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はじめてのおつかい/maple




砂嵐混じりの小さなテレビ。
ガガガガと時折雑音も混ざる。
赤や緑や青の線がいっぱい入ったその画面には、小さな子供が泣きながら街中を歩いている姿がでかでかと映し出されていた。ウルフルンはそれを眺めながら、けっ、と嘲笑うように唾を吐く。

「なーにが初めてのおつかいだ、バーカ。ガキはガキらしくワルブッターのアニメでも見てろってんだよ、バーカ」

ビーフジャーキーをくちゃくちゃと噛み締めながらテレビを見るのは、なかなかに気分の良いものだ。先日、マジョリーナの発明にしてはそれなりに使えるものをもらって、それ以来人間界の食べ物というのを簡単に手に入れられるようになった。人間の姿というのは本当に便利だ。その姿になっただけでそこいらにいる人間のメス共が食べ物を与えてくれるのだから。
ウルフルンのお気に入りは、このジャーキーという食べ物だった。アカオーニは、独特の臭みが嫌だと言い、マジョリーナは乙女の食べるものではないと言う。どこが乙女だ、とぼやいたら、あの便利品を取り上げられそうになったから、慌てて訂正しておいたが。

「あー、腹立つ……」

ジャーキーも底を尽きたし、一暴れしてやるか、と、ウルフルンは重い腰を上げる。

◇◇◇

「みゆきおねーちゃん! あそぼうー!」
「あかねおねーちゃん! おなかすいたー!」
「やおいちゃんとおえかきしゅゆのー! くれよんかえしてー!」
「れいか姉ちゃん、なお姉ちゃんがこわいー!」

わあわあぎゃあぎゃあ、やかましいと言ってしまえばそこまでだが、可愛らしい、幼子たちの声が平屋の一戸建てに響き渡る。みゆきややよいはおたおたおろおろ。あかねは「うるさいわ、アホ!」と笑顔で手を振り上げている。しかしなおの様子は違うようだ。こめかみに青筋を立て、両手はグー。仁王立ちしたまま、ふるふると怒りを堪えているような感じだ。れいかはそれを宥めようと「なお、落ち着いて、」と静かに声を張り上げる。



「……うるさぁああぁぁぁああいっ」



いよいよなおの堪忍袋の緒が切れて、同時に彼女のきょうだいたちの鳴き声も耳をつんざいた。れいかは、そこまで言わなくても……と床にしゃがみこんできょうだいたちの頭を撫でてやる。みゆきややよいは、なおの大声に驚いたのだろう。きょうだいたちと何ら変わらぬ反応で、うるうると潤んだ瞳からは今にも涙が零れてしまいそうだ。あかねはそんな二人につっこんでいる。

「お父ちゃんとお母ちゃんがいないからって……ちょっとさわぎすぎだよ! 悪いことしたらおしりぺんぺんだからねっ」
「おしりぺんぺんて……よしもとやないし、んなアホなこと……」
「……やーだーっ」
「ホンマにするんかい! え、しかもなに!? そんな痛いん!? なんでみんなそんなに泣いてんのん!?」

なおがぺきぺきと指を鳴らしながら小さなきょうだいたちに近付いて行くと、彼らはわあわあと押し合いへしあい、少しでも輪の内側に入り込もうと必死に逃げる。あかねはぺらぺら一人でしゃべり続けているし、れいかはきょうだいたちを守るようになおとの間に割って入っている。みゆきとやよいは相変わらず震えていて、互いに手に手を取り合い、おしりぺんぺんの刑を想像しては泣きべそをかいていた。
……そもそも、こんなことになったのは、数時間前にさかのぼる。
遠い親戚の法事か何かで、突然なおの母親と父親が家を空けることになったのだ。今日はみゆきたち5人で遊びに行く約束をしていて、それをやめるのも何だから、みんなでなおの家の手伝いをしようということに。
が、遊び盛り、食べ盛りのこどもたちが大人しくしているわけがない。たったの数時間でこの有り様だ。両親が帰ってくるまでに、あと何時間あるだろう。そう考えると、ぞっとするような、おぞましいような、複雑な気持ちになった。

「……ひとまずお好み焼きでお昼にせえへん? ほら、人間て腹へったら戦もできひんて言うし!?」
「そ、そうですね! あかねさんの言う通りです! お腹がへるといらいらしたり起伏が激しくもなりますから、落ち着くという意味でも、頂きましょうか、おこのみやき!」

