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姉なせつなと妹なイースと【3】/そらまめ




「イース、ちょっとそこのお醤油とって」
「は? どうして私が貴様のために動かなければいけないんだ」
「どうしてって、醤油があなたの目の前にあって私の位置からでは取れないからよ」
「なら残念だが醤油なしで食べるしかないな」
「なんでそういう結論になるのよ!」
「イースー、そこのソースとってー」
「ああ、ほらラブ」
「ありがとー」
「…ねえイース……イースさん…なんでラブのお願いはすぐ聞くの? どんな当てつけの仕方よ」
「それは、ラブ>せつな だからだ。因みにこの家のカースト的にもお前は最下位だ」
「なんでよ。この家に来た順からしても年齢的にもあなたが一番下でしょ」
「お前が最下位なのは自然の摂理だからだ。諦めろ」
「意味がわからないわ…」

「今日もせっちゃんとイースちゃんは仲良しねー」
「そうだねお母さん」

「「仲良くなんてない!」」

最早恒例行事となったせつなとイースの言い争いは、食卓を囲みながらの日常に同化しており、結局醤油はイースの代わりにあゆみが手渡す事でこの喧嘩、というか一方的な嫌がらせは収束した。因みに席順はせつなとラブが隣同士で座り、イースは所謂お誕生日席の位置である。

「そういえばイースちゃん、昨日は昼間家に居なかったけどお散歩でもしてたの?」
「え、そうなの? ちょっとどこ行ってたのよイース」
「睨むな。別にお前が思っているような事はしていない。ただこの街をよく知りたかったから見てまわっていただけだ」

せつなのイースへの疑いは完全に消えたわけではない。ラビリンスからのスパイかもしれない可能性を捨てきれずにいる。ただ仮にそうだったとしても、こんな姿じゃ物理的な脅威にはなりそうにないが。できて情報収集くらいだろう。
せつなとラブは学校へ行っているので日中のイースの行動はわからない。イースもせつなの時と同じように学校へ通うという話が持ち上がったが、「私は外国のハイスクールを飛び級で卒業したから勉強の必要はない」と大嘘をついた。イースも他人との接触はまだ抵抗があるようだし、転入するには時期的にも中途半端。今のところ嘘もバレていないので一日中暇をしている。それに実際本当に頭は良かった。外国をラビリンスにするとあの嘘はあながち間違っていないのかもしれない。設定では、日本に一人で来ている間に海外に居る両親と親戚一同は事故で死んだので身寄りがない。となっている。パスポート?戸籍?そんなものは知らない。













[休日]


「イース、散歩もいいけどお母さんのお手伝いはちゃんとしてるの?」
「なんだ突然。しているに決まってるだろ。あの者がいなければ高品質な食事が提供されないではないか」
「イースは完全におばさんに胃袋掴まれてるわね」
「そうなんだよ美希たん。イースったらお母さんにはすごい素直に従ってるんだよ」
「イースちゃんのデレの部分はおばさんとラブちゃんに注がれて、ツンの部分はせつなちゃんにいってる感じだね」
「ブッキー…たまにはおじさんの事も思い出してあげて」

いつものドーナツ屋……ではなく、近くのファミレスにいる五人はテーブル座で話をしていた。今日はダンスレッスンもないし、イースの近況報告でもという事で桃園家であったことを話題に盛り上がっている。因みにここでの席順はラブを挟むように窓側にせつな、通路側にイース、その向かいに美希と祈里の順である。なぜイースが通路側かと言えば…

「ラブ! 今度は黒い液体だぞ?! さっきの緑といいどうしてこんなに毒々しい色の液体ばかりでてくるんだっ!!?」
「イースー、それコーラって言うんだよー あと他のお客さんもいるからもう少し静かにはしゃいでねー」
「ああっ!」
「幼稚園児みたいな騒ぎ方してるわね…」
「イース! 私の姿でそんなにはしゃがないで! なんだか無性に恥ずかしいから!!」
「せつなちゃんも昔はあんな感じだったの?」
「…ノーコメントで」


初めてのファミレスでテンションの上がるイースにドリンクバーなんて与えたものだから、珍しさとジュースが気に入ったからかひっきりなしに動く見た目小学校低学年に考慮しての配置だった。


「ふむ……私はこの透明で刺激のある液体が好みだな。いや待てよ…こっちのオレンジのも中々…」

そのうち、サイダーとオレンジジュースのどちらがおいしいかを真剣に悩みだしたイースは自分の世界にトリップし、そのおかげで途端に静かになったテーブルで息をついた四人は苦笑い交じりにお互いに顔を見合わせる。騒がしいけど憎み切れなくて、自分達に妹が出来た気がしてこういうのも悪くないと思った。

「そういえばあたし達の中で兄弟いるのってせつなを除けば美希たんだけだよね」
「そうだね」
「アタシも和希とずっと一緒に暮らしてたわけじゃないから、普通の姉弟とは違うと思うけどね」

ある意味一人っ子のようで、でも違うような、普通に暮らしている家の兄妹はどんな感じなんだろう。いつも喧嘩ばかりしているか、はたまたびっくりするぐらい仲が良いか。想像するしかないのなら、どうせなら良好な関係性がいい。今の自分と弟のように。なんて思う。

