クチナシ。シラユキヒメ。/そらまめ
学校の校庭にテントを張って天体観測をした。
この学校では二年生になったらこの天体観測会をするらしい。
授業が終わってからみんなで夕食にカレーを作って、校庭に自分達でテントを張って寝袋を準備する。いつも通っている学校なのに、その日はなんだかどこか旅行に行ったような気分になってワクワクした。
「あれがさそり座って言うんだよ」
「ならあれがオリオン座ね」
銀マットの上に寝っ転がってラブと一緒に指差しながら星座を見た。片手の星座早見で場所を確認しつつ、傍らの天体望遠鏡を時折覗く。
空がこんなにも綺麗だなんて知らなかった。ただの光の点を形あるものに、意味のある事に変えてしまえるこの世界の想像力には驚かされる。夢があるとはこういった事を言うのだろうか。
私がいつも見上げていたのは灰色に覆われた空間で、星と呼ばれるものは無かった。あったとしても気付けなかった。前を見過ぎて、下を見つめすぎて、見上げるのはメビウスに会う時だけ。
無機質なラビリンスのシンプルさとは何か違うこの世界は、流れる風も吸い込む空気も見上げる空も、全てが澄んでいた。
そんな事を思ったのが一か月前の話。
あの日以来、私はすっかり夜の空を気に入ってしまい、寝る時間を少し遅くしてこの丘に来るようになった。
高いところから見るとその分だけ綺麗に見える気がするのと、辺り一面に白い花が咲いているこの場所がとても幻想的で、花畑の中で座って星を見る。他に何かをするわけではない。ただ、風が心地いいとか月の光が優しいだとか、それくらいしか考える事がない事が、とても幸せだと思った。
星の事以外に気になる事があるとしたら一つだけ。私以外の気配がする事だった。いつ頃からか自分とは違うもう一人分の気配が増えて、人も滅多に来ないこの場所で同じように空を見上げている。
この気配は知っている人のモノだ。
きっと向こうも私の存在に気付いているし、こちらが気づいている事も理解しているだろう。
それでも私は時間をズラしたり場所を変えたりせずここに来ているから、あちらも同じようにしている。
話をしてしまえば戦わなければならないから。
拳を交える事でしか彼とは分かり合えないから。
星を見つめているだけで会話なんてないけれど、私達は確かに一緒にいて、共通の目的があってここにいて、不思議な事にイースの時だったらこうして二人でいる事をよしとしていなかったのが、敵同士になった今はなんだかそんな状況を許している。
一緒の屋敷に住んでいた時から戦闘時に垣間見る程度に会う機会は減ってしまい、イースの時より彼との距離は随分と遠くなった。
なのに、心はあの時より近くなったように感じる。
皮肉な事に、敵になって初めて彼の人間性を理解した。
ドーナツが好きで、たこ焼きも好きで、お祭りも楽しんで、星を見上げるだけの心を持っていて。
この世界の人のような感性を持ちながら、分かり合う事が出来ないのはなぜなんだろう。今の私なら差し出されたドーナツも前よりスムーズに受け取れる気がするのに。
ああ、でも、この世界の人々でさえ争いやいざこざがあるのだから、空を見上げて綺麗と言える人間同士であったとしても、戦わなければならないのは仕方のない事なんだろうか。
どうにか戦わずに終わらせる方法は無いのだろうかと考えて、自分が今まで戦って勝ち取ってきた事しかなかったと思い出した。今でさえプリキュアの力に頼っている自分が、プリキュアの力に頼らず問題を解決出来るようになるには、まだ時間が掛かるだろう。色々な技量が足りていない事に、歯がゆさを感じる。
自ずと視線が下がって、緑が視界に入る。こうしてネガティヴに考えているとまたラブに怒られてしまいそうだけど、もうこれは性分のような気がするので大目に見て欲しい。それに、たまには下を向いていた事でいい事もある。
例えば…幸せのもとを見つけたり。
手の届くところに幸せのもとが咲いていた。いくら探しても見つからない時があったかと思えば、こうしてなんとなく見ていただけなのに発見することもある。
明日あたりに幸せが訪れるのだろうか。
でも、私は今十分幸せで、これ以上の何かを与えられたら許容オーバーでヒートしてしまうかもしれない。
そうだ。明日ここに来る時はカオルちゃんのドーナツを持って来よう。
私が帰った後彼はきっと置いていったものに気付くはずだから。
だってこの前の戦闘の時なんて、
「イースっ!!」
「いい加減にして! 私はもうイースじゃないわっ!」
「イースお前ドーナツ食べただろ!!」
「戦闘中になんの話よ! っていうかなんで分かるの?!」
「お前からなんかいい匂いがするからだ!!」
そんな事を言われて思わずズザザッと身を引いた私を気にする事もなく、俺最近食べてないのに!と悔しそうにしているウエスターを横目で見ながら服の袖をつまんで嗅いでみたけど、よく分からなかった。思えば、その時はプリキュアに変身していたのだから私服の時の匂いなんて関係ないはずと気付いてから、ウエスターが大型犬のように見えて仕方なかった。
そんな事があったから、今回もきっとドーナツの匂いを袋越しでも感じ取れるはず。だから、ドーナツと一緒にこの幸せのもとも入れておこう。このままではしおれてしまうから少し工夫して、私がラブから手渡されたように、今度は私が誰かに幸せをあげたいから。
今はこうして間接的にしか渡すことは出来ないけど、いつかこの手から直接あげられたら、と思う。
風におされて、シロツメクサが揺れていた。
最終更新:2014年05月11日 22:49