途端、泣き声はきゃあきゃあという嬉しそうな歓声に変わり、なおは深い深い溜め息をついた。みゆきとやよいは、一緒になって喜んだり跳び跳ねたりしている。だからだろうか。あかねと、なおと、れいかの3人は、こどもが増えた……と肩を落としている、

「―――……みんな、ごめん……せっかくの休みなのにこんなにうるさくて」
「いいよ、いいよ! わたしちっちゃい子好きだもん!」
「うん、みんな無邪気でかわいいの!」
「自分ら、あんまあの子らと精神年齢変わらへんもんな。そら楽しいはずやわ」
「はは、確かに言えてる! ……でも実は、そろそろ直さないとって思ってるんだ。小学校に入れば今みたいに自由にはできないから、練習するなら早いうちからがいいでしょ?」
「確かにそうですね……では、こういうのはどうでしょう?」

座卓で美味しそうにお好み焼きを頬張っているこどもたちには聞こえないよう、れいかはこそこそと耳打ちした。みゆきたちはうんうんと頷き、やがてその顔は笑顔に変わっていく。

「うん! いいかも!」
「……ま、それならウチも協力したるわ!」
「わああ、なんだかわくわくしちゃうね!」
「……あの子たち、大丈夫かな……」

不安そうななおの肩に4人は手を触れて、だーいじょうぶだよ、と大見得を切る。だってなおちゃんのきょうだいなんだもん、と。
なにその理由……と苦笑いしていたなおも、しかしやがて納得したように頷いて、みんなの顔を見回した。

「ほんと、なにからなにまでごめん。ありがとう」
「ええで、ええで、そんなん!」
「そうだよ! わたしたちの仲でしょ」

あかねとみゆきの心強い言葉と笑顔に、なおは目の奥が熱くなって、きゅぅっと唇をかみしめた。れいかは微笑みながらその様子を見つめている。

「話が決まったら……」
「あとは善は急げ! だねっ」

みゆきの言葉を引き継いで、やよいがガッツポーズした。その会話を聞き付けて、お好み焼きをぺろりとたいらげてしまったこどもたちは、なになにー、となおたちが腰かけていた食卓に駆け寄ってきた。

「あんな、今日は、ウチらが来てしもうたせいでおやつが足らんねんて」
「だけどお姉ちゃんたちはお昼ごはんのおかたづけをしなくちゃいけないの」
「だから、みんながいっしょにお買い物に行ってくれたらいいなー、って、お話してたんだよ」

あかね、やよい、みゆきが代わる代わる今の作戦を話すと、こどもたちは不安げに顔を見合わせた。それもそうだろう。普段の買い物は母親やなおがしているのだから、ついていくことはあっても、自分たちだけでそれを行うのなんて初めてだ。

「なお姉ちゃ……」
「できる? きょうだいみんなで力を合わせるの」
「……」
「はる、がんばる」
「ひなちゃんもできる!」
「おやつかうー!」
「うー」

長男のけいたは、はるやひな……彼の妹たちを守らなければいけないという自負が幼いながらにあるのだろう。彼だけが渋っていて、なおは床に膝をつけて目線を合わせる。

「けいた。いつかはみんなも大人になるんだよ」
「―――……おれ、できるかな」
「なおの弟やもん、できひんわけあらへん!」
「そうだよ! ほら、わたしの太陽マンのお財布、貸してあげる!」
「がんばれ!」

みゆきたちに励まされ、けいたはようやく伏せていた顔を上げた。そうして、けいたはこうたをおんぶ紐で背中にくくりつけ、はるがゆうたと手をつなぎ、ひなはけいたと手をつなぐ。
やよいの貸してくれたお財布の中では小銭がじゃらじゃらと音を立てていた。

「お店はいつも行ってるところだからね。道、わかる?」
「うん」
「まあ、頼もしい。けいたくん、みなさんをよろしくお願いしますね」
「いってきます」

きゃっきゃと楽しそうなきょうだいたちを引き連れて、けいたはとことこ歩き出した。みゆきたち5人はそれを見送って、彼らの小さな背中が曲がり角で消えた瞬間、鍵をかけて家を飛び出す。
よたよたと進む彼らの尾行は、思っていたほど楽じゃない。何しろ好奇心旺盛なこどもたちだ。あっちへきょろきょろ、こっちへうろうろ。少しでも姿を見られようものなら喜んで駆け寄ってくるだろう。