「うーん……朝起こしてくれるようなお姉ちゃんだったら欲しいかも」

悩んだ末にラブが思い描く兄妹像は世話を焼いてくれるお姉さんらしい。

「ラブ、私が毎朝起こしてるじゃない。駄目なの? 私じゃ駄目なの?! 姉という要素が足りないなら自分の生年月日とかよく知らないし、実は私みんなより年上って設定加えてもいい!」
「別にせつなに不満があるとかじゃないから落ち着いて! 例えばの話だよ! でも例えでもせつながいれば必要ない事だったねあはは」
「ラブ…!」
「悲しい設定なら今さらっと追加されたわね」
「触れていいのかどうか迷う話題だね」

このせつなとラブのやりとりにはもう慣れてしまったけど、せつなはラブの前でならあっさりとデレるから面白いような面白くないような。イースもそうだけどラブは特定人物を籠絡させられるマタタビ的な成分でも発しているんだろうか。もしそうだとしても当の本人は気付いていないのだろうけど。

「…オレンジジュースはオレンジという果実が原料…ならサイダーは? サイダーは何から作られているんだ?!」








割とカオスになりそうなところで頼んでいた昼食が運ばれた。

















「イースはどうして和食を頼んじゃったの…?」
「う、うるさいなベリー! 食べてみたかったんだ!」
「涙目になってるわよ。後こんな往来の場でベリーって呼ばないで」

ため息交じりな美希の質問にイースが涙目になっているのは自身が頼んだメニューのせいだった。ご飯、味噌汁、焼き魚と和なラインナップだが、別に味が合わないという訳ではなく、

「だから洋食系にしたらって助言してあげたのに…」
「うるさいお前の指図は受けないと決めている」
「そうやって意地張るから苦労する事になるのよ。焼き魚なんて思いっきり箸で食べるものなのに」

イースは箸が使えなかった。多少なら使えることには使えるが、恐ろしく時間が掛かる上に持ち方も定まらず手がぷるぷると震えるほど。魚の身をほぐして持ち上げては口に運ぶまでにポロリと落とし、味噌汁の豆腐を掬えばぴちゃんと汁がはね、それが何度か続くころには持つ箸を折らんばかりの力で握りしめながら涙目になっていた。
ラビリンスでは箸を使う事がなかったのでせつなもこちらに来た当初は使えなかったが、ラブに怪しまれないために密かに一人で練習していたらしい。桃園家でのイースは箸の練習をしつつもフォークやスプーンを主に使っていた。

「イース、ほらフォーク使いなよ」
「情けは無用だラブ。私ほどの人間が箸如きに敗北するなんて私のプライドが許さない」
「負けず嫌いな所はほんとにせつなちゃんそっくりだね」
「私はもっと順応できる性格だからイースほどじゃないわ」
「「それはないと思う(わ)(よ)」」
「美希もブッキーもそんなに力強く否定しなくても…」
「せつなもイースも自分に厳しいからねぇ」

ラブ、せつな、美希、祈里の四人が食べ終わる中ひとり箸を使って懸命に食べるイース。どうやら最後まで箸で頑張るようで、「ゆっくりでいいからね」というラブの言葉の通りまだ半分ほど残る料理と格闘していた。

「そういえばイースちゃんって左利きなんだね」
「あ、そうよね。せつなは右利きなのに」

もくもくと食べるイースに今更ながらに気付いた祈里が指摘する。

「残念な事に私はこいつのクローンではあるが、稀にこういう事もある」
「なんか随分あっけらかんとしてるね」
「ラビリンスではクローンって割と一般的だからこちらほど混乱も抵抗もないのよ」
「へー、すごい進歩してるんだねー」

流石、他の世界を支配しようと目論むだけはある。褒めるつもりは全然ないけど。支配されそうな世界の人間としては本当にいい迷惑で、その高度な技術を正の方向に生かせなかったのかと思うラブ。
ただ、そんなラビリンスにも一つだけ感謝出来る事があるとすれば、こうしてせつなとイースに出会えた事だろう。せつなが説明するクローンの話はほとんど解らないけど、こうしているのが楽しいという事だけははっきりとわかるから。



「まあ、おかげでこちらの架空の物語のように、本物にとって代わりたいという理由で殺意が湧かないのは幾分つまらないがな。別な理由では十分その考えはあるが」
「おっと、シビアな事言い出したわよこの子」
「クローンであっても役割が決められて生まれてくるからオリジナルがどうとかの話にはならないのよ。意図的にそうしない限りは。それとイース、私に殺意が湧くほどの不満があるなら言ってみなさいよ」
「…ちっ」
「会話のキャッチボールすら出来ないなんて赤ん坊から始めた方がよかったんじゃない?」
「この年齢の時の貴様を再現してやっただけだ。意思疎通も図れないこんな奴と一緒に仕事をしていた人間はさぞ苦労したんだろうな」
「……うわっせつな落ち着いて! それ以上力入れてグラス握ったら割れちゃうから!! ミシミシ言ってるから!」

目の前の食事から目を離すことなく作業のように箸を動かすイースの態度と、何を言っても減らず口で返してくる言葉のせいで一つのグラスが犠牲になろうとしていた。
















それから数時間後、自宅へ帰るために三方向に別れた少しあと、桃園家へと続く道を歩く三人は夕焼けに押されながら帰り路を急ぐ。そこかしこから夕食が準備されている匂いがしてきて、なんとなく浮き足立つ体に誰ともなく笑顔だった。

「それにしてもなんだか今日は食べてばかりだったような気がするな…」
「気のせいよイース。他にも買い物とか公園行ったりしたじゃない」
「そうだったか…?」
「今日も幸せたくさんゲットできたし楽しかったね。早くあたし達の家に帰ろうっ!」



―――――そうして、今日も一日が終わっていくのでした――――
最終更新:2014年04月13日 11:15