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「キュアハニーの願い・大森ゆうこの願い」/ねぎぼう




”悲しいお知らせがあります……”
 プリキュアウイークリーで増子美代キャスターが神妙な面持ちで切り出した。
”日本最強のプリキュアがプリキュアハンターに倒されてしまいました”
わが街が誇るヒーローの敗北にはテレビの前の人々も衝撃が襲う。
”でも、プリキュアは不滅です。必ず最後には勝つと信じます”
 モニターには不器用ながらもひたむきに戦う紫のプリキュア、そして一瞬だけ映し出された紅のプリキュア。

ゆうこもショックを受けていたが、明日の食材の仕込みに気持ちを切り替え、おおもりご飯の厨房に向かった。

 *****

「オラ!」

昼の書き入れ時から少し落ち着きを取り戻したおおもりご飯にある日突然やってきた一人の女性。

どうやら、最近多くなっている外国から来ている人のようだった。

「ウェルカム、いや、違う!何て言ったら……」
「アタシ、日本語わかるよ。それにしてもどれもおいしそうだねえ~」
「(ほっとする)はい、どれも愛情たっぷりでおいしいですよ!」
「それじゃ、海苔弁当の特……」
といいながら、財布をみてため息をつく。
「ゴメンナサイ、ミニ弁……1つで」
 言うと同時に「ぐぅ~」というのが聴こえた。
「Ay!(やだ!)」
顔が真っ赤になる。
 ゆうこは小さく厨房に声をかけた。
「お姉ちゃん、ミニ弁だけど少し多めにご飯入れてあげて」
「OK!」

容器は小さ目だがちょっとご飯があふれた海苔弁当。
「お待たせいたしました、海苔弁当愛情特盛です!」
「グラシアス!あの……ここで食べていいかな?」
「どうぞ、こちらでお召し上がりください」

ゆうこは女性を店先のテラスに案内した。
「お箸で……大丈夫ですか?」
「ありがとう、慣れてるから」
海苔ご飯の一角を箸で切り割ると、口に入れる。
「デリシオソ! こんなおいしいご飯、初めてだよ」
「ありがとうございます!」
すっかり目を輝かせながらひと箸、ふた箸……、
瞬く間に海苔弁当を平らげていった。
「ゴチソウサマ! おおもりご…はんだね、また来るよ」
「ありがとうございました!」

あんなに美味しそうにご飯を食べる人をゆうこは初めてみた。
(また来るって、言ったよね……)

次の日も同じような時間にその女性は来た。

「いらっしゃいませ!」
「海苔弁当の……特盛!」
『特盛』と言うときの嬉しそうな顔にゆうこもつられて嬉しくなる。

「お待たせいたしました、海苔弁当愛情もご飯も特盛です!」
「ビエン!」

昨日と同じように、上品というものではないが、力強く美しく感じる箸遣い。

「ムイ リコ! 本当に美味しいよ」
「ありがとうございます!」

その次の日は学校の行事とかもあり店を手伝えなかったが、姉に訊くと同じ時間に来ていたらしい。
姉から見ても気持ちいい食べっぷりだったそうだ。

(昼過ぎに店にいれば、あの人に会えるのかな?)

ゆうこはその女性が来るのが楽しみになった。

 *****

「オラ!アマンダ」
「ゆうこ、海苔弁当の特盛で」

いつしか、名前で呼び合うようになっていた。

「アタシ、小さいころ日本にいたんだ」
「だから日本語も話せるし、箸も上手に使えるんだね」
「うん、ここに来ると小さいころに食べたご飯を思い出すんだよね」
アマンダはどうやら世界を旅しているらしい。
来るたびに世界中の旅とそこで食べたものの話の花を咲かせる。
元来料理の話は大好きなゆうこである。アマンダの話はとても楽しかった。
話に夢中になるうちに、そこはかとにじみ出る人柄にもゆうこは惹かれていった。

「いつかね、全ての人が美味しくご飯が食べられる世界になってほしいんだ……」

その晩ゆうこが何気なく目にしたプリキュアウイークリー。

増子キャスターがそこで口にしたのが『ジタンプリキュア』だった。
世界を旅しては各地のプリキュアが追いかけきれないサイアークを仕留めているという、幻のプリキュア。
それが今どうも日本に来ているらしいのだが、姿を確認するまでにサイアークを倒してしまうらしい。
”私も知りたい!でもすぐ消えちゃう!”