「なお……ねえ、この道って……」
「うん……まずい……まずいよ、れいか……」

ごくりと生唾を飲み込んだなおに、みゆきたちは首を傾げる。コンクリート塀に背中をぴたりとつけたなおは、きゅっと唇を噛み締めながら、その理由を話した。電信柱の影からけいたたちの様子を伺っているれいかも、固唾をのんで状況の変化に身を固くしている。

「……この道の先、もう少し行くと犬飼さんの家なんだ」
「いぬかいさん? その人、なんかこわいんか?」
「ううん。……わたしたちがまだけいたたちくらいだったころからいる、大きな犬がいるんだけど……」
「そのわんちゃん、もしかして……あれ……?」

やよいの震える指先には、尖った牙を剥き出して、爛れたような口の端からぽたぽたと粘性のある涎を垂らした一頭の犬が座り込んでいた。番犬なのだろう。私有地ぎりぎりの、駐車スペースに鎮座していた。その効果は抜群。誰一人としてこの家に近寄ろうとはしていなかった。
けいたたちももちろん例外でない。いくら犬が鎖に結ばれていても、その鎖の長さはゆうに3メートルはある。道幅と比べてみて、逃げられないのは彼らにでもわかったらしい。怯えてしまって、一歩も動けないようだった。

「どうしましょう……」
「あの犬の注意をこっちに向けるくらいしか……」
「でもそんなことしたらわたしたちのことけいたくんたちに気づかれちゃうよ!」

みゆきが慌てたように呟いたとき、れいかはふと犬の体の下に目を止めた。彼の撒き散らした涎と餌用の水。それがこぼれてびしょびしょの地面には、水溜まりができていた。

「……分かりました」
「へ? な、なにすんのん?」
「見ていて下さい」

にこ、と微笑んで、彼女は静かにスマイルパクトを取り出した。まさか、となおが止める間もなくれいかは変身してしまう。そして……

「プリキュア! ビューティーブリザード!」
「ちょっ、ちょっと! れいか!?」
「あのわんちゃんをこおらせちゃうの?!」

やよいたちがわたわたと慌て始めたとき、そのときにはすでにビューティーブリザードは犬の元へと届いていた。が、凍ったのは犬ではなくその下。彼の体の下にあった水溜まりだ。鎖までどっぷりとつかった水が凍りつき、身動きがとれなくなってしまっているのだ。

「さっすがれいかちゃん!」
「ほんまやな! こんなんウチ思いつかんかった!」
「ありがとう、れいか……」
「いえ。誉めるのならけいたくんを誉めてあげて下さい。……はるちゃんやひなちゃんを庇って、一度も手を離さなかったんですよ」

犬の危機が去ったことに気付いたのだろう。けいたたちは抜き足差し足で歩き出していた。れいかは変身を解いてからにっこり笑って、微笑ましそうにその姿を追っている。みんなは一緒になって頷いた。

◆◇◆

「……」
「……商店街まではついたけど~」
「みゆきちゃん、どうしよう~」
「なんなん? 今度はなにがアカンのん?」
「ここから先はゆうわくばっかりだよ! おもちゃ屋さんに電器屋さん!」
「アイス屋さんにクレープ屋さん!」
「確かに……はるもひなも甘いものは好きだし……」
「ゆうたくんはゴーパスターズにはまっていますからね……」
「あれ? 仮面ライダーハザードじゃなかったん?」
「どちらも好きみたいですよ。ほら」

れいかの示した方向には、電器屋の前でテレビに釘付けになるゆうたの姿。そしてそれをひっぱるはるの姿があった。けいたはひなとこうたをあやすのに必死で、ゆうたやはるにまで構えないらしい。

「こ、今度はビューティーブリザードじゃアカンしなあ……」
「電気……電気かあ……テレビの電源を落とせたらなあ……」

やよいがぽつりと呟いて、なおやあかねはぱちんと指を鳴らした。それだ! という嬉しそうな声が、二人の口から同時に飛び出す。

「やよいちゃん! ピースサンダーで、電圧とか変えられないかな!?」
「で……でんあつ……?」
「なるほど……それは妙案です」
「よ、よくわかんないけど、やってみるね!」

