『エッチ、スケッチ、わたしたち』/Mitchell&Carroll
今日も真っ白なスケッチブック。それをお約束通りにイーゼルに立て掛けてみるも、そのまま何もしないまま。ひょっとしたらアイディアが湧き出るのではないかという期待も、空しく白紙に戻された。
放課後の学校は、運動部の掛け声やら、吹奏楽部の楽器音やらで活気付いているというのに、美術室に一人佇むその少女は、置いてけぼりを喰らったような孤立感と、何もしないでいる罪悪感とで、ただでさえ陰気がちな美術室の空気を、更に陰気にした。カーテンを揺らしながら窓から入って来る風は、残念ながら頭の中までは通り抜けてくれない。
…
……
………
「……真っ白!」
背後からの突然の声。コツンと小石でもぶつけるかのように。
「咲!?いつからそこに……」
あまりにも自由過ぎるがゆえに、時に、何を描けばいいのか分からなくなるということを、舞は正直に白状した。その声も体も、放って置いたらそのまましぼんで消えてしまいそうだったから、咲は思わず抱きついて、それを引き止めた――いつか自分がそうされたように。細くて華奢な体の、どこにそんな力があるのかと思うくらいに、その時は心を強く抱き締められた。その時に借りたものを、今度は自分が返す。
二人の中で脈打つ音を、二人だけが聞いている。もしも誰かが来てしまったら、二人は平然を装いきれるだろうか?体は吸い付いて離れないというのに。
しばらくして咲が、いつの間にか潜り込ませたその手を舞の下着の中からそっと抜き、濡れた指を目の前のスケッチブックに押し当てた。離す時にわずかに糸を引いて。じんわりと滲んだそれを見つめる咲と舞。
「ずるい、咲」
自分でも、なぜそんな言葉が出たのかは分からない。きっと、神様がそう言えと仰ったからに違いない。そして、舞は自分がされたことを咲に仕返す。溢れ出た愛は、同じようにまたスケッチブックを染める。先程の自分のものと交じり合い、よりいっそう紙を滲ませる。
「ふにゃふにゃになっちゃったよ、舞」
「いいの。もっと、咲……」
やがてそのページは、二人の愛で埋め尽くされたという。
おわり
最終更新:2014年11月17日 22:28