ち上がった。
「ラブ。ドリンクバー入れてきてあげる」
「え? あ…あり、がと…」
せつなの急変した態度と行動にあっけにとられながらもコップを渡すと、自分の分と二つを手に持ち歩いて行った。
ラブはその後ろ姿を見送りながら、なんだか分からないけどこうやって親切にしてもらうと自分もさっきは言い過ぎたかもしれないと思えてきて、せつなが戻ってきたら謝ろうかなと窓の外を眺めながら思い直した。謝ればせつなだって許してくれるよね。
戻ってきたせつなは、どうぞ。と言って目の前にそれを置く。
何を入れてきてくれたんだろう?液体の色は黒だからコーラかな?なんて思いながらストローを刺して飲んでみた。
「ブッハっ!? なにこれ?!」
コーラだと思ったのに、それ以外にオレンジの味やメロンソーダ、あまつさえキャロットジュースの味もする…
「ラブは新しいものが好きなんでしょ? たくさんのジュースが味わいたいかと思って」
……前言撤回。にこやかにそんなこと言ってくるなんて、どんだけ根に持ってるの。謝ろうかなって思ったあたしがばかだった。
「せつなはいつまでそんな細かいこと気にしてるの? そうやってねちねちしてるのってどうかと思うよ?」
「あら。私はさっきのラブの意見を尊重してあげただけよ?」
「そういう遠回しな嫌がらせはやめてほしいね。行動じゃなく言葉にしてぶつけてみたら? 今更人と会話するのが苦手なんて言い訳は通じないからね。あたしに対しては特に」
「ラブだからってことかもしれないわよ?」
「それどういう意味さ?」
「さあ…?」
少し会話できたと思ったらさっきの状況に逆戻り。
お互いしばらく無言でいたが、少し経ってウェイトレスが料理を持ってテーブルに近づいてきた。
「お待たせいたしました。○○○でございます」
「あ、はい。それあたしです」
「こちらは×××になります。以上でよろしいでしょうか?」
「はい。ありがとうございます」
テーブルの上に出来立ての料理が並ぶ。喧嘩はひとまず置いて、どちらもおいしそうだしお腹もすいていたので手に箸を持ち「いただきます」と声を揃えて食べ始めた。
せつなはちらちらとラブと彼女が食べている料理を交互に見る。注文する時少し迷っていたそれは、その目で実際見てもおいしそうだった。まあ、自分が頼んだいつものこれもやっぱりおいしいから満足だけど。
ラブもせつなと同じように彼女が食べる料理とその姿をちらりと見ていた。
毎度、新商品を頼む自分も、たまにはいつものやつも食べてみたいとほんとは思っていた。けれどやっぱり新しい物の味は気になるので結局そっちにしてしまう。せつなの食べてる料理もこの料理もおいしいけど…
二人して同じ動きをしているのにそれに気づかず目も合わない。ついでに似たようなことで悩んでいることなどお互い知る由もなく、喧嘩中の二人は黙々と料理を口に運ぶ。
すると、言葉のない静かな空間にどこからか母親と小さな子供の楽しそうな会話が耳に入ってきた。
「わあっ! おいしそうー!」
「みーちゃんはいつもそれ頼むわね。本当に大好きなのね」
「うん!だっておいしいんだもん! でも、お母さんのもおいしそうだね」
「ええ。みーちゃんのもすっごくおいしそうよ。そういうのもうずいぶん食べてないから少し羨ましいわ」
「…んー、じゃあ、わたしの少しあげるからお母さんもわたしにすこしちょうだい?そうすればどっちも食べられるよ!」
「まあ、いいの?」
「うん!」
「それじゃあ、はい、あーん」
「えへへ…あーん…」
………そんな微笑ましい会話が静まり返ったテーブルに届く。そうかそうすればよかったのかとラブもせつなも思わず顔をあげると、今度はしっかりと目があった。
…なんだ。同じこと、思ってたのか。目があった時伝わってきた気持ちに、どちらからともなく笑いがこぼれた。
「ねえせつな、あたし実はその料理気になってたんだ。それ最後に食べたの結構前だったから。だからね…」
「私もね、ほんとはラブが頼んだそれ食べてみたいと思ってたの。だから…」
「「半分こしよう?」」
「せつな、さっきはごめんね。言い過ぎたよ」
「私の方こそあんな意地悪してごめんなさい」
「これで仲直りだね」
「ええ、ありがとうラブ」
「やっぱりこれはいつ食べてもおいしいや」
「こっちも今までにない味でおいしい…」
「定番もいいもんだね」
「新しいメニューを冒険するのもいいものね」
そうして食べた今日の昼食は、いつもよりもおいしかった気がした。
最終更新:2014年04月08日 20:57