『しにゃもん。』/Mitchell&Carroll
「はい、どうぞ。シナモンティー」
「う~ん、いい匂い。洒落てるねぇ~」
「音吉さんの本で勉強したの」
窓から入ってくる爽やかな風が、シナモンの香りを部屋中に広げる。
エレンの淹れたお茶を、くんくんと鼻の穴を広げては飲み、広げては飲み……
やがて、ぽわんと頬を染め上げるえりか。
エレンときたら、普段は他人をめったに部屋に入れたりなどしないし、
こんなふうに客人をもてなすなんてことも今までなかったものだから、
カップを持つ手も、わずかに震えていた。
そんなエレンの緊張をよそに、えりかはおかわりを要求してくる。
「おかわりー!!」
何の躊躇いもなく人の心に入ってくるえりかに、
エレンはちっとも嫌な気がしなかった。
心の扉を閉める隙なんて与えてくれないし、
鍵を掛けようものなら、こじ開けるか引き千切るかするだろうし。
えりかに二杯目のシナモンティーをよそった後、
自分も一口、二口飲み、唇を細い舌でペロペロと舐める。
「にゃははっ、猫みたい!」
――別に隠すつもりもないし、
自分が元々猫だったということを打ち明けたところで、
彼女のことだから、どうせ気にもしないだろうし。
唇を舐める仕草をまたやってと、えりかが無言で催促するものだから、
その視線と期待に応える。
彼女を満足させた後、震えない手でカップをそっと置く。
その途端、
「ニャーッ!!」
っとえりかが飛びついた。
簡素な部屋。
その隅に置かれたソファの上で、
じゃれ合って、
くすぐり合って、
見つめ合って、
触れた唇からは、シナモンの味。
おわり
最終更新:2014年07月10日 16:49