ゆうこはふとアマンダのことを頭に浮かべた。

しかし、まさかそんなすごいプリキュアがぴかりが丘に来るなんで夢にも思わず、「そんなプリキュアもいるのね……」

 *****

 キュアテンダーを倒した幻影帝国はぴかりが丘への侵攻をも本格的に開始し、街には破壊の爪痕が目立つようになった。

一方、キュアテンダーが倒された後に現れたキュアフォーチュンがぴかりが丘を守ろうと奮戦するも当初は慣れぬ戦いのせいか防戦一方。
しかし、持ち前の頭脳と体術を生かし、次第にサイアークの浄化が進むようになっていた。

そんなあるとき、ゆうこが店先の掃除をしていると黄色い美しい結晶を見つけた。

「これって?」

手に取ると眩しく光り輝いた。

「綺麗……」

その時、鏡が目の前に現れ、そこから地球の神ブルーが現れた。

「貴方は?」
「私は地球の神だよ」
「ええっ!?」

目の前に起こることをにわかに信じられないゆうこ。
輝く結晶を手に茫然としていた。

「君は強い愛の心を持っているようだね」
「私が……強い愛の心を?」
「ただ、どう願いを込めるかは君次第だ。
プリキュアには試練も付きまとうことになる。周りを危険に巻き込まないために自らを律して生きていかねばならない。女の子としての犠牲を強いられることも多少はある。よく考えて決めてくれるといい」

(私が……プリキュア?)

手に持った『愛の結晶』はまさに秋の稲穂の実りを思わせる輝き。
嬉しさが溢れてきた。
それと共に湧き上がっていく得も言われぬ不安。

ないまぜの感情もあり、その夜は眠れなかった。

 *****

 翌朝

快食快眠が売りのゆうこも今日ばかりは勝手が違い、節介焼きのめぐみも心配顔。

「ゆうゆう、悩み事?」
「う、うん。なんでもないよ」

授業はなんとか切り抜け、めぐみに伴われて帰る始末。

「もう、大丈夫だから」

とはいうものの、店でもずうっとぼんやり。

「ユウコ、どうしたの?」

今や常連さんたるアマンダもやってきて声をかけた。

突然のプリキュアへの「スカウト」。
この世代の女の子の憧れであり、ゆうこにとっても憧れの存在。
しかし、プリキュアと幻影帝国との戦いは熾烈極まりないものでもある。

現に、最近では強敵プリキュアハンターによって何人ものプリキュアが
倒され、半永久的に鏡に閉じ込められているという……

もしそんなことになったら、父、母、姉、友達……
そしてアマンダの顔が浮かぶ。

アマンダも悲しむだろうか……

「アマンダ…… もし、私がいなくなったら、寂しい?」
言ってみてその幼さに恥じ入る。
「ユウコがいなくなったら、アタシ寂しいよ。……あんなことはもう御免だしね」
「え?」
「ううん、何でもない。ゴチソウサマ、今日の現場は早いんだ」
「そうだね、いってらっしゃい」

アマンダを見送るゆうこはあの言葉が気になった。

(「あんなこと」って?)

そういえば、一度アマンダがデリシオソといいながら涙をこぼすのを見た。感動の涙、そういうものではなかった。

(やはり、昔、何かあったのかな?)

とりあえずプリキュアのことは置いておこう。

(アマンダの悲しみ、私じゃ癒してあげられないのかな?)

ゆうこにとって、アマンダの存在は大きくなっていた。

 *****

 現場仕事を終えたアマンダの前に鏡が出現した。

「アマンダ、久しぶりだね」
「ブルーも日本に来ているんだね、やはり」
「このぴかりが丘が……始まりだからね」
「これ以上の話は今はしたくないでしょ?」

本題を促す。

「君が知っている子が、愛の結晶に選ばれたんだ」
「ユウコが?明るくていい子だよ……似ているんだ、あの子に」
「ただ、ゆうこは今までとは違うプリキュアになる……そんな予感がするよ」
「そうだね。ユウコ……」

アマンダの心に何かある?
そう感じた神様が提案する。
「もう少し、ぴかりが丘でやることがあるなら大使館に来ればいいよ」
「いいや、もうすぐ日本での方はつけるよ。私はジタンプリキュア、一つところではいられない宿命だから」

 *****

「オラ!アマンダ。いつもの海苔弁当?」
「うん……海苔弁当ミニ弁を……2つ」
「え?わかったわ。お姉ちゃん海苔弁当ミニ2つ!」
「ユウコ、海苔弁当は合格出たよね?」
「わかったわ。待ってて」

