月と太陽/そらまめ
「私、夜に輝く月より、朝の青空に白く浮かんでる月の方が好きなの」
「へー、朝でも月が見えるんだね」
「ええ。見えてないだけで昼間にだって月はちゃんと空にいるのよ。同じ月なのにどうしてこんなに印象が違うのかしら」
月に変わりはないのに、周りが明るいか暗いかの違いでこんなにも見え方が違う。
根本は全く変わらないのに、周囲の変化で変わったように見える。まるで今の自分とそっくりで可笑しくなる。
プリキュアになって私の世界は明るくなった。
陽だまりのように後ろから照らしてくれる友人や家族がいて、応援してくれるたくさんの人達がいて、私自身も輝きだした。
…ように見える。
けどこれは錯覚だ。みんなが太陽のように照らしてくれるから光っているように見えるだけで、みんながいなくなれば昔と変わらない私がいる。
そう思うと、私はいつも不安になる。ここに居てもいい存在なのか。自分がいつかみんなに取り返しのつかない事をしてしまわないかと。
いつもの悪い癖だった。
なんでも一人で解決しようとして空回りして、結局みんなに心配かけるだけ。
今回もそう。一人の下校中にラビリンスの気配がして咄嗟にそちらに走った。ここでラブ達に連絡すればよかったのに、自分でどうにかする事しか頭になくて、みんなが騒ぎに気付いて駆け付けてくれた頃には私は負傷して一人ボロボロになっていた。
美希は私の惨状に怒っていた。いつもこうやって私を叱るのは美希で、泣きながら大丈夫か聞いてくるのがラブで、悲しそうな顔をしながら手当してくれるのが祈里だった。
いつもみんな心配してくれるのに、どうして咄嗟の時にみんなに頼る事が失念してしまうのだろうか。不思議なほどラブ達の存在は私の頭からすっかり消えてしまうのだ。
結局、私はみんなの事をその程度にしか考えていないという事なのだろうか。
これじゃイースの時と同じじゃないか。
どうしてこう…上手くいかないのだろう。
どうしてもっと上手く生きられないのだろう。
どうして私はいつもみんなを悲しませてばかりなのだろう。
そんな事ばかりが頭の中でぐるぐるまわる。ただ、答えはいつも出ることはなく迷宮入りとなって心に積み重なっていった。
それでも変わらずにそういう行動をとっていたら、ついに美希に言われてしまった。
「いつもいつも一人で抱え込んで! 一人で解決しようとして!! そんなにアタシたちは信用できないの!!?」
ハッとした。そして、納得してしまった。
そうか。私は心の奥底ではみんなを信用してなかったのか。一人で突っ走ってばかりで、これじゃ仲間だなんて言えない。
「そうね…たぶんその通りよ美希。結局私はいつまでたってもイースのままだったのよ。やっぱり私に仲間とか信頼とか、そういうのは無理だったのね…」
「…っ!! またそうやってアンタは…!!」
「美希ちゃん落ち着いて!!」
「せつな…」
美希が睨んできた。怒らせてしまった。祈里は殴りかからんばかりの勢いでこちらに向かってくる美希を宥め、ラブは悲しそうに私を見ていた。
また、みんなを悲しませてしまった。
どうすればよかったのだろう。どう対応すればみんなが喜んでくれたのか考えて、考え付いた行動を今の自分は取れないだろうと頭の中で結論付けた。
前向きに考える事が出来なくて、でも前向きなように見せる事も今の自分には難しい。
イースの時のみんなとの関係は嘘だらけだったから、せつなになった時に素直でいようと決めた。でも今の私はどちらにもなりきれていない宙ぶらりんな人間になったように感じる。
昔と今と、何が変わったんだろう。
かつて私の心の大部分を占めていたメビウス様のスペースには、今はラブと
美希と祈里がいる。両手で大切に抱きしめていた「メビウス様のためにお役に立つ」という願いは地面に捨て落として、その代わりにラブたちの役に立ちたいという想いを抱えた。
