『juicy』/Mitchell&Carroll
壁に張られた外国人モデルのポスター、
それにベッド、化粧台、調度品……というのだろうか、
自分の部屋とはあまりにも掛け離れた憧れの世界がそこにあった。
「そんなにジロジロ見ないで、照れるから。座ってよ」
言われたままにクッションに座ると、押しつぶされた繊維から
何かいい香りが吹き出してくるような気がした。
「ねぇ、私たちって、身長同じくらいじゃない?」
「……」
「聞いてる?いつきちゃん」
「あっ、ご、ごめんなさい……」
美希はクローゼットや衣装ケースの中から、服を次々と取り出し、
次々とベッドの上へ放り込んでいく。
「着れると思うのよね~。着たところ、見たいって言うか」
「ええっ、僕なんか美希さんと違って……その、美希さん、細いし」
言い訳するいつきの唇を、美希は人差し指でさえぎる。
そしてそのままいつきのチュニックをするすると脱がす。
ボーダーのシャツに、デニムのジャケット、
ショートパンツに、ニーハイソックス。
「ほら、鏡で見てみて」
「自分じゃないみたい……」
横や後ろも、念入りにチェックする。普段とったことのないポーズなんかもとってみる。
「かわいい、いつきちゃん。こっち見て」
カシャッと、美希はケータイで写真を撮る。
「みんなに送るからね!」
「ええっ、みんなって……」
嬉しさと、恥ずかしさと、期待と。
美希の服には、どれも魔法が掛かっているみたいだった。
今すぐにでも外に飛び出して、普段行かないような所にも行ってみたい、そんな気持ちにさせてくれた。
「ねっ、いつきちゃん。これからデートに出掛けない?」
「は……はい!」
あっという間に念願は叶った。
前に訪れたことのある場所だって、まるで初めて来るように感じたし、
以前食べたことのあるこのドーナツも、今日はもっと美味しく感じる。
「なんか、いつきちゃん見てるとね、いろいろ教えたくなっちゃうの」
そう言いながら、自分のブルーベリージュースといつきのグレープフルーツジュースを
ひとつのグラスに混ぜ合わせて、ストローをお互いの方に向ける。
頬杖をついて、上目遣いでいつきを見つめながら、溶け合ったそれを味わう。
なんて長い首なんだろうとドキドキしながら、促されるままにいつきもそれを味わう。
顔の熱りはスッと取れたけれど、そのかわり、さっきよりも世界の色が鮮やかで甘美になった。
「その服、気に入った?」
「まるで、自分じゃないみたい……」
「それ、さっきも聞いた!」
「ほんとうに、自分じゃないみたいで……」
「その服、あげる。あたしよりもいつきちゃんが着た方が服も喜ぶだろうし!」
「ええっ!!」
「『ええっ』って言うの、口癖なのね」
照れ隠しにいつきはまたストローを咥える。
「これ、意外とイケちゃうんですね」
「でしょ!」
END
最終更新:2014年07月18日 21:33