ゆうこは海苔弁当の盛り付けを先日父に認められた。

アマンダのため、心を込めて海苔弁当を作る。

「いかがですか?」
「ムイ リコ!」

その後は、いつもとは違い静かに食べる。

特に、2つ目のミニ弁は少しずつ食べていった。
まるで、名残りを惜しむかのように。

今日は配達もなく、アマンダの横に座るゆうこ。

ゆうこは勇気を奮い起こす。

「アマンダ、ぴかりが丘にずっといてくれたら。そして、これからも私のご飯をずうっと食べてくれたら……嬉しいな」

精一杯の思いを伝える。

ゆうこが自分に向ける目が好意の域を超えていることは、うすうす気づいていた。
もう、このままではいけない。

「ペルドン……ごめんなさい、ユウコ。それは、出来ないの」

アマンダはプリチェンミラーをかざすと、紅の戦闘服に身を包んだ。

「貴女が……ジタンプリキュアなの!?」
「ええ、ジダンプリキュア・キュアカルメンよ。おそらく誰も知らないでしょうね」
「この間、テレビで見たわ。幻のプリキュアだって」
「日本のテレビってすごいんだね。アタシのようなプリキュアまで追いかけるんだ?」
「アマンダ……キュアカルメンは日本のプリキュアとはもう一緒に戦ってくれないの?」
「キュアフォーチュンかしら?あの子も強くなったからね。ちょっと危なっかしいところもあるけど、頭がいい子だからきっと大丈夫……それに、前座みたいに出てくる子?
あの子も何かのきっかけがあれば強くなる、そんな予感がするよ。世界中のプリキュアを伊達に見てきてないからね」
「世界で……貴女は一人で戦ってきたの?」

キュアカルメンは目を伏せた。

「アタシは旅して人知れず戦うプリキュア…… それに国によってはアタシ……達の存在を疎ましく思っている人もいるから」

幻影帝国の存在だけではない、世界に横たわるもっと難しい問題が存在することを
ゆうこも気付かされる。

アタシ……達?

「ジダンプリキュアは一人じゃなかった、のね?」
 アマンダが以前言った『あんなこと』を思い出す。
「ええ、アタシとキュアハレオでジダンプリキュア!フェリシアはアタシの最高の相棒で……ノビア(恋人)なの!いつも一生懸命で、優しい子」
 キュアカルメンの目は輝いた。
「でも、今は鏡の中にいるの。アタシをかばって……
ユウコの愛情特盛海苔弁当、フェリシアと一緒に……食べたかったなあ」
 ゆうこに涙を見せまいと背中を見せ、肩を震わせた。
再び振り向いた時には涙はなかった。
「ユウコも愛の結晶に選ばれたんだね。ブルーから聴いたよ」
「うん……なんか不思議な感じなの」
「ユウコに初めて会ったときね……久しぶりに明るく接してくれて嬉しいって単純に思ってた。でも、きっとそれだけじゃない」
「ご飯を美味しく食べることへの思いは誰にも負けないんだけど……」
「やっぱり、それでこそのユウコなんだよ。だから、世界を翔べるよ。アタシ達とは違ったやり方でね」
「うん。私、もう迷わない」

キュアカルメンの背中から翼が現れた。
「ブルーにはさっきのこと内緒にしててね」
「ええ……(心の中にしまっておくね……貴女達のことも)」
「アディオス!ユウコ」
「アディオス!アマンダ」

そういって、遠くへ飛び立っていった。

その夜のプリキュアウィークリーで、ジダンプリキュアがペルーでサイアークを倒した目撃者がいたと、増子キャスターが速報した。
やっぱり、カメラは追いつかなかったらしい。

次の日以降、おおもりご飯にアマンダが現れることはなかった。

 *****

暫く後、再びゆうこの前に地球の神様が現れた。
神様が声を駆ける前にゆうこは宣言した。
「私の願いは決まりました!」
「決めたんだね」
「私は戦いは嫌い。皆で楽しくご飯が食べることが願いです。だから皆を応援するプリキュアになります」

願いを込めた愛の結晶がプリチェンミラーに変わる。そして、ゆうこはキュアハニーとなった。
蜂の攻撃力と蜜の癒しを備えた、金色に輝く稲穂色の戦士。

 *****

今日も笑顔とご飯で世界を癒すキュアハニーの大いなる願いは
『世界中の人が美味しいご飯を食べられるように』

大森ゆうこの秘めたる願いは
(アマンダとフェリシアが笑っておおもりご飯に来てくれる日が来たら
超特盛海苔弁当2人前、出してあげるんだから)


(註)ジタンプリキュアはオリジナルのプリキュアです。
この話では主要なキャラとして扱うことになりますが、世界でプリキュアが活躍しているという設定を借用させていただきました。
最終更新:2014年08月27日 00:08