今、私の両手には抱えきれないほどのモノたちがある。
だから自分の願いを拾うことも、自分の命を抱えることも出来ない。そんな余裕はない。
もし仮に、私の願いと誰かの願いどちらかしか叶わないとしたら、私の場合、天秤に掛けることすらなく決められる。なぜならその二つは同じ土俵にすら立っていないから。
今、私に足りないものがあるとしたら、それは色々な事を抱えられる腕が二本しかないことだと思う。もっと多くの事を、想いを拾い集めたい。困っている人の相談に乗りたい。気づいてあげられるようになりたい。
そのためにたくさんの手が、耳が、眼がほしい。
ただ、私の欲しいものが全て備わってしまったら、きっとその姿は人間ではなくなってしまうだろう。ただの怪物になってしまった私の姿を見て、相談してくれる人は、守らせてくれる人はいるのだろうか。
結局、自分の願いと他の人が望む願いはどこまでも平行線で交わることがないもので、いつになったら私はみんなの望む私になれるのだろう。それに、慣れるのだろうか。
「せつなは…もう嫌になっちゃった? あたし達と一緒にいるの疲れちゃう?」
ラブがそう言うのを、私はどこか夢の中にいる気分になりながら聞いていた。聞かれているのは確かに私なのに、それをぼんやりとどこか他人事のように違う目線でみている感覚だった。
もしここで私が「うん」と言ったら、ラブは私の前からいなくなってしまうのだろうか。それは…嫌だな…みんながいない私は、東せつなではなくイースだから。月のように変わる事はなく、でも変わったようにまわりを騙している私には、みんながいて東せつなになれている自分には、ラブ達がいなくなる事は東せつなは死ぬ事と一緒だと思ったから。
「今は…死にたくはない…かな」
ぽつりとつぶやいた言葉の意味を、みんなはきっと解かっていない。質問の答えにすらなっていない発言に祈里も美希も眉をしかめたのは、その真意が解らなかったからと、死にたくないと突然に言ったからだろう。
「なら、大丈夫だね」
死にたくないと言った私に、それなら大丈夫だと微笑んだラブ。なんでそう言うのかよくわからなくて、続きを促す目線を送った。
「生きていたいと思うんでしょ? せつながそう思っていてくれる限り、時間はあるって事だからね。あたし達が伝えたい事を少しずつ解かっていってもらって、少しずつみんなで変わっていけるなら、今完璧じゃなくてもいいってことだよ」
私が今感じている不自由さは、未来ではどうにかなっていてくれるの…?
「でも私は、変われないし…」
自信がない。何もかもに。そんな所在なさげな私に吹き出したのは誰だっただろう。
「何言ってるのよ。あの時のイースだったら、死ぬ事には抗おうとはしなかったじゃない。そこだけ見てもせつなは十分変わったわよ」
可笑しそうに美希が言ったのにつられて顔を見合わせて笑うラブと祈里が、やっぱりよく解らなかった。
別に面白いことを言ったつもりなんて全然なかったのにみんなは笑っているし、本人が変わっていないと言っているのにみんなは変わったと言うし、「自分で自分の変化に気付くのは難しいからね」と祈里がニコリと言うのに、なんだか釈然としなくて、からかわれているようにも感じて思わずムスッと拗ねてしまった。
「そんな顔するせつなも、あたしは大好きだよ」
大好きとかそういう好意的な事を言われ慣れてないから、どうしていいかわからなくて下を向いた私の反応にまた笑われた。
輝く三日月が映える夜空を、何も考えずに見上げてみた。いつになっても自分で輝く事はない月が、こんなに価値があるように見える。でも、地球だってそこらへんで光っている星だって太陽がいなかったらどの星も石ころのようなものだと思ったら、太陽に重ねて身近にいる太陽みたいなラブの凄さを改めて感じた。
最終更新:2014年04月19日 03:02