やよいはスマイルパクトをとりだすと、すぐにピースサインを空に向けてつき出した。早くしないと誰かに姿を見られてしまうかもしれない。

「プリキュア! ピースサンダー!」

威力は小さめ。
だから、いつものように「はわぁっ」と驚くこともなかった。ただ小声で囁いて、ピースサインをコンセント目掛けて放ってみる。バチッと閃光がほとばしったかと思うと、先ほどまで調子よく流れていた音楽が、ぴたりとやんでしまう。

「あーっ、いまからいいところだったのにー!」
「ゆうちゃん、おそくなっちゃうからいこう。ひなちゃんもこうちゃんもつかれちゃったって」

はるがゆうたをなだめながら、しかし少し強引に引っ張っていく。その姿を見て、なおたちはまた胸を撫で下ろした。やよいはもう一度ピースサンダーをコンセントに向けて放ち、また元の通りにテレビを作動させる。

「わぁぁ……やっぱりゴーパスターズかぁっこいい~……」
「レッドパスタに……ブルーパスタ……? どんな話なん、これ……?」
「新西暦2012年、人々の生活はトマトロンというエネルギーで成り立っているのだ! しかしそれをねらって地球の侵略をもくろむフォアグラス! 地球の平和を守るために立ち向かう正義のヒーロー! それが特命戦隊ゴーパスターズだよっ」

きらきらと瞳を煌めかせたやよいは、さきほどまでのゆうたがそうだったようにテレビにかじりついてしまう。みゆきも、おぉー! と嬉しそうにそこに並んでいるし……あかねとなおとれいかは深く深く溜め息をつき、再びけいたたちの追跡を開始した。

◆◇◆

「目的地までは無事到着かー……」
「あとはなにを買って帰ってくるか、だね!」
「お金は余分に入れておきましたから、大丈夫でしょう」
「……うん、でも問題はお金じゃないみたい……」

みゆきの声で店内を覗き込んでみると、付録にカードのついた駄菓子を握りしめるゆうたと、白い生クリームと赤いイチゴがかわいらしいショートケーキを指差しているひながいた。

「ゆーくんのおやつ、やだっ」
「ひなちゃんのもやだっ」
「そうだ……ここ、なんでもあるからいつもはお母ちゃんが決めてたっけ……」
「日頃の我慢がたまっていたんでしょうね」

なおは呆れたように額に手をあてて、れいかも不安そうに顔をくもらせていた。しかしみゆきは今度はわたしの番だねと言うと、ふっと動いた。もちろんスマイルパクトを手に携えて、次の瞬間にはハッピーシャワーの光がひなとゆうたを包み込んでいた。
あかねたちは驚きを隠せない。それもそうだろう。一般人の……しかも子供の耐えられるような衝撃なのだろうか。しかしみゆきは自信まんまん、どうだっ、と胸をはっている。

「……ひなちゃん、ごめんね」
「ううん、ゆーくんのでも、いいよ」
「じゃあ、ゆうとひなのあいだをとって甘いおせんべいにしよっか」

ハッピーシャワーを浴びたせいなのか、一気に毒気の抜けたひなとゆうたはけいたに言いくるめられ、素直に従った。開いた口が閉じないのはなおたちの方だ。こういう結果にならなかったらどうするおつもりだったんですかと今度ばかりはれいかも焦りながら訊ねている。

「どうもしないよ? だってプリキュアの力が人を傷つけるはずがないんだもん! みんなを助けるのがわたしたちの役目なんだから!」

みゆきの笑顔は、確かに、と納得させてしまうようなものだ。しかしあかねたち4人は二重の意味で肩をおろし、胸を撫で下ろしていた。

「けいたくんたちが出てくるよ! わたしたちも早く帰ろう!」

やよいがぐいっとなおの手を引っ張ったとき、ウルッフッフッと薄気味悪い聞きなれた笑い声が鼓膜を揺らした。みゆきたちは声の主がどこにいるのか目を凝らして探す。電信柱の上に目的の人物(?)を見つけたあかねは、悔しそうに歯ぎしりして、ずっと見とったんか! と地面を荒々しく蹴飛ばした。

「そぉーだよ、マヌケなプリキュア共め! ガキんちょにおつかいさすのがはやってるらしいがそんなんただのメーワクだろぉ? 現にオマエらだってこそこそこそこそついてってんじゃねぇか!」
「自分、なにアホなこと抜かしてんのん……!」

