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“Rosetta in Cosmos”(後)/makiray




「偶然でございましょうか」
 顔を上げるありす。セバスチャンは意外にも真面目な表情だった。
「探査機の名前はお父様がおつけになったのでしょう?」
 父の星児が、自分の娘が将来、プリキュアになるであろう、などと考えたはずがない。
「いえ。旦那様が名前をおつけになったのは、ロゼッタに搭載されている紫外線センサーだけでございます」
 ロゼッタの紫外線センサーには“ALICE”という愛称がつけられている。
「では、誰が」
「旦那様からお聞きではありませんでしたか。
 お嬢様自身でございます」
「私が?」
「はい。旦那様が悩まれていた折、候補の名前が書かれたカードの中から、お嬢様が“Rosetta”のカードを取り上げられたのでございます。とてもお気に入りのご様子でカードをお放しにならなかったとのことです」
「まったく覚えていません…」
「お嬢様がまだ『はいはい』のころ、ご自分で立ち上がられる前のことでございます」
 ありすはしばらくセバスチャンの顔を見つめた。周囲の歓声も聞こえなくなった。
「私は、キュアロゼッタになる運命だった…そういうことなのでしょうか。
 マナちゃんと六花ちゃんがプリキュアになったから、ではなく」
「お嬢様のお優しい心、お友達を思いやるお気持ち、邪悪を許さないご意志。
 お嬢様はプリキュアになるべくしてなったのだと、私は信じております」
「…」
 ありすはメイン モニタに視線を戻した。
 では、あの無人探査船は自分の分身なのかもしれない。自分は、四葉の力をプリキュアとして生かすために、この家に生まれたのかもしれない。もし全宇宙にあまたのプリキュアがいるのであれば、それをそうあらしめる大いなる意思が存在するのではないか。ありすの思いは宇宙の果てをも越えようとしていた。
“Warning”
 そのメイン モニタに、赤いマークが点灯した。
「どうしたのですか」
「ESA から緊急の依頼です。
 Philae を 67P に fix するための harpoon が fire できないそうです」
 オペレータは、翻訳がまどろっこしいと思ったのか英語が混じったまま返答した。
 チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は直径数 km の小さな天体で重力はないに等しい。そこへ単純に着地したのではバウンドして跳ね返ってしまう。そのためフィラエは彗星表面に「銛」を打ち込んで機体を固定するように設計されている。その「銛」が打ち出せないというのだ。
「もちろん協力します。
 セバスチャン」
「待機中のメンバーに通知。サブセンターの回線を ESA に接続」
 セバスチャンが指示を出す。中央情報センターの空気は一気に緊張した。
 執事やメイドたちは静かに退室を始めた。彼らに不安の表情はなかった。四葉の技術陣が参加して解決しないはずがない、という信頼がある。
「麗奈ちゃんに連絡を取ってください。五星重工のノウハウがあれば心強いので」
「かしこまりました」
 ありすは自分でも知らずに立ち上がっていた。力のこもった瞳でメイン モニタを見つめる。
「ロゼッタ、フィラエ、必ず助けます。
 あなた方は一人ぼっちではありません」
最終更新:2014年11月17日 00:12