「赤い瞳の貴女が好き」/ねぎぼう
”悪の女王はその呪縛が解けるとともに、瞳が赤から青に変わった”
テレビアニメのワンシーンを見て、せつなに衝撃が走る。
(赤い目って、この世界ではやはり悪い人間の象徴なの?)
隣では、ラブがずいぶん感動して涙を流している。
そんな時に尋ねることではないということはせつなも分かってきていた。
「せつな、感動したよねえ~」
「ええ、そうね……」
♪~
「え、ミユキさんが急にオフになったの?今から?うん、行く!」
「ラブ、今からレッスンなの?」
「うん、大会も近いしね。美希たんも午後から撮影あるから11時からだって」
練習着に着替えるためにめいめい自分の部屋に戻る。
せつなは、あらためて自分の目を姿見に映してみた。
燃えるような真っ赤な瞳。
(私は確かに悪いことをしてきたし、その罪から逃れられるわけではないわ。
でも、やはりこのままだと一緒にいるラブやお父さん、お母さん達にもつらい思いを
させてしまう)
着替え終えて階下に戻ると、リビングでは圭太郎がテレビを観ていた。
(お父さんに尋ねてみようかしら?でも……)
「お父さん……」
「なんだい、せっちゃん?」
「あの……」
言い出せないまま、時間が過ぎる。
「せつなー、そろそろ行くよー」
「ええ」
奇しくも流れていたCMの一つに目に止まった。
(これだわ!)
せつなはある決心をした。
「何かあったのかい?」
「ううん、なんでもないの。いってきます!」
圭太郎は狐につままれたような気分であった。
*
「ありがとうございました」
ドラッグストアから出てきたせつな。
(初めてだけど……精一杯頑張るわ)
手には青色のカラーコンタクト。
*
家に帰っていざ装着してみたものの……
慣れないコンタクトレンズに悪戦苦闘するせつな。
(コンタクトって痛いのね……
でもこれ以上ラブに後ろめたい思いはさせられないわ)
とはいうものの、目は潤んできて前が見にくい。
手探りで廊下を歩いているとタルトに会った。
「パッションはん、どないしてん?」
「コンタクト付けたんだけど、なかなか大変ね……」
「あんさん、目はめちゃめちゃええんちゃいますのん?」
「やっぱり、この世界では赤い目はまずいわ」
「そうなんかなあ……でも無理せんほうがええで?」
「タルト、私は、ラブのことを守りたいの!」
そうしているうちにラブが居残り補習から帰ってきた。
「ただいま!」
「おかえり、ラブ」
「せつな、どうしたの!」
目に涙を浮かべたせつなを見てラブは血相を変える。
「コンタクトレンズを着けたの」
せつなの瞳は青くなっていた。
「なんで?目はいいんだよね?」
「この世界では赤い目は悪い人間の印なのよね?」
「そんなぁ……誰もせつなを悪く思っている人なんていないよ!?」
「でもこれで大丈夫よ、ラブ。もう後ろめたい思いはさせないから!」
「え?」
「このまま私と一緒にいたら、ラブも悪い人間だと思われてしまうわ」
(あたしが悪く思われるのを恐れているの?)
「ちょっと目は痛いけど、すぐ慣れるから」
涙で目が潤んでいるだけでなく、若干充血気味である。
ラブは、せつなをぎゅっと抱きしめた。
「せつなは、そのままでいいんだよ」
「え?」
「あたしはせつなのその真っ赤な目も、真直ぐな頑張り屋さんなところも、
ちょっと意地っ張りなところも、全部……全部……大好きだから……
そのままでいて……」
そういうと、大粒の涙をこぼす。
「もう、ラブったら……ごめんなさい」
「それに、ぜーったいに無いことだけど、たとえ世界中の皆がせつなの敵になっても、
あたしがせつなのこと守るから!」
「ラブ……」
せつなの目からも涙がこぼれた。
それはコンタクトのせいだけではなかった。
(ありがとう。ラブが私を守って傷つくことなんて、
この優しい世界でなら無いわよね……)
結局せつなはカラーコンタクトを外し、元の赤い瞳に戻った。
*
「へー、これがカラーコンタクト?美希たんみたいな目になれるんだ?」
「痛いわよ、我慢できる?」
「そういえば、青い髪のカツラがあったっけ。あたし完璧!?」
「ラブに美希の歩き方は無理ね。滑稽なだけよ?」
「……やっぱりやめとこ」
こうして、残りのカラーコンタクトはせつなの机の片隅を占めることとなった。
*
赤い瞳は闇を超えた、ゆるぎない情熱の証
桃色の瞳に懸けて、それを壊させたりはしないから
最終更新:2014年12月10日 01:18