ふわ、と何の動力もなく空から舞い降りてきたウルフルンに向かって、あかねはつかみかからんばかりの勢いで言った。なおは、きょうだいたちを自立させるためにおつかいに行かせたのを忘れていたのか、アンタの言う通りだ、と吐息で呟く。れいかはそんな彼女の手をぎゅっと握って、それは悪いことではありませんよと微笑んだ。

「けいたくん、いちばんお兄ちゃんで不安だったのに……はるちゃんやひなちゃんを守るためににげなかったんだよ!」
「ウチ、ガキんちょは弟おるからニガテやったけど……あの子ら見とったらなんやまた好きになってもうたわ!」
「わたし、みんなに勇気をもらったんだもん!」
「わたくしたちの手助けなしでも、きっと彼らはやりました!」
「―――……わたしのきょうだいを……小さい子をバカにするなんて 絶対に許さないっ!」
「オレまだなにもしてねぇのに変身かよ!? ヒキョーだぞ、プリキュア!」
「みんな、行くよっ」

なおがスマイルパクトを構えれば、他の4人もすぐに続いた。ウルフルンはただただあわてふためいて、ただでさえイラついてたのによぉ、とぼやいている。

「輝け、スマイルプリキュア!
「変身終わってっし!」
「プリキュア! マーチ シュートッ」
「うぉっ」
「サニー ファイアーッ」
「あっつっ」
「ビューティーブリザードッ」
「つめっ……」
「ピース サンダーッ」
「ババババババカやろう!」
「ハッピー……シャワーッ」
「オマエらぁっ! こういうの集団リンチっていうんだぞ! 知ってんのかぁっ」
「――ペガサスよ! わたしたちに力を……」
「貸すな 貸されるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

マーチシュートでぼさぼさになった毛並みを整え、
サニーファイアーで焦げ付いた尻尾を指先で払い、
ビューティーブリザードで凍ったブーツで地面を力強く蹴ると、
ピースサンダーでしびれたままの体をふわりと持ち上げ、
ハッピーシャワーを軽やかによけて、ウルフルンはそのまま姿を消した。
なおたち5人はどんなもんだいと腕を組んで満足気に鼻を鳴らした。そうして、夕暮れの道をけいたたちよりも早く帰宅するためにあわただしく逃げ帰る。

◇◇◇

「早く早く!」
「わたしがお皿洗ったらみゆきちゃんが拭いてあかねがしまって! やよいちゃんとれいかはおもちゃと机の上を片付けてくれる!?」
「ガッテンしょーちや!」
「はい、もうやっています!」

そうこうしている内に、わあわあと言い合いながらけいたたち5人が玄関まで来たのが分かった。なおは濡れていた手をエプロンで適当に拭うと、そのまま玄関まで駆けていく。

「なお姉ちゃん、ただいま!」
「けいた~! お帰り! よくがんばった!」
「さすがはなおちゃんのきょうだいだね!」
「ウチ、見直してもうたわ!」
「うんうん、みんなとってもかっこよかったよ!」
「これからも、きょうだい6人、力を合わせて下さいね」

にっこり笑ったみゆきたちに、けいたやはるは首を傾げた。

「どうしてお姉ちゃんたちがはるたちのこと知ってるの?」
「どこかでみてたのかなあ?」
「ちっ、違うよ!? きっとかっこよかったんだろうなあって! ねっ、あかねちゃん!」
「せ、せやで! ほ、ホンマ関東の笑いってきっついわあ……」

あは、あはは……とひきつった笑みを浮かべたみゆきたち。しかしけいたたちはそれ以上のことは聞かずに、ただ嬉しそうに彼女たちを見上げてきた。

「うん、でもね、きょうはるたちがおつかいできたの、けいくんたちだけのおかげじゃ、ないんだよ」
「いろんなところでね、ふしぎがおきたの!」
「わんわん がおー」
「てえびがぷっつん!」
「それからねー」

なおをはじめとして、みゆきたち全員は目を見開いた。
なんだ、気づいてたんだ……と。
しかしそれは落胆ではなく、驚きだった。ちゃんと人の助けに気づけたのは、何より大きい彼らの成長なのだから。
人はひとりでは生きられない。
それに気づけないひともいる中で、けいた、はる、ひな、ゆうた、こうたは確実にそれに気づけたのだ。こんなに大切で素敵なことはないだろう。
なおは玄関のたたきに膝をついて、膝が汚れるのも顧みずに彼らをぎゅうっと抱き締めた。



おわり
最終更新:2014年04月